前回あらすじ>
風を鎮め勝利した一行は、勝利の喜びを分かち合う。しかしガオンの断末魔のような謎の声と、バギクロスで傷ついた神殿の姿が、不吉な予感を呼び起こして……。
神殿、崩れるってよ。
では、本編どぞ~♪
……ひとときの静寂を突き破るように、地鳴りとともに神殿全体がきしむ音が耳を貫いた。
パラパラパラ……。
それはわずかに砂が天井から落ちる音――。
その音を皮切りに、辺りの空気がピリリと変わった。
天井の光が揺れ、床のひび割れが徐々に大きくなる。
石壁の奥から、かすかにひび割れが走る音が聞こえた。
「……あれ?」
アベルが周囲を見回す。
アリアもすぐに異変に気づき、警戒した。
目に映る景色が少しずつ歪んで、なんとか形を保っていた神殿――それが崩壊し始めたのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
地響きとともに、瓦礫や崩れかけの柱が轟く音を立てて落ちていく。
「神殿……崩れるの!?」
アリアの声に、アベルはすぐさま彼女の手を取り、崩れゆく瓦礫を避けながら、下層階が見える位置まで走った。
「「急いで――!」」
それぞれ離れた場所でアベルとクリエの声が重なる。
喜びの余韻は、瞬く間に生き残るための緊張感へと塗り替えられた。
足元に見える下層階は、崩れた天井のおかげか、瓦礫があちこちに落ち、張り巡らされたバリア床が潰され、一部が消え失せている。
……これなら下へ下りて、脱出できそうだ。
「はぁっ、はぁっ……ここから下りるしかない」
「っ……高っ……!」
目の前には大きな瓦礫の岩が、足場のようにすぐそこにある。
その先にも同じような瓦礫の石段が次々と――まるで、ここを通れとでも言わんばかりに下層階へと続いている。
アベルはアリアの手を握り、腕を軽く抱えるようにして引き寄せた。
「アリア、こっちだ! 足元気をつけて!」
「う、うん!」
アリアは飛び降りるのは苦手だが、これならいけるだろう。アベルの手に支えられ、崩れる石段を慎重に駆け下りていく。
石段を踏みつけるたびに瓦礫が足元で崩れ、砂や埃が舞う。
頭上から、小さな石片が二人の目の前を落ちていき、かすかな衝撃を与えた。
「うわっ……危ない!」
アリアの声に、アベルは即座に片手で彼女の腰を支え引き寄せて、天井から落ちてきた瓦礫を躱す。
「大丈夫だ、僕がいるから!」
下層階へと無事下りて、瓦礫の山を避けるようにして三階の出入口を目指した。
……瓦礫だらけの下層階。
アベルたちは崩れゆく天井を背に、足元の石片を蹴散らしながら出口へと駆ける。
そうしてなんとか三階屋上に出たはいいが、下階へと続く階段のある部屋が、瓦礫で潰され通れない。
「アベルっ! どうしよう……」
「っ……」
――ここから飛び降りるのはさすがに……。
アベルは駆け出し、三階屋上から下を見下ろす。
高さがかなりある。
とてもじゃないが、飛び降りるのは無理だ。
「っ、アベル上っ!!」
「えっ」
アリアの声でアベルは頭上を見上げた。
パラパラパラと、神殿の建材ではない、生々しい岩の破片が洞窟の天井から降ってくる……。
……崩れているのは神殿だけじゃなかったのだ。
「洞窟も崩れてるみたい!」
「なんだって!? っ、アリアこっち!」
アベルはアリアの手を引き、崩落の直撃を避けて神殿の壁際へと身を寄せる。神殿に接する洞窟の壁際まで追いやられた。
ふいに――。
“ドォォンッ!!”
アベルたちがさっきまでいた位置へ、巨大な岩塊が落ちた。
それはあまりにも大きく、轟音とともに神殿の二階部分を破壊し、続く崩落が道を塞いでいく……。
「おわぁっ!? ちょっ……道塞がっ……!」
「あぁ~んもうっ!! やだやだ崩れないでぇえええ~~っ!!」
“私のせい? 私のせいだよね!?”
アリアが泣きそうな顔で天井を見ると、そこからさらに石片がパラパラと落ちてきた。
「アリア伏せて!!」
アベルがマントを広げ、アリアを抱き寄せるようにして庇ったところへ――。
“ドガガガガッ!!”
突然横の壁が割れて、何かが飛び出す。
砂煙が舞って、すぐにはわからなかったが、次の瞬間すぐわかった。
「どぉぅりゃああああああああああっっ!!」
「フンッ!」
粉塵の中から現れたのは、【ビルダーハンマー】を肩に担いだクリエ。
その後ろでシドーが瓦礫を蹴りながら出てきた。
「アベルお兄さーん! アリアお姉さーん! お困りじゃないですか~~!?」
「「クリエちゃん!!」」
クリエの自信満々な笑顔が、安心感を与えてくれる。
……アベルとアリアの声がハモった。
「うぉっ!? 通路が塞がれてるな……どうしたもんか……」
あとからやって来たシドーが、二階部分を潰した大岩を見て一瞬驚いたが、すぐに冷静に腕組みをする。
なぜそんなに落ち着き払っているのか……アベルにはわからない。
「シドーくんも! 無事でよかったぁ~!」
「へへっ、まーな。オレは死なないからな!」
アリアはシドーに駆け寄り、ほっとした顔を見せた。
「? そうなんだ? ならよかった!(さっすが神様……!)」
【破壊神シドー】は死なない設定でもあるのか……は知らないが、本人が言ってるならそうなのだろう。
アリアは、鼻の下を擦るちょっぴり嬉しそうなシドーに微笑んだ。
「へへっ♪ おい、クリエ、この辺がいいんじゃないか? わずかに風を感じるぞ」
「そうだね~☆」
ふとシドーが、視線を洞窟に接する神殿の壁に移す。
そちらから、かすかにだが、生温かい風を感じた気がした。
クリエも深く頷き、肩に担いだ【ビルダーハンマー】を下ろす。
「この辺って……いったいなにをするつもりなんだい? 早く脱出しないと……って、足場がないから困ってるんだけどね……さっきそこの大岩に二階の一部を破壊されちゃったし」
アベルは、クリエとシドーの様子に疑問を持ちながら現状を伝えた。
クリエたちと合流できたことはよかったが、洞窟の崩壊で、周りはかなり崩れている。
このまま運よく神殿から出られたとして、長い洞窟を無事抜けられるだろうか……。
かなり絶望的な状況だ。
……なのに、クリエの口角がニヤリと上がった。
「フフフ」
「……クリエちゃん?」
「フフフフ……アーッハッハッハッハッ!!」
クリエが突然高笑いしだす。
知らない間にどこか頭を打ってしまったんだろうか……。
アベルは眉を寄せた。
「クリエちゃん……頭大丈夫?」
「でぇーじょーぶだ! もんだいないっ!」
「……ダメだと思うんだけど……」
アリアが憐れみの目でクリエを見たが、クリエはサムズアップで応える。
そんなクリエに、アリアは彼女の額に手を当てた。失礼である。
「フフッ――足場がない? 足場がなければ作ればいいのさ」
「っ、そんな簡単にできないよ!? 足場があったとしても上から崩れてくるんだ、避けながら洞窟を抜けるのは……」
「アベルお兄さん……ボクを誰だと思ってるの……? ボクはビルダーだよ?」
“ドンッ!”
アベルの心配をよそに、クリエは自信満々に自分の胸を叩いた。
「ここは最強ビルダーのクリエさまに、まっかせなさ~~いっ!! ほれ、どいてどいて~~!」
神殿の壁沿いにいたアベルの肩を掴んで横にずらし、ちょっと離れていろと告げ、クリエが【ビルダーハンマー】を振り上げる。
そうして溜めのポーズを取ったかと思うと――。
“ドッカァァァァン!!!”
と壁にハンマーを叩き込んだ。
それは洞窟の一部を破壊し、壁の向こうに、辛うじて通れそうな細い通路が開いた。
「この横穴を行けば抜け出せるよ!」
「い、行ける……!?(真っ暗なんだけど……!?)」
「行ける行ける! 行こ行こ行こーっ!!」
クリエが笑顔で促した次の瞬間――。
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!