ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

817 / 822
いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>
崩落する神殿から、クリエが開けた横穴へ逃げ込んだアベルたち。辿り着いたのは、姿なき魔物の気配が漂う真っ白な時空の歪みだった。異様な静寂の中、一行はコーヒーを囲み、束の間の休息と絆を確かめ合うが……。

真っ白け~。

では、本編どぞー。



第八百十三話 白き歪みの果てに

 

「ふむふむ。ここだね☆」

 

 

 なにかに触れているような、触れていないような……アベルたちにはわからないが、クリエにはわかっているのだろう。

 狙いを定めると溜めのポーズを取り、クリエは思い切り【ビルダーハンマー】を振り下ろした。

 

 

 “ドッカァアアンンン!!!”

 

 

 途端、真っ白な空間に、ガラスのごとくひびが走り、何度もクリエはハンマーを振り下ろす。

 そのたびに空間が揺れるように歪みを見せ、空気が震えた。ハンマーが当たるひびから波紋のように振動が広がっていく。

 

 

「っ……空気が震えてる……」

 

「あ、ああ……」

 

 

 足元にも振動が伝わり、アリアは不安でそっとアベルに抱きついた。

 

 

「んしょっ、うんしょ……どっせぇええええいいいいっっ!! はぁっ、はぁっ……」

 

 

 何度も打ち付けたハンマーだが、まだひびはそれほど大きくない。

 小さなひびが入っただけだ。

 

 これは……骨が折れそうだ。

 アベルはアリアを抱き寄せながら、黙ったまま様子を見守る。

 

 

「――よし、クリエ。交代だ」

 

「ラジャ☆ ひ~……歪みの壁、きら~い!! 腹減ったぁ……パン、パンはっと……!!」

 

 

 シドーがクリエの肩を叩き、選手交代。

 空中に現れたひびに向けて、今度はシドーが【こんぼう】を打ち付け始めた。

 

 クリエはシドーに背を向けると、【ふくろ】から【パン】を取り出し、がっつく。

 

 さっきまで、アベルはクリエの背しか見えていなかったが、振り返るとわかった。彼女は汗だくで、今まで見たことのないくらい疲労した顔を見せていた。

 

 

「クリエちゃん、大丈夫?」

 

「ん……ンぐ。もぐもぐ……らいじょーぶ!! ここ壊すの、すっごいお腹すくんだ~!」

 

 

 ぱくぱく、もぐもぐ。

 クリエの口の周りには【パン】かすだらけだ。

 

 

「オラオラオラオラーーッ!!!」

 

 

 クリエの背後でシドーの【こんぼう】がうなりを上げる。

 ひびが少し大きくなっていた。

 

 シドーとクリエが何度か交代しながら“壁”を崩していく。

 しばらくして、人が通れるくらいの時空の穴が開いた。

 

 

「な、なにここ……? 洞窟……じゃ、ない……?」

 

 

 クリエがぶち抜いた壁の向こう側。

 そこは、雲を突き抜けるほど高い場所に位置する、古びた神殿のような建物だった。

 

 皆で穴をくぐり、その建物へと至る。

 吹き抜ける風が冷たい。

 

 アベルは初めて見るその意匠に、集合意識の記憶を懸命に辿るが、今の彼には「いつか来るべき場所なのかもしれない」という漠然とした既視感しかなかった。

 

 

「っ、アベル、来るよ!」

 

 

 アリアが【グリンガムのムチ】をぎゅっと握って、前方を見据える。

 そこには、さっきまで気配しか感じられなかった、実体化した【リザードマン】(剣と盾を持ち、鎧と兜を装備した青いボディの竜人族の戦士)と、【ゴーレム】(茶色のレンガで作られた体を持つ巨人)が、侵入者を排除せんと地響きを立てて迫ってきていた。

 

 

「みんな、やるぞ! ピエール、アリアを守れ!」

 

「承知!」

 

 

 突如戦闘が始まり、アベルの鋭い剣閃と、シドーの荒々しい一撃が魔物を圧倒していく。

 魔物の強さは謎の神殿と同程度だろうか……いや、それ以上?

 だが、クリエとシドーがいるからか、まったく負ける気がしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「……ふー……。まあ、こんなもんか?」

 

「おつかれシドー」

 

「アベル、お前もな」

 

 

 なんとか無事倒すことができ、アベルとシドーは深いため息をついて、腕を打ち合わせた。

 

 ……ずいぶんと強い魔物だった。

 クリエとシドーがいなければ、こんなに簡単に倒せなかっただろう。

 

 【リザードマン】と【ゴーレム】――特に、【ゴーレム】に関しては、別世界で戦った記憶がアベルにはうっすらとある。

 けれど、こんな見知らぬ神殿で戦った記憶はない。

 

 いったいここはどこなのだろう……。

 やはりまだ、異空間の中なのだろうか。

 

 【リザードマン】は倒し終えてすぐ消えていったが、一向に消えない【ゴーレム】の亡骸が、アベルはやけに気になった。

 

 

(ゴレムスと会えるかと思ったけど……ただの瓦礫になっちゃったな……)

 

 

 アベルの足元で【ゴーレム】だったレンガが散らばっている。

 

 

「さて、どうする? ルーラで帰るか?」

 

「うーん、ここからじゃ、ルーラできないな……」

 

 

 シドーに問われてアベルは首を左右に振った。

 頭上を見上げ、【ルーラ】は無理だと判断。建物内だと頭を強打するのがオチ。【ルーラ】が成立しないのだ。

 

 

「じゃあ、外に出ればいいんじゃない? 建物から外に出て、ルーラすればテルパドールに戻れるよ!」

 

「うん。それが一番いいと思う! この建物の中にいる魔物、強いから早いとこ出たいな」

 

 

 クリエの提案に、アリアが賛成する。

 まずは建物から脱出するのが先決だとアリアは、「じゃあ、リレミトするね」とサクッと唱えたのだが……不発。

 

 

「……あれ?」

 

「リレミト……!! …………。駄目、みたいだな……」

 

 

 アリアが駄目なら自分が、とアベルも唱えてみたが、呪文はかき消されてしまった。

 

 

「トホホ……徒歩かな?」

 

「ククッ、だな」

 

 

 面白くもなんともないクリエのダジャレに、シドーは楽しそうに笑う。

 結局アベルたちは、歩いて下の階に通じる階段を探すことにした。

 

 

「魔物がうじゃうじゃいるから気をつけてね」

 

 

 アリアが魔物の気配を感じてアベルの手を掴む。

 

 

「回避できそうな戦闘は回避していこう。アリア、魔物の気配が近くでしたら教えてね?」

 

「うん、まかせて」

 

 

 そして、歩き出したアベルたち。

 回避できる戦闘もあったが、魔物の群れとは何度も戦うことになった。

 

 歩けど歩けど、一行は同じ回廊を何度も彷徨う。

 

 ……おかしい。

 

 そこまで広い建物というわけでもないというのに、階下へと続く階段が見当たらなかった。

 

 

「……ここ、さっきも通ったよね? もしかして、迷ってる……?」

 

 

 もう、何度目か。

 この空間に出て、最初に【リザードマン】と【ゴーレム】と戦った場所に出る。

 【ゴーレム】とは、あの後何度か遭遇し、別の個体を倒したが消えていった。

 この場所にはまだ、最初に遭遇した【ゴーレム】の壊れたレンガが散らばったままだ。

 

 アリアは不安に揺れる瞳で周囲を見渡し、ふと思いついたように自らの鞄を探った。取り出したのは、かつて幼馴染からもらった、黄色い絹のリボン。

 

 

「これ、目印にしておくね。……またここに来た時、迷わないように」

 

 

 今は【ゴーレム】のレンガがあるが、次にここへ来た時、それが消えているかもしれない。

 アリアは壊れた柱の目立つ位置に、しっかりと【ビアンカのリボン】を結びつけた。

 

 アベルはその様子を黙って見つめる。

 

 

(……いつか。いつかまた、僕はここに来るんだろうか……。そのリボンが、君といた証になるんだね……)

 

 

 その確信に近い予感は、今の彼にはまだ言葉にできなかった。

 だが、そんな安らぎは一瞬だった。

 

 

「――っ!? みんな、離れて! まだ空間が馴染みきっていないよ!!」

 

 

 クリエの叫びと同時に、足元の石床が泥のように溶け始めた。

 逃げ場のない速度で、再び「あの白い空間」がアベルたちを飲み込んでいく。

 

 

「きゃあああっ!?」

 

「アリア!!」

 

 

 アベルは咄嗟にアリアの腰を抱き寄せ、自らも白い光の中へと呑み込まれた。

 




さて、問題です。
アベルたちが迷い込んだ神殿(?)はどこでしょうか。

答えは……またいつかその場に来たら判明ってことで!
いつもの、わかる人はわかるってやつです。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。