前回あらすじ>
崩落する神殿から、クリエが開けた横穴へ逃げ込んだアベルたち。辿り着いたのは、姿なき魔物の気配が漂う真っ白な時空の歪みだった。異様な静寂の中、一行はコーヒーを囲み、束の間の休息と絆を確かめ合うが……。
真っ白け~。
では、本編どぞー。
「ふむふむ。ここだね☆」
なにかに触れているような、触れていないような……アベルたちにはわからないが、クリエにはわかっているのだろう。
狙いを定めると溜めのポーズを取り、クリエは思い切り【ビルダーハンマー】を振り下ろした。
“ドッカァアアンンン!!!”
途端、真っ白な空間に、ガラスのごとくひびが走り、何度もクリエはハンマーを振り下ろす。
そのたびに空間が揺れるように歪みを見せ、空気が震えた。ハンマーが当たるひびから波紋のように振動が広がっていく。
「っ……空気が震えてる……」
「あ、ああ……」
足元にも振動が伝わり、アリアは不安でそっとアベルに抱きついた。
「んしょっ、うんしょ……どっせぇええええいいいいっっ!! はぁっ、はぁっ……」
何度も打ち付けたハンマーだが、まだひびはそれほど大きくない。
小さなひびが入っただけだ。
これは……骨が折れそうだ。
アベルはアリアを抱き寄せながら、黙ったまま様子を見守る。
「――よし、クリエ。交代だ」
「ラジャ☆ ひ~……歪みの壁、きら~い!! 腹減ったぁ……パン、パンはっと……!!」
シドーがクリエの肩を叩き、選手交代。
空中に現れたひびに向けて、今度はシドーが【こんぼう】を打ち付け始めた。
クリエはシドーに背を向けると、【ふくろ】から【パン】を取り出し、がっつく。
さっきまで、アベルはクリエの背しか見えていなかったが、振り返るとわかった。彼女は汗だくで、今まで見たことのないくらい疲労した顔を見せていた。
「クリエちゃん、大丈夫?」
「ん……ンぐ。もぐもぐ……らいじょーぶ!! ここ壊すの、すっごいお腹すくんだ~!」
ぱくぱく、もぐもぐ。
クリエの口の周りには【パン】かすだらけだ。
「オラオラオラオラーーッ!!!」
クリエの背後でシドーの【こんぼう】がうなりを上げる。
ひびが少し大きくなっていた。
シドーとクリエが何度か交代しながら“壁”を崩していく。
しばらくして、人が通れるくらいの時空の穴が開いた。
「な、なにここ……? 洞窟……じゃ、ない……?」
クリエがぶち抜いた壁の向こう側。
そこは、雲を突き抜けるほど高い場所に位置する、古びた神殿のような建物だった。
皆で穴をくぐり、その建物へと至る。
吹き抜ける風が冷たい。
アベルは初めて見るその意匠に、集合意識の記憶を懸命に辿るが、今の彼には「いつか来るべき場所なのかもしれない」という漠然とした既視感しかなかった。
「っ、アベル、来るよ!」
アリアが【グリンガムのムチ】をぎゅっと握って、前方を見据える。
そこには、さっきまで気配しか感じられなかった、実体化した【リザードマン】(剣と盾を持ち、鎧と兜を装備した青いボディの竜人族の戦士)と、【ゴーレム】(茶色のレンガで作られた体を持つ巨人)が、侵入者を排除せんと地響きを立てて迫ってきていた。
「みんな、やるぞ! ピエール、アリアを守れ!」
「承知!」
突如戦闘が始まり、アベルの鋭い剣閃と、シドーの荒々しい一撃が魔物を圧倒していく。
魔物の強さは謎の神殿と同程度だろうか……いや、それ以上?
だが、クリエとシドーがいるからか、まったく負ける気がしなかった。
◇
「ふぅ……」
「……ふー……。まあ、こんなもんか?」
「おつかれシドー」
「アベル、お前もな」
なんとか無事倒すことができ、アベルとシドーは深いため息をついて、腕を打ち合わせた。
……ずいぶんと強い魔物だった。
クリエとシドーがいなければ、こんなに簡単に倒せなかっただろう。
【リザードマン】と【ゴーレム】――特に、【ゴーレム】に関しては、別世界で戦った記憶がアベルにはうっすらとある。
けれど、こんな見知らぬ神殿で戦った記憶はない。
いったいここはどこなのだろう……。
やはりまだ、異空間の中なのだろうか。
【リザードマン】は倒し終えてすぐ消えていったが、一向に消えない【ゴーレム】の亡骸が、アベルはやけに気になった。
(ゴレムスと会えるかと思ったけど……ただの瓦礫になっちゃったな……)
アベルの足元で【ゴーレム】だったレンガが散らばっている。
「さて、どうする? ルーラで帰るか?」
「うーん、ここからじゃ、ルーラできないな……」
シドーに問われてアベルは首を左右に振った。
頭上を見上げ、【ルーラ】は無理だと判断。建物内だと頭を強打するのがオチ。【ルーラ】が成立しないのだ。
「じゃあ、外に出ればいいんじゃない? 建物から外に出て、ルーラすればテルパドールに戻れるよ!」
「うん。それが一番いいと思う! この建物の中にいる魔物、強いから早いとこ出たいな」
クリエの提案に、アリアが賛成する。
まずは建物から脱出するのが先決だとアリアは、「じゃあ、リレミトするね」とサクッと唱えたのだが……不発。
「……あれ?」
「リレミト……!! …………。駄目、みたいだな……」
アリアが駄目なら自分が、とアベルも唱えてみたが、呪文はかき消されてしまった。
「トホホ……徒歩かな?」
「ククッ、だな」
面白くもなんともないクリエのダジャレに、シドーは楽しそうに笑う。
結局アベルたちは、歩いて下の階に通じる階段を探すことにした。
「魔物がうじゃうじゃいるから気をつけてね」
アリアが魔物の気配を感じてアベルの手を掴む。
「回避できそうな戦闘は回避していこう。アリア、魔物の気配が近くでしたら教えてね?」
「うん、まかせて」
そして、歩き出したアベルたち。
回避できる戦闘もあったが、魔物の群れとは何度も戦うことになった。
歩けど歩けど、一行は同じ回廊を何度も彷徨う。
……おかしい。
そこまで広い建物というわけでもないというのに、階下へと続く階段が見当たらなかった。
「……ここ、さっきも通ったよね? もしかして、迷ってる……?」
もう、何度目か。
この空間に出て、最初に【リザードマン】と【ゴーレム】と戦った場所に出る。
【ゴーレム】とは、あの後何度か遭遇し、別の個体を倒したが消えていった。
この場所にはまだ、最初に遭遇した【ゴーレム】の壊れたレンガが散らばったままだ。
アリアは不安に揺れる瞳で周囲を見渡し、ふと思いついたように自らの鞄を探った。取り出したのは、かつて幼馴染からもらった、黄色い絹のリボン。
「これ、目印にしておくね。……またここに来た時、迷わないように」
今は【ゴーレム】のレンガがあるが、次にここへ来た時、それが消えているかもしれない。
アリアは壊れた柱の目立つ位置に、しっかりと【ビアンカのリボン】を結びつけた。
アベルはその様子を黙って見つめる。
(……いつか。いつかまた、僕はここに来るんだろうか……。そのリボンが、君といた証になるんだね……)
その確信に近い予感は、今の彼にはまだ言葉にできなかった。
だが、そんな安らぎは一瞬だった。
「――っ!? みんな、離れて! まだ空間が馴染みきっていないよ!!」
クリエの叫びと同時に、足元の石床が泥のように溶け始めた。
逃げ場のない速度で、再び「あの白い空間」がアベルたちを飲み込んでいく。
「きゃあああっ!?」
「アリア!!」
アベルは咄嗟にアリアの腰を抱き寄せ、自らも白い光の中へと呑み込まれた。
さて、問題です。
アベルたちが迷い込んだ神殿(?)はどこでしょうか。
答えは……またいつかその場に来たら判明ってことで!
いつもの、わかる人はわかるってやつです。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!