ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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クリエの穿った穴の先は、雲を突く未知の神殿だった。強敵を退け、迷宮の如き回廊を彷徨う中、アリアは道標として【ビアンカのリボン】を柱に結ぶ。アベルが運命の予感に震えた瞬間、床が溶け、一行は再び白き光の渦へと呑み込まれていく。

引っ張っられるぅぅ。

では、本編どぞ!



第八百十四話 引力圏の守護者

 

 ……再び目を開けると、そこは先ほど【コーヒー】を飲んでいた「時空の歪み」の中。

 しかし、何かがおかしい。

 

 

「……嘘でしょう? あの子、さっき倒したはずじゃ……」

 

 

 アリアの声が震える。

 白い虚無の中に、先ほど倒したはずの【ゴーレム】が、無傷の状態でゆっくりと立ち上がっていた。

 それも、以前よりもさらに禍々しいオーラを纏って。

 

 

「……倒したはずの敵が復活している……? 違う、これは“再生”じゃない」

 

 

 アベルは剣を構え直し、アリアを背後に隠した。

 

 

「時間が……巻き戻ってるのか……?」

 

「ううん、違う。座標がずれた。歪みが戻ってきてるみたい。ほら、あそこ!」

 

 

 ピリピリと空気が震えている。

 クリエの視界の隅に、黒く小さな点が見え、それがゆっくりとではあるが、確実に大きくなっていく。

 

 そのとき、黒点に向けてひゅっと風が吹いた。

 

 

「あっ」

 

 

 アリアの鞄から覗くメモ帳の一部が千切れ、黒点に向かって飛んでいく。

 黒点に近づいた【メモ】の動きは、不自然にゆっくり渦を描きながら、吸い込まれるように消えていった。

 

 

「な……」

 

「シドー君! 大至急、もう一回ぶっ壊すよ! 圧縮が始まってる!!」

 

「圧縮だと!!?」

 

 

 【メモ】の様子を見たクリエとシドーが慌てた様子で別の場所を探り、ハンマーを振り下ろした。

 前にしたのと同じように、小さなひびが、何もない空間に入っていく。

 

 

「クリエちゃん……! ゴーレムはどうしたら……!」

 

「ごめん、そっちは構ってらんない!! こっちのほうが大事!! このままだとボクたち潰されちゃう!!」

 

 

 アベルが【ゴーレム】とにらみ合う中、アリアが話しかけるが、クリエはそれどころではない。

 このままこの空間にいれば、あの黒点にすべて呑み込まれる。

 

 アリアはクリエから黒点に視線を移した。

 

 

「あ……。あの黒点、洞窟に入ったときの闇に似てる……?」

 

 

 【ガオン】に連れてこられてすぐに見つけた、漆黒の闇の横穴。

 あのときのような不快な臭いはしないが、重苦しい気配はそっくりだ。

 

 

「っ、ブラックホールってあんな感じなのかな……」

 

「アリアーーッ!!」

 

「え?」

 

 

 アベルの叫び声にアリアははっとした。

 いつの間にかアリアの身体が、黒点に引き寄せられるように動いている。

 

 

「えっ、ウソ……! 引っ張られてる……!!?」

 

 

 アリアが自分で動いた記憶はない。

 ……勝手に吸い寄せられているのだ。

 

 アベルはすぐに走りだそうとしたが、アリアの位置が【ゴーレム】――正しくは、【ゴーレム】の左側奥に位置する黒点に近づいている。今、自分が下手に動けば【ゴーレム】がアリアを襲いかねない。

 【ゴーレム】の視線が自分に注目するよう、険しい目を向けるしかできなかった。

 

 

「ピエール! プックル! アリアを頼む!!」

 

 

 自分が行けないならピエールとプックルに頼もう。

 アベルは指示を出した。

 

 ところが――。

 

 

「アベル殿っ! 無理です!! 動けませんっ!!」

 

「がぁああうう!!(無理んゴ!!)」

 

 

 二匹(ふたり)とも動く様子はない。

 

 

「なんで!? っ、クリエちゃん!?」

 

 

 アベルが後ろを見ると、ピエールとプックルはクリエの【ロープ】でぐるぐる巻きにされ、シドーがその場に留まらせようと、【ロープ】を掴んでいた。

 

 

「っ、ごめんっ! アリアお姉さんまで手が回らなかった……!」

 

 

 重苦しい風が、大きく育ちゆく黒点に向かって吹き続けている。

 アリアが、ゆっくりとそこへ……。

 

 

『わ、わ、わ……? な、なんで!? どうして……!?』

 

 

 身体が勝手に黒点へと吸い寄せられていく。

 アリアはアベルに向かって走っているようだが、その動きはゆったりしており、スローモーションのように見えた。

 

 

「僕が行く……!」

 

 

 目の前の【ゴーレム】は気になるが、アベルに迷いはない。

 彼はアリアに向けて走り出した。

 

 それと同時、目の前の【ゴーレム】が動き出す。

 

 

「っ!!?」

 

 

 攻撃をしてくるつもりかとアベルは身構える。

 だが、違った。

 

 【ゴーレム】の歩みはアリアの元へ一直線だった。

 

 

(アリアを狙うつもりか……!?)

 

 

 きっと自分のほうが足が速い。

 アベルも急いでアリアの元へ向かうが、【ゴーレム】の一歩は人間のそれとは異なる。

 

 

「なっ……! させるか……――え?」

 

 

 当たり前だが、【ゴーレム】の一歩は大きい。そして速い。

 アリアのそばへとあっという間に追いつき、腕を振り上げ彼女を――。

 

 

「わわっ……! ………………?」

 

「……………。」

 

「え……?」

 

「……………。」

 

「た、助けてくれるの……?」

 

 

 返事はなかった。

 【ゴーレム】は黒点に近づくアリアの目の前に大きな腕を差し出し、彼女の動きを止めたのだ。

 

 

「……まさか……ゴレムス……?」

 

 

 アベルが呆然と呟く。

 かつての旅で、共に戦い、背中を預けた石の巨人の面影。

 

 すると、【ゴーレム】はアベルのほうへと一瞬視線を向けた。

 

 

「……………。」

 

「きゃっ!?」

 

 

 【ゴーレム】は答えなかったが、すぐにアリアへと視線を戻し、彼女をそっと掴むと、黒点に背を向け歩き出す。

 彼女を包み込むその大きな掌は、決して傷つけまいとする慈しみに満ちていた。

 

 後ろに引っ張られる感覚がするのだろう。

 動きはゆっくりだが、アリアとは違って【ゴーレム】の脚力なら戻って来られそうだ。

 

 

「ありがとう……ゴーレムさん……!」

 

 

 アリアがしがみつくと、【ゴーレム】は一歩、また一歩と、自分を飲み込もうとする黒い引力に抗って歩みを進める。

 背後の黒点は今や巨大な口を開け、空間そのものをバリバリと咀嚼し始めていた。

 白い空間が、黒く染まってゆく……。

 

 

「アリア!!」

 

 

 ようやく引力圏を脱した【ゴーレム】から、アベルがアリアを奪い取るように抱きしめる。

 二人の体温が重なった瞬間、背後でクリエの咆哮が轟いた。

 

 

「おらああああっ! 開いたよ!! 全員飛び込んで!!」

 

 

 クリエが打ち破ったのは、まばゆい光が溢れ出す“出口”だった。

 その奥に、かすかに藍色の空と、金色の砂山と思しき色彩の世界が見える。

 

 シドーがピエールとプックルを引きずり、光の向こう側へと二匹(ふたり)を放り投げた。

 アベルとアリアもそれに続く。

 

 

「ゴーレムさん! 早く、こっちへ!!」

 

 

 光の中でアリアが叫び、手を伸ばす。

 だが、【ゴーレム】は動かなかった。

 黒点に背を向けたまま、アベルとアリアを光の穴へと押し出すように、その巨大な腕を突き出したのだ。

 

 

「……………。」

 

 

 “行け……”

 

 そう、伝えてくれた気がした。

 

 そうして【ゴーレム】は、穴に背を向け、黒点をにらむと両腕を広げる。

 まるで、自分が壁となって、二人をあの黒点から守ろうとするかのように。

 




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