ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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倒したはずのゴーレムが、禍々しいオーラを纏い再び立ちはだかる。時空の歪みが「黒点」となり空間を呑み込み始める中、絶体絶命のアリアを救ったのは、かつての友を彷彿とさせる石の巨人の、慈愛に満ちた掌だった。

また逢う日まで~!

では、本編どぞ!



第八百十五話 さらば異世界のビルダー、砂漠に吹く風

「……ゴーレム?」

 

 

 アベルは目を見開く。

 【ゴーレム】は最後に一度だけ顔を振り向かせ、アベルの瞳を真っ直ぐに見つめた。

 それは言葉以上の感謝と、別れの挨拶。

 

 

「……ああ。……また会おう。次は、必ず仲間にするから」

 

「クリエちゃん! シドーくんも急いで! って、二人ともどこ見て……」

 

 

 アベルが【ゴーレム】と挨拶を交わしている間に、アリアがクリエとシドーを呼ぶが、二人は【ゴーレム】でもなく、黒点でもなく“出口”でもない場所へと視線を移していた。

 

 

「……へへっ♡ カケラみっけ♡ 一気に二つって、すごくない?」

 

「幸先いいな!」

 

「だね♡」

 

 

 そう言う二人はちらっと黒点を見やる。額には脂汗がにじんでいたが、二人は目を合わせ、ニッと笑った。

 

 

「クリエちゃん! シドー! 早く君たちも――」

 

「だーーめーーーーっ!!!」

 

 

 クリエが笑顔のまま叫ぶ。

 

 

「アベルお兄さんたちは先に行って!! ここ……もう持たない!!」

 

 

 まるで返事を裏付けるように、開いた“出口”がずずずと閉じていく。

 

 

「お前たちがいねぇと、この世界がどうなるかわかんねぇんだろ? ほら、行けよ!」

 

 

 シドーはアベルの腕を引き、背を押した。

 アベルが振り返ろうとすると――。

 

 

「振り向くなーっ!! こういうとき、主人公は前だけ見て走るのーっ!!」

 

 

 クリエがハンマーを構え、笑う。

 へへっと、愛らしい顔で鼻の下をこすりながら。

 

 

「でも、君たちが……!」

 

『ほらほら、アリアお姉さんが泣いちゃう前に! 行ってぇええ!!』

 

 

 アベルが振り返ったときには、クリエとシドーが笑顔で先ほど見ていたほうへと走りだしていた。

 なぜか【ゴーレム】も並走し、クリエと顔を見合わせ、何やら対話している様子。

 

 

「アベルぅ……!」

 

 

 アリアはアベルのマントをぎゅっと握って震えた。

 “出口”の穴は収縮し、もう、白の空間へと戻ることができないほどだ。

 ……彼の迷いを、涙混じりの声で振り払う。

 

 

「……行かなきゃ、だよ……!」

 

「……っ!」

 

 

 アベルは唇を噛み、二人へ叫ぶ。

 クリエたちの開いた穴は塞がりかけていた。

 

 

「ありがとう……!! 必ず生きてくれ……!!」

 

 

 その声は、遠ざかっていく彼女らには届かないかもしれない。

 けれど、クリエとシドーは顔だけ振り返って手を振った。

 

 

『ありがとーっ!! そっちも生きてねーっ!!』

 

『バーカ、オレたちが簡単にくたばるかよ!』

 

 

 その瞬間。

 

 “シュウウゥゥゥゥ……!”

 

 空間に開いた穴が小さく収縮し、亀裂となり、その亀裂も消えていく。

 ついさっきまで目の前にいたクリエも、シドーも、【ゴーレム】も見えなくなった。

 

 

「クリエちゃんっ!! シドーくんっ!!」

 

「くっ……行こう、アリア!!」

 

 

 アベルは泣き叫ぶアリアの手を握り、光の通路を駆けていく。

 ……二人とは、もう声すら届かない。

 

 

「っ……う、うぅぅぅ……!」

 

「大丈夫、大丈夫……絶対また会える……!」

 

 

 アベルは震えるアリアの背中を支えながら走った。

 ただひたすらに、遠くに見える出口と思われる藍色の闇を目指して。

 

 走って、走って、走って――。

 

 やがて、頭上の空気が少しだけ軽くなった。

 鼻を突いたのは、懐かしい砂漠の乾いた匂いと、夜を告げる冷たい風。

 

 アベルたちの目の前に広がるのは、【砂】・【砂】・【砂】。

 大きな岩が点在しているが、他に目ぼしいものは何もない。

 

 

「……はぁっ、はぁ……戻って、きたの……?」

 

 

 アリアが砂の上に倒れ込みながら呟く。

 場所はわからないが、恐らくテルパドールのどこかだろう。

 

 

「はぁっ、はぁ……ああ……みたいだ」

 

 

 アベルもアリアの隣に腰を下ろす。

 空を見上げると、藍色の世界――丸い月が穏やかに光を湛えていた。

 夜空を見るのは、ずいぶん久しぶりな気がする。

 

 あの洞窟や地下神殿、それに、時空の歪みに謎の建造物。

 死闘の連続で、休む暇はほぼなかった日々。

 

 よく生きていたな……アベルはそう思う。

 アリアといると、驚きの連続だ。

 

 

「うぅ……っ……ぅっ、ぅっ……」

 

 

 隣から咽び声が聞こえた。

 そちらをうかがうと、アリアが顔を両手で覆っていた。肩を震わせ、泣いている。

 

 

「アリア……」

 

「っ、く、クリエちゃんたち……大丈夫……だよ、ね?」

 

「…………うん」

 

 

 アベルはアリアを抱き寄せ、強く抱きしめる。

 そして慰めるように、背を優しく撫でた。

 

 あの二人と、あんな形で別れるとは思わなかった。

 それに、【ゴーレム】……。

 

 あれはゴレムスだったのだろうか。

 ……わからない。

 

 けれど、またどこかで会えそうな気がする。

 

 

「アリア。……君がいる世界は、やっぱり僕の想像を遥かに超えてくるね」

 

 

 アベルはアリアの額に唇を寄せ、安堵と共に深く息を吐く。

 壊れかけた世界でも、未知の未来でも。

 この腕の中に彼女がいる限り、何度でもやり直せると、アベルは確信していた。

 

 

「……さて。……約束通り、ここからは“二人きり”の時間だ。いいよね?」

 

 

 砂漠の月明かりの下、アベルの瞳にいつもの“ガッツリスケベ”な光が戻るのを見て、アリアは「もう……!」と赤面しながらも、その胸に深く顔を埋める。

 

 

「……でも、アベル」

 

「ん?」

 

「テルパドールの宿に戻ってからね? 砂入ると痛いからやだ」

 

「じゃあ、ルーラしよっか♡」

 

 

 奥さんに痛い思いはさせたくない。

 アベルはアリアの唇に“ちゅっ”と軽く口づけて、にっこりと笑った。

 

 

「んっ! ……と、ねえアベル、魔力残ってる?」

 

「え?」

 

「私、魔力残ってないんだけど……。あの黒点に吸われちゃったみたいなの」

 

「ん? じゃあ、僕が……ルーラ! ………………。えっ!?」

 

 

 “僕もだ……!!”とアベルは目を見開いた。

 はっとして、自分の魔力が空であることに気付く。

 

 

「ピエールは?」

 

「私も吸われたようです」

 

「あちゃぁ……」

 

 

 一難去ってまた一難。

 魔力は全員ゼロだ。

 

 そして今、馬車もない。

 

 アベルは頭を抱えた。

 【ふくろ】から【ふしぎな地図】を取り出し、とりあえず現在地を確認してみる。

 

 

「……うーん、現在地が表示されてないな……」

 

「どういうことなの……? まだ異空間にいるってこと……?」

 

「どうなんだろう……“カケラ”とやらの影響で、一時的に表示されていないだけとか?」

 

 

 現在地はどこなのか。

 【ふしぎな地図】を見ても、アベルたちの現在地は表示されていなかった。

 

 クリエとシドーが追ってる“カケラ”は、強大な力で、あの【ガオン】を変身させた。

 魔物が取り込めば、時空の歪みを発生させるほどの力をもつ“カケラ”。

 しかも、アベルたちには認識することさえできないというのに、影響だけは受けてしまうから困ったものだ。

 

 クリエとシドーは“カケラ”に触れても平気そうだった。

 しかもシドーは、夜の闇を払うのにその力を引き出し使っていた。

 

 ……もうあんなことが起きないように、今回のことは偶発的なものだったと思いたい。

 

 

(少し休んだら、まずは北を目指すか……その間に地図も元に戻るかもしれないし……)

 

 

 遠くに、かすかだが岩の山脈が見える。そこまで行って東に向かえば、浜へ出られる。

 浜を歩いていれば、いつかは停泊中のストレンジャー号に行きあたるだろう。

 

 ……ここが、テルパドール大陸ならば――の話であるが。

 

 魔力が枯渇している状態での移動。

 それも、馬車なし。

 

 【やくそう】はあるから、テルパドールの魔物ならなんとかなる。

 けれど、アリアに傷一つ付けさせず、守り切るのは難しい。

 

 

(赤ちゃんが心配だから、今のアリアに頑張らせたくないんだけどなぁ……苦労かけちゃうな……)

 

 

 アベルの口から小さなため息が漏れた。

 

 

「これじゃあ、砂漠をさまようことになりそうだね~(ひゃ~、がんばんなきゃ!)」

 

 

 アリアの柔らかく明るい声が聞こえ、彼女は眉を下げながら微笑む。

 ……砂漠の夜は寒い。彼女は寒いのか、ぶるりと震え、自分のマントにしっかり包まって【ふしぎな地図】をじっと見つめた。

 

 

「……昼間は厳しい暑さになる。アリアは大丈夫かい?」

 

「私、がんばるよ!」

 

 

 アリアは顔の前に両手を持ってきてぐっと握りしめる。

 気合を入れたその健気な姿に、アベルの瞳が優しく弧を描いた。

 

 

「うん、いつも頑張ってくれてるけど、君は今、身重だからね?」

 

「もぅっ! だからそれ、違うってこの前言った……あっ!」

 

「ん……?」

 

 

 ふいに、アリアの視線がアベルの背後、遠くへと投げられる。

 何事かとアベルもそちらに振り返った。

 

 

『アベルさ~~ん!! アリアさ~~ん!!』

 

『ピキーッ! 主さまぁ~! アリアちゃ~~ん!!』

 

 

 月明かりの下で、テルパドールの旗が見えた。兵士たちが駆けてくる。

 兵士たちの後ろにはスラりん――それから、パトリシアと馬車も見えた。

 

 

「あれ、テルパドールの……!? スラりんもパティもいるぅ~……!」

 

「ホントだ……」

 

 

 アリアの瞳に涙がきらりと光る。

 スラりんたちと離れて、一週間くらいだろうか。

 

 一週間ぶりの仲魔の姿に、彼女は瞼を擦って、スンと鼻を鳴らす。

 

 

「迎えに来てくれた……とか?」

 

「こんなこと……今までなかったなぁ……」

 

 

 二人は立ち上がって服に付いた砂を払い落とす。そばにいたプックルも身体をぶるぶると震わせ砂を飛ばした。

 迎えに来た仲魔たちに、アリア、ピエール、プックルが駆けていく。

 

 それに続いたアベルの顔は、喜びに満ちていた。

 




今回にて、青年期・前半【寄り道・謎の神殿】編、終幕です!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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