前回あらすじ>
倒したはずのゴーレムが、禍々しいオーラを纏い再び立ちはだかる。時空の歪みが「黒点」となり空間を呑み込み始める中、絶体絶命のアリアを救ったのは、かつての友を彷彿とさせる石の巨人の、慈愛に満ちた掌だった。
また逢う日まで~!
では、本編どぞ!
「……ゴーレム?」
アベルは目を見開く。
【ゴーレム】は最後に一度だけ顔を振り向かせ、アベルの瞳を真っ直ぐに見つめた。
それは言葉以上の感謝と、別れの挨拶。
「……ああ。……また会おう。次は、必ず仲間にするから」
「クリエちゃん! シドーくんも急いで! って、二人ともどこ見て……」
アベルが【ゴーレム】と挨拶を交わしている間に、アリアがクリエとシドーを呼ぶが、二人は【ゴーレム】でもなく、黒点でもなく“出口”でもない場所へと視線を移していた。
「……へへっ♡ カケラみっけ♡ 一気に二つって、すごくない?」
「幸先いいな!」
「だね♡」
そう言う二人はちらっと黒点を見やる。額には脂汗がにじんでいたが、二人は目を合わせ、ニッと笑った。
「クリエちゃん! シドー! 早く君たちも――」
「だーーめーーーーっ!!!」
クリエが笑顔のまま叫ぶ。
「アベルお兄さんたちは先に行って!! ここ……もう持たない!!」
まるで返事を裏付けるように、開いた“出口”がずずずと閉じていく。
「お前たちがいねぇと、この世界がどうなるかわかんねぇんだろ? ほら、行けよ!」
シドーはアベルの腕を引き、背を押した。
アベルが振り返ろうとすると――。
「振り向くなーっ!! こういうとき、主人公は前だけ見て走るのーっ!!」
クリエがハンマーを構え、笑う。
へへっと、愛らしい顔で鼻の下をこすりながら。
「でも、君たちが……!」
『ほらほら、アリアお姉さんが泣いちゃう前に! 行ってぇええ!!』
アベルが振り返ったときには、クリエとシドーが笑顔で先ほど見ていたほうへと走りだしていた。
なぜか【ゴーレム】も並走し、クリエと顔を見合わせ、何やら対話している様子。
「アベルぅ……!」
アリアはアベルのマントをぎゅっと握って震えた。
“出口”の穴は収縮し、もう、白の空間へと戻ることができないほどだ。
……彼の迷いを、涙混じりの声で振り払う。
「……行かなきゃ、だよ……!」
「……っ!」
アベルは唇を噛み、二人へ叫ぶ。
クリエたちの開いた穴は塞がりかけていた。
「ありがとう……!! 必ず生きてくれ……!!」
その声は、遠ざかっていく彼女らには届かないかもしれない。
けれど、クリエとシドーは顔だけ振り返って手を振った。
『ありがとーっ!! そっちも生きてねーっ!!』
『バーカ、オレたちが簡単にくたばるかよ!』
その瞬間。
“シュウウゥゥゥゥ……!”
空間に開いた穴が小さく収縮し、亀裂となり、その亀裂も消えていく。
ついさっきまで目の前にいたクリエも、シドーも、【ゴーレム】も見えなくなった。
「クリエちゃんっ!! シドーくんっ!!」
「くっ……行こう、アリア!!」
アベルは泣き叫ぶアリアの手を握り、光の通路を駆けていく。
……二人とは、もう声すら届かない。
「っ……う、うぅぅぅ……!」
「大丈夫、大丈夫……絶対また会える……!」
アベルは震えるアリアの背中を支えながら走った。
ただひたすらに、遠くに見える出口と思われる藍色の闇を目指して。
走って、走って、走って――。
やがて、頭上の空気が少しだけ軽くなった。
鼻を突いたのは、懐かしい砂漠の乾いた匂いと、夜を告げる冷たい風。
アベルたちの目の前に広がるのは、【砂】・【砂】・【砂】。
大きな岩が点在しているが、他に目ぼしいものは何もない。
「……はぁっ、はぁ……戻って、きたの……?」
アリアが砂の上に倒れ込みながら呟く。
場所はわからないが、恐らくテルパドールのどこかだろう。
「はぁっ、はぁ……ああ……みたいだ」
アベルもアリアの隣に腰を下ろす。
空を見上げると、藍色の世界――丸い月が穏やかに光を湛えていた。
夜空を見るのは、ずいぶん久しぶりな気がする。
あの洞窟や地下神殿、それに、時空の歪みに謎の建造物。
死闘の連続で、休む暇はほぼなかった日々。
よく生きていたな……アベルはそう思う。
アリアといると、驚きの連続だ。
「うぅ……っ……ぅっ、ぅっ……」
隣から咽び声が聞こえた。
そちらをうかがうと、アリアが顔を両手で覆っていた。肩を震わせ、泣いている。
「アリア……」
「っ、く、クリエちゃんたち……大丈夫……だよ、ね?」
「…………うん」
アベルはアリアを抱き寄せ、強く抱きしめる。
そして慰めるように、背を優しく撫でた。
あの二人と、あんな形で別れるとは思わなかった。
それに、【ゴーレム】……。
あれはゴレムスだったのだろうか。
……わからない。
けれど、またどこかで会えそうな気がする。
「アリア。……君がいる世界は、やっぱり僕の想像を遥かに超えてくるね」
アベルはアリアの額に唇を寄せ、安堵と共に深く息を吐く。
壊れかけた世界でも、未知の未来でも。
この腕の中に彼女がいる限り、何度でもやり直せると、アベルは確信していた。
「……さて。……約束通り、ここからは“二人きり”の時間だ。いいよね?」
砂漠の月明かりの下、アベルの瞳にいつもの“ガッツリスケベ”な光が戻るのを見て、アリアは「もう……!」と赤面しながらも、その胸に深く顔を埋める。
「……でも、アベル」
「ん?」
「テルパドールの宿に戻ってからね? 砂入ると痛いからやだ」
「じゃあ、ルーラしよっか♡」
奥さんに痛い思いはさせたくない。
アベルはアリアの唇に“ちゅっ”と軽く口づけて、にっこりと笑った。
「んっ! ……と、ねえアベル、魔力残ってる?」
「え?」
「私、魔力残ってないんだけど……。あの黒点に吸われちゃったみたいなの」
「ん? じゃあ、僕が……ルーラ! ………………。えっ!?」
“僕もだ……!!”とアベルは目を見開いた。
はっとして、自分の魔力が空であることに気付く。
「ピエールは?」
「私も吸われたようです」
「あちゃぁ……」
一難去ってまた一難。
魔力は全員ゼロだ。
そして今、馬車もない。
アベルは頭を抱えた。
【ふくろ】から【ふしぎな地図】を取り出し、とりあえず現在地を確認してみる。
「……うーん、現在地が表示されてないな……」
「どういうことなの……? まだ異空間にいるってこと……?」
「どうなんだろう……“カケラ”とやらの影響で、一時的に表示されていないだけとか?」
現在地はどこなのか。
【ふしぎな地図】を見ても、アベルたちの現在地は表示されていなかった。
クリエとシドーが追ってる“カケラ”は、強大な力で、あの【ガオン】を変身させた。
魔物が取り込めば、時空の歪みを発生させるほどの力をもつ“カケラ”。
しかも、アベルたちには認識することさえできないというのに、影響だけは受けてしまうから困ったものだ。
クリエとシドーは“カケラ”に触れても平気そうだった。
しかもシドーは、夜の闇を払うのにその力を引き出し使っていた。
……もうあんなことが起きないように、今回のことは偶発的なものだったと思いたい。
(少し休んだら、まずは北を目指すか……その間に地図も元に戻るかもしれないし……)
遠くに、かすかだが岩の山脈が見える。そこまで行って東に向かえば、浜へ出られる。
浜を歩いていれば、いつかは停泊中のストレンジャー号に行きあたるだろう。
……ここが、テルパドール大陸ならば――の話であるが。
魔力が枯渇している状態での移動。
それも、馬車なし。
【やくそう】はあるから、テルパドールの魔物ならなんとかなる。
けれど、アリアに傷一つ付けさせず、守り切るのは難しい。
(赤ちゃんが心配だから、今のアリアに頑張らせたくないんだけどなぁ……苦労かけちゃうな……)
アベルの口から小さなため息が漏れた。
「これじゃあ、砂漠をさまようことになりそうだね~(ひゃ~、がんばんなきゃ!)」
アリアの柔らかく明るい声が聞こえ、彼女は眉を下げながら微笑む。
……砂漠の夜は寒い。彼女は寒いのか、ぶるりと震え、自分のマントにしっかり包まって【ふしぎな地図】をじっと見つめた。
「……昼間は厳しい暑さになる。アリアは大丈夫かい?」
「私、がんばるよ!」
アリアは顔の前に両手を持ってきてぐっと握りしめる。
気合を入れたその健気な姿に、アベルの瞳が優しく弧を描いた。
「うん、いつも頑張ってくれてるけど、君は今、身重だからね?」
「もぅっ! だからそれ、違うってこの前言った……あっ!」
「ん……?」
ふいに、アリアの視線がアベルの背後、遠くへと投げられる。
何事かとアベルもそちらに振り返った。
『アベルさ~~ん!! アリアさ~~ん!!』
『ピキーッ! 主さまぁ~! アリアちゃ~~ん!!』
月明かりの下で、テルパドールの旗が見えた。兵士たちが駆けてくる。
兵士たちの後ろにはスラりん――それから、パトリシアと馬車も見えた。
「あれ、テルパドールの……!? スラりんもパティもいるぅ~……!」
「ホントだ……」
アリアの瞳に涙がきらりと光る。
スラりんたちと離れて、一週間くらいだろうか。
一週間ぶりの仲魔の姿に、彼女は瞼を擦って、スンと鼻を鳴らす。
「迎えに来てくれた……とか?」
「こんなこと……今までなかったなぁ……」
二人は立ち上がって服に付いた砂を払い落とす。そばにいたプックルも身体をぶるぶると震わせ砂を飛ばした。
迎えに来た仲魔たちに、アリア、ピエール、プックルが駆けていく。
それに続いたアベルの顔は、喜びに満ちていた。
今回にて、青年期・前半【寄り道・謎の神殿】編、終幕です!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!