誘拐……。
では! 本編どうぞっ。
“ヘンリー! アリアっ! っ、逃げてっ!!”
アベルは大声で叫び、慌てて階段を下りて行く。
「……へ? 何……今、アベルの声……(逃げて……?)」
「……何だ? あっ! アベル、お前何でついて来るんだよ!」
アベルの声が届いたのか、一階でお喋りをしながら歩いていたヘンリーとアリアは振り返る。
すると、アベルが青褪めた顔で階段を下りて来ていた。
「ど、どうしたの、アベル、顔が真っ青だよ……?」
「何だよ、アリアをちょっと借りたくらいでそんな怖い顔すんなよな」
「はぁっ、はぁっ、二人共っ! 早く逃げて……!」
ヘンリーとアリアの立ち位置がアベルからは距離があり、東側の裏口に近い。
アベルは二人の元へと駆け付けようとした。
が、その時。
バンッ!!!!
突然に裏口の扉が荒々しく開かれると、手にロープや武器を持った荒くれた粗暴な輩が無遠慮に城へと入って来る。
「……? 何だ……?」
『……っ、ガラの悪そうな人達ね……』
ヘンリーとアリアは手を繋いだまま、茫然と男達を眺めていた。
そうしている内に大男がヘンリーに近づき、服装を見て確認するように告げる。
「ヘンリー王子だな!?」
「なんだお前等は!?」
「悪いが一緒に来てもらうぜ。そらよっ!」
大男はヘンリーの腹に拳を叩き込む。
「うぐっ!」
ヘンリーは大男の一撃を受け、床に倒れ気を失ってしまった。
それでもヘンリーはアリアの手を放さなかったので、アリアも一緒に床に打ち付けられる。
『あぅっ、ヘンリーっ!! っ、ちょっとあなた何す……』
アリアが大男を見上げ抗議しようとしたが、別の男がやって来て、ロープをヘンリーの身体に巻き付けていく。
「ッチ。この手なんだ? ものすごい力で動かないぞ」
「足と片腕だけ身体に巻いておけばいい! そんなことより急ぐぞ!」
「おう!」
男達はヘンリーの片腕を背中に捻り上げるようにしてロープで固定し、ヘンリーを肩に担いだ。
「っ、アリアっ!!」
『アベルっ!!』
アベルは助けようとしていたのだが、大男の仲間に蹴られ壁に身体を打ち付けて動けない。
アリアの名を呼ぶしか出来なかった。
男達はヘンリーを担ぎ上げると、外へと出て行く。
その手順は手慣れたもので、隙が無かった。
「うぁ……っ、アリアぁっ!!」
『っ、アベルぅっ!!』
ヘンリーが手を放さない為、アリアも彼の手にぶら下がったまま翼を揺らし連れて行かれる。
そして、
バタンッ!
と、無情にも扉が閉まってしまった。
「っ、そんな……っ!! アリアっ! ヘンリーっ!!」
アベルは壁に打ち付けられ痛む身体を何とか起こし、扉へと向かう。
よろよろと外に出ると、荒くれ達が堀に続く階段を下りていた。
階段の先にはイカダが一艘、漕ぎ手が今か今かと待ち構えている。
「おい! モタモタしてねえで、早く王子をイカダへ!」
「へいっ!」
男達はさっとイカダに乗り移り、堀を進んで行った。
「っう~~~っ!!!!」
何でだよっ!
何でもっと早く教えてくれないんだっ!?
アベルは自分自身に憤りを感じつつ顔を顰め、堀沿いに荒くれ達を追って行った。
「アリアっ!!」
もう少しで追い付けるっ!?
と、アベルは懸命に追い掛けたのだが一歩遅く、男達は堀から上がり、ヘンリーとアリアはそのまま攫われてしまう。
堀沿いを走って追っていた間、アリアは不安気な顔でアベルを見ていた。
……――ルっ!
アリアのアベルに救いを求めるような、悲痛な声が耳奥に残っている。
城下町を出てどこに行ったのか、見当がつかなかった。
「っ、嫌だ……。何でっ……! っ、そうだ、父さんに……!」
アベルはまずは父パパスに報告をせねばと気付き、父の元へと向かった。
◇
「どうしたアベル? なにーっ! 王子が攫われただと!?」
城内に戻りアベルは、先程目の前で起こった事件をパパスに報告していた。
アベルがやって来た時は優し気な瞳で迎えていたパパスだったが、アベルの話を聞いた途端、その表情は険しくなる。
「……っ、ついて来いっ!」
パパスはアベルを引き連れヘンリーの部屋に入ると隠し階段に驚き下り、開かれたままの裏口を出る。
外に出た所でヘンリーの姿は既になく、複数の大人の足跡が地面に刻まれていた。
足跡は乱雑に踏み荒らされまだ新しく、堀へと下りる階段まで続いており、パパスはアベルの言っていることが本当なのだと確信する。
「っ、ヘンリーがアリアと一緒に攫われてっ、男達がイカダに乗ってどこかへ行っちゃったんだ……!」
「なっ、なんとしたことだ! いいかアベル。このことは誰にも言うな。騒ぎが大きくなるだけだからな……。とにかく王子を助け出さないとっ! ついて来いアベル!」
「うん! イカダはあっちに行ったよ!」
アベルが指し示す方へ、パパスは堀に沿って経路を洗う。
後ろにアベルもプックルと共に続いた。
「っ、くそっ、私としたことが完全に油断していた……!」
これは失態だ。
こうなることは予見出来ていたというのに……!
ラインハットの王よ、ヘンリー王子は私が必ず!!
パパスは黙々とヘンリーの攫われた方角へと進んで行く。
「……! 足跡が……!(今ならまだ間に合う……!)」
「……っ! 父さんっ……!」
男達の足取りをいち早く掴むため、パパスの足取りは速くなっていった。
アベルはその背中にハッとして目を見開く。
目の前のパパスの背中が一瞬透けた気がして、目を擦った。
そして……、
チリッ、とこめかみに痛みが走ったかと思うと、下卑た笑みを浮かべる魔族の男がパパスに向けて巨大な炎を放つ映像が脳裏に過った。
「っ!!?? 嘘だっ! 嘘だぁっ!!」
アベルは頭を左右に振りながらパパスを追う。
パパスの足は速く、既に城下町を経てその外へ向かおうとしている。
「父さんダメだっ!!」
アベルは大声を張り上げる。
パパスは堀を抜けた先、城下町の草叢に複数の足に踏まれた跡が僅かに残っているのを見つけていたのだった。
草はその強い生命力で元の形へと戻ろうとしている。
時間が経てば消えてしまうであろう、その手掛かりを頼りにパパスは城下町を出て行った。
「父さんっ! ダメだよ……っ!!」
アベルは遠くなるパパスの背に、叫ぶ。
必死で走っても、パパスの足には追い付けなかった。
……ぽたり。
パタタ……。
ぱた……ボタボタボタッと、大粒の涙がアベルの瞳から零れ落ち、マントの襟や土を濡らす。
アベルは立ち止まり小さくなっていく父の背を、ただ茫然と見ていた。
「…………で、…………ないで……! 行かないでっ! 父さんっ……!」
……アベルの必死の叫びはパパスには届かなかった……――。
シリアスパート突入ですね……。
暫く鬱々な内容が続く……、かなぁ……。
早くダジャレとか、しょうもないこと言い合って乳繰り合いたいですねぇ……。
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読んでいただきありがとうございましたっ!