ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

前回あらすじ>
兵士の迎えで無事にテルパドールへ帰還したアベルとアリア。再会したアイシス女王から、自分たちが異空間にいた間に地上では「半年」もの月日が流れていたと告げられ驚愕する。さらに、義父ルドマンから謎の封筒を預かっていると言われ……。

いざ、お墓参りへ!

では、本編どぞ~。



第八百十七話 伝説の兜と勇者の跡

「ふふ、本当に、無事に戻って来られてなによりでしたわ。今日こそ勇者さまのお墓をお参りしますか?」

 

 

 朝餐会も進み、皆の腹がいっぱいになった頃。

 ついに女王から“勇者の墓”についての話題が出た。

 

 アベルはこれを待っていた。

 

 本来なら、さくっと“勇者の墓”を見に行き、天空の勇者にまつわる話を聞こうとしていたのだ。

 けれど、異空間に妻を攫われ、自らもそこへ飛び込み、かつての天空の勇者たちと地獄の帝王の決戦を見ることになった。

 

 ……凄まじい戦いだった。

 アベルの遠い記憶の彼方に【エスターク】がいるが、今の自分では力不足。倒すことはできない。

 あの勇者の子孫がこの時代にもいて、今、どこで何をしているのか……必ず見つけ出さなければ。

 

 そのためにも、“勇者の墓”へ――。

 

 

「……はい! お願いします!」

 

 

 アベルはナプキンで口を拭うと立ち上がり、大きく返事をした。

 

 

「では、案内しましょう。私についてきてください」

 

 

 ニヤリ。

 女王はティーカップをソーサーに置くと立ち上がる。

 

 ……さあ、女王は位置についた。

 

 

「アリア! 位置について!」

 

「えっ!?」

 

 

 アベルはアリアの手を握り、身構えた。

 その瞬間、女王は歩き出す。

 

 いや、走り出した?

 いや、やっぱり歩いている……。

 

 長いドレスの中で、足の動きはどうなっているのかわからないが、速い。

 

 

「行くよ!!」

 

「ええ~~~~っっ!!?(アイシスさま速いぃぃ~~~~!!!)」

 

 

 アベルに手を取られ、アリアは走り出した。

 今度こそ、遅れは取らないぞと意気込み、アベルは女王を追いかける。

 

 

「アベルっ……なにもそんなに急がなくても……!」

 

「はははっ! まあそうなんだけどさ! なんとなくねっ!!」

 

 

 女王は瞬く間に一階へと続く階段を上り、城から外へ一直線。

 前回は砂嵐で出られなかったから足止めされていたが、今回はアベルたちに振り返ることなく城門を出ていった。

 

 

「アイシスさまは!?(早すぎる……!)」

 

 

 アリアがキョロキョロとあたりを見回す。

 女王を追って階段を上がってきたアベルたち。

 

 入口付近に一瞬だけ女王の背中が見えて、慌てて城の外に出たものの、早速見失ってしまった。

 

 右か左か――いったいどちらへ向かったのか……。

 城を出ると、歩廊が右と左、どちらにも伸びている。

 

 アベルは遠目で女王の姿を探した。

 

 

「うーん……あ! あっちだ!」

 

 

 城門右手の歩廊に女王の背中がかすかに見える。

 幸い、歩廊は迷うような作りではなく一本道。

 

 アベルとアリアは顔を見合わせ、「ふぅ」と一息ついてから歩廊を進んだ。

 

 歩廊を進んでいくと、勇者の墓――石造りの変わった形の廟が見えてくる。その入口では、聖域を監視するように並び立つ二体の大きな石像が、静かに二人を待ち構えていた。

 

 

「アイシスさま、中に入っていったよね……?」

 

「ああ、行ってみよう」

 

 

 石像に監視されているように見えたアリアが、アベルのマントをそっと掴む。

 アベルはアリアの手を引いて中へ入ることにした。

 

 廟の内部に入ると、照りつける太陽の熱気はどこへやら、ひんやりとした空気が漂っている。

 部屋の中央に、赤絨毯に囲まれた下へと続く階段があり、下っていく。

 

 

「建物の中は涼しいね、砂漠の熱を吸い取ってくれるみたい。涼むのにぴったり♪」

 

 

 アリアが火照った頬を片手で押さえてから、ひんやりとした壁に触れ、その冷たい感触ににっこり笑った。

 だが、階下から吹き抜けてくる風は、ただの涼しさとは違う、時を止めた場所特有の重みを含んでいる。

 

 

「お墓……だからかな?」

 

「っ、もぉ! そういうこと言わないの~っ」

 

 

 オバケよろしく、アベルが片手をぷらっと垂らしてにやりと笑うと、アリアは一瞬息を呑み、頬を膨らませた。

 

 

「あ、まだ下があるのね」

 

「みたいだね」

 

 

 一階層下りてきたが、奥にまだ下に続く階段がある。

 下から吹き抜けてくる空気は一段と冷たさを増し、そこが地上から遠く離れた聖域であることを物語っていた。

 

 相変わらず、アベルの遠い記憶は都合よく降りてはこない。

 まるで初めて訪れた場所のように感じた。

 

 ……階層はまだ下に続いているようだ。

 

 再び階段を下りて、階層が一フロア変わるごとに暗くなる。廟の空気がさらに冷え、足元に立派な赤絨毯が敷かれていることもあってか、冷たいけれど、どこか静謐さに包まれた気がした。

 

 

「上の階より暗いね……」

 

「怖い?」

 

「こ、怖くないよ? 勇者さまのお墓だもん、オバケなんてないさっ」

 

「ふふっ、アリア震えてるよ?」

 

 

 アベルは、いつのまにか震えながら、自分の腕にしがみついている妻が可愛くて微笑む。

 これ以上は揶揄(からか)わないでおこうと目を細め、「大丈夫だよ」と安心させておく。

 

 オバケの類が苦手な彼女の怯える姿は可愛い。だが、あまり追い詰めると、アリアはとんでもないことをしでかすから注意が必要である。

 

 

「下の階がもっと暗かったらどうしよう……暗い中、急にアイシスさまが出てきたら、びっくりしてちびっちゃうかも……」

 

 

 暗がりから“にゅっ”と、顎を照らす灯りとともに出てこられたら腰を抜かす。

 ついでにちびってしまったら、大人として恥ずかしい……。

 

 アリアは失態をさらさないよう、あらかじめ女王が飛び出してきたイメージをしておいた。

 

 

「替えのパンツ用意しておく?」

 

「漏らさないもんっ」

 

「ハハッ! そう? まあ、必要なら言ってよ。すぐ出すからさ」

 

「も~~!」

 

 

 アベルに笑い飛ばされ、アリアは彼の腕にしっかりしがみつきながら先へと進む。

 暗がりの部屋を行くと、これまで二階層分下ってきた階段とは違う、立派な造りの階段が現れた。階段の両脇には立派な【しょく台】が設置されており、これまで数々の訪れる旅人を出迎えてきたのだろう。

 

 

「いよいよ、勇者の墓との対面だね」

 

「うん。勇者さまの手がかり、何か掴めるといいね」

 

 

 階段にも赤絨毯が敷かれ、アベルたちは一段一段ゆっくりと下っていった。

 

 赤絨毯の階段を下りて行くと、ぼんやりと灯りが見える。

 下りていくたび、明るさは徐々に増し、一番下までやってくると、さっきまでの暗さはなんだったのかと思うほど、明るい場所に出た。

 

 ここが……最下層のようだ。

 フロア全体が明るい。ひんやりと澄んだ空気がアベルたちを出迎える。

 

 霊廟の深部を支える、四本の巨大な石の柱。

 それは地下二階から地上までを貫き、天井も高く、気の遠くなるような年月、この聖域の重みを支え続けてきたもの。

 柱の表面に刻まれた古の意匠は、今なお色褪せぬ威厳を放ち、アベルたちの行く手をただ黙って見守っている。

 

 アベルの視線の先には、清水の水路に囲まれ、女王の庭園と同じような青々とした緑が広がっていた。そこでは色とりどりの花々が咲き誇り、勇者を慰めている。

 その緑の中に勇者の墓があった。

 

 

「わぁ」

 

「……」

 

 

 清らかな水の流れと厳かな空気、ひそやかな水音が静寂に溶けこむ。あまりに美しい光景にアリアは感嘆する。

 アベルも息を呑み、言葉を発することができなかった。

 

 赤絨毯は墓まで続いている。

 アベルもアリアも黙ったまま、勇者の墓へと進んだ。

 

 フロアの最奥、ひときわ高く設えられた石板の前に、それはあった。

 室内の柔らかな光を反射し、時を経てもなお色褪せぬ黄金の輝きを放つ、伝説の兜。

 

 

「……あれが……」

 

 

 アベルの言葉が震える。

 そのそばには、まるで勇者の帰還を待ち続けていたかのように、アイシス女王が静かに佇んでいた。

 

 やって来たアベルと目が合った女王が口を開く。

 

 

「あなたは、勇者さまの墓を参りにいらっしゃったとのことでしたが……。実を言うと、ここでは勇者さまを祀ってはいますが、お墓ではありません。世界を救ったあと、勇者さまがどこにゆかれたか、誰も知らないのです」

 

「ぁ……」

 

 

 ここは勇者の墓と呼ばれてはいるが、墓ではないらしい。

 あの謎の神殿で見た勇者が、世界を救ったあと姿を消してしまっていたとは……。

 

 アベルは言葉を失った。

 だが、女王は、台座に置かれた兜を見下ろし続ける。

 

 

「しかし、わが国には、代々天空のかぶとが伝わっていました。もし、再び伝説の勇者さまが現れれば、きっとこのカブトを求めるはず。その日が来るまでこのカブトを守るため、ここを建てたのです」

 

「これが……天空のかぶと……?」

 

 

 【金】でできたそれは、額部分に青い宝玉が埋め込まれ、左右に竜の翼を配し、洗練された美しいフォルム。兜というより、サークレットに近い作りのもの。

 

 

(ソロさまがかぶってたやつ~~!! かぁ~っくいぃ~~!!)

 

 

 【エスターク】と戦っていたソロを思い出し、アベルの隣でアリアが【天空のかぶと】をじっと見つめる。

 リアル【天空のかぶと】に、大人の女性として、騒ぎ立てるわけにはいかない。アリアの瞳だけがきらきらと輝き、テンションが上がった。

 

 

「さあ、あなたも、そのカブトをかぶってみてください」

 

 

 女王に勧められ、アベルは深く頷き、台座を見下ろす。

 

 

 “

 アベルは目の前に飾られた美しいカブトを調べた!

 なんと、天空のかぶとを見つけた!

 

 アベルは天空のかぶとをかぶってみた……。

 

 頭が、ナマリのように、重い……。

 どうやら、アベルには装備できないようだ。

 

 ”

 

 

 ……アベルの頭の中に天の声が響いた……。

 

 

「っ……(だめだ……!)」

 

 

 アベルは眉をしかめ、【天空のかぶと】をもとに戻した。

 

 




読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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