前回あらすじ>
兵士の迎えで無事にテルパドールへ帰還したアベルとアリア。再会したアイシス女王から、自分たちが異空間にいた間に地上では「半年」もの月日が流れていたと告げられ驚愕する。さらに、義父ルドマンから謎の封筒を預かっていると言われ……。
いざ、お墓参りへ!
では、本編どぞ~。
「ふふ、本当に、無事に戻って来られてなによりでしたわ。今日こそ勇者さまのお墓をお参りしますか?」
朝餐会も進み、皆の腹がいっぱいになった頃。
ついに女王から“勇者の墓”についての話題が出た。
アベルはこれを待っていた。
本来なら、さくっと“勇者の墓”を見に行き、天空の勇者にまつわる話を聞こうとしていたのだ。
けれど、異空間に妻を攫われ、自らもそこへ飛び込み、かつての天空の勇者たちと地獄の帝王の決戦を見ることになった。
……凄まじい戦いだった。
アベルの遠い記憶の彼方に【エスターク】がいるが、今の自分では力不足。倒すことはできない。
あの勇者の子孫がこの時代にもいて、今、どこで何をしているのか……必ず見つけ出さなければ。
そのためにも、“勇者の墓”へ――。
「……はい! お願いします!」
アベルはナプキンで口を拭うと立ち上がり、大きく返事をした。
「では、案内しましょう。私についてきてください」
ニヤリ。
女王はティーカップをソーサーに置くと立ち上がる。
……さあ、女王は位置についた。
「アリア! 位置について!」
「えっ!?」
アベルはアリアの手を握り、身構えた。
その瞬間、女王は歩き出す。
いや、走り出した?
いや、やっぱり歩いている……。
長いドレスの中で、足の動きはどうなっているのかわからないが、速い。
「行くよ!!」
「ええ~~~~っっ!!?(アイシスさま速いぃぃ~~~~!!!)」
アベルに手を取られ、アリアは走り出した。
今度こそ、遅れは取らないぞと意気込み、アベルは女王を追いかける。
「アベルっ……なにもそんなに急がなくても……!」
「はははっ! まあそうなんだけどさ! なんとなくねっ!!」
女王は瞬く間に一階へと続く階段を上り、城から外へ一直線。
前回は砂嵐で出られなかったから足止めされていたが、今回はアベルたちに振り返ることなく城門を出ていった。
「アイシスさまは!?(早すぎる……!)」
アリアがキョロキョロとあたりを見回す。
女王を追って階段を上がってきたアベルたち。
入口付近に一瞬だけ女王の背中が見えて、慌てて城の外に出たものの、早速見失ってしまった。
右か左か――いったいどちらへ向かったのか……。
城を出ると、歩廊が右と左、どちらにも伸びている。
アベルは遠目で女王の姿を探した。
「うーん……あ! あっちだ!」
城門右手の歩廊に女王の背中がかすかに見える。
幸い、歩廊は迷うような作りではなく一本道。
アベルとアリアは顔を見合わせ、「ふぅ」と一息ついてから歩廊を進んだ。
歩廊を進んでいくと、勇者の墓――石造りの変わった形の廟が見えてくる。その入口では、聖域を監視するように並び立つ二体の大きな石像が、静かに二人を待ち構えていた。
「アイシスさま、中に入っていったよね……?」
「ああ、行ってみよう」
石像に監視されているように見えたアリアが、アベルのマントをそっと掴む。
アベルはアリアの手を引いて中へ入ることにした。
廟の内部に入ると、照りつける太陽の熱気はどこへやら、ひんやりとした空気が漂っている。
部屋の中央に、赤絨毯に囲まれた下へと続く階段があり、下っていく。
「建物の中は涼しいね、砂漠の熱を吸い取ってくれるみたい。涼むのにぴったり♪」
アリアが火照った頬を片手で押さえてから、ひんやりとした壁に触れ、その冷たい感触ににっこり笑った。
だが、階下から吹き抜けてくる風は、ただの涼しさとは違う、時を止めた場所特有の重みを含んでいる。
「お墓……だからかな?」
「っ、もぉ! そういうこと言わないの~っ」
オバケよろしく、アベルが片手をぷらっと垂らしてにやりと笑うと、アリアは一瞬息を呑み、頬を膨らませた。
「あ、まだ下があるのね」
「みたいだね」
一階層下りてきたが、奥にまだ下に続く階段がある。
下から吹き抜けてくる空気は一段と冷たさを増し、そこが地上から遠く離れた聖域であることを物語っていた。
相変わらず、アベルの遠い記憶は都合よく降りてはこない。
まるで初めて訪れた場所のように感じた。
……階層はまだ下に続いているようだ。
再び階段を下りて、階層が一フロア変わるごとに暗くなる。廟の空気がさらに冷え、足元に立派な赤絨毯が敷かれていることもあってか、冷たいけれど、どこか静謐さに包まれた気がした。
「上の階より暗いね……」
「怖い?」
「こ、怖くないよ? 勇者さまのお墓だもん、オバケなんてないさっ」
「ふふっ、アリア震えてるよ?」
アベルは、いつのまにか震えながら、自分の腕にしがみついている妻が可愛くて微笑む。
これ以上は
オバケの類が苦手な彼女の怯える姿は可愛い。だが、あまり追い詰めると、アリアはとんでもないことをしでかすから注意が必要である。
「下の階がもっと暗かったらどうしよう……暗い中、急にアイシスさまが出てきたら、びっくりしてちびっちゃうかも……」
暗がりから“にゅっ”と、顎を照らす灯りとともに出てこられたら腰を抜かす。
ついでにちびってしまったら、大人として恥ずかしい……。
アリアは失態をさらさないよう、あらかじめ女王が飛び出してきたイメージをしておいた。
「替えのパンツ用意しておく?」
「漏らさないもんっ」
「ハハッ! そう? まあ、必要なら言ってよ。すぐ出すからさ」
「も~~!」
アベルに笑い飛ばされ、アリアは彼の腕にしっかりしがみつきながら先へと進む。
暗がりの部屋を行くと、これまで二階層分下ってきた階段とは違う、立派な造りの階段が現れた。階段の両脇には立派な【しょく台】が設置されており、これまで数々の訪れる旅人を出迎えてきたのだろう。
「いよいよ、勇者の墓との対面だね」
「うん。勇者さまの手がかり、何か掴めるといいね」
階段にも赤絨毯が敷かれ、アベルたちは一段一段ゆっくりと下っていった。
赤絨毯の階段を下りて行くと、ぼんやりと灯りが見える。
下りていくたび、明るさは徐々に増し、一番下までやってくると、さっきまでの暗さはなんだったのかと思うほど、明るい場所に出た。
ここが……最下層のようだ。
フロア全体が明るい。ひんやりと澄んだ空気がアベルたちを出迎える。
霊廟の深部を支える、四本の巨大な石の柱。
それは地下二階から地上までを貫き、天井も高く、気の遠くなるような年月、この聖域の重みを支え続けてきたもの。
柱の表面に刻まれた古の意匠は、今なお色褪せぬ威厳を放ち、アベルたちの行く手をただ黙って見守っている。
アベルの視線の先には、清水の水路に囲まれ、女王の庭園と同じような青々とした緑が広がっていた。そこでは色とりどりの花々が咲き誇り、勇者を慰めている。
その緑の中に勇者の墓があった。
「わぁ」
「……」
清らかな水の流れと厳かな空気、ひそやかな水音が静寂に溶けこむ。あまりに美しい光景にアリアは感嘆する。
アベルも息を呑み、言葉を発することができなかった。
赤絨毯は墓まで続いている。
アベルもアリアも黙ったまま、勇者の墓へと進んだ。
フロアの最奥、ひときわ高く設えられた石板の前に、それはあった。
室内の柔らかな光を反射し、時を経てもなお色褪せぬ黄金の輝きを放つ、伝説の兜。
「……あれが……」
アベルの言葉が震える。
そのそばには、まるで勇者の帰還を待ち続けていたかのように、アイシス女王が静かに佇んでいた。
やって来たアベルと目が合った女王が口を開く。
「あなたは、勇者さまの墓を参りにいらっしゃったとのことでしたが……。実を言うと、ここでは勇者さまを祀ってはいますが、お墓ではありません。世界を救ったあと、勇者さまがどこにゆかれたか、誰も知らないのです」
「ぁ……」
ここは勇者の墓と呼ばれてはいるが、墓ではないらしい。
あの謎の神殿で見た勇者が、世界を救ったあと姿を消してしまっていたとは……。
アベルは言葉を失った。
だが、女王は、台座に置かれた兜を見下ろし続ける。
「しかし、わが国には、代々天空のかぶとが伝わっていました。もし、再び伝説の勇者さまが現れれば、きっとこのカブトを求めるはず。その日が来るまでこのカブトを守るため、ここを建てたのです」
「これが……天空のかぶと……?」
【金】でできたそれは、額部分に青い宝玉が埋め込まれ、左右に竜の翼を配し、洗練された美しいフォルム。兜というより、サークレットに近い作りのもの。
(ソロさまがかぶってたやつ~~!! かぁ~っくいぃ~~!!)
【エスターク】と戦っていたソロを思い出し、アベルの隣でアリアが【天空のかぶと】をじっと見つめる。
リアル【天空のかぶと】に、大人の女性として、騒ぎ立てるわけにはいかない。アリアの瞳だけがきらきらと輝き、テンションが上がった。
「さあ、あなたも、そのカブトをかぶってみてください」
女王に勧められ、アベルは深く頷き、台座を見下ろす。
“
アベルは目の前に飾られた美しいカブトを調べた!
なんと、天空のかぶとを見つけた!
アベルは天空のかぶとをかぶってみた……。
頭が、ナマリのように、重い……。
どうやら、アベルには装備できないようだ。
”
……アベルの頭の中に天の声が響いた……。
「っ……(だめだ……!)」
アベルは眉をしかめ、【天空のかぶと】をもとに戻した。
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!