ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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アイシス女王の爆走に導かれ、聖域「勇者の墓」へ辿り着いたアベルとアリア。地下深くで黄金に輝く「天空のかぶと」と対面する。かつての勇者の勇姿を想い、意気揚々と試着したアベルを待っていたのは、意外な重みだった。

刻印ってなにさ。

では、本編どぞ~!



第八百十八話 額の刻印と王子の兆し

「やはりダメでしたか。あなたにはなにかしら、感じたのですが、思い違いだったようですね」

 

 

 女王が残念そうに眉を下げる。

 

 

「私もかぶってみるね!」

 

「「え?」」

 

 

 アリアが台座から【天空のかぶと】を手に取り、かぶってみせる。

 

 “かぽっ”

 

 

「わぁ~。このカブト軽いっ! どう? 似合う?」

 

 

 【天空のかぶと】が頭にのっかると、アリアはその場でくるんと身を一回転して腰に両手を添えた。

 

 

「そ、そんなまさか……!」

 

「ちょ、アリア……!?」

 

 

 ……まさか、アリアが【天空の勇者】!?

 女王とアベルは目の前の光景に驚愕したが、次の瞬間、重さに引かれ、アリアの体が頭ごと傾く。

 

 

「ひょぇっ!!?」

 

 

 “ゴテッ!!”

 

 

 静寂に包まれていた霊廟に、およそ似つかわしくない間抜けな声とともに、無骨な音が響き渡った。

 石造りの床に叩きつけられた黄金の兜が、空虚な音を立てる。

 

 アリアが頭から突っ込んだ――。

 

 

「アリアーーっっ!!?」

 

 

 目を見開いたアベルは、すぐさま床に倒れた彼女を抱き起こす。

 その拍子にゴロンと【天空のかぶと】が床に転がった。

 

 

「だ、大丈夫かいっ!?」

 

「いたたた……。もぅ……急に重くなるんだから……あ、大丈夫だよ~♪ 一応、カブトが守ってくれたみたい。おでこがちょっと痛むだけで、不思議と他は痛くないの」

 

 

 アリアをうかがうと、彼女はおでこを擦る。

 額の中央に丸く赤い跡が付いていた。

 

 他はどこも怪我していないようだ。

 

 

「……はぁ、よかった……。はは……アハハハハッ!!」

 

 

 アリアの様子にアベルは笑い出す。

 その後ろで女王が兜を拾い、(きず)がないか調べつつ、「やはりダメでしたか、くっ」と声は冷静なのに、笑いを堪えるのに精いっぱいの様子で肩を震わせた。

 

 

「私は勇者じゃないみたいです」

 

「ですね」

 

 

 アベルに起こしてもらい、立ち上がったアリアは女王に告げる。

 女王も笑みを溢しそうな顔で、一度だけ深く頷いた。

 

 

「では、戻ることにしましょう。ついてきてください」

 

 

 突然の再スタートが始まった。

 女王は一人でさっさと競歩に戻って遠ざかっていく。

 

 

「追いかける?」

 

「いや……石板を調べてからかな」

 

「ああ、なるほど!」

 

 

 女王の行く先はわかっているから、【天空のかぶと】の後ろにある、大きな石板を調べてから戻っても遅くない。

 

 アベルは静かに輝く【天空のかぶと】を横目に、奥の石板を調べた。

 石板にはこう書かれている。

 

 “闇が世界を覆うとき 再び勇者来たらん”

 

 

「闇が世界を覆うとき……再び勇者来たらん……か。ってことは、勇者が現れてない今は……まだそこまで切羽詰まってない――ってことかな?」

 

「うん……どうかな……。勇者はどこかで旅をしているのかもしれないし……」

 

 

 アリアのつぶやきに、アベルは「そうだといい」と思うが、世界中で強力な魔物の数が増えている現実を知っている身としては、安易に喜べない。

 この間まで、実際に闇に覆われていたわけだし、一刻も早く勇者を見つけなくては……と、アベルの脳裏には謎の神殿で目撃した彼が浮かんだ。

 

 かつての【天空のかぶと】の持ち主。

 【天空の勇者】――ソロ。

 

 彼に似た男か、女を捜せばいいのかもしれない。

 アベルは思った。苦労したが、あの謎の空間に行きついたことは、ある意味でヒントになったのだと。

 

 

「ソロさまの子孫かぁ……きっとイケメンよね。会うの楽しみだな~♡」

 

 

 どうやらアリアも勇者ソロを思い浮かべていたらしい。

 手を合わせて楽しそうに話す妻に、アベルの目は半目になった。

 

 

「っ! アリアぁ~?」

 

「あっ、えっと! これはドラクエファンとしての気持ちっていうか……私は、アベルのほうが好きだよっ♡ アベル~今日もすてき~っ♡」

 

「そうやって、ごまかそうったってそうはいかないよ!? アイシス女王の話を聞いたら、宿直行だからね!!」

 

「わかってます、わかってます!」

 

 

 手を組んでにこにこと首を縦に何度も振り続けるアリア。

 

 まったく、アリアには困ったものだ。

 男女問わず、美人に弱いのだから……。

 

 アベルはそんな妻の手を取り、繋ぐと、アイシス女王の待つ城の庭園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の庭園に戻ると、女王はいつもの席でお茶を飲んでいた。

 

 

「アイシス女王」

 

 

 アベルが声をかけると、女王は座ったまま、ちらっと隣のアリアの額に目をやったが、すぐに逸らしてアベルを見上げる。

 「ふぐっ」と鼻を鳴らす音が聞こえた。

 

 アリアの額には、まだ赤い丸い跡がついている。

 

 

「私は、少しですが、人の心を読むこともできます。たぶん、あなたの勇者さまを強く求める心が私を感じさせたのでしょう。なぜ、それほどまでに勇者さまを求めるのか、事情を聞かせてくれますか?」

 

 

 気を取り直すように、女王はアベルに問う。

 そうだ、本来はこういう流れだった――と、アベルはハッと思い出して口を開いた。

 

 

「実は……――」

 

 

 アベルはこれまでの旅の事情を話す。

 すべて話し終えると、女王の瞳が大きく見開かれた。

 

 

「まあ! それでは亡き父に代わって、母親を魔界から救い出すために!? もしや、その父とはパパス王のことではっ!?」

 

「ぱ、パパス王……?」

 

「えっ!!? 王さま!?」

 

 

 女王の口から父の名前が出たことに驚くアベル。

 だが、驚いたのは名前だけではなく、敬称が“王”と付いていたからだ。

 

 アリアも目を瞬かせていた。

 

 

「この地より、海を越えたはるか東の国、グランバニア。その国のパパス王が拐われた王妃を助けるため、幼子を連れ旅に出たと……旅人のウワサに聞いたことがあります。もし、その幼子があなたなら、東の国グランバニアに行ってみるといいでしょう」

 

 

 話を終えた女王は、アベルをどこか懐かしいような瞳で見つめ、手をそっと握る。

 パパスとは、旧知の仲ということなのだろうか……。

 

 

「あ、はい……」

 

 

 急に親しみの目を向けられたアベルは、ちょっと戸惑ってしまった。

 

 

「パパスさんが王さまだったら、アベルは……」

 

「ん……? アリアどうしたの?」

 

「あ、えと。ううん。なんでもない」

 

 

(王さま!? パパスさんが王さまで、アベルが王子……? ということは、私は……王妃さまになるの……?

 

 無理無理無理! 毎日ドレス着て、お辞儀の練習して、言葉遣いも「ごきげんよう」とか言わなきゃいけないの!?

 

 無理! 砂漠で「あっちぃ~!」とか叫んでる私には、絶対務まらないよぉ……!!)

 

 

 ……アベルの前で、にこやかに微笑むアリアの脳内は騒がしい。

 前世庶民、そして今世もモブな自分が王族と結婚してしまったとは。

 

 その重責に耐えられるかガクブルなものである。

 

 

(父さんが王……? なら、母さんは王妃だったのか……一刻も早く勇者を見つけ出さないと……。母さん……)

 

 

 アベルは自らの宿命に想いを馳せた。

 一方でアリアはというとだんまりだ。

 

 

(王子……王室……嫁姑問題……マナー……いや、それよりアベルのルーツがわかってよかったじゃない……! 私のことは……今は考えないっ)

 

 

 東の国、【グランバニア】でアベルが本当に王族だったとしたら……少々不安が残るが、愛する夫の親族がいる。血の繋がった親族は、きっとアベルの力になってくれるに違いない。

 

 自らのチキンメンタルに蓋をして、夫の故郷に想いを馳せる。

 ただ、体は正直で、腹の前で組んだ手がかすかに震えていた。

 

 

「アイシス女王、お話ありがとうございました」

 

 

 女王の話を聞き終え、アベルは頭を下げる。

 ずいぶん遠回りしたが、ようやく新たな地への手がかりを得ることができた。

 

 

「お気をつけて。アリア、またいつかテルパドールに遊びに来てくださいね」

 

「はいっ♡」

 

 

 別れ際、女王がアリアを抱きしめる。

 まるで娘との別れを惜しむような優しい瞳が印象的だった――のはピエールの感想だ。

 

 ……柔らかい肉と肉が接触して押し潰し合う。

 美女二人の抱擁は目にうれしい。

 

 

「ハグはいいんだよなぁ~♡」

 

「主殿~?」

 

「っ、あっ、いやっ!? 行こう! アリア、行くよ」

 

 

 ピエールに呆れた声で呼びかけられたアベルは、慌てて出口へ歩き出した。

 

 




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