前回あらすじ>
「天空のかぶと」に挑み、おでこに丸い跡をつけたアリア。爆笑と困惑の中、アイシス女王の口からアベルの父・パパスが「グランバニアの王」であったという驚愕の事実が語られる。自身のルーツを求め、一行は新たな旅路へ!
っと、その前に……。
では、本編どぞ!
城を出ると、アリアが鞄に入れていたルドマンからの封筒を取り出す。
ちなみに、残りの大量の手紙は、重いからとすでにアベルの「ふくろ」の奥底へ放り込まれている。
【ステータスウィンドウ】で見た【ふくろ】の中身リストには、『読まれなかった手紙 ×60』という、なんとも不吉で重々しい項目が追加されていた。
「ねえ、アベル。これ……お父さまからの……」
アリアは、最新の一通をアベルの前に提示する。
彼女がビリリと封を開こうとすると――。
「ん? あっ、それね! 宿屋で休んでからでもいい?」
主導権はこちらが取る! と、アベルはまたしてもアリアの手を止めた。
ただでさえ【ふくろ】の中から
「休んでからって……まあ、少し遅れたところで変わらないか~」
「そういうこと! さっ、行こっか♡」
今日はもう、テルパドールで一泊して、
アリアが再び鞄に封筒をしまうのを見て、アベルは彼女の手を取り、指を絡めて繋ぐと宿屋へ向かった。
◇
「……んー、なになに? 『チチキトク・スグカエレ』だって!! アベルっ! こんなことしてる場合じゃないよ!?」
やっと手元に戻ってきた妻を愛でるため、ちょっと奮発して取った個室で、二人きりの夫婦の時間、そのときがきた。
乱れたアリアの手が、ベッド脇の棚の上に置いた鞄にぶつかり、鞄が落下。中身が床に散らばる。
保存食やメモ帳、【救急セット】、裁縫道具など、いろいろ詰まっていたが、そこにはルドマンからの手紙もあった。
封筒の封は、昼間すでにアリアが破っていたから、手紙が飛び出している。
アリアはベッドの上からそれを拾って読み上げた。
そこに書いてあったのが『チチキトク・スグカエレ』の文字だ。
(ふくろの中に封印した六十通の怨念が、最後の一通に集まったとでもいうのか……!)
まさか、予想通りの文字が書かれているとは思わなかった。
「こんなことって……大事でしょ、子づく……ブッ!!?」
アベルが再びアリアに覆いかぶさろうとすると、枕を顔に押し付けられた。
「もう、今日は充分だよ。また明日! ほらアベル、急いでサラボナに戻らなきゃっ!」
「えぇーー!! 絶対仮病だよ……!?」
火照った身体で、真夜中だというのに、ベッドから出ようとするアリア。
そうはさせないとアベルは腰に抱きつき、アリアを
「っ、そうであっても……たしか、半年に一回帰るって約束だったような……? 体感だとサラボナを出発して二ヶ月くらいだけど……こっちで、半年――ってことは、八か月経ってるってことでしょ……?」
「半年に一回って……いや、それ無理あるよね? 世界を旅してるのにそんな簡単に帰れるわけないでしょ」
なおも抵抗し、腕の中から抜け出そうとする妻を、アベルはぎゅっと抱きしめ離さない。
「そうであってもっ! 私たち、移動呪文があるんだもん。顔見せるくらいサッと行ってサッと戻ってくればいいかなって」
さっきからアリアの両手がアベルの胸を押し、どうにか抜け出せないかと抵抗しているが、びくともしなかった。
「…………はぁ」
アリアの頭上で、アベルの口から大きなため息が漏れる。
「……いやなの?」
「ううん、そうじゃないけど、それ、明日じゃダメかい?」
「う、ん?」
「今夜は、もうちょっと夫婦二人きりですごしたいな~って思ってさ♡ ほら、一週間、離れ離れだったからね?」
「アベル……」
「ダメかな?」
頭上から降ってくる甘えたような声に、アリアが顔を上げるとアベルと目が合った。
曇りのない、優しくて、愛情溢れる黒真珠の中に、アリアが映っている。
「…………っっ~~!! ダメじゃないっ! わかったっ! 受けて立つよ!! どんとこーい!!」
「へへっ♡ いっただきまーす!!」
アリアはアベルにめっぽう弱い。
甘えられたら、甘やかす――は、基本。
彼女は両手を広げて、戦いを挑んでくる彼に身体を預けた。
……そして、次の日。
「ベホマ!!」
アベルの呪文を唱える声が部屋に響くと、瀕死だったアリアが身体を起こす。
「……あー……なんか、この感じ久しぶり~~」
「あははは……大丈夫かい? 僕にできることある? あ、出発準備するね」
気だるそうに頭を掻くアリアの髪を撫で、アベルは気まずそうに笑った。
またしても妻を殺すところだった……と、反省は一応するが、顧みることはない。
なんだかんだと、毎回生き残ってくれる妻は意外と丈夫かもしれない。
アベルは「筋トレがんばってね!」とエールを送りつつ、彼女の着替えを手伝う。
今日は本来なら、女王から聞いた東の国へ進みたかったが、サラボナに一時帰省だ。
個室を出て、談話室のテーブルで軽く食事を摂ってから、出発予定のアベル一行。
アリアの口にブドウを入れてやり、アベルは隣で頬杖をついて、それを眺めた。
「ん~♪ 甘酸っぱくて、おいしい♡」
「よかった! アイシス女王からもらってきて正解だったね!」
昨日、去り際に女王のテーブルに置いてあった果物セットをもらってきてよかった。
機嫌よく果物を食べる妻が今日も可愛い。
たくさん食べて元気な子を生んでほしいな……と、アベルの瞳が柔らかく、細く、弧を描く。
(ああ、幸せだなぁ……♡ アリアと一緒にいるだけで、こんなに幸せな気持ちになるんだな……)
アベルの胸が温かく満たされ、何とも言えない多幸感に包まれる。
過酷な旅も、妻と一緒なら辛くない。
子どもができたら実家にいてもらわなければならないのだ。
今は、こうして、そばで愛でていてもいいじゃないか。
「アベルも食べてね、朝食は、一日を元気に過ごすためのバロメーターだよ。はい、あーん」
「あーん♡」
アリアにブドウを差し出され、アベルが口を開けると、彼の心も、甘酸っぱい果汁も弾けた。
◇
“【ルーラ】!!(サラボナへ!)”
テルパドールの宿を出て、アベルはサラボナを思い浮かべて移動呪文を唱える。
腕にはちゃんとアリアがしがみついていた。
ヒュッと浮遊感がした瞬間、アベルにしがみついて目を閉じたアリアが次に目を開くと、サラボナの街があった。
さっきまでテルパドールにいたというのに、あっという間に来てしまった。移動呪文は大変便利だ。
街は、アベルたちが出発したときと変化はなく、平和そのもの。
「戻ってきた~! わぁ~。もうなんだか懐かしい」
メインストリートを歩きながらアリアは辺りを見回している。
「そうだね、まだ二ヶ月しか経ってないけど、不思議とそう感じるね」
「あっ、おみやげなにも買ってこなかったよ……」
「アリアが顔出すだけで充分だよ」
「そうかなぁ……」
せっかく世界を旅しているのだから、何か買ってくればよかった。
縁あって親子となったルドマンとは、ほとんど交流がないのだから、せめて贈り物くらいはしたいアリア。
「アリアは律儀だなぁ」
「あ、フローラさんだ!!」
「え?」
「お~い!! フローラさ~~ん!!」
アリアが大きく手を振ると、通りの先で買い物をしていたフローラが、振り返る。すると、彼女は信じられないものを見るように目を大きく見開いた。
「まあ……! アリアお姉さまに、アベルさん!? 戻っていらしたのね!」
駆け寄ってくるフローラは、相変わらず清楚で美しい。だが、その表情にはどこか慌ただしさがあった。
「フローラさん、お久しぶりです! お父さまが危篤だって聞いて急いで戻ってきたんですけど……!」
「……え? お父さまが……危篤?」
フローラは一瞬、きょとんとして首を傾げた。
「いいえ、お父さまでしたら今、お仕事でカジノ船までお出かけになっていて留守ですわ。昨日も『あー、アリアたちに会いたいなぁ!』って特大のステーキを完食していましたし……」
「「…………やっぱり」」
アベルとアリアの声が重なる。ルドマンの仮病確定の瞬間だった。
▽
アベルは
【読まれなかった手紙 ×60】
鑑定結果:たき火の火種にもってこい。ただし、燃やすとルドマンが夢枕に立つ呪いにかかる可能性があるため、取扱注意だ!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!