ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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「天空のかぶと」に挑み、おでこに丸い跡をつけたアリア。爆笑と困惑の中、アイシス女王の口からアベルの父・パパスが「グランバニアの王」であったという驚愕の事実が語られる。自身のルーツを求め、一行は新たな旅路へ!

っと、その前に……。

では、本編どぞ!



第八百十九話 チチキトク・スグカエレ

 城を出ると、アリアが鞄に入れていたルドマンからの封筒を取り出す。

 ちなみに、残りの大量の手紙は、重いからとすでにアベルの「ふくろ」の奥底へ放り込まれている。

 【ステータスウィンドウ】で見た【ふくろ】の中身リストには、『読まれなかった手紙 ×60』という、なんとも不吉で重々しい項目が追加されていた。

 

 

「ねえ、アベル。これ……お父さまからの……」

 

 

 アリアは、最新の一通をアベルの前に提示する。

 彼女がビリリと封を開こうとすると――。

 

 

「ん? あっ、それね! 宿屋で休んでからでもいい?」

 

 

 主導権はこちらが取る! と、アベルはまたしてもアリアの手を止めた。

 ただでさえ【ふくろ】の中から義父の執念(手紙の山)が物理的な重みとなって背中にのしかかっているのだ。今ここでその中身――(どうせ「早く帰れ」だろう)を突きつけられたら、今夜の計画が台無しになる。

 

 

「休んでからって……まあ、少し遅れたところで変わらないか~」

 

「そういうこと! さっ、行こっか♡」

 

 

 今日はもう、テルパドールで一泊して、こと(・・)が済んだら中身の確認だ。

 アリアが再び鞄に封筒をしまうのを見て、アベルは彼女の手を取り、指を絡めて繋ぐと宿屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んー、なになに? 『チチキトク・スグカエレ』だって!! アベルっ! こんなことしてる場合じゃないよ!?」

 

 

 やっと手元に戻ってきた妻を愛でるため、ちょっと奮発して取った個室で、二人きりの夫婦の時間、そのときがきた。

 

 乱れたアリアの手が、ベッド脇の棚の上に置いた鞄にぶつかり、鞄が落下。中身が床に散らばる。

 保存食やメモ帳、【救急セット】、裁縫道具など、いろいろ詰まっていたが、そこにはルドマンからの手紙もあった。

 封筒の封は、昼間すでにアリアが破っていたから、手紙が飛び出している。

 

 アリアはベッドの上からそれを拾って読み上げた。

 そこに書いてあったのが『チチキトク・スグカエレ』の文字だ。

 

 

(ふくろの中に封印した六十通の怨念が、最後の一通に集まったとでもいうのか……!)

 

 

 まさか、予想通りの文字が書かれているとは思わなかった。

 

 

「こんなことって……大事でしょ、子づく……ブッ!!?」

 

 

 アベルが再びアリアに覆いかぶさろうとすると、枕を顔に押し付けられた。

 

 

「もう、今日は充分だよ。また明日! ほらアベル、急いでサラボナに戻らなきゃっ!」

 

「えぇーー!! 絶対仮病だよ……!?」

 

 

 火照った身体で、真夜中だというのに、ベッドから出ようとするアリア。

 そうはさせないとアベルは腰に抱きつき、アリアを元の位置(自分の腕の中)に戻す。

 

 

「っ、そうであっても……たしか、半年に一回帰るって約束だったような……? 体感だとサラボナを出発して二ヶ月くらいだけど……こっちで、半年――ってことは、八か月経ってるってことでしょ……?」

 

「半年に一回って……いや、それ無理あるよね? 世界を旅してるのにそんな簡単に帰れるわけないでしょ」

 

 

 なおも抵抗し、腕の中から抜け出そうとする妻を、アベルはぎゅっと抱きしめ離さない。

 

 

「そうであってもっ! 私たち、移動呪文があるんだもん。顔見せるくらいサッと行ってサッと戻ってくればいいかなって」

 

 

 さっきからアリアの両手がアベルの胸を押し、どうにか抜け出せないかと抵抗しているが、びくともしなかった。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 アリアの頭上で、アベルの口から大きなため息が漏れる。

 

 

「……いやなの?」

 

「ううん、そうじゃないけど、それ、明日じゃダメかい?」

 

「う、ん?」

 

「今夜は、もうちょっと夫婦二人きりですごしたいな~って思ってさ♡ ほら、一週間、離れ離れだったからね?」

 

「アベル……」

 

「ダメかな?」

 

 

 頭上から降ってくる甘えたような声に、アリアが顔を上げるとアベルと目が合った。

 曇りのない、優しくて、愛情溢れる黒真珠の中に、アリアが映っている。

 

 

「…………っっ~~!! ダメじゃないっ! わかったっ! 受けて立つよ!! どんとこーい!!」

 

「へへっ♡ いっただきまーす!!」

 

 

 アリアはアベルにめっぽう弱い。

 甘えられたら、甘やかす――は、基本。

 

 彼女は両手を広げて、戦いを挑んでくる彼に身体を預けた。

 

 ……そして、次の日。

 

 

「ベホマ!!」

 

 

 アベルの呪文を唱える声が部屋に響くと、瀕死だったアリアが身体を起こす。

 

 

「……あー……なんか、この感じ久しぶり~~」

 

「あははは……大丈夫かい? 僕にできることある? あ、出発準備するね」

 

 

 気だるそうに頭を掻くアリアの髪を撫で、アベルは気まずそうに笑った。

 またしても妻を殺すところだった……と、反省は一応するが、顧みることはない。

 なんだかんだと、毎回生き残ってくれる妻は意外と丈夫かもしれない。

 アベルは「筋トレがんばってね!」とエールを送りつつ、彼女の着替えを手伝う。

 

 今日は本来なら、女王から聞いた東の国へ進みたかったが、サラボナに一時帰省だ。

 

 個室を出て、談話室のテーブルで軽く食事を摂ってから、出発予定のアベル一行。

 アリアの口にブドウを入れてやり、アベルは隣で頬杖をついて、それを眺めた。

 

 

「ん~♪ 甘酸っぱくて、おいしい♡」

 

「よかった! アイシス女王からもらってきて正解だったね!」

 

 

 昨日、去り際に女王のテーブルに置いてあった果物セットをもらってきてよかった。

 機嫌よく果物を食べる妻が今日も可愛い。

 たくさん食べて元気な子を生んでほしいな……と、アベルの瞳が柔らかく、細く、弧を描く。

 

 

(ああ、幸せだなぁ……♡ アリアと一緒にいるだけで、こんなに幸せな気持ちになるんだな……)

 

 

 アベルの胸が温かく満たされ、何とも言えない多幸感に包まれる。

 過酷な旅も、妻と一緒なら辛くない。

 

 子どもができたら実家にいてもらわなければならないのだ。

 今は、こうして、そばで愛でていてもいいじゃないか。

 

 

「アベルも食べてね、朝食は、一日を元気に過ごすためのバロメーターだよ。はい、あーん」

 

「あーん♡」

 

 

 アリアにブドウを差し出され、アベルが口を開けると、彼の心も、甘酸っぱい果汁も弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 “【ルーラ】!!(サラボナへ!)”

 

 

 テルパドールの宿を出て、アベルはサラボナを思い浮かべて移動呪文を唱える。

 腕にはちゃんとアリアがしがみついていた。

 

 ヒュッと浮遊感がした瞬間、アベルにしがみついて目を閉じたアリアが次に目を開くと、サラボナの街があった。

 さっきまでテルパドールにいたというのに、あっという間に来てしまった。移動呪文は大変便利だ。

 

 街は、アベルたちが出発したときと変化はなく、平和そのもの。

 

 

「戻ってきた~! わぁ~。もうなんだか懐かしい」

 

 

 メインストリートを歩きながらアリアは辺りを見回している。

 

 

「そうだね、まだ二ヶ月しか経ってないけど、不思議とそう感じるね」

 

「あっ、おみやげなにも買ってこなかったよ……」

 

「アリアが顔出すだけで充分だよ」

 

「そうかなぁ……」

 

 

 せっかく世界を旅しているのだから、何か買ってくればよかった。

 縁あって親子となったルドマンとは、ほとんど交流がないのだから、せめて贈り物くらいはしたいアリア。

 

 

「アリアは律儀だなぁ」

 

「あ、フローラさんだ!!」

 

「え?」

 

「お~い!! フローラさ~~ん!!」

 

 

 アリアが大きく手を振ると、通りの先で買い物をしていたフローラが、振り返る。すると、彼女は信じられないものを見るように目を大きく見開いた。

 

 

「まあ……! アリアお姉さまに、アベルさん!? 戻っていらしたのね!」

 

 

 駆け寄ってくるフローラは、相変わらず清楚で美しい。だが、その表情にはどこか慌ただしさがあった。

 

 

「フローラさん、お久しぶりです! お父さまが危篤だって聞いて急いで戻ってきたんですけど……!」

 

「……え? お父さまが……危篤?」

 

 

 フローラは一瞬、きょとんとして首を傾げた。

 

 

「いいえ、お父さまでしたら今、お仕事でカジノ船までお出かけになっていて留守ですわ。昨日も『あー、アリアたちに会いたいなぁ!』って特大のステーキを完食していましたし……」

 

「「…………やっぱり」」

 

 

 アベルとアリアの声が重なる。ルドマンの仮病確定の瞬間だった。

 

 





アベルは鑑定呪文(【インパス】)を唱えた!

【読まれなかった手紙 ×60】
鑑定結果:たき火の火種にもってこい。ただし、燃やすとルドマンが夢枕に立つ呪いにかかる可能性があるため、取扱注意だ!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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