ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

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サラボナでビアンカの結婚と懐妊を知り、驚愕するアベルたち。失われた半年という時間の重みを感じつつ、お祝いのホットケーキを手に山奥の村へ。そこで再会したビアンカの大きなお腹に、アベルは時間の流れを実感する。

ビアンカ「お先に……♡」

では、本編どぞ~!



第八百二十一話 僕の選んだ道

「ビアンカさん」

 

「あ、あなた」

 

 

 ビアンカの声に重なるように、「あ」とアリアの小さな声がした。

 視線を向けると、金の髪をなびかせ、優しげな瞳をした見目の良い細身の男性が眉を下げていた。

 

 宿屋の息子――ビアンカの旦那である。

 

 

「また掃除してたの? 掃除ならボクがやるから休んでてって言ったのに」

 

「なんだか私だけ休むのは、悪い気がして……」

 

 

 じっとしているのは性に合わないビアンカは、サッサッと床を掃き始めた。

 そんなビアンカの腰を支える彼女の旦那――。彼は苦笑しながらビアンカから箒を奪った。

 

 

「母さんも心配してたよ? あなた一人の身体じゃないんだから、無茶しないでよ」

 

「わかったわ。じゃあ、軽く掃き掃除が終わったら休ませてもらうわね?」

 

「うん、そうして……」

 

 

 下がり眉の旦那から箒を取り返し、ビアンカはまた掃除を始める。

 いつもこんな感じなのかな――と、アリアはなんとなくそう思った。

 

 

(ビアンカちゃんの旦那さんって……可愛い系イケメンだなぁ……。ビアンカちゃんにぞっこんって感じ……?)

 

 

 旦那は、彼女しか目に入っていない様子で、掃除をする様子を、笑顔ではあれど、はらはらと見守っている。

 

 

「もう! 私ばっか見てないで、お客様にご挨拶してよっ」

 

 

 ビアンカも旦那の視線が気になったのか、顔を赤くして彼の腕を叩いた。

 その声に、ようやく旦那がアリアに気づく。

 

 

「……え、あ。あなたは……。これはこれは……いらっしゃいませ!」

 

「あ……ども。お邪魔します……」

 

 

 旦那に挨拶され、アリアは頭を下げる。

 以前宿屋に泊まっているから何度か顔を合わせているけれど、ビアンカの旦那だと思うと、妙に親近感がわいた。

 

 

「アベルさんはどうされたんですか?」

 

「へ? アベルならそこに……えっ!?!?」

 

 

 アリアが振り返ると、ピエールとプックルはいるというのに、アベルの姿がなかった。

 

 

「アベルなら、さっき出て行ったみたい。忘れ物でもしたのかしらね」

 

 

 掃き掃除を続けながら、ビアンカがアベルは宿屋から出て行ったと教えてくれた。

 

 

「え……忘れ物なんてないけど……?」

 

「そのうち戻って来るんじゃないかしら? ね、アリア。今日は泊まっていくでしょ? よかったら、出来立てほやほやのスパリゾートのほうに泊まってってよ。私がこうなっちゃったから、オープンは延期になっちゃったけど、建物はほとんどできてるの!」

 

「わぁ♡ スパリゾート! いいの!?」

 

「もちろんよ! 今夜は私も泊まるから、はい、これスパのカギ。先に行って好きな部屋を選んでゆっくりしてて。どの部屋にも温泉が付いてるのよ」

 

 

 ポケットの中から、ビアンカは鍵を取り出すと、アリアに手渡した。

 

 アリアは【スパリゾートのカギ】を手に入れた!

 

 

「わ~♡ 温泉~!! うれしい~♡」

 

 

 山奥の村といえば、【温泉】。

 今日はビアンカの顔を見に来ただけだが、誘われたとあっちゃ、断る理由がない。

 

 旅はまだまだ続く。

 今夜くらいゆっくり温泉に浸かるのもいいだろう――と、アリアは渡された鍵を見下ろし、嬉しさを隠しきれずに微笑んだ。

 

 

「夜になったら、幼なじみ同士、ゆっくりお話しましょうよ」

 

「いいね!」

 

「じゃ! あとでね!」

 

 

 宿屋は営業時間だからか、別の客がやってきて、ビアンカと旦那が応対を始めた。

 アリアは(おみやげは夜にでも渡せばいいよね……)と、宿屋を出ることにした。

 

 

「アリア嬢」

 

 

 宿屋の入口で待っていたピエールが、プックルから手を放し、戻って来たアリアに声をかけてくる。

 

 

「ん? あれ? プックル、立ち上がっちゃってどうしたの?」

 

「がうがう(今のビアンカに飛びかかってはいけない……)」

 

 

 プックルはしゅんと落ち込んだ様子で、頭を垂れている。

 どうやらプックルは、ビアンカに飛びかかろうとするのをピエールに止められていたらしい。

 

 アリアがハグをしていたから自分も……と思ったのだそうだ。

 ピエールの説得により、思い留まり大人しく待っていた――とのこと。

 

 

「そっか。夜にまたビアンカちゃんに会うから、そのとき撫でてもらうといいよ」

 

「がう!(そうするんゴ!)」

 

 

 アリアの言葉に、プックルは目を輝かせた。

 

 

「ね、ピエール君、アベルはなんて?」

 

「それが……フラフラとした足取りで黙ったまま出て行ってしまわれて……」

 

「フラフラした足取り……?」

 

 

 いったいどうしたんだろう……?

 

 アリアは思い当たる節がなくて、首をかしげる。

 

 

(こんなこと、初めてじゃない……?)

 

 

 不思議に思いながら、アリアはピエールとプックルとともに宿を出た。

 

 

「アベル……どこに行ったんだろう……」

 

「アリア……」

 

「ん……? あっ! アベル!?」

 

 

 宿を出ると、アベルが顔を俯けるようにして三角座りをし、外壁にもたれていた。

 力なく伸ばされた彼の手が、建物から出てきたアリアのマントの裾をきゅっと握る。

 

 

「ど、どうしたの……?」

 

「……何にも聞かないで。ちょっと、抱きしめてほしい」

 

「えぇっ!? ど、どうしちゃったの……!? い、いますぐ?」

 

「いますぐ」

 

 

 ただごとではない様子に、アリアはアベルのそばにそっと膝をつくと、愛しい夫の身体を優しく包み込むように抱きしめた。

 

 

「…………つらかったね?」

 

「……辛くはないよ。ただ、僕じゃない意識たちがちょっとね……」

 

 

 アベルはアリアの肩口に顔を埋め、抱きしめる腕にぎゅうっと力を込める。

 

 ビアンカが、あの優しそうな旦那とともに新しい命を育み、本当に幸せそうに笑っていた。

 それは間違いなく、喜ばしいことのはずなのに。

 

 アベルの胸の奥で、別の世界線を歩んだ「彼ら」の記憶――幼なじみを選ばなかった、選べなかった無数の『自分』たちの切なさと未練が、濁流のように押し寄せて心をかき乱していたのだ。

 

 けれど、アリアの温もりと、トクン、トクンと刻まれる彼女の心音を感じているうちに、冷え切っていた胸の痛みが嘘のように安らいでいく。

 

 

(アリアに抱きしめられていると、本当にほっとする……。ビアンカが幸せそうでよかった……。僕の選んだ道は、ここにあるんだ……)

 

 

 そんなアベルの背中を、アリアは「大丈夫、大丈夫だよ」と小さな子供をあやすように優しく撫で、その心をそっとなだめた。

 

 

「ふぅ……よし、完全復活! アリア、ありがとう」

 

 

 しばらくして顔を上げたアベルの瞳には、いつもの穏やかな光が戻っていた。

 

 

「もう大丈夫? びっくりしたんだからね。……あ、そういえばビアンカちゃんから、新しくできたスパリゾートの鍵をもらったの! どの部屋も温泉付きなんだって♡」

 

「温泉! それはいいね。アリアの旅の疲れも癒やせるし、さっそく行ってみようか」

 

 

 アベルは立ち上がると、アリアの手を取って優しく微笑む。

 ビアンカへの結婚祝いの【ホットケーキ】は、夜にゆっくり渡せばいい。

 

 二人はピエールと、お留守番を頑張ったプックルを連れて、村の奥に新設されたスパリゾートへと足を向けた。

 

 ――その日の夜。

 

 新設されたスパリゾートの極上温泉で旅の疲れをすっきりと洗い流したアベルとアリア。

 夜更けには、宿屋の仕事を終えたビアンカが部屋を訪れ、アリアと二人、まるで本当の姉妹のように夜が更けるまで語り合った。

 

 お土産の【ホットケーキ】はちょうどいい夜食になり、別容器のイチゴソースの甘酸っぱさにビアンカは「美味しい!」と何度も目を細めて喜んでくれた。

 

 どんな話をしたのかは、アリアとビアンカ、二人だけの秘密。

 男たちの立ち入れないその濃密な時間は、きっといつか、懐かしい思い出として振り返る日が来るのだろう。

 

 そして、翌朝――。

 

 朝霧の立ち込める清々しい山奥の村の入り口で、アベル一行はビアンカ夫妻に見送られていた。

 

 

「アベル、アリア。本当に来てくれてありがとうね。次に会うときは、この子も一緒かな」

 

 

 愛おしそうにお腹を撫でるビアンカの隣で、彼女の旦那も優しく微笑みながら「道中、お気をつけて」と頭を下げる。

 

 

「うん! ビアンカちゃんも元気な赤ちゃんを産んでね。絶対にまた会いに来るから!」

 

「ああ、お幸せに。……それじゃあ、僕たちも新しい目的地へ出発しよう」

 

 

 アリアは笑顔で大きく手を振った。アベルもしっかりとした足取りで歩き出す。

 

 プックルも昨晩たっぷりビアンカに撫でてもらった満足感からか、嬉しそうに尻尾を振って先頭を駆けていく。

 

 幼なじみの幸せをその目に焼き付け、アベルの心はもう曇っていない。

 失われた半年という時間を超えて、それぞれの幸せな未来が、今しっかりと動き出している。

 

 目指すは、アイシス女王に聞いたパパスの故郷だという、アベル自身のルーツが眠る……かもしれない、東の国――。

 

 繋いだアリアの手の温もりを確かめながら、アベルは新たな一歩を踏み出した。

 

 




▽おまけ

山奥の村の晩、幼なじみ三人の宴にて。

アリア「すぴー……」(踊り疲れて寝落ち)

ビアンカ「アベル、お先♡」(お腹ナデナデ、ニヤリ)

アベル「ぐぬう……(僕たちも負けないもんね!)」

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