前回あらすじ>
東の故郷を目指し航海に出たアベルたち。愛を深め合う二人だったが、新大陸の手前で地図の光が消え、異常な嵐と魔物の襲来に阻まれる。この不自然な嵐の裏に“カケラ”と中ボスの存在を察したアリアは警戒を強める。
さあ、行くぞ!
では、本編どぞ~。
◇
……翌朝。
穏やかな波の音が外で響き、アベルはゆっくりと身体を起こす。
「っ、ベホマッ!! ……う、うん。顔色、よくなった……!」
隣で青白い顔で眠る妻をそのままにし、アベルは気まずさを抱えながら部屋を出た。
その後も、日を改めて何度か東を目指したが、結果は同じだった。近づけば必ず猛烈な嵐に見舞われ、コンパスも地図も役に立たなくなる。
このままでは、東の大陸にたどり着けない。
やはり、アリアの言う通り、異世界の干渉によるものなのだろうか……。
「……何が起こっているのかはわからない。けど……ここを越えていかないと、東の大陸に上陸できないんだ」
大海原を見つめるアベルの瞳に、強い光が宿る。
「……行こう。明日、あの嵐の奥へ」
逃げるのではなく、真っ向から嵐を突破する――その固い決意を胸に、アベルは一度船室に戻り、アリアにこれからの作戦を説明することにした。
「ええっ!? 嵐の中に突っ込むっ!?」
「ああ。知らない魔物も、強い魔物も出てこないし、奥に進むしかないかなって……って、アリアそれなに?」
船室に戻ったアベルが話す間、アリアはテーブルに置かれた揚げ物を食べていた。
「あ、フライドポテトだよ。小腹が空いたって言ったら、エソスキーさんが作ってくれたの♡ ジャガイモを揚げて、お塩振ったやつ。おやつにどうぞって。アベルも食べる?」
テーブルの上の揚げ物は【フライドポテト】というらしい。
山盛りになった【フライドポテト】を、アリアが上機嫌にぱくぱくと次から次へと口に入れている。
「…………。食べる、けど……」
今、真剣な話をしてたんだけど……と思いつつ、アリアの鼻の頭がテカテカだ。それに、あまりにも幸せそうな顔をしているので、アベルはそのままにしておいた。
「おいしいんだよ~! はい、どうぞ♡」
ふとアリアがポテトを差し出してくる。
愛妻に差し出されたとあっちゃ、口を開かないわけにはいかない。
アベルは大きく口を開いた。途端に放り込まれる、熱々の【フライドポテト】。
「あ~~ん。ング!? ウマッ! 何これ!?」
カリッと揚がったポテトに絶妙な塩加減。少ししんなりしているのもまたおいしい。一本食べたら手が止まらない。
アベルはパクパクとテーブル上の【フライドポテト】を夢中になって食べた。
「でしょ~♪ まだまだジャガイモの在庫はあるから、いっぱい食べていいって♡」
「ンま!」
山盛りの【フライドポテト】を夫婦で食しながら、明日の突入について話すのだった。
……そして、特攻を決めた翌日。
「全速前進! 進めーー!!」
アベル一行を乗せた船は、ついにあの荒れ狂う嵐の奥へと突入した。
激しい暴風雨を突っ切り、しばらく彷徨うように進むと、突如として嘘のように波が穏やかになる。アベルたちは「抜けたか……?」とホッと胸をなでおろした。
ところが――。
進めど、進めど、一向に東の大陸は見えてこない。再び表示されるようになった【ふしぎな地図】を確認してみても、船の絵はピクリとも動いていなかった。
やがて夜になり、不気味な静けさの中で船を停泊させる。その日は入念に【せいすい】を撒いて魔物を退け、夜を明かした。
さらに翌日、再び出発する。
しかし、やはり昨日と同じように、どれだけ進もうとしても、進んでいる感覚が全くない。コンパスは正確に方角を指しているのに、試しに西へ戻ろうとしても、やはり地図上の位置は変わらない。
……まるで、海そのものが巨大な記録媒体になり、同じ空間を延々と繰り返しているようだった。
いつの間にか、肌にねっとりとまとわりつくような、重苦しい空気が辺りに満ちていた。
「……おかしい」
甲板でアベルが腕を組み、険しい表情で頭をひねる。
「進んでないッスね……。東西南北、どっちに舵を切っても進んだ気がしないッス。なんか、変なんスよね……舵はいつも通り軽やかに動いてるはずなんスけど……」
アジスキーは必死に舵を回しながらも、恐怖で顔を真っ青にしていた。いくら東に進んでも、水平線にはただ青い海が広がっているだけだ。
そんなとき――。
「――ひっ!」
アジスキーの小さな悲鳴が聞こえた。
「どうしました!?」
「こ、コンパスが……!」
船のコンパスを見ると、さっきまで正確に方角を指していた針が、物凄い速さで回転している。
「……やっぱり、海に住んでいる魔物の仕業か……?」
アベルが海面へ鋭い目を凝らした、その時――。
半透明の青い海の下を、ゆらりと横切る、とてつもなく巨大な影が見えた。
「……っ、これは……」
……ちょっと大きすぎやしないだろうか。
船体をまるごと軽々と呑み込んでしまえるような、圧倒的な巨躯の影が海中に潜んでいる。
海に住む、伝説のドラゴンだろうか、それとも……?
(いや、ドラゴンにしたって大きすぎる……!)
アベルの額から嫌な汗がだらりと流れる。
「アジスキーさん……すぐに船長に報告を……!」
全速力でこの海域を離脱しようとした、まさにその瞬間だった。
船の真下の海面が大きく盛り上がり、凄まじい水飛沫を上げて、その巨大な魔物が姿を現した。
淡い群青色の節くれだった皮膚。うねうねと蠢く長い巨体。遥か昔に生息していたはずの魔物【マリンワーム】――が、
アベルとアリアは知らないが、そいつが放つ強力な磁場こそが、この海の時空を歪めていた正体だった。
そして運悪く、その不気味な顔が突き出たのは、船尾のすぐ目の前。
そこには、気晴らしに船室のベランダに出て外を眺めていたアリアがいた。
超巨大【マリンワーム】と、アリア。
至近距離で、互いの存在を感じ取った。
【マリンワーム】は、脳内に直接語りかけるようなのんきな声で「こんにちわぁ♡」と挨拶を投げかけた。
だが、現実世界の女子の記憶を持つアリアにとって、目の前にいるのは「ただの淡い群青色の超巨大なミミズ」である。
ぶよぶよとした、血色の悪い肌。しかも表面はぬめぬめしている。
その大きな口には、ギザギザとした歯がずらりと並び、端からは透明なよだれがだらりと垂れていた。
――せめて普通のミミズなら……いや、普通のミミズも嫌だ。
「…………」
ヒュッ……と。
アリアの顔から一瞬で血の気が引き、全身にゾワゾワと凄まじい鳥肌が立った。
「ギャーーーッッ!!! 巨大ミミズーーーー!!!(涙目)」
挨拶もクソもない。恐怖が瞬時に限界突破したアリアは、本能のままに両手を突き出し、最大火力の呪文をぶっ放した。
「
ドゴォォォン!!! と、至近距離で爆発した超高熱の火球が【マリンワーム】の顔面に直撃する。
「ぎゃふん☆」と悲鳴を上げる暇もなく、大火傷を負った【マリンワーム】は、そのまま海の底へと真っ逆さまに沈んでいった。
ズザザザザンッ!! と巨体が海に没した拍子に、大怪獣映画さながらの巨大な波が立ち、船体が大きく揺れる。
それと同時に、肌にまとわりついていたあの重苦しい空気が、パチンと弾けるように霧散した。
「時空の歪みが切れた!? 今のうちだ!!」
アベルの声に、甲板に飛び出してきたブライズ船長が、豪快に声を張り上げる。
「全速力! 進めーーい!!」
「アイアイサーー! まかせろッス!!」
狂ったようにぐるぐると回っていたコンパスの針が、正常に動きだすのをアジスキーは見逃さなかった。
力強く面舵を取り、帆が風をいっぱいに孕む。
呪縛から解き放たれた船は、今度こそ白い波飛沫をあげて、まだ見ぬ東の大陸へと力強く突き進んでいくのだった。
そうして謎の海域を抜け、【ふしぎな地図】が正しい船の位置を示す。
「少し、北にずれてたみたいだ。東に進みながら南下してください」
「うッス!」
アベルは地図を見せ、アジスキーに現在地を確認してもらう。
地図を見ると、東の大陸に、森に囲まれた平原と家屋のシンボルが表示されていた。
その北には毒沼があり、その先には険しい山脈へと続く洞窟がある。そこを抜けた先に城があり、城の北西には教会のシンボルも見て取れる。
(この山々を越えていくのか……。いったいどれくらいかかるかな……アリアは馬車でゆっくりしててもらおう……)
地図上で見る距離と、実際の距離はかなり違う。
まずは、家屋のシンボルの場所に立ち寄り、情報収集だ。
アジスキーに「このシンボルの場所に行きたい」と伝えたところ、一番近い場所へと接岸してくれた。
※マリンワームは『ドラゴンクエストIV』に登場するモンスターです!
通常は体長5メートルほどですが、今回は「カケラ」の力により、約100倍に超巨大化しております。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!