だいはちわ。
さぁ、アベルとデートのスタートだ!(デートか……?)
では、本編どうぞっ!
「ね、ねぇ、アベル」
「んー?」
二人は家を出て、手を繋いで村を歩いていた。
「さっきから村の人達、私のこと見えてないみたいなんだけどっ」
「え……?」
先程アベルは武器屋へとアリアを連れて行き、【ひのきのぼう】を購入していたのだが。
◇
「はい、これ使って」
「え……?(何この棒……。麺棒……? にしては太めかな。ていうかここって……武器屋さん……? 何だろう……物騒なものばっかり置いてるな……)」
アベルに連れられ武器屋にやってきたアリアは、棚や壁を眺めていた。
店には胴製の剣や竹で作った槍などが並べられて、壁には斧が飾られている。
アリアが物珍しそうな瞳でそれらを見ていると、アベルは【ひのきのぼう】を差し出した。
「【ひのきのぼう】。これならアリアでも使えると思うよ」
「……あ、ありがとう……(武器……かな……? 檜の棒……? どこかで聞いたことがあるような……)」
にっこりと優しく微笑むアベルの親切にアリアは受け取るが、アベルの手が離れた途端。
カランッッッ!
と、アリアの手をすり抜け、【ひのきのぼう】は床に落ちてしまった。
「……あっ……。ごめん、拾うね」
アリアは落ちた【ひのきのぼう】を拾おうとするが、先程と同じように指をすり抜けてしまう。
「あ……(私、持てないのか……。何で……? さっき、一瞬持てた気がしたんだけど)」
「…………僕が持つね」
「ごめんね」
「ううん、大丈夫。僕強いから」
アベルは優しい笑みをアリアに向けた。
「あ……、うん……(この子本当に優しいな……。めっちゃ可愛いし……)」
アリアが頷くと、アベルは再びアリアの手を引いて武器屋を後にした。
その後もアベルは村の人に声を掛けられるのだが、アリアの姿はスルーされ続けたのだった。
◇
そんなことがありながらもアベルはさして気にも止めずに、村の中をアリアを連れ歩いていた。
「ね、アベル。さっきもここ通ったよ?(というか三度目なんだけど……?)」
「そうだっけ? 僕久しぶりに来たから道に迷っちゃったかも! あ、あの橋を渡れば教会に着くよ!」
「もー……、教会はあそこに見えるでしょ?」
アリアが高台にある教会を指差した。
アベルの云う橋とは方向が違う。
「あっ! 本当だ! アリアよく見つけたね。お祈りしていこうか」
「お祈り……?」
「うん、洞窟に入る前にお祈りをしておくと、神様が見守ってくれるんだって」
アベルは道に迷っていたのか、はたまたわざとなのか、少し遠回りをしてから教会の前に差し掛かる。
「…………わぁ……、綺麗な教会……(村の中を色々連れて行ってもらったけど、見たことがあるような無いような感じだったな……)」
アリアは教会を見上げてここも見たことがあるな、と感じた。
そうして、教会に入るとアベルと共にお祈りをする。
神父はやはりアリアの存在には気付いていない様子で、アベルに目線を合わせて話をしていた。
「ね、やっぱり見えてないでしょ?(私やっぱ死んでるのかな……。幽霊……とか?)」
「うーん……。そうみたいだね、でも問題ないよ」
「え……?」
アベルの言葉にアリアは首を傾げる。
「僕が見えてるし、こうして手も繋げてる。君はちゃんとここに居るよ?」
「…………ぁ、うん……。そうだね……、ありがと……」
(アベルって……格好良いこと云うのね……まだ六歳の男の子にきゅんてしちゃった……)
アベルが繋いだ手に力を込めて、迷い無く告げる言葉にアリアは安堵してふわりと微笑んだ。
「アリアは天使だから見えないのかも」
「えっ!? て、天使……!? あ、そういえばさっきもそんなこと云ってたね。どうして?」
「え……、だって、背中に羽が生えてるよ……?」
「へ……? え? ……あっ!」
アベルに云われて自分の背を見ると、真っ白な翼が生えていた。
「な、何これ……!? 翼が生えてる……!!」
『……アリア、いいですか。あなたが姿を見せてもいいと思わない限り、誰にも姿が見えないように魔法を掛けておきます。でも、もしアリアの姿が見える人間がいたら、それは……――』
唐突に先程地下室で脳裏に浮かんだ女性の声が頭の中で聞こえ、彼女がアリアに向けて魔法を唱えたシーンが浮かぶ。
「あっ!」
アリアは大声を上げる。
「アリアっ、大丈夫!?」
「あっ、いや……何でもないの……。私、天使かどうかはわからないけど……私の姿は普通の人には見えないみたい」
「そうなんだ! すごいねっ!」
「す、すごいの……?(というか……今更なんだけども……。やっぱりここって……剣と魔法の世界なのね……)」
アリアはアベルの腰にどうのつるぎが収まっているのに気付き、目を見開いた。
「……アリア?」
「あっ……、その……、私……。普通じゃないよね……」
「…………普通って……?」
「あはっ、何でもないっ。ほら、アベルの用事、済ませに行こ?」
「……ぁぁ……うん……」
そうして二人は洞窟へと向かった。
◇
サンタローズの洞窟――。
洞窟から流れる川には魚が多く生息しており、たまに村人や洞窟前の見張りの戦士が釣りを楽しんでいたりする。
洞窟の入口は西と、川を挟んで東と二箇所あるが、東の入口に行くには民家を通らねばならず、今は行けそうにない。
アベルとアリアは見張りの戦士がいる側――西の入口から洞窟へと侵入した。
「アリア! あぶないっ!」
「えっ!? あっ!」
アベルの声で、アリアは顔の前に腕を持ってきて攻撃に構える。
洞窟内に入って間もなくモンスター(今回はスライム三匹)に襲われた。
アベルが難なく倒してくれるのだが……。
「はぁ……、へへっ。スライムの二匹や三匹、僕へっちゃらだよ。アリアは大丈夫だった?」
「……っ……!!」
「……アリア? どうしたの?」
アリアは地面に尻もちをつき、驚きに瞬きも忘れ目を丸くしている。
「い、今の……」
「え? スライム? 怖かった?」
わなわなと、アリアは身体を震わせた。
(あの愛らしいフォルム! あの色艶、ぷるぷる感! 私知ってる……! ていうかさっきから薄々感じてた……)
「ぁ、いや……そうじゃないんだけど……。……っ……ね、アベル、もしかしてここって……」
アリアが洞窟内部を見渡し、自分を起こそうと手を引いてくれるアベルを見上げる。
「ここ……?」
アリアが立ち上がるとアベルは手を放して柔和な顔で首を傾げた。
「……っ……ドラクエ……(の世界……)」
「ドラクエ? なになに? モンスター? それとも道具?」
「っ……あ、っ、ぅうん……、何でもないっ」
アベルが可愛く首を傾げるので、アリアは頭を左右に振る。
(……私、ゲームの世界に転生しちゃった……?)
サンタローズの洞窟、六歳の男の子一人で入っていくとかよく考えたらすごいなと思います。
お母さんは心配でしょうがない、ストーキングするわ。
あの世界の人々基本強いんだろうなぁと思います。
私ならすぐ死ねる自信がある!
とりあえず包丁で武装するかな……。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!