古代の遺跡攻略、イカダに乗って行きます。
では、本編どうぞっ。
――隠し扉の奥へ抜けると水路が広がっており、すぐ近くにアベルの言った通り“イカダ”が浮かんでいた。
恐らく人攫い達が使っているものなのだろう、まだ新しく作られたのか見た感じ大人が三、四人乗っても大丈夫そうな作りである。
「確か……水路の北東に牢があったな。ふむ……北東……、あっちだな(遠回りになるが仕方ない……)」
頭の中に地図が入っているのか、パパスは腕組みして思案すると北東を指差した。
「うん、わかった。じゃあ急いで漕いで行こう」
アベルがアリアを連れイカダに乗ると、プックルも続いて乗っかる。
イカダがゆらゆらと揺れた。
パパスもそれに続き、そっとイカダに足を下ろす。
「ああ、そうだな。イカダは父さんが漕ぐから魔物が現れたら早めに知らせてくれ」
「わかったよ、父さん。……アリアも教えてね?」
アベルはパパスに頷いてから、アリアに小声で耳打ちをした。
『っ、くすぐった……っ、オッケー! 任せて。注意しておくね!』
アリアはこそばゆかったのか、アベルが離れると耳を掻く。
そうしてパパスが
イカダに乗った状態でも魔物がやって来て三人に襲い掛かって来るが、パパスがいるから百人力である。
あっという間に一掃されていった。
ちなみに出てきた魔物は、頭部が大きい骨だけの大蛇の魔物【カパーラナーガ】に、天井からぶら下がった青い目玉と触手の【ダークアイ】、茶色い土偶の【どぐうせんし】や、緑色の鎧に槍を装備したゾンビの【がいこつへい】(片目が飛び出ている)等々、様々だ。
アリアは【がいこつへい】が苦手なのか、初めて遭遇した時は「ギャーッ!」と騒いでいたが、【がいこつへい】からアリアは見えないらしく、ホッと胸を撫で下ろしていた。
そんな戦闘を繰り返していく内、敵を蹴散らし終えふと、アリアは水路の水面を見下ろす。
『…………、……わぁ……』
「…………アリア? どうかした?」
『……あっ、ここの水綺麗だなって。ほら、魚が泳いでるよ?』
アリアが水中を指すと小魚とは言えない程、そこそこの大きさの魚が泳いでいた。
「魚って……アリアは暢気だなぁ……、……はははっ!」
アベルも水中を覗き「本当だ、魚がいる……」と身を乗り出す。
……この調子なら、大丈夫かな……。
アリアが相変わらずのマイペースなので、毒気を抜かれたようにアベルは吹き出してしまった。
「……ん? こ、こら、アベル。落ちたら危ないぞっ?」
周囲を警戒しつつ、イカダを操縦していたパパスがアベルの動きに気付き注意する。
「父さん、魚」
「んん?」
「魚が泳いでる。ここの水綺麗なんだね。釣りとか出来そうだよ? 僕、帰ったら釣りしたいなぁ」
アベルは水中を見るのを止め、パパスを見上げた。
「……そうか、釣りもいいな。……そうだ、サンタローズの洞窟に川が流れているのを知っているだろう?」
「え? あ、うん」
「あの奥にはな、釣りの穴場があるのだ。ヘンリー王子を城に帰したら、我々も村に帰って釣り三昧でもするか!」
洞窟内で一泊しながら一晩中釣りというのも悪くないぞ、とパパスは櫂を釣り竿に見立てて持ち上げ“クィッ”と引いて、ウインクをする。
そして、櫂を水中に戻すと再びイカダを操りだした。
「本当っ!? 楽しみっ!」
アベルは瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべる。
帰ったら、父さんと釣りが出来る!
洞窟の川、実は僕、気になっていたんだよね。
そうだよ!
アリアがいるんだから、ヘンリーを助けてみんなで帰ればいいんだよ!
父さんだって、アリアの影響で何か変わってるはずなんだ。
こんな風に話したこと無かったし!
だからきっと、大丈夫だ!
アベルは不安を感じつつも、それに蓋をするようにサンタローズに戻った時の事を考え始める。
そんなアベルにアリアは目を細め、
『……ふふっ、やっと笑ったね』
「へへっ、アリアのお陰だよ」
『あら、どうして……? 私何もしてないよ……?』
「ううん……。君はとんでもないことをしてるんだよ」
『…………ん? そう……なの? よくわからないなぁ……』
アリアは頭を捻って頭上を見上げた。
「……アリアの身は僕が護るから、君は、無事で居てね。でなければ、何も変わらないと思うから」
『変わる……? 未来……、が?』
「…………きっと、君だけが変えられるんだと思う」
アベルは確信ししたように深く頷く。
『……期待してくれるのは嬉しいけど……、私にそんな力、ないと思うんだけどな……』
モブキャラの私に過度な期待はしないで下さい、困ります……。
未来なんて自分の行動でいくらでも変えられると思うのに、何故私?
そんなに変えたい未来があるのかな……。
アリアは困惑したように首を傾げた。
「そんなことないよっ! アリアは呪文だって使える様になったでしょ!」
『そ、それは……、そう、だけど……(天空人とかいう人種だからじゃないの……?)』
食い下がるアベルにアリアは、主人公はあなたなのに何故……と不思議に思う。
「な、……なあ、アベル。……さっきから独り言が多いが、何か……」
不意にパパスがアベルとアリアの会話に割って入って来る。
「う、ん……?」
「悩み事があるなら父さんが聞いてやるからな。架空の友達など作らなくていいのだぞ?」
パパスはアベルを憐みの目で見下ろしていた。
「架空の友達って何?」
「……いつも“ありゃありゃ”と言っているだろう? 初めはそう聞こえていたんだが、よくよく聞いたら“ありあ”と聞こえてな。人の名前なのか?」
「あ……」
アベルは口を開け、手の平で覆う。
すると、隣にいたアリアが口を開いた。
『ねえ、アベル。この際だから姿見せちゃう? ここまで来たら後は戻るだけだし、こんな所から独りで帰れなんて言わないでしょう?』
「え? あ、そ、そうだね……、じゃあ……見せてもいいよ?」
『ん、じゃあ、パパスさんに姿見せて認識してもらうね』
アリアの提案にアベルはやっと姿を見せることを許可したのだった。
アリアは目を閉じ、パパスに姿を見せるイメージを想像していく。
イメージが重要らしい。
ところが……。
「父さん、彼女がアリア。ずっと僕と一緒に冒険してた女の子だよ。僕達がサンタローズに戻った日、僕達の家の前に倒れていたんだ。サンタローズの洞窟やレヌール城にも一緒に行ったんだよ」
アリアの姿が見えていると思っているアベルは、手の平を上に向け、パパスに彼女を紹介する。
だが、パパスは目を瞬かせ固まってしまうのだった……。
アベルは心の病なんじゃないかと疑っているパパス。
旅ばっかりしていたので年の近い知り合いはビアンカしか居ないし、自分の所為で淋しくて見えない友達を作ってしまったんじゃ……と思っていますw
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