ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ループ自覚したアベルさん、さあ、逃げましょ~!
すたこらさっさ~。

では、本編どうぞっ。



第九十二話 繰り返さないために出来ること

 

『アベルっ! 行こう! イカダ乗るのに戦いながらは乗れないよっ! パパスさんならきっと大丈夫! 後で合流しようっ!!』

 

 

 アリアはヘンリーに「イカダまで全速力ね!」と走らせる。

 そして、アベルにも急げと促したのだった。

 

 

「っ……また(・・)……っ!!!!」

 

 

 アベルは唇を噛み締め、拳を握り震わせ足を動かせないでいる。

 

 

「っ、アベル! 行けっ! 王子を頼んだぞっ!!」

 

 

 パパスが魔物と戦いながら僅かにアベルを見て告げた。

 

 

『アベル急いでっ!』

 

 

 ヘンリーがイカダに乗ったことを確認して、アリアはアベルの手を取り引っ張る。

 が、アリアは非力なのでアベルは一歩足が出ただけで留まった。

 

 

 そして、

 

 

「っ、アリア……」

 

 

 アベルは声を震わせアリアを見る。

 今にも泣き出しそうに、瞳が濁っているように見えた。

 

 そして、俯いてしまう。

 

 

『っ、なん……!?』

 

 

 アリアはアベルの表情に絶句していた。

 

 

 ど、どうしたの……?

 何で、そんな悲しそうな瞳を……?

 

 あなたらしくもない……。

 

 

 ここから出たら聞いてあげるから、そんな顔しないで。とアリアはアベルをただ見つめ返す。

 

 

「…………っ、…………まだ、……ない」

 

『…………ん?』

 

 

 ぽつりと、アベルが何か呟くがアリアには聞こえない。

 だが、次には顔を上げ、アベルは目を細める。

 

 

「っ、行こう……!」

 

『あっ、うん!』

 

 

 アベルは漸くイカダに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 タッタッタッタッタッ……。

 はぁ、はぁ、はっ……。

 

 

 子供ら三人の先を急ぐ足音と、荒い息遣いが古代の遺跡の通路に響く。

 水路は疾うに抜け、遺跡内部の通路を皆黙って走っていた。

 

 牢のあったフロアに魔物が集中しているのか、アベル達の行く先に魔物達の気配はなく、通路には三人の地を蹴る音と息吹く音が聞こえるだけ。

 不意に立ち止まると、遠くで水の流れる音がわずかに聞き取れ、通路自体はしんと静まり返っていた。

 

 

「はぁっ、はぁっ。……ここまで来れば……大丈夫なんじゃないのか?」

 

 

 ヘンリーが立ち止まり、辛そうに肩で息をする。

 うえっ、口の中血の味がする……と苦々しい顔を見せた。

 

 

「はぁ、はぁ……、……随分静かだね……」

 

 

 アリアも立ち止まると上を見上げ、飛べるようになったのかパタパタと羽を動かし宙に浮かぶと遺跡内部を見下ろした。

 そして、現在地の確認をすると「あっちみたい」と向かう方向を指し示す。

 

 

「はぁ……ふぅ…………。…………うん」

 

 

 アベルも立ち止まっていて、アリアが地上に戻って来ると小さく頷いたのだった。

 

 

「はぁ……、なあ、もう少しで外だろ? ちょっと歩いてもいいか?」

 

「ふぅ……、そうだね……上から見ても魔物は見えなかったし、ここまで来れば多分大丈夫なんじゃないかな?」

 

 

 ヘンリーが両ふくらはぎを叩きながら訊ねてくるので、アリアは相槌を打つ。

 

 

「…………っ」

 

 

 アベルはそんな二人を険しい目付きで見ていた。

 

 

「っ、あ、アベル、どうしたの……? パパスさんなら、きっともうすぐ来るよ。ね、さっきから……様子がおかしい、よ……?」

 

 

 アベル、はっきり言ってこないけど、古代の遺跡に来てから急に笑ったり、泣きそうだったり、今は怒ってる……?

 

 

 どうしたんだろうと、アリアはアベルの様子を窺う。

 

 

 すると、

 

 

「…………アリアは…………、…………君は、また(・・)じゃなかったんだ」

 

 

 アベルは不愉快そうに眉間に皺を寄せ、急にアリアの両肩を掴んだ。

 

 

「え……? また(・・)……って?」

 

 

 アリアは目を丸くする。

 

 

 

 

「……ずっと、………………、…………ずっと、ずっと、ずっと……」

 

 

 

 

 

 何度か“ずっと”を繰り返すと、アベルは俯いてしまう。

 

 

「あ、アベル……? 何……? ずっと……何?」

 

 

 アリアはアベルの様子がおかしいことには気が付いているのだが、どうしてかはわからず首を傾げていた。

 

 

「……ずっと。……これまでずっと、君といた時はまた(・・)を忘れられたんだ」

 

「おい、アベル、お前何言ってるんだ……?」

 

 

 ヘンリーが“オレの嫁に触るな”とアベルの肩に手を置く。

 

 

「…………変わったこともあったから、きっと、この先も変わるんだって思ってた。……嫌な予感がしてたけど、見ないふりをして君を信じてた」

 

「っ、痛っ、……信じてたって……何が……。私、別に裏切ったりなんてしてな……」

 

 

 何、どういうこと……?

 アベル、何言ってるの……?

 

 

 アベルの手に力が入りアリアの肩を強く掴むと、彼女は痛みに眉を顰めた。

 

 

「っ、…………何でもないっ。まだ決まったわけじゃない、……よね」

 

 

 さあ、行こうとアベルはアリアの肩から手を放し、ヘンリーの手を払うと独りで歩いて行ってしまう。

 

 

「…………っ、アベル……?」

 

「な、何だよ……、子分のくせに……」

 

 

 アリアとヘンリーも困惑した顔でアベルを追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 古代の遺跡、出入口のフロア手前、遺跡全体を見渡せる場所まで戻って来るとアベルは立ち止まる。

 ヘンリーとアリアは早く出ようと先へと行こうとするが、先頭のアベルが突然振り返り、両手の平を開き腕を前に突き出す。

 

 

「……二人とも止まって。ちょっとここで待ってて。僕が出口の様子を見て来るから」

 

「ん? お、おう……」

 

「へ? あ、うん」

 

 

 アベルが制止すると、ヘンリーとアリアは立ち止まった。

 ヘンリーとアリアの二人は先程のアベルの言動が気になっているのか、アベルの様子を窺う。

 二人が見つめるとアベルは薄っすらと口角を上げるのだが、以前のアベルとは違う気がしたのだった。

 

 そうして、アベルは二人を留めると出入口フロアをそっと覗きに一人で行ってしまう。

 

 

「……アベルどうしちゃったんだろう……?」

 

「さあな……」

 

 

 残った二人はアベルの不可解な行動を見守ることにした。

 

 

 

 

 

「……あいつがいませんように……。ここには彼女がいるんだ。きっと未来だって変わってるはず……」

 

 

 アベルは祈るように小さく呟く。

 ヘンリーとアリアには聞こえないようで、二人は静かにアベルを見ていた。

 

 

 

 

 

 この先にもし、あいつ(・・・)が居たら……、また(・・)繰り返される。

 

 

 

 

 父さん……。

 

 

 

 

 もう僕は、父さんの消える姿は見たくないよ……。

 

 

 

 

 アベルは隣のフロアが見えるぎりぎりの場所まで歩み寄ると、意を決して覗き込んだのだった。

 

 

 

 

 そこには……。

 




さて、奴は居るんすかね。
ループするアベルの苦しみたるや如何に。
書いてて可哀想になってきたわ。

書くのやめないけどw

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感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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