ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

ゲマっち。

では、本編どうぞっ。



第九十五話 ゲマ

 

「……………………、……殺しませんよ? あなたは貴重な労働力ですからねえ……」

 

 

 ゲマはニヤニヤとほくそ笑み、抑揚のない声で長い顎を親指と人差し指で擦ってみせた。

 

 

「っ、何、でだ、よぅ……。さっさ、とやっ、……く、れば、僕は……!」

 

 

 父さんが死ぬ所を見なくて済むのに…………!!!

 

 

 アベルは苦痛に顔を歪める。

 

 

「ほっほっほっほっ、人手はたくさんあった方がいいのでねぇ……」

 

 

 言い方は丁寧ではあるが、あなたの考えなどお見通しだ、とでも云うような厭らしい笑みでゲマはアベルを見下ろしていた。

 

 

「っ、な、ら早く、はぁ……僕を連れ、て……行って、よ」

 

「…………ほう? どこに行くか分かっているのですか?」

 

 

 ゲマは涼しい顔で耳に添えながらアベルの声を拾う。

 

 

「…………そん、なの知らな、いよ……。けど、ここ、で、モタモタして、……りはマシ、でしょ……はぁはぁ……」

 

「ほっほっほっほっ、そう焦らなくとも連れて行って差し上げますよ。ただ、まだゲストが揃っていませんからねえ」

 

 

 ゲマは愉快そうに遺跡の奥へと視線を移す。

 

 

「っ、ゲ、ストって……(まさか)」

 

 

 父さ……

 

 

 アベルは目を見開く。

 

 

「ああ、来ましたね」

 

 

 ゲマはニヤニヤと口角を上げ、やって来る人物を見据えていた。

 

 

 なんと、遺跡の奥からパパスが駆けて来たのだった。

 

 

「こっ、これは一体! アベル! ヘンリー王子!」

 

 

 パパスはゲマの前に横たわるアベルとヘンリーの姿に驚愕し、二人の名を呼ぶ。

 

 

「と……さん……っ! ダメ、だ。逃げ……!」

 

 

 アベルの声は小さく、パパスには届かない。

 代わりに、ゲマがよく通る声で告げた。

 

 

「ほっほっほっ。あなたですね。私の可愛い部下達をやっつけてくれたのは……」

 

「む? お前は!? その姿はどこかで……」

 

 

 ゲマに怪しい視線を送られ、パパスは険しい目付きでゲマを凝視する。

 

 

「おや? 少しは私のことをご存知のようですね。ほっほっほっほっ。ならば尚更、私達光の教団の素晴らしさをお教えしておかなくては……」

 

 

 ゲマはにっこりと、薄ら寒い厭らしい笑みを浮かべ両手を広げ掲げた。

 

 

「出でよ、ジャミ! ゴンズ!」

 

 

 ゲマの大きな声に稲妻のような光がパパスの傍に落ちたかと思うと、二体の魔物が召喚される。

 

 一匹は、【ジャミ】と呼ばれる白い体に赤紫のたてがみを持つ馬のような魔物。だが、その身体は筋肉隆々の逆三角体型、それでいて二足歩行の獣人であった。

 

 もう一匹は、【ゴンズ】。赤紫の肌に頭部にはツノ。口は常に大きく開いており、鋭く巨大な牙が見える。鎧を身につけ、左手には斧にも似た大きな大刀、右手には盾を構えている。

 顔自体は牛に似た獣戦士とでもいうのか、そんな魔物だった。

 

 その二匹がパパス目掛け、襲い掛かる。

 

 

「っく……!」

 

 

 パパスは背中に背負った剣を取り出し、受け身を取るのだった。

 

 

 そして…………、

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……(アベル……!)」

 

 

 パパスはあっさりと“ジャミ”と“ゴンズ”を倒し、ゲマを睨みつけていた。

 それと同時、ゲマの足元に横たわるアベルの様子が気になる。

 

 ジャミとゴンズは「グゥゥ……人間風情が……」「このジャミ様を……」とか何とか、俯き加減で悔しそうに零し膝をついて肩で息をしていた。

 

 その様子が面白くなかったのだろう、ゲマの眉間に僅かに皺が寄っている。

 

 

「ほっほっほっほっ。見事な戦いぶりですね。でも、こうするとどうでしょう……」

 

「なっ……!?」

 

 

 なんと!

 

 

 ゲマは何処から出現させたのか、アベルの喉元に【死神のカマ】を充てがったのだった。

 

 

「アベル!」

 

 

 パパスが息子の名を呼ぶが、アベルはぐったりしていて返事は出来そうにない。

 

 

「この子供の命が惜しくなければ存分に戦いなさい。でも、この子供の魂は永遠に地獄を彷徨うことになるでしょう。ほっほっほっほっ!」

 

 

 ゲマは少しずつ死神のカマをアベルの喉元に近づけていく。

 

 

「っ……! やめっ……!」

 

 

 パパスは駆け付けようと足を一歩踏み出そうとするが、躊躇した。

 ついさっきパパスに倒され、戦意喪失していたジャミとゴンズが身体を起こし、パパスの方へと向かっていく。

 

 

「……っ……」

 

 

 パパスは自分に近づいてくるジャミ、ゴンズに睨まれ、唇を噛む。

 

 

「へっへっへ。さっきはよくもやってくれたな!」

 

「覚悟しなっ!!」

 

 

 ジャミとゴンズはパパスに殴り掛かったのだった。

 

 

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 

 

 肉が拳に打ち付けられる重く鈍い殴打の音が、水路を流れる水音の中に溶けてゆく。

 パパスは無抵抗でジャミとゴンズに殴られていた。

 殴られた箇所が赤く滲む。

 

 

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 

 

 パパスは尚も無抵抗で、拳を握り締めジャミとゴンズに殴られ、蹴られた。

 顔や肩、腕に赤紫の内出血が無数に付けられていく。中には切れて出血し、服に赤黒い染みが広がっていった。

 

 

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 ドカッ、ボカッ、ドスッ……。

 

 

 パパスはジッと耐え、ジャミとゴンズに殴られ、蹴られ、(なぶ)られる。

 

 

 

 そして、何度目かの殴打の後、ゴンズの大刀がパパスに止めを刺した。

 

 

 

「ぐわっ…………!」

 

 

 

 ゴンズの一撃で、パパスは後ろに倒れる。

 

 パパスの身体は、気付けば怪我をしていない箇所を見つける方が難しいんじゃないかと言う程パンパンに腫れ上がり、床にまでパパスの身体から流れた血液の血だまりが出来ていた。

 

 

 

 

 

「ぅ、と……さ……」

 

 

 ごめん。

 ごめんね、父さん。

 

 

 僕、こうなるってわかってたのに、止められなかった……。

 

 

 僕の所為だ。

 何度も、繰り返しているのに、変えようとすらしなかった……!

 

 

 一部始終を見ていたアベルは瞳に涙を浮かべ、何もできない自分を呪う。

 

 

「ほっほっほっほっ。随分楽しませてくれました」

 

 

 対して、ゲマは心底愉快そうにさっきよりも楽しそうな声で嗤っていた。

 そんな中、

 

 

「ううう……」

 

 

 パパスが呻き声と共によろよろと、ずだぼろになった身体を起こす。

 

 

「おや? まだ息があるようですね」

 

 

 ゲマはふと、何か思いついたように「フム……」と目を妖しく細めた。

 

 

「アベル! アベル! 気が付いているかっ!? はあはあ……」

 

「……っ、と、とぉ……さ……」

 

 

 パパスは満身創痍の身体を引き摺り、アベルに聞こえるよう声を掛ける。

 

 

「これだけはお前に言っておかねば……! 実はお前の母さんはまだ生きているはず……。わしに代わって母さんを」

 

 

 パパスがそう、最後まで言い終える前にゲマの口元から「【メラゾーマ】」という言葉が聞こえた。

 

 

「ぁ、やめ……」

 

 

 アベルは動かない手の指先を僅かに震わせる。

 

 

 

 

 ……もう、見たくない。

 

 

 

 

 見たくないよぉおおおっ!!!!

 

 

 

 

 アベルは直視出来ず、目をぎゅっと閉じたのだった……。

 




パパスぅ……。

いや、この話のアベル、お母さんのこと知ってるんだよね……。

せっかくパパスがお母さんのこと言ったけど、「あ、知ってる」て書いちゃうとちょっと気まずかったのでスルーしときました。
シリアス回なのでね、へっへっへっ。←ゲス顔

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感想など頂けたらめっちゃ嬉しいです。

読んでいただきありがとうございましたっ!

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