FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
それは――星を巡る旅路。
『人理焼却』
『七つの特異点』
『グランドオーダー』
――沢山の記憶を見た。
荒れ狂うワイバーンの群れ。強大な邪竜を操る魔女と、彼女を生み出した元帥。
狂気の帝国の元に蘇った歴代の皇帝達。彼らに命を捧げた、死も恐れぬ殉教者達。
道化を装う底知れぬ海賊。ギリシャ神話伝説の船団。紛う事なき最強の一角。
心を映す異質な世界。英雄すら取り殺す巨大な怨霊。悪夢の封じられし最果ての塔。
空より堕ちる雷電。武芸を極めし源氏の総大将。平安の世を恐れに慄かせた大怪異。
ケルトの女王と影の国の女王。激突する神話達。悍ましき悪魔、幾柱もの魔神達。
それが、彼が戦ってきた世界だった――先ず一度、敗北を迎えた後に始まった、あまりにも厳しすぎる、世界を救うための旅。絶望を越え、人類の未来をつかみ取る為の、史上最大級と言っても良い程の大戦。
小人が想像する様なスケールを遥かに超えた激戦の中で。彼は――本造院康友は、常に前線に立って戦っていた。
『――気に入らねぇのはその眼だ』
英雄の前でも、堂々と啖呵を切る。
人外魔境の激戦の中で。それでも、自分の中に流れる血と、少しずつ向き合い、迷いながら、傷つきながら……それでも、己の身と拳で、友と一緒に、襲い来る怪物、強敵に立ち向かう。それを――英雄譚と人は呼ぶのだろう。
……そして。そんな彼の背に、ずっと付き添っていたのは。他ならない
「――どう、して……?」
他ならぬ、私だった。
香子、じゃない――誰からも『紫式部』と呼ばれている、私。他人の空似、とかじゃない。何処からどう見ても、アレは私だった。
あの恐ろしい黒武者と同じ様な、魑魅魍魎を目の前にして。
それでも、物語で語られる、陰陽師の様な不思議な力を使い。歴史に刻まれた英雄、怪異と肩を並べ。世界を救う戦いに身を投じる。
知らない。こんな記憶は何処にも無い。
けれど、どうしてなのだろうか。こんなの知らないと……直ぐに否定できなかった。いいや、それどころか、私は――
「いやー……なんて言うか、我が事ながら、この辺りの記憶は――恥ずかしいな! なんか! これまでのは、見られてももう何も感じなかったってのにさ! わはは!」
……隣の彼を見る。
からからと笑うその姿は、それこそ『知らない自分』と共に戦っている時とは全然重ならない。自分の知っている陽気な少年だ。
けれど、その拳には――癒しきれない傷が、幾つも刻まれている。不可思議な力で屈強になった肉体とて、積み重ねれば癒しきれない場所も出て来るのだろう。
無茶を叱った時、いつも自分は……この傷ついた手を見て、握って。
「……んっ? あぁ、これ?」
その視線に気が付いたのか。拳を掲げて彼はケラケラと笑う。
「いやー……隠してはいたんだけどなー、毎度毎度バレて叱られるのよ。流石は人の想いに寄り添う英雄。そう簡単に隠せるもんじゃないね。うん」
「……英雄、というのは……私が、ですか」
「うん」
本当に、あっけない位にあっさりと、彼はそう口にした。
一瞬、目を見開いた。そんな訳ないだろう、と。普通なら、一笑に伏されてしまう様な台詞だった。だって、そうだ。こんな、何処にでもいる様な村娘の自分が、なんて。
でも……否定できない。此方を見つめる目が、あんまりにも真っすぐで。嘘を吐いている様に全然見えなくて。そして、何よりも――
「今の貴女は、俺の幼馴染の香子さんだけど。間違いなく、一緒に多々立ってきた俺の相棒で、魔術師の英霊……紫式部さんでもある」
――胸が、高鳴る。
今の『幼馴染』ではなく。自分でも知らない『相棒』として呼ばれる事に――どうしてなのだろうか。無視できない位に、胸の奥に、温かな熱が灯る。
これが、何なのか。まだはっきりとは分からなくても……ぼんやりとした予想位は、付く。思うだけで、心が軋んでしまう位に『悲しい答え』だけれど。
……確かめたい。
「貴方にとって……その」
「ん?」
「私は……どんな人物だったのでしょうか」
それは……一見すれば、何処か呆けた問であった。
彼は自らはっきり、『相棒』と。私の事を表していた。でも、それだけでは足りなかったのだ。欲しかったのは、その一言に秘めた、彼のもっとも深い部分。こうして記憶の景色を見て、それでも分からないような。
ぱちくりと瞬く、その瞳を見つめて。彼のその言葉を待つ。カルデアという場所で出会った『紫式部』という女について。
「……言わなきゃ、まぁダメか。ここまで見せたから納得してくれる、なんてのはこっちの良くない思い込みだしな」
ゆっくりと、一息つく。
「――多分、なんだけど。一目惚れだったんだと……思う」
始めは、直球の一言。驚かされてしまったけれど……その言い回しは、当人ですら確信を得られていない様で。
「多分、ですか?」
「これが恋愛感情かって言われるとなぁ、自信ねーのよ。多分そっちに分類される類なんだとは思うけど、何せ生まれて初めての事だしなぁ……」
……そうか。あのような悲劇を経た後、恋愛についてなんて、興味を持つ暇も無くても不思議ではない。些かに、酷な質問をしてしまったかもしれない、と。遅い後悔。
ちょっと視線を逸らそうとして。でも、問いかけて置いて、それは無責任じゃないかと意を決して、思い悩む彼の顔を見つめ直す。
それに、と言葉を一区切りしてから。暫し。目の前で首を何度も捻って、低い声で唸りながら、彼は深く考え込んで。必死に、自分の中で答えを探そうとしている。
気が付けば、そんな姿を見ているだけで口元が綻んでしまった。
「うーん……女性として見てるかって話になると、ちょっと微妙なのよな」
「そ、それは……その」
「まぁそう言う意味だよね。でも、そっち方向で猿みたいに盛る事も無い。絶世も絶世に過ぎる、傾国の美女を目の前にしてるってのにさ」
もう一度。上を向いてから、考えて。ぽつり、と。その口から言葉が零れる。
「……うん、そうだ。きっと『宝物』っていうのが一番しっくりくる、かも」
とても優しい、それでいて、少し照れ臭そうな。
改めて、彼が此方を見る。眩しそうに、目を少し細めながら。
拳一つ分より、ほんの少しあるだけの、互いの距離。僅かに此方に手を向けても……彼は、それ以上に指先を伸ばさない。少しばかりの躊躇も孕んだ仕草は、怯えているようにも見えてしまった。
「届かなくていい――触れられなくていい。ただ【そこ】に在って欲しい」
……まるで、祈りの様な言葉だった。そして自らに深く杭を穿つ、呪縛でもあった。
それは、きっと互いの、身体の距離じゃない。彼にとって、例えどれだけ肌を触れ合わせたとしても……『紫式部』と言う女性は、遠くに有りて。汚れた指先で触れられない存在だった。そうあって欲しかった。
きっと、だからずっと……彼は、自分を背にして戦っていた。守って。庇って。
それは、とても……無垢な願いだった。
「――途中までは、な。ただ、それだけだったんだ」
でも――それだけじゃない。
アメリカの大地。『私』と真っすぐに向き合ったまま。過去と向き合いたい、と彼が頭を下げたのを、確かに見たのだ。
『誰かが傍にいてくれなきゃ、泣いて取り乱して、みっともなく逃げ出しかねない……だから、頼むなら、貴女に』
あの時……彼は、初めて。
その指で。此方へと触れたのだと、思う。きれいな宝物として、汚れて欲しくない、という祈りを、捨ててでも。
「でも、今は……それもちょっと違う。色んな切っ掛けがあって、さ」
「……はい」
「だから……さっきの『相棒』って言葉は、その。そう言うのを、色々、ひっくるめてなんとかこう……出力した、ものでさ」
ただ、一言の『相棒』と言う言葉にも――彼の沢山の想いがこうして隠れている。
あぁそうだ。こうして、人の想いに触れるのが、『私』の在り方なんだ。だって、だってこんなにも。記憶の自分を見た時と同じくらいに……私の胸は、高鳴っているのだから。
納得、出来た。出来てしまった。胸が……また強く、軋む音が、聞こえた。
だって。それがホンモノなら、今の私のこの胸の想いは、きっと――
もっと、もっと心理描写とかが上手くなりたいです……(表現の拙さが)クソでしゅ……