FGO DLC実績『鬼血の継承者』獲得 作:秋の自由研究
「……アタシが、かい」
「左様――貴女にとっては大切な身内ですので……万が一が起きない様にと少しばかり気を回していたのですが、それが空回りになるとは思っても見ませんでした」
そう言って――リンボはその手に、黒い炎の様な何かを現してみせた。
いや、揺らめくそれは、ただの焔と言うよりは……何処か人魂にも見える様な。お婆さんをちらりとそれを見つめ、苛立たし気に眉を顰めて見せた。
「此方、御覧になった事は?」
「一度も」
「……ンンン……それはそれは。何とも困ったもので。いえ、であれば最早過ぎた事という事で、失礼いたしました」
……多分、アレがリンボなりの『気を回し方』なのか。
到底、何か真っ当な代物とは思えない炎の塊を、リンボは掌で握り潰してから。何処か釈然としない顔のまま、低い声で唸りを上げてみせた。一度たりとも、という部分が特に引っかかっている様にも見える。
それが気になって、今度は自分から口を開いた。
「どういう意味?」
「……ですから、過ぎた事を今更言う必要もございますまい?」
「言えない様な事をしていた……って、考えても良いのかな」
睨み付けながらそう言えば――リンボは、何も言わずただ曖昧に笑って見せた。
一体、目の前の男が一体何を企んでいたのか問い正したい所ではあるが……そんな詳細をぽろっと漏らしてくれる相手が優しいとは思えない。開きそうになる口をぎゅっと引き結んだ。多分、此処がラインだ。これ以上根掘り葉掘り聞こうとすれば、恐らく向こうも手の内の人質に刃を突き付けるだろう。
……それに。今のを見て、こっちのバックが動かない訳もない。恐らく、もう直ぐに解析を始めている筈だ。それが分かれば、敵が何を狙っていたのかも多少は分かる。
「そう恐ろしい顔をせずとも。あくまでこれは『二の矢』程度に考えて頂ければ。そう凝った仕掛けではございませんよ」
「……一の矢が、なぎこさんって事?」
「いえいえ。そのような事は……彼女もこの盤面においては、あくまで駒の一人に過ぎません。とはいえ、彼が此方に加われば、話も変わっては来ますが――」
ちら、と。そこで、リンボは漸く傍らの彼女に目を向けた。
――清少納言。
平安時代の文人。紫式部と共に宮中で活躍し、彼女が手掛けた枕草子は時代を越えた傑作として今も多くの人々から評価されている――言わば、紫式部のライバルだった人。
それが……どうしてあんなギャルっぽい姿になっているのかは分からないが。今の気だるげで、やる気のなさそうな態度は……今までの彼女とは正反対と言っても良い。
アレが、彼女の素なのか。それとも。
ぽん、ぽん、と。親し気に彼女の肩を叩くリンボ。マシュの向けた鋭い視線が、リンボへと突き刺さる。
「未だに信じられませんかな? 彼女がこちら側の人間であった、と」
「当然です――彼女は内部転移による黒武者の襲撃の時、近くに居ました。その話が本当なら、貴方は味方である人物を巻き込んだ事になります」
「それは仕方ありますまい。彼女は『ビーコン』としての役割もありました。その上で怪しまれない様にする、となれば……やり方も多少は考えねば」
「っ……!」
ぎりっ、と。歯噛みする鈍い音が、マシュからはっきりと聞こえた。
深く考えなくても、リンボの言いたい事は分かり易かった。よしんば、深く傷つく事になったとしても……それが隠れ蓑となって、此方に悟られにくくなる、と。その程度にしか考えていないのだろう。
あの態度が素なのかは分からないが……本心なのはなんとなく確信できた。潜入中に突然背後から刃を突き立てられる等、彼女としても冗談ではない、筈だ。
「それに――如何なやり方であっても成し遂げたい事が、彼女にもあるかと。中宮殿の事を考えれば……ふふ、この程度は『些事』でございましょうや」
しかし。
「――」
ギラリ、と。
氷の様に凍てついた瞳に……その一瞬、研ぎ澄まされた刃の様な光が、確かに宿ったのが見えた。俯いた視線の先に、何を見ていたのかは分からないのに……傍からちらと見ただけで背筋に冷たいものが走る。
説得力は、ある。彼女にとっては……目的の為であれば、自分の身を賭ける事ですら容易い事なのだろう、という。
……なら、本当に彼女は向こう側に付いているのか?
リンボの言う『目的』を果たす為に?
「成程な……なら最後に一つ。それだけ色々やってまで俺を狙う理由は、なんだ」
はっ、と顔を上げた。
康友にそう問われたリンボは……口元に浮かべた笑みを、殊更に深め、歪めて――
「――端的に言えば『器』になって頂く事、ですかな」
「……どんな目的で?」
「そこまでは流石に……ただ、貴方の『器』としての資質は、七つの聖杯よりも更に希少である、とだけは申しておきましょうか」
貴方の『呪われた血』にはそれだけの価値がある、と。そう言葉を結んだ。
リリィとマシュが、一歩前に踏み出そうとして――しかし、軽く指を掲げたリンボに反応し、守りを固めた黒武者の壁に阻まれてしまう。どう足掻いても、速攻で壁を打ち破って香子さんを助け出し、その上でリンボを叩き潰す、というのは難しい。
「――さて、此方からの『さぁびす』もここまで」
此方の思惑を見抜いていたのか。リンボは愉快そうに、満足そうに頷いてから。軽く二回、手を叩いて見せた。守りを固めた黒武者達が、大太刀を改めて構え直す。此方の要求以外の行動は許さない、とでも言いたげな動き。
……初めから、此方の答えは決まっている。しかしながら、それを真っ正直に言った所で目の前のこの妖怪じみた法師に通用する訳がない。
「そちらの罪人を此方に引き渡せば、人質含むカルデアの皆様方は、無事にお返し致しましょう。しかし渡さぬというのであれば――致し方ない」
その先を、リンボは口にしない。いや。態々口にするまでもないのだろう。
どうする。どうする。どうする――結局、ここまでで有効な打開策も思い浮かばなかった。このまま言う通りにするしか無いのか。
「答えを……お聞きしましょうか」
――そんな中で、誰よりも先に動いたのは、康友だった。
「んなもん決まっているだろ」
『――本造院君、落ち着くんだ。君の身柄を引き渡した所で……』
「向こうが本当に皆を帰してくれるかも怪しい、だろ? けどな、そうしなきゃ万が一も可能性は無くなっちまう」
何時もの様に、康友は一番前に立つ。止める言葉を口にしようとして――此方を見つめる彼と目が合って。思わず、口を閉ざしてしまう。
それは、自己犠牲の覚悟を決めた、悲壮な目ではなくて。まるで……悪戯を思い付いた時の悪ガキの様な。
康友が、前へ進み出る。その足取りを歓迎する様に……黒武者の壁が左右に開いた。マシュとリリィが、じりじりと距離を詰めていく。
「話が早くて実に助かります――さて、先ずは我が主の元へご案内を」
「あー、その前にだ。ちょっと……そっちそっち」
「?」
「あー、うん、そこそこ。ナイスナイス」
そして。マシュ達の動きに合わせる様に、なぎこさんも。康友との間に、リンボを挟み込むよう内地へと移動を――
……なぎこさんも?
「……一体何の話をされているのです?」
「場所の話だよ――いくぜぇ、なぎこぉっ!!」
「――っしゃあ兄貴ィ!!」
康友のその掛け声に――『応えて』。
背後を取ったなぎこさんが――思いっきり、手にした番傘を振りかぶった。誰あろう目の前に立っている……味方だと言っていたキャスター・リンボへと向けて。
「――は???」
「「ドォラッシェェイッ!!」」
その動きに合わせて前方へと康友が飛び込んでいく。真っすぐに突き出される全力の飛び膝。一方、背後から迫ってくるのはなぎこさんからの大リーガー顔負けの渾身のフルスイング。完全な不意打ち。リンボは再び反応すら出来ていない。背後からの奇襲に、目を点にしている。
ごしゃっと鈍い音がして。
先程のお婆さんの一撃に続いて――今度は『本造院兄妹』の連携攻撃が、その顔面を前後から強かに打ち据えた。
「「これぞ――本造院兄妹のォ、ツープラトン攻撃じゃい!」」
短いですが、今回の更新はこれでおしまいです。
次回は十一月ですかね……