異世界の【神殺しの剣】 ~徳川家康と共に始まる第2の戦国~ 作:名探偵プリンス
応仁の乱から始まった戦国の世が終わって2年・・・・
【大阪夏の陣】により、豊臣家は短き栄華で滅亡し、徳川家による新時代が作られようとしていた。
天下を掌握した徳川幕府は、国内の安定を計り、ヨーロッパや明王朝・海賊を始めとする大陸の巨大な侵略勢力から、日本を守る国防措置として【鎖国政策】を取った・・・・
だが、鎖国体制をとっても、動乱終結後の小さな島国の安全はそう簡単に保障されなかった・・・・
大陸の戦艦や、異民族の海賊船などが日本海周辺で暴れ回り、国に不法侵入してくることが度々あったのだ・・・・
そこで、徳川幕府の創設者【徳川家康】は、日本の平和を守るため【命をとして戦う新たなサムライ】を育てる巨大な学校を創設した。
その名は、【大江戸武家術学校】。
校長は、もちろん徳川家康。
この物語は、そんな新時代の平和のために身を尽くして、戦った侍たちの物語である・・・・・
江戸城下・・・・・
当時、城下に住む江戸庶民の間では、【自由掲示板】という街のどこにでもある木の立て札に、日常の出来事や政治についての噂、スキャンダルなどを何でも書く習慣があった。
お上が出す法令などの立て札とは違い、誰かわからぬ一般の庶民が始めたもので、名を名乗らず匿名で誰でも何でも自由に書き込むことができる。
今で言うネットの掲示板や情報誌みたいなものだ。
庶民たちは娯楽程度に、読んだり書き込んだりするのだが、たまにとんでもないデマ情報が書き込まれ、しかもそれが、あたかも真実かのように庶民の間で広まってしまうことがあった。
幕府は、この【掲示板娯楽】を辞めるように庶民に向けて法令を出したりしたのだが、如何せん誰が始めた
かもわからない。
誰かが立て札さえ設置すれば、また出来てしまう情報板なため、最初に始めた首謀者を見つけて捕まえれば
すむ話でもなかった。
それに、どんなデマ情報が書き込まれたとしても、匿名なため、書いた人間を探すのも難しい。
また、忍びを使って調べるにしても、江戸の町は広すぎるのだ。
今回、立て札に書いてあったあらゆる書き込みの中でも、特に庶民の間で広まっていたのはこんな話だ。
【大御所には六人の影武者がいる。六人の影武者の正体を見抜き、見事この立て札に正体の名を書き連ねたものには報奨金を与える。】
もちろん書いた人物は、匿名であり、ただ【正義の使者】というペンネームだけ書き残している。
大御所とは徳川幕府の創設者であり元征夷大将軍【徳川家康公】のことだ。
その家康公は、今、病で寝たきり状態だった・・・・
日本最大の城であり、全国武士の総本山である【江戸城】の秘密室にて・・・・・
家康公が寝たきり状態なのは、家族や老中や家臣の限られた者しか知らないことである。
幕府の最大権力者である家康公が病気と広まれば、いつ諸国で謀反や反乱が起こるかわからぬ。
家康公の息子、秀忠公の将軍としての地位が固まるまでは、ご病気なのは隠しとかなくては・・・
というのが、老中たちの共通の考えだった・・・・
その時だった!!
家康公は、病気により弱々しくなった声で、老中たちに話し始めた。
家康公「え、江戸に・・幕府に・・この国に危機が迫っている・・・・」
老中たち「え?」
家康公「あ、あの者を呼べ・・・かつてわしと共に戦国の世を生き抜いた最強の男を・・・か、【神殺し】を・・・」
また、江戸城では、もう1つのことで大騒ぎの真っ只中だった・・
秀忠の娘、つまり家康公の孫で今年19歳になる【千姫】が行方不明になってしまったのだ。
そして、今日で行方不明になって一週間経つ。
城内では、まだ見つからない姫の身を案じて、ワタワタセカセカと老中、家臣、女中たちが
慌てふためている。
「千姫様は、一体どこへ行ったのだ!!まだ見つからぬのか?」
「御庭番と奉行たちを全て動かし、捜索させているのですが、いまだ・・・」
「おいおい・・・ただでさえ、大御所様(家康公)はご病気で幕府が不安定な時期に、こんなことが起こるなんて・・・」
「秀忠様も奥方様も姫様のことが心配で心配で、政も手につかない状態だ。」
「おい、それより明日の昼にとり行われる【大江戸武家術学校】の開校式典と入学式はどうするんだ!!姫様は首席でご入学され、出席する全国の藩主や入学する生徒の目の前で、ご挨拶される予定なんだぞ! 他に誰がやるというんだ!」
「こうなったら、同じく入学される従兄弟(いとこ)の家丸様しかいないだろう。歳も千姫様に近いし・・」
「わかった。家丸様には私からお願いしとく。」
老中、家臣たちのやり取りを、千姫の従兄弟である家丸は扉の向こうから聞いていた・・・
家丸 「千ちゃん・・・・・・一体どこへ行ってしまったんだ・・・」
その頃・・・・
ここは、江戸でも最も外れにある貧民の住む集落・・・
家康公によって発展した江戸も、城下市街から離れれば、まだまだ文明発展には程遠い貧困にあえぐ集落が幾つかあった。
いわゆる「穢多・非人」と差別されていた人達の住む村だ。
「にしても、あの子はよく働くねえ・・・」
「そうそう、なんか気品が違うっていうか・・・言葉遣いもとても丁寧だし・・」
「良い匂いがするっていうか・・・」
「わしらと違って、肌も綺麗で、髪もサラサラで、美しい顔をしとるし・・・何より目が汚れていない。」
「まるで、どこか名家のお嬢様みたいだよねえ。とても孤児には思えない。」
その村では、そう囁かれている若い娘がいた。
最近、村に入った新入りで、名は「お千」と言った。
お千は、どこからやってきたのか素性の知れぬ娘で、村の前で空腹と疲れで倒れているところを村民たちに助けてもらい、今は村の一員として生活している。
お千は、村人に「わたくしは孤児であり、行き場を無くしております」と身の上を語ったが・・・
それにしては、着物も綺麗で、言葉遣いも上品で
何より、振る舞いが世間知らずのお嬢様のようだった。
自炊の仕方や畑の耕し方も知らないし・・・
しかし、村人たちは、そんな彼女に何となく疑問を持ちつつも、家族として優しく迎え入れたのだった。
村人のおばちゃん「千ちゃん、すまないけど、城下町まで行って野菜と魚を買ってきてくれないかい?」
お千「あ、あの・・・町にはちょっと・・・」
村人のおばちゃん「人混みが嫌なのはわかるんだけどねえ・・・わしらは、非人として城下の町人たちから差別されとるし、千ちゃんみたいな若くて綺麗な女の子がいけば、八百屋や魚屋のおじさんたちが安くしてくれると思うのよ。」
お千「・・・・・わかりました・・・じゃあ、いってきます。」
村人のおばちゃん「ごめんね。気を付けて。」
城下町では、行方不明になった千姫を必死に探す奉行や侍たちがウロウロしていた・・・
将軍直属の武装武家集団「親衛衆」も捜索しに来ている・・・
町に買い物をしに来た【お千】は、なぜか彼らの姿を見るたび
「ヤバ!!」
と言って、店の影に隠れたりした。
そんな風にコソコソしていると・・・・お千は誰かに肩がぶつかった・・・
編み笠で顔を隠した、180㎝はある長身の武家の者らしき男性だった・・
お千「す、すいません・・・・」
男性「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お千は、そう言って慌てて男性から逃げるように離れた・・・
そんな遠ざかっていくお千の後ろ姿を見ながら、男性はこう呟いた。
男性「あの女子か・・・・・・・・・・」
おばちゃんに頼まれた買い物を全て終え、お千が村へ帰る途中に・・・
事件は起こった!!
お千「!!」
道の真正面に、先程の編み笠の長身の武家者らしき男性が立っていた。
そして男性は、これまた普通のものよりは遥かに長い刀を、鞘を抜き、銀色の刃をちらつかせながら、持っていた。
お千「あ、あなたは・・・・」
男の顔は、能面のように無表情であり、どこかサイコパスのような危険な匂いを感じる。
年齢は4,50代といったところだろう・・・
お千は、身の危険を感じ、じりじりと後退りする。
「徳川秀忠公の姫君、千姫様とお見受けする!!お命頂戴いたす!!」
男は、地獄の底から出したような低い声で、そう言った瞬間、目にも止まらぬ速さでお千に詰め寄り、長刀で斬りかかろうとした・・・・・
お千を、暗殺する気だ!!
お千「きゃあああああ!!」
悲鳴を上げるお千。
まさに、その時だった!!
ヒュ!!!
一陣の風と共に・・・
近くの橋の上から、誰かが素早く飛び降りてきて、地についたかと思うと、そのままお千の身体をすくい上げるようにさらい、男性の殺人行為から彼女の身を守ってあげたのだ。
土煙が、消え・・・・・
お千を助けてくれた人物の顔が表れる・・・
「姫、お迎えに上がりました。」
暖かく優しい声でお千にそう呼びかける天から舞い降りたようなその救世主の正体は・・・・
女性のように美しく優しい顔をしたお侍だった。
容姿は、本当に女性と見間違えるような姿をしている。
綺麗に整えられた長く艶やかな髪を後ろで結び、小柄な身体に、一切汚れのない真っ白な着物を身につけている。
腰に巻かれた黄金の帯には、これまた柄も鞘も真っ白な日本刀を差している。
まるで、どこかの公家か貴族・・・・はたまた外国の王子様のようだ。
「おぬし、【神人】だな・・・・」
暗殺者は、不気味な低い声で、嚙みつくように真っ白な美しき侍にそう問う。
「であれば、何なのです?」
真っ白な侍は、ニコリと笑顔で、優しく静かな声で問い返す。
まるで水が流れるような綺麗な声だ。
そんな両者の僅かな問答から、しばしの沈黙が訪れた・・・・
どちらも微動だにせず、そこに立っているだけ。
だが、そこでは無表情な暗殺者と、白い着物の侍との間で、常人には見えない闘いが行われていた・・・
暗殺者は、黒い殺気を出しているようだが、それを全て打ち消してしまうような優しい【気】を白い侍は
放っていた・・・・・
侍は、そこに立っているだけで、神々しい・・・・
まるで、その場の空気全体を包み込むような不思議なオーラを漂わせていた・・・
それは、一切の心の乱れも感じさせない真っ白で、柔らかい、川の流れのように綺麗なものだ。
闘う心も、無力化させてしまうような暖かい空気だった・・・
「う、ううう・・・・」
しばらくして、暗殺者は、白い侍のオーラを強く感じたのか、困ったようなうなり声を上げる。
どうやら、闘ってはいけない事を感じたようだ・・・・
後退りを始める。
白い着物の侍が放つのは、もはや闘う気さえ無くさせる神のようなオーラ
全知全能で世界を包み込むような【気】・・・・
そう。白い侍は、まるで神のようだった・・・・・
やがて、暗殺者は去っていった。
お千は、何が起こったのかわからず、ポカンとしている。
白い着物の美しき侍は、彼女の手を取り、跪いてこう言った。
「お初にお目にかかります、千姫様。私は大御所様から呼ばれて先程江戸に参上した神湧木 廉(かしわぎ れん)と申します。
あだ名は【神殺し】。以後お見知りおきを。
早速ですが、大御所様もご心配しております。
お城へ帰りましょう。」