Skyrim短編集   作:春日むにん

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※※人によっては苦手に感じる要素を含みます。気になる方は[補足事項]をご覧ください。※※

 主人公がテルドリン・セロから結婚を申し込まれると思って張り切っていたら、予想外の方向に話が進むコメディ(微量の恋愛要素あり)です。主人公の一人称視点です。

[補足事項] テルドリンが既婚者(死別)かつ子持ちで、ほぼ最後まで主人公からテルドリンへの片思いです。また、ストーリー進行の必要上、主人公がメアリー・スーっぽいです。


約束(テルドリン・セロx女性ドヴァキン)

 レッチング・ネッチの一番奥にある広い客室で着替えた後、備え付けの鏡台の前に座った。ナップザックの中に大切にしまってあったマーラのアミュレットを取り出し、首から下げ、鏡の中の自分に向かって笑いかけてみた。幸せそうな笑みを浮かべたわたしの胸元で、アミュレットは鏡台横のランタンの橙色の光を受け、軽やかに煌めいた。なかなか悪くない。

 

 客室の扉をノックする音が聞こえた。続いて、柔らかな掠れ声が扉の向こうで響いた。

 

「待たせたな。入っていいか?」

 

 心臓が、胸を突き破りそうな勢いで跳ねた。

 

 ついに。ついにこの時が来た。

 

 平静を装い、どうぞ、と答えた。両開きの扉が開き、待ち望んでいた人物が姿を現した。頭の上から爪先までキチンの装備で固めている彼は、盾ほどの大きさのある布袋を脇に抱えて、客室の中に入ってきた。彼は陽気に話し出した。

 

「いやあ、思ったより支度に手間取ってしまったよ、すまなかった。腹が減っただろう。軽食でも頼むか? 今夜は私が奢ってやる。熟成クワマ卵と瓜の甘辛炒めなんかどうだ? クワマ卵、特に熟成物と来るとアウトランダーには敬遠されがちだが、グリーフをちびちびやりながら食うと旨いんだ。特にゲルディスの作るやつは絶品でな」

 

 戦闘では百戦錬磨、向かうところ敵なしの彼も、このような場面ではさすがに緊張して、本題に切り込みづらいのだろう。微笑ましく思い、わたしは助け舟を出した。

 

「今はまだいいかな。大事な話があるんでしょう? 酔っ払ったら話に集中できなくなるよ」

 

 酒に酔った末にあんなことやこんなことにもつれ込んだらと思うと、それはそれで抗いがたい魅力があるが、まずは地固めからだ。

 

 彼は後頭部に手を当てて、気恥ずかしそうな声色で応えた。

 

「ああ、まあ、その方がいいかもしれん。悪いな、二人きりで話したいなんて言って部屋に押しかけて。個人的な話だから、他の連中には聞かれたくなかったんだ」

 

 うんうん、そうだよね、とわたしはにこやかに頷いた。大勢の前で宣言されるのもいいが、やはり他人のいない場所でしっとりとやった方がムードが出るものだ。

 

「全然気にしてないよ。スカイリムを旅してる間はずっと同じ部屋を使ってたじゃない。さあ、座ろう」

 

 わたしは、壁際の、二脚の椅子が向かい合わせになっているテーブルに着いた。彼は向かい側に腰を降ろし、脇に抱えていた布袋を足元に置くと、無造作にキチンの兜を脱いだ。

 

 黒々としたモヒカンに、少し年季の入った灰青色の肌。上質のルビーのような切れ長の双眸が、わたしを真っ直ぐに見据えた。涼やかに細められた目尻の先から、刺青が稲妻のようにほとばしり、赤いマスクの中へと落ちている。

 

 テルドリン・セロ。心の中で彼の名前を口にすると、脳髄が甘く蕩ける。

 

 わたしは、この一年、彼を雇ってスカイリムで冒険者稼業に励んでいた。彼と生死を共にするにつれ、いつの頃からか、わたしは彼に単なる旅の仲間以上の感情を抱くようになっていた。その感情を言葉に出すことも行動に移すこともなかったけれど、抑えようとすればするほど、想いは強まった。

 

 彼も同じ気持ちであることは、彼の言動の節々から見て取れた。時折熱に浮かれたような眼差しをわたしに向けたり、ことあるごとに手を繋いだり、わたしがじれったさで身悶えするほど遠回しに口説いたり……。決定的な出来事が起きたのは、ウィンドヘルムの首長から依頼された大仕事を片付けたある日のことだった。彼から唐突に頼み込まれたのだ。真剣な話があるから、レイヴン・ロックまでついてきてくれないか、と。

 

 この流れは――結婚だ。彼はきっと、わたしたちが運命の出会いを果たしたレッチング・ネッチで愛を告白し、その足でトライビューナル聖堂へ向かい、結婚式を挙げようと思っているに違いない。もしかしたら、既にどこかに新居まで用意しているかもしれない。

 

 わたしは二つ返事で承諾し、彼と一緒にレイヴン・ロックに戻ってきた。少し準備があると言ってどこかへ行った彼を待つ間、わたしは愛の告白を受けるのに相応しい装いを調え、念のためにマーラのアミュレットまで着けた。ここまですればわたしの気持ちは言葉に出すまでもなく伝わり、彼も躊躇しなくて済むだろう。

 

 テルドリンは、赤茶けた色の手袋に包まれたしなやかな指先で、口元のマスクを首まで引き下げた。頬の刺青は顎の輪郭すれすれまで走っており、その間に挟まれた青紫色の唇には、親しげな微笑みが湛えられていた。

 

 ああ、今ようやくわたしたちは結ばれるのだ。テルドリンは少なくとも二百歳を超えていて、わたしとは歳が離れすぎているけれど、愛さえあれば歳の差なんて関係ないよね!

 

 テルドリンは唇を開き、どきっとするような色気のある声で囁いた。

 

「お前と過ごしたこの一年は、とても充実していた。いわくつきのノルドの遺跡、ならず者でいっぱいの廃砦、老獪で凶悪なドラゴンの巣……一緒に色んな冒険をしたな。お前の下手くそな冗談にはいつも笑わされた。護衛として雇われたはずが、逆に命を救われることも多かった。傭兵稼業を始めてから、こんなに愉快で頼もしい旅の仲間と出会えたのは初めてだ。端的に言えば、私はお前を大変気に入った。そこでだ――」

 

 わたしは固唾を飲んで続きを待った。

 

 テルドリンはおもむろに、足元に置いてあった布袋を探り始めた。そういえば、やけに大きな荷物だ。大量の贈り物でも入っているのだろうか。

 

 やがて彼が布袋の中から取り出したのは、盾ほどの大きさの、四角くて平たい物体だった。彼はそれをわたしに向かって立てかけて見せた。

 

 肖像画だ。緻密な筆致で、微笑む若いダンマーの男性が描かれている。

 

「ぜひ、私の一人息子と見合いをしてもらいたい」

 

 時が、止まった。

 

 しばらくして、わたしはようやく声を発した。

 

「……え? 息子?」

 

 テルドリンは得意げに鼻の穴を膨らませた。

 

「今はブラックライトの衛兵隊に所属している。見た目こそ私と瓜二つだが、女房譲りのしっかり者でな。私にとってはできすぎた息子だ。しかし唯一、女に対してものすごく奥手なのが玉に瑕なんだ」

 

 確かに、肖像画の男性はテルドリンによく似た美丈夫だが、笑い方が若干ぎこちなく、テルドリンのように誰とでも如才なく話しそうな雰囲気はない。いや、問題はそこではなくて。

 

「テルドリン、結婚してたの?」

 

 テルドリンは怪訝そうに赤い目を瞬かせた。

 

「当然、しているが? ああ、待て待て。女房はとうの昔に死んで、祖霊の列に加わっているし、息子ももう親が必要な歳じゃない。家族をほったらかして遊び歩いていると思われる筋合いはないぞ。そもそも、私がこうして出稼ぎをしているのも、半分は趣味だが、もう半分は息子の結婚相手を見繕うためだ」

 

 頭が鈍器で殴られた直後みたいにくらくらする。

 

 テルドリンはわたしの気も知らず、肖像画をわたしの方にぐぐっと近づけて、とびきりの笑顔で続けた。

 

「もう少ししたら衛兵隊長に、と打診されているそうだ。ゆくゆくはレドラン家の評議員の護衛や、もしかしたら側近にまで登り詰める可能性もある。息子は女房に似て頭も良いからな。どうだ? 悪くない話だろう? お前なら相手に不足はないどころか、息子にはもったいないとさえ思うくらいだが。もしお前が息子を気に入って嫁に来てくれたら、とても嬉しい」

 

 彼が息子を非常に誇りに思い、大切にしているのが分かる。期待していたのとは方向性が全く違う熱を孕んだ眼差しを注がれて、わたしは――憤然と立ち上がり、訳の分からない叫び声を上げながらテーブルの端を掴んで、テルドリンに向かって引っくり返した。

 

「のわっ!?」

 

 テルドリンは素早く腰を浮かせつつ肖像画を胸元へ引き寄せ、持ち上がってきたテーブルを腕の一振りで脇に除けた。テーブルは反対側の壁にぶつかって大破した。

 

「どうした!? シェオゴラスにでも魅入られたか!?」

 

 彼は心配そうな表情で近づき、手を伸ばしてきた。わたしはその手をはねのけた。

 

「裏切り者!」

 

「は? いきなり何を言い出すんだ」

 

 全くぴんと来ていない様子の彼に、ますます腹が立って、わたしは叫んだ。

 

「あなたはわたしと結婚するつもりだと思ってたのに! どうしてあなたの息子との見合い話なんか持ちかけられなきゃいけないの!?」

 

 テルドリンは目を丸くした。

 

「け、結婚!? 私がお前と!!? 私はそんな気は全くないが。なぜそんな勘違いを?」

 

 あっさり、はっきり否定された。わたしは地団駄を踏んだ。

 

「勘違いじゃないもん!! 責任!! 責任取ってー!!!」

 

「え、えぇ……?」

 

 テルドリンは、これまでに見たことのないほど困惑していた。わたしは激情のままに彼に掴みかかろうとした。

 

 その時、客室の扉が勢いよく開いた。

 

「予想通りだったわね、グローヴァー」

 

「そうだな、エイフィア。これで三回目だったか? いいかげん学習してほしいよな」

 

 呆れたように言葉を交わしながら客室の中に入ってきたのは、元トライビューナル聖堂司祭のエイフィア・ヴェローティと鍛冶屋のグローヴァー・マロリーだ。

 

「何、あなたたち!? 勝手に入ってこないで!」

 

 テルドリンに掴みかかろうとしていた手を降ろし、わたしは彼らを睨みつけた。エイフィアが胸の上に手を添えてわたしに話しかけてきた。

 

「可哀想なお嬢さん、どうか落ち着いて聞いて。この男はね、これぞと思う未婚の女性を見つけては、同じことを繰り返しているの」

 

 テルドリンが渋い顔をして彼女を振り返った。

 

「悪事を働いているかのような言い方はやめろ。私は毎回、息子の見合いの相手を探していただけだ」

 

 グローヴァーが言った。

 

「順番を間違えてる。最初に目的を伝えるべきだった」

 

「最初に伝えたら、わざと良く見せようとするだろう? 私はありのままを見て判断したいんだ」

 

「ブラックライトの衛兵隊なんて言われても、誰も食いつかないから大丈夫だって」

 

「なんだと! お前は所詮アウトランダーだから分からないだろうがな、グローヴァー、ブラックライトの衛兵隊はバレンジア女王の時代からモロウィンド一の精鋭部隊と名高いんだぞ。あいつはそこに最年少で入隊したんだ!」

 

 エイフィアが眉をひそめた。

 

「そんなに優秀なら、見合い話の一つや二つ、向こうから来そうなものだけれどね?」

 

「一つや二つどころか、数えきれないくらい来ている。その誰とも、奥手すぎて会おうとしないんだ。勤務中でも年頃の女と関わると寿命が縮むとこぼしているくらいだ」

 

「あなたの息子さん、ちゃんと衛兵隊が務まってるの?」

 

「失敬な! どんな危機的な状況に陥ろうと冷静沈着かつ誇り高く対処することこそ、レドラン家に仕える者の矜持だ。あいつは生まれながらにしてその精神を身につけている。現に、私は時々こっそりあいつの仕事ぶりを見ていたが、他のどの衛兵よりもそつなく任務をこなしていたし、女は皆、老いも若きもあいつに夢中だった」

 

 テルドリンが息子について言及すればするほど彼の親バカぶりが際立ち、わたしの心はゴリゴリと削れた。これが初めてではなく三回目なのも地味にショックだった。テルドリンが自分の息子に紹介したいと思った女性は他にもいたのか。

 

 わたしは声を絞り出した。

 

「わたしとは遊びだったんだね」

 

 エイフィアが冷ややかにテルドリンを見つめた。

 

「あなた、まさか」

 

 テルドリンは、モロウィンド一の剣士という自称も形無しの、うろたえた表情を浮かべてエイフィアの視線を受け止め、それから、わたしに懇願するような声色で問いかけた。

 

「私は何もしていない! ――なあ、そうだろう、この一年のことをよく思い出してくれ。お前と私の間に、やましいことは一度もなかっただろう、な?」

 

 わたしはぶすっとして答えた。

 

「……二人で食事したり雑談したりしてる時、見つめてきた」

 

「そういう時は相手を見なければ却って不自然だろう。常にそっぽを向いて目を合わせない奴を信用できるか?」

 

「手を繋いだことも何度もあった」

 

「そんなことをした覚えは……ああ、足場の悪い場所で手を掴んで引き上げたりはしたな。あれは繋いだことにはならないだろう、普通に考えて」

 

「思わせぶりなこともたくさん言ってた。お前が将来結婚する相手は果報者だとか、私が若ければ放っておかんだろうとか」

 

「あわよくば息子の嫁にと思っていたからな。口をついて出てしまったんだよ」

 

「家族の話をしたことがなかったのは、独身のふりをしてわたしの心を弄ぶためでしょう?」

 

「違う! 傭兵たる者、プライベートな話はすべきでないと思っていたまでだ」

 

「そんなところでプロ精神を発揮しないでよ。他のことはペラペラ喋るくせに」

 

「旅は賑やかな方が楽しいじゃないか。それに、息子の嫁候補には特に、気さくで付き合いやすい舅だと印象づけたかったんだ」

 

 わたしが一通りの尋問を終えてむっつり黙り込むと、テルドリンは弱りきった様子でわたしに訴えた。

 

「どこでどう誤解したかはだいたい分かった。納得はいかんが、お前の気が済むならいくらでも謝る。だから、見合いの件は少し考えてみてくれないか」

 

 わたしは頭に再び血が昇るのを感じた。

 

「信じられない。それ、まだ言うの? わたしがどんな気持ちか分からないの!?」

 

 これまで感情の乱高下に翻弄されまくったせいか、不意に、目が回り、足元がふらついた。テルドリンがあっと小さく叫んで一歩踏み出したが、それよりも先に、エイフィアがわたしの体を支え、ベッドまで導いて座らせてくれた。

 

 エイフィアはテルドリンを振り返った。

 

「毎回ちょっとした言動を拡大解釈されて好意を持たれてしまうのは気の毒だと思うわ。でも、こうなった以上、諦めるしかないでしょう」

 

 グローヴァーが大きく頷いた。

 

「そうだそうだ。それに、前はここまでゴリ押しすることはなかったじゃないか。お前がこんなに無神経だとは思わなかったよ」

 

 テルドリンは、わたしを視界の端でちらちらと心配そうに捉えつつ、わたしと一緒に戦った中で一番の強敵にもここまで必死にはなっていなかったと思えるほど切羽詰まった態度で、二人に言い返した。

 

「なんとでも言え。私は絶対に彼女を息子にめあわせたい。こんなにいい女に出会えたのは女房以来なんだよ! 彼女を逃したら、私の目が黒いうちに再びこれほどの女が現れるか分からない」

 

 胸がじいんと熱くなった。今までの女性たちにはここまでしなかったってこと? そんなにわたしを買ってくれているの? それなら……

 

「そこまで言うなら、あなたが彼女と結婚すればいいじゃない」

 

 わたしよりも先にエイフィアが言ってくれた。だが、テルドリンはそれを一顧だにもせず、理解しかねると言いたげな顔でばっさりと斬った。

 

「なぜそうなる? 私は女房に操を立てているんだから、他の女と結婚するわけがないだろう。それに、前途多望な若者を、これから衰えていくだけの老いぼれに縛りつけるのも道理に合わん」

 

 色々な意味で耐えきれなくなり、わたしはみっともなく泣き喚いた。

 

「ひどい。ひどいよ! わたしはこんなにあなたのことが好きなのに。あなたがよぼよぼのおじいちゃんになって何もできなくなっても、リヴァーウッドでもどこでも家を買って一生面倒を見てあげたいと思うくらい大好きなのに。わたしがどんなに頑張っても、あなたは亡くなった奥さんしか見てないなんて!」

 

 エイフィアが憐れみに満ちた目でわたしを抱き寄せた。それでも気持ちは収まらず、わたしは泣き続けた。その間、テルドリンはわたしを見下ろしておろおろと困り果てた表情を浮かべ、部屋から出ようとしては、ここまでやらかしておいて逃げるのかなどとグローヴァーに言われて遮られ、すごすごと戻ってくる、というのを繰り返していた。

 

 長い間そうして泣いているうちに、泣くことに費やせる体力もなくなって、頭が冷えてきた。思考に向ける余力が生まれ、すすり泣きをしながらも、わたしの頭の中ではある一つの考えが形を取りつつあった。

 

 テルドリンが中腰になってわたしと視線の高さを合わせた。彼は、本気でわたしのことを案じているのであろう生真面目な眼差しをわたしに注いだ。

 

「なあ、もう息子とのことは諦めるから、泣くのはやめてくれ。どんなに懇願されても、私は結婚する気はないんだ。お前だけじゃなく、他の誰ともな。だから、私なんか忘れて、もっと若くて有望な相手を見つけて幸せになってくれ」

 

 わたしは彼の目を見つめ返して、言った。

 

「嫌だ」

 

「まだ言うのか? どんなに食い下がられても私の気は変わらんぞ」

 

「あなたの息子の結婚相手、わたしが一緒に探す」

 

「は?」

 

 わたしはベッドから腰を上げて、ぽかんと口を開けたテルドリンを見下ろし、人差し指を突きつけた。

 

「わたしが絶対、わたしと同じくらいか、もっとすごい相手を見つけてみせる! だからその時は、ご褒美にテルドリンがわたしと結婚するって約束して!」

 

 テルドリンは目を白黒させた。

 

「は、はあ……? いや、駄目だ。一緒に探してくれるのはありがたいが、息子の相手が見つかったからといってお前と結婚することはできん。女房に合わせる顔がない」

 

「ソリチュードのオクティーヴ・サンを思い出してよ。彼も奥さんと死に別れてるけど、わたしがマーラのアミュレットを持ってるのをたまたま見て、結婚を申し出てきたでしょう」

 

「私をあの呑んだくれで借金塗れのクソ親父と同レベルだと思っているのか? 私は自分の子と歳の変わらん娘に求婚するほど図々しくないぞ」

 

「そう? あの時はその気がなかっただけで、わたしはタイミングさえ合えば彼と結婚してもいいと思ってたけど?」

 

 テルドリンはぎょっと目を見開き、眉毛を吊り上げた。

 

「どどど、どんな趣味をしているんだお前は! そんなことは絶対に許さん!!」

 

「あなたには関係ないでしょう? わたしとは所詮他人なんだから」

 

「そ、そうだが……息子の嫁になる前提で考えすぎていたから冷静になれないというか、長いこと一緒に旅をしたから自分の娘のように思ってしまっているというか」

 

 わたしの胸はきゅんと高鳴った。わたしが彼の中でそんなに大きな存在になっていたなんて。それでも決して結婚相手としては考えてくれないなんて。……だが、これは利用できる。

 

「ふうん、そうなんだ? じゃあ、さっきのことを約束してよ。そうじゃなければ、わたしは今すぐにソリチュードに行ってオクティーヴ・サンと結婚するよ」

 

 テルドリンはすっかりたじたじになって叫んだ。

 

「分かった、約束する! 約束するからそれだけはやめろ!」

 

 客室に沈黙が降りた。しばらくして、グローヴァーが腹を抱えて笑い始めた。

 

「はははっ、こりゃあ一本取られたな、テルドリン!」

 

 エイフィアもにこにこしながら畳み掛けた。

 

「私たちが証人よ。なかったことにはさせないわ。結婚式を挙げる時が来たら、聖堂に式の費用を少しまけるように言ってあげる」

 

「やかましいぞ、お前ら!」

 

 テルドリンは二人を一喝してから、客室の壁に片手をついてがっくりと肩を落とし、深い深い溜息を吐いていた。溜息を吐き終わり、音を立てて空気を吸うと、彼はわたしに向き直った。彼は、わずかな間にやつれた面差しに、少しいびつな、勝ち誇った笑みを浮かべて言い放った。

 

「しかしだ、そう簡単に私を満足させる女が現れると思うなよ。性格良し、器量良し、その上、ドラゴンボーンでアーチメイジで同胞団の導き手でドーンガードのエースでアズーラの勇者でスカイリムの各都市の従士で内戦終結の立役者。そんなお前と同等以上の女が何人もいるわけがなかろう! はーっはっはっは!!」

 

 盛大に褒められているのに全く嬉しくない。めちゃくちゃな条件であることを、わたし自身も理解しているからだ。どうしてこんなにも多くの役割を担うことができ、それらから生じる全ての任務をまともに捌けているのか、自分でもよく分からない。アカトシュに特別気に入られているとしか思えないし、今後、彼が同じくらい気に入る人物が他に出てくるかも疑わしい。

 

 でも、見つけてみせる。どんなに時間がかかっても、テルドリンと結婚するために、必ず!

 

 

 ――やがて、約束は果たされることになる。再び存亡の危機に陥ったニルンを救う、次なる英雄の出現によって。

 

 

 

 

-了-

 

 

 

 

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