のみき√afterですので、ネタバレ注意。
サマポケRBクリア後推奨です。

今回は余裕を持って投稿出来そうですね。

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野村美希生誕祭2022〜だから、家族として〜

 今日と言う日が土曜日であった事をこれほど嬉しく思ったことはない。

 俺は始発の電車に飛び乗り、考えられる限り最速であろう船に乗って急いで島へ向かう。

 朝の9時。持てる全力を出し切って俺はようやく拠点の加藤家にたどり着いた。

 

「おはようございます、鏡子さん」

 

「あら、羽依里君。いらっしゃい」

 

 今日は蔵のほうからではなく、居間から鏡子さんが現れる。流石にこの寒い時期に蔵の掃除は辛いみたいだ。

 

「珍しいね、こんな朝早くから。普段はもっと昼くらいから来るでしょう?」

 

「そりゃあ、だって」

 

「ふふ、そうね。今日は特別な日、だもんね」

 

 島のコミュニティは深い。ましてや鏡子さんレベルとなると、島民全員の誕生日位知っててもおかしくはないだろう。

 そう、俺が今日、この島に来る理由は一つ。

 

 今日こそが、のみきの誕生日だからだ。

 

 去年の夏、初めてこの島を訪れて、それで、沢山の経験をして、のみきのことを好きになって。

 そして迎える、初めてののみきの誕生日。これを祝わずにどうしろと言えようか。平日なら学校をさぼってでもここにくる気概でいたが、その類は多分のみきが許さないだろう。いずれにしても複雑な心境になることは間違いない。

 

「それにしても、羽依里君が島に初めて来てから、もう半年も経つのね」

 

「本当に色々ありましたからね・・・」

 

 俺が問題を起こして停学になっていたこと、初めて島に来たこと、のみきと出会ったこと、そして・・・のみきの両親の事。

 本当に色々あった。そして、多くのことを学んだ。

  

 でも、一番心に響いた言葉は一つだけ。

 

 島を一度でも訪れたら、誰だって家族である。

 

 その温かさに触れたからこそ、今俺はこうしてここにいるのだろう。

 そして俺も、いつかはこの島で本当の家族になれれば・・・。

 

(・・・って、流石に考えすぎだな)

 

「羽依里君?」

 

「なんでもないですよ。荷物、置かせてもらっていいですか?」

 

「もちろん大丈夫よ。それに泊まっていくんでしょ?」

 

「そうさせて貰えれば」

 

 事前連絡でOKをもらってるから、聞くまでもないけれど、一応礼節をわきまえて聞いておく。

 

「別に変にかしこまらなくていいわよ。それじゃ、ゆっくりしていってね」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は大きな荷物だけを夏休みの間ずっと使っていた部屋の隅に置いて、すぐに庭に向かった。

 あの夏、一緒に走り回った相棒を倉庫から取り出して、エンジンを確かめる。

 足先に力を込めて、キックを試す。すると、元気とは言い難いがエンジンが始動する音が響いた。冬眠から起こして悪いな、なんて思いながらサドルにまたがる。

 

「そんじゃま、行きますか」

 

 黒の早馬は加速を始める。俺の心を連れながら。

 

---

 

 あれからというもの、のみきは一回り大きな家に引っ越したみたいだ。

 というのも、本当の両親である二人が帰ってきたというのだ。

 そうなると、のみきが一人で暮らしていたあの部屋は流石に手狭だろう。納得のいく理由だ。

 

 それに、家族三人でいる時間は、のみきにとってなによりも幸福な時間なのだろう。電話越しに伝う声も、だんだんと彩を増している。

 

「家族、か・・・。あれから俺も、少しは二人に向き合えてんのかな」

 

 さんざん迷惑をかけてきた。その罪の意識を自覚出来て、俺はそこから何歩前に進めただろうか。正直自信なんてない。

 それでも、少しは素直になれたと思っている。今はそれを誇りにして、一歩ずつ進もう。

 

「・・・っと」

 

 今現在のみきが住んでいる家の前に着く。高揚感は体を勝手に動かせ、俺の指は独りでにインターホンを押した。

 

「はーい」

 

 奥から声がする。けれどこれはのみきの声ではない。

 しばらくして出てきたのは、のみきの母親だった。

 

「あら、鷹原さん」

 

「おはようございます。あの・・・のみきは?」

 

「あの子なら、今しがた出かけてしまって・・・」

 

 なるほど、どうやら入違ったみたいだ。とても気まずい、無言の空間が訪れる。

 とはいっても、インターホンを鳴らしたもののいなくて、ではさようなら、というのもいささか薄情すぎる。

 

(どうしたものかなぁ・・・)

 

 特段焦っているわけではないが、俺はこの後の切り返しに悩んだ。

 そこに助け船を出すかのように、奥から声が聞こえた。どうやらのみきの父親みたいだ。

 

「鷹原さん」

 

「は、はい?」

 

「せっかくうちに来ていただいたんですし、お茶の一杯でもどうですか?」

 

「貰ってもよろしいですか?」

 

「誘ってるのは私なんですから、お気になさらず。それに、こんなにゆっくり話せそうな機会もないので」

 

 それにのみきの母親も頷く。どうやら二人には俺に話したい何かがあるらしい。

 それに親切にしてもらっている。それを無下にするわけにもいかず、俺はOKを出した。

 

「分かりました」

 

 のみきの家に上がり込んで、そのまま奥に進んでいく。

 そして促されるまま、のみきの父親の向かい側の椅子に座ると、のみきの父親の隣にのみきの母親が座った。・・・この二対一の構図もこれはこれで気まずい。

 

 俺がしどろもどろしていると、のみきの父親が話を切り出した。

 

「娘とは、どんな感じですか?」

 

「どんな感じ、と言われましても・・・。ただ、彼氏として、仲良くさせてもらってます。至らずな人間ですが・・・」

 

「ははっ、至らずだなんて、へりくだらなくても大丈夫ですよ」

 

「のみきとは、そういう話とかしないんですか?」

 

「この手の話をあの子にしちゃうと、顔を赤らめて逃げちゃいますので」

 

 のみきの母親がクスッと笑いながら答える。確かにそうだ、と俺も笑った。

 しかしすぐに、その顔色が変わる。どこか後悔めいた、残念そうな、そういった表情だ。

 

「・・・あの子は、ずっとそんな感じだったんですか?」

 

「俺もこの島とは付き合いが浅かったのでなんとも言えませんけど、免疫はなかったと思いますよ」

 

「そうですか」

 

 分かっている。その表情の理由を。

 そうやって成長していく様を傍で見れなかった後悔。それが目の前の二人にはあるのだろう。

 17年だ。17年もの間、二人はのみきと離れた場所にいた。

 その地獄のように長い時間は、ちょっとやそっとの時間で埋められるものではない。後悔するな、なんてことは、とうてい俺に言えたことではなかった。

 

 そのままの勢いで、今度はのみきの父親が言う。

 

「一度でも島を訪れたら、その人はもう家族」

 

「・・・のみきの、言葉ですか」

 

「私たちは皆、子供だったんですね。この島という、大きな親の。そして、その二つがあってこそ、家族というものが生まれる」

 

「確かに、そうですね」

 

「親は子を叱る。いけないことをしたら、『それはダメなんだ』って。・・・でも、決して親は子を見捨てたりはしない。・・・あの子の言うように、もしこの島が家族と言うのなら」

 

 この時、俺はのみきの父親が何を言おうとしているのかを理解した。

 そして答え合わせのように、のみきの父親が言う。

 

「私たちは、本当はもっと早くに許されてたのかもしれません。・・・この島に帰ってきて、そう思わされました」

 

「・・・」

 

 勝手な勘違い。勝手な思い込み。

 それで、ずっと自分たちはもう親の元へは帰れないと思っていたのだろう。

 でも、違った。ずっと待っていた。この島は、二人の帰りを。むしろ、遅いとまで思って。

 

 悔しいだろう。ずっとそれに気が付けずにいたことを。

 

 それでも、二人は前向きに続きを語った。

 

「でも、ちゃんとそれに気づけてよかったです。・・・あなたと、あの子に気づかされてですけど」

 

「だから鷹原さん、本当にありがとうございました」

 

「いえ、礼なんて・・・」

 

 照れ隠しなどではなく、心の底からその言葉は発せられる。

 本当に俺は何もしてない。全ては、この島という親の持つ包容力に育てられたのみきの努力だ。

 だから、言う。

 

「・・・あの」

 

「なんですか?」

 

「のみきの事、大切にしてあげてください。この島が家族とあいつは言いましたけど、本当の家族は、あなたたちしかいませんから。・・・どれだけの時間がこの先あるか分かりませんけど、まだあいつは叱られなれたりしてませんから。それが出来るのは、あなたたちだけだと思うんです」

 

「・・・ええ、分かってます」

 

 覚悟が籠った頷きを目に焼き付ける。二人はとっくに前を向いているようだった。

 

「この17年間を取り戻すことは出来ない。でもせめて、溜めこんだ17年分の愛を、あの子に捧げるつもりです」

 

「私たちがどこまでできるかは分かりませんが、それが私たちに出来る最大の償いで」

 

「私たちに出来る、親としての全てですから」

 

 ああ、強い瞳だ。流石はのみきの両親。

 その正義と使命と、優しさに溢れた心をのみきと両親と、その両方が持っている限りきっと上手くやれるだろう。

 心の中で願う。どうか、二人の行く末に幸あれと。

 

「ですから」

 

「?」

 

「あの子の事、よろしくお願いしますね、鷹原さん」

 

「え? あ、はい」

 

 微笑みながら話すのみきの母親の、その笑顔の奥に黒いモノが見える。物言わぬプレッシャーだ。

 でも、引かない。俺は俺で、のみきのパートナーとしての責務を全うしてみせる。愛の形は違えど、愛情の量なら目の前の二人にだって負けないはずだ。

 

---

 

 それからしばらく談笑したのち、俺はのみき探しに戻ることになった。

 とはいっても、あいつが行く場所なんて分かっている。俺はそこに迷わずバイクを進めた。

 

 そびえたつ、島全体を見渡せる塔。その頂点に、いつもそいつはいる。

 俺は下から、大きく一つ声を掛けた。

 

「おーい、のみきー!」

 

「ん? 鷹原か」

 

 俺の声に気が付いて、のみきは鉄の梯子を下りてくる。そして俺の前にちょこんと立った。

 

「今日は随分と早いんだな」

 

「そりゃあ、お前に会いに来るためだからな。早く来ない理由がない。・・・というか、やっぱりここにいるんだな。二人はもう帰ってきてるっていうのに」

 

 俺がそんなことを尋ねると、のみきはきょとんとして答えた。

 

「何を言ってるんだ? 島を一望できるこんな特等席をそう簡単に譲るわけなんてないだろう? それに私がいなきゃ誰が治安維持をやるんだ」

 

「こんな真冬に裸になるやつなんていないだろ」

 

「つい昨日、そんなことがあったが?」

 

「あのバカ野郎・・・」

 

 寒かっただろうなぁ・・・。というか、ここまでくると同情するレベルだ。おい徳田、あいつの頭のネジ締め直してやってくれ。

 

「それにな」

 

 のみきは潮風に吹かれながら、遠く海の方を見つめながら答えた。

 

「私はまだまだ待ってるぞ」

 

「誰をだ?」

 

「これから、家族になる新しい渡り鳥の人々を、な」

 

「・・・そっか」

 

 家族が増えることはいいことだ。そしてそれが増えるたびにのみきは、この島は、迷わず受け入れるだろう。

 ・・・でも。

 願わくば、一番は俺であってほしい。

 

 それに応えるように、のみきは続けた。

 

「鷹原も」

 

「?」

 

「この場所で、ずっと新しい家族を待ってくれないか? その・・・私の、隣でだな・・・」

 

「・・・。ああ、もちろん」

 

 恥ずかしがる、赤くなったのみきの手先を俺は握る。そしてのみきと同じように、青が延々と続く海を見渡す。次の渡り鳥を待つように。

 

「それと、のみき」

 

 そして、伝えるべき大切な言葉を俺は伝える。

 

「誕生日、おめでとう」

 

「・・・ああ、ありがとうな」

 

 顔を見なくても分かる。笑っている。心の底からの微笑だ。守りたいと切に願う。

 

 俺たち子供は、これからもうまくやってみせる。

 たまにこの島という親に叱られながら、一歩ずつ大きくなっていこう。

 

 

 

 

 

 




ということで、のみき生誕祭SS2022でした。
内容は説明するまでもなく、本編のみき√afterです。
このSSが、私なりののみき√への答えですね。それと同時に、1番続きが気になる物語です(本編)
家族っていいですね。

と言ったところで、今回はこの辺で。

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