急募:ラスボスに転生した一般人が平和に生きる方法   作:鬼怒藍落

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狐の幼女

「最悪だ。アリアとはぐれた」

 

 暗い暗い廃墟の穴奥で僕はぼやく。

 落下し転落死してもおかしくなかった状況で生きていたことは喜べるが、一緒に落ちたはずなのにアリアと僕ははぐれてしまったのだ。

 幸いアリアはハクアに乗って落ちたらしく、ハクアとの繋がりから見知った気配を感じられるので、生きているようだけど……動かないその様子からかなり怖がっていると思う。アリアって暗いところ苦手なはずだし。

 

「それにしてもここは何処なんだろ?」

 

 僕の記憶が正しければこのダンジョンの真下にこんな広い空間があるなんて事はなかったはずだ。しかもおかしいことに、この場所には星明かりが差している。 

 廃墟から落ちたのにどうなったらこんな場所に来るのか分からないが、考えられる可能性としては転移ぐらい。

 思えば落ちてるときに何かを通り抜ける感覚があったし、多分僕は何処かに転移してしまったと考えた方がいいかもしれない。それに掲示板も此処じゃ使えないっぽいしどうすればいいんだろう……。

 

「ッ痛……これぶつけたっぽいね」

 

 早くアリアを見つけないといけないので早速僕はこの場所から動こうとしたのだが、動き出した瞬間体に痛みが走ったのだ。

 星明かりを使って自分の体を確認してみれば、腕や足にいくつかの切り傷が出来ていて、痣も出来ているところがあった。

 

「ポーションは残ってるけど、落ちたときに何本か割れちゃったし、これ大丈夫かな?」

 

 心配しながらもポーションを一本飲み干した僕は、少し回復したのを確認してハクアの気配が感じられる場所に向かうことにした。

 繋がりと気配がある以上二人はまだ生きているだろう。だけど、ここが何処か分からないし何がいるのかは不明なので、早く見つけた方が絶対にいい。

 

「キキョウ頑張ろうね、絶対二人を見つけるよ」

 

 それから何時間経ったか分からない、夜の闇は更に暗くなり星の灯りがより輝いた。ここに来るまでに何にも出会わなかったが、妙に体が怠いのだ。

 厳密に言えば時間が経つごとに息がしづらくなって、体力が減っていくのが分かる。空気が薄いからそうなるのかと思ったけど、キキョウの変わらない様子から違う感じがした。

 そういえば何処かのダンジョンには人間に対してだけ効果がある魔法がかかってるって話を聞いた事があるけど、これもその類いなのかもしれない。

 そうなると不味い、早く見つけないとアリアも死んでしまう。

 

「……そこのお前、妾の社に何しに来たのだ?」

 

 意識してなかった真後ろから急に聞こえてきた幼い声。

 ばっとその場から離れ、武器を構えて声のした方を見てみればそこには狐耳を生やした少女がいた。

 敵意は感じない、最初の口調から襲われると思ったがこっちに対して敵意はないようだ。だけど不審者をみるような目で此方を見ていることから選択を間違ったら不味そうだ。

 

「名乗れ人間、妾の社に何しに来た?」

 

 名乗って良いのか? 

 でも名乗らなければ何も始まらないだろうし……ここは名乗るか。

 

「僕はクラマ、君こそ何者だい?」

 

 銀の髪色をした狐耳が生えた巫女服の少女。

 属性全部盛りのこの少女に対する心当たりは僕にはない、一応狐キャラは好きだから前世で『混界のサーガ』に出てくる狐キャラを全部記憶していた筈だが、こんなキャラデザの奴は見たことないのだ。

 一応銀の狐のキャラはいるけど、この見た目ではなかったはずだ。

 ……あってるよね、流石にあの狐キャラとこんな時にあったら絶対に死ぬぞ。

 

「妾の名か? ……それならアクラだ」

 

 瞬間思い出すのは、この世界の最強の一角である銀嶺阿久良王の存在。

 だけど違うあの化物はこんな見た目じゃない。

 彼女の見た目は数百年変わらない銀の美女の筈だ。九本の銀の尾を持ち銀の髪に紅い目の妖怪。それにおかしいのが銀嶺の名を冠する彼女の代名詞の吹雪がこの場所には吹いていない。

 でもアクラの名を騙れる者など存在しないはずだ。

 この世界であまりにも重いアクラの名は、名乗るだけで呪われるとされている。それを名乗れるという事はこいつは――――。

 

「どうした急に警戒し始めて、妾の名に心当たりでもあるのか? それなら妾の事を教えてくれぬか?」

 

 あまりの規格外な存在を前に咄嗟に刀を強く構えてしまったが、返ってきたのは予想も出来ない反応だった。

 僕の反応を見た彼女はどういうわけかこの場に座り込んで、どこからかお茶を取り出したのだ。

 

「……何してるの?」

「何って話を聞くだけだぞ、妾の事を知っているかもしれない生物が来たのだもてなしぐらいはさせろ」

 

 どういうことだ? 

 此奴は何をしようとしている? 罠なのか? でも……レベルが上がって危機感知の能力を手に入れたキキョウが反応してないことから、敵意は依然としてないだろうし。

 

「しかし幸運だな、初めての客が妾の事を知ってるかもしれないなんて」

「知ってるってどういうこと?」

「……そんなの妾が記憶を失ってるからに決まっておろう」

「え?」 

 

 あまりの衝撃情報に僕の思考のキャパは限界だった。

 あのアクラが記憶を失っている? そんなの厄介ごと確定じゃないか。

 聞けば彼女は気付けばこの社と呼ばれる場所に記憶を失って立っていたそうなのだ。分かることはこの場所が社と呼ばれる場所って事と、自分のアクラという名前、そしてこの場所で出来る事だけらしく、それ以外の記憶が一切残っていないらしい。

 

「でだ、妾の事情は話したのだし……次は妾の事を教えてくれないか?」

 

 答えて良いのだろうか?

 いや、そもそも答えずに僕はこの銀嶺阿久良王から逃げられるのか? 

 凶悪で最強で他の追贈を許さないレベルのこの妖怪から逃げる事なんて……いや、なんとかしないとね。僕が此処で死んだらアリアは帰れなくなる。

 だからこそ、ここは絶対に乗り切ろう。

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