一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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第十二話 時を操る簒奪者

 ミスターアフロマンを見つけるのは簡単だった。

 そうは言っても、僕が見つけたのではなく、ヴァルキュリア家の軍隊が怪巨人や避難の対処をしながら、

 

 城からでも見えるような建物のてっぺんに、一人ポツンと立っていたのだ。

 いかにも、「私を見つけて下さい」と言っているようなものだった。

 

 僕が素早く屋根に上り、そこら辺にあった大きな瓦礫を小さくすると、その無防備な背中に向かってスリングショットで撃ち出す。

 ミスターアフロマンのところに飛来するころには、瓦礫は元の大きさの何倍もの大きさとなって屋根を削った。

 

「いやちょ!? 不意打ちですか!? ここはもうちょっと人道的にいくべきでは!?」

 

 人を化け物にするようなやつが何かほざいているが気にしない。

 大体、死角から撃ち込んだというのに、それを避けてとぼけた話し方をする余裕があるのだ。容赦する理由が何一つとして見当たらない。

 

 別の建物に飛来したミスターアフロマンに対し、瓦礫を小さくして粉々に砕いた物を撃ち出す。

 さながら散弾銃のように襲いかかるそれは、ミスターアフロマンの肉体を削るのには有効的だった。

 

「全く! 一年ぶりの再開だと言うのに、この扱いはおかしくないですか!?」

 

 ミスターアフロマンは軽口を叩くと、すぐさまえぐれた傷口が再生させた。

 服以外はたちまち元通り。そんな理不尽に、僕は顔をしかめさせる。

 

 一年前にこいつと対峙した際、こんな魔族もびっくりの肉体再生能力は持っていなかった。

 我力天成(アブソリュート・ワン)でも無いだろうし、新しくそういった魔法の術式を頭に叩き込んできたのかもしれない。

 

 今の所、殺すのは無理だ。

 ならば徹底的に叩きのめし、再起不能にしてから捕らえるしか無いだろう。

 

「僕からの熱烈歓迎だ。受け取ってくれよ」

 

 スリングショットに次の弾を装填して、すかさず打ち出す。

 

 今度の弾丸は網状の箱。

 着弾する前に網目に人が通り抜けられるほど巨大化させ、ミスターアフロマンを箱の中に閉じ込める。

 

 もちろんそれ程まで大きくしてしまえば素粒子の距離感は遠くなり、マナで補強しない限り壊れやすくなってしまう。

 網をすり抜け、箱の中にミスターアフロマンが入ったのを確認した後に小さくしてしまえば、強度に何ら問題はない。

 また、小さくしてしまえば網目ももちろん小さくなり、ミスターアフロマンの脱出は不可能となる。

 

「お断りしまァす!」

 

 だが、ミスターアフロマンも一筋縄ではいかない。

 すぐさま意図を察し、通れなくなる前に網の間から脱出する。

 縮めるのに一秒もかかっていないというのに、大した判断速度だ。敵ながら厄介と言わざるをえない。

 

「カモンブラザー!!」

 

 ミスターアフロマンが指笛を鳴らすと、怪巨人たちが僕に向かって進行してきた。

 が、他の騎士や兵士達に袋たたきにされ、すぐさま撃沈する。

 

 現在の僕が単独行動なのは、この悪夢の大行進とも言える怪巨人達の掃討を他の騎士や兵士達に任せており、このミスターアフロマンの相手を僕が任されているからだ。

 故に、ミスターアフロマンがどれだけ怪巨人を使役できようとも、この場においては無用の産物でしかない。

 

「カモンが、何?」

「ドチクショウがァーッ!!」

 

 破れかぶれとでも言うべきか、赤い閃光弾を四方八方にぶちまける。

 この程度であれば、素粒子の間をマナで擬似的に埋めて質量を上げた僕には、何一つとして問題がない。

 

 僕は網状の箱や、トラップとなりうる仕掛けをいくつも撃ち込みながら、見失わぬよう焦らず接近する。

 

 箱に囚われないように網目をすり抜けたり、魔法で打ち砕いたりして逃げ惑うミスターアフロマンだが、僕に対して仕掛ける余裕はそこにはない。

 大した戦闘力だが、戦況は僕が動かしていた。

 

 そう思っていたその時、体中から悪寒が走る。

 城にいるはずのオリビアの身が危険にさらされている予感と、自分の身にも危機が迫っているのを察知した。

 もちろんオリビアのことは気になるが、迫りくる危機を回避する為に大きく跳躍する。

 

「――――残念(ザァンネェン)! 無駄な足掻きです!」

 

 ミスターアフロマンの声が聞こえたのと同時に、足場にしていた建物が倒壊する。

 そこから現れたのは、恐らく地面を潜航していた燃える怪巨人。

 しかもただの怪巨人ではない。身体に燃え盛る炎を見れば我力天成(アブソリュート・ワン)が使えるのは一目瞭然だ。

 

 僕を捕まえようと、口元の触手が伸ばされた。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 ヴァルキュリア城の吹き抜けのある大広間で、私はヴァルキュリア当主として騎士や兵達に支持を出している。

 大量の巨大な魔物達――――シリウスはあれを怪巨人と呼称しているらしいが――――が町で暴れている。それだけで私は吐き気を催していた。

 

 そんな惨状で重傷者や死者が出ないはずがない。

 今はまだヴァルキュリアの軍が優秀なお陰で報告に挙がっていないが、シリウスが精霊を使って送ってくれた報告によれば、怪巨人は人に薬のような液体を打ち込むことで生まれると言っていた。

 つまり、いつ誰かが怪巨人になってもおかしくない状態だ。

 そんなの、私の領民があまりに危険過ぎる。

 

 避難所には目利きのいい人材を派遣させて、危険物や薬品などを素早く点検させている。

 けれども、それがいつまで保つかはわからない。

 早急に事態を収束させなくちゃ……!

 

「オリビア様、顔色が優れませんが」

 

 そう私に訪ねてくるのは、騎士団長のレオナルド・カーヴィ。ヴァルキュリア家の保有する軍力の中でも最たる騎士だ。

 今年で五十五歳にもなると、流石に白髪が生えてシワも目立ち始めているが、それでもまだまだ現役なのだから頼もしい。

 

「いえ、結構よ。まだ私が必要でしょうに」

 

 本当は言葉に甘えて、私専用の休憩室に籠もってしまいたい。

 あそこならシリウスのグッズだってあるし、私の活気もフルエンジンになることは間違いなしだろう。

 

 けれど、そんな時間は今の私にはない。

 領民が危険に晒されているというのに、倒れ伏す怠惰な君主がいてたまるものか。

 

「それよりレオナルド騎士団長、兵達の投擲は済んだのかしら」

「ええ、対応できる兵は怪巨人の出現箇所に既に投擲済みです。城下町以外の町にも出現情報がありましたので、そちらは竜騎兵にまかせてあります」

「あら、あなたが投げればいいのではなくて?」

「ご戯れを。このような老骨がそのようなことをすれば、腰を痛めてしまいますゆえ」

 

 できないと言わない辺り人間やめてるわよねこの人。

 味方で本当に頼もしいわ。

 

 内心レオナルドを感心していると、カレンが瞬間移動で目の前に現れた。

 

「伝令終わりました~。でもこれ、精霊に任せればよくないですか!? 私護衛なのですが!?」

「精霊より瞬間移動できるあなたのほうが早いし……」

「クッ、自分の有能っぷりが憎い!」

 

 本人はふざけて行っているつもりでしょうけど、実際に有能過ぎて怖いのよね。

 性能的にはジョーカーもいいところよ。よく使い潰されなかったと感心するものがある。

 

「それよりカレン。シリウスを連れてこいと言ったはずだけれども?」

「それがどうも、既に接近しているようでして……」

「……そう、なら無理に呼び戻すのはかえって危険ね」

 

 私の近くに置いておける護衛の仕事を任せたのに、こういう肝心なところで私の手の届かない危険な場所にいるだなんて。

 聖書で語られているような英雄のあり方で嫌になる。そういうところはどうにかして改めてもらわないと。

 

「ああ! でも今回の終末教の幹部のミスターアフロマンってやつは、すごい危険なやつなんです! 薬を注入させて生き物を魔物に変えるようなやつなので、対処になれているシリウス君が適任なのは間違いないかと!」

 

 何やら私を励まそうと、カレンが私に説明をしてきた。

 

 気取られないように顔には出していなかったはずなのだけれど、カレンは直感的なところが鋭いのかもしれない。

 思えば、相手のセーフラインではしゃげる人間が、そういったことに機敏なのは当然なのでしょう。

 

「……ありがとうございます。けど、大丈夫です。それぐらいは弁えているつもりですから」

 

 そう、今優先すべきは第一に領民の安全。

 シリウスならどんなに危険でも大丈夫。

 二年間私の手元にいなくても、難なく一流の冒険者になれたのだから。

 

 ……そう前向きになって考えると、自分の行いに胸が傷んだ。

 

 ふと、赤い閃光弾が空に放たれたのが視界に入ってきた。

 

 閃光弾は特にいる人間に対し、信号としてメッセージを伝える役割が存在する。

 それは緊急事態であったり、怪我人続出であったりするのだけど……今のは、私の知るどの信号にも当てはまりようがない程にでたらめだった。

 

「……レオナルド騎士団長、今の赤い閃光弾に何かメッセージがあったかしら?」

「うちの団にも、周辺の冒険者にもそのような信号はなかったかと。なにせでたらめでしたので」

 

 レオナルドもこう言っているのだから、私達に対してではない。

 となると、あれは――――

 

「おやおや、準備は万全のようですね」

 

 声の方を振り向けば、今日の客人であるはずのマサル・アルベルト伯爵の姿があった。

 後ろには護衛の赤と青の騎士の二人も佇んでいる。

 

 ……客人は丁重に避難させるよう、シャーロットに案内させたはずなのだけど?

 

「マサル卿、あなたには安全なシェルターを案内したはずですが、何か不測の事態でもありましたか?」

「いえいえ、不測の事態などとんでもない! 自分、全てが順調であることに笑みを隠しきれない程です」

 

 そう言って、マサル伯爵は懐から小さな杖を取り出す。

 まるで、時計の指針のデザインのようなそれに、私は驚愕を隠しきれなかった。

 

 だってそれは――――

 

原理界法(げんりかいほう)――――時をこの手に

 

 時を操る原理界法器(神の力)なのだから。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「ドチクショウがァーッ!!」

 

 ミスターアフロマンは網状の箱が降り注ぐ中を走り抜けていた。

 

 敵であるシリウスがスリングショットで撃ち込んでくるのが網状の箱だけであればよかった。だが、それらの死角にシリウスは罠を仕掛けていた。

 

 まずミスターアフロマンが気がついたのは、網状の箱の中から吹き出す催涙ガス。

 とっさに風を操作し蹴散らすが、量があまりに大量で処理が追いつかない。

 更にはミスターアフロマン目掛けて網状の箱が伸び縮しながら襲いかかってくる。

 

(ガスの動きでこちらの位置が特定される。一々ガスの相手をしていれば、向こうの思う壺といったところですか)

 

 おどけた態度を取っているが、それは敵の緊張感を緩めるための演技。

 冷静に物事を考え、行動に移すということをミスターアフロマンは可能としていた。

 

 必要最低限の空気を確保し、地面を這い回るように掛けていく。

 だがそれも長くは続かず、ズルリと足を取られ転倒してしまう。

 一体何事かとミスターアフロマンが足元を見れば、そこにはおもちゃのスライムがベッタリとこびりついていた。

 

(催涙ガスの視界の悪さで文字通り足元を掬われましたか! こんな玩具で私を捕らえるつもりなど……実際効果的だったのが恐ろしいですね)

 

 思考しながらも身体を突き動かす。

 止まっていては的に捕まるだけ。それでは彼の目的(・・)は達成できない。

 

(赤い閃光弾は既に合図として放った。これで作戦の第二段階は発動したはず)

 

 様々な罠をかいくぐりながら、ミスターアフロマンはシリウスの位置を確認する。

 スリングショットを構えながら、建物から建物へと飛び移っている。

 

 遅い来る物体に対処しようと観察していれば、シリウスは慌てたように大きく跳躍した。

 その行動が、彼が事前に地面を潜航させておいた怪巨人に対して、無意識な直感が働いたのだろうということがミスターアフロマンにはすぐに分かった。

 

(相変わらず勘のいい。だがそれは大きな選択ミス)

「――――残念(ザァンネェン)! 無駄な足掻きです!」

 

 大きな声で自分の方に意識を向けさせるミスターアフロマン。

 シリウスを感知した怪巨人が、シリウスを食い殺そうと襲いかかる。

 

「うひゃっ! うヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 面白い程うまく引っかかったシリウスに笑いが耐えきれないミスターアフロマン。

 シリウスが撃ち込んでくる罠の郡から抜け出したこともあり、気分は絶好調だった。

 

(でーも、それじゃあ終わらないんでしょう?)

 

 ミスターアフロマンは距離を取りながら、食べられたシリウスがどう対処するのかを観察する。

 一年前、二〇〇メートルの怪巨人になってしまった友人を殺したのが、シリウス・コールドウェザーであることを彼は知っている。

 そして、ここ最近手に入れた()()()()()()()()()()から考えても、ここで簡単に終わってしまうのはありえないことだった。

 

 だからダメージを与えられた程度だろうと、ミスターアフロマンは思っていたのだが――――

 

 

 

 

 

 なぜか巨大化したシリウスが、怪巨人を腹からぶち破ってきた。

 

 

 

 

 

「なんじゃあそりゃあ!?」

 

 これにはさすがのミスターアフロマンもすっとぼけている余裕などなく、完全に想定外の事態だった。

 

「ミスターアフロマン……」

 

 地響きを鳴らしながら全長五〇メートルはあるシリウスが駆け出す。

 それは常人はもちろん、ミスターアフロマンにとっても畏怖の対象に間違い。

 

(作戦は想定以上に進行中ッ! だがこれは、これはどう対処すべきなんですかねぇ!?)

 

 物陰に隠れる暇はない。シリウスは元の大きさだった時と変わらない速度で近づいてくる。それはもちろん一歩の距離も長く、一秒後にはミスターアフロマンの眼前にシリウスが現れるのは間違いなかった。

 

(あの質量、私の手札ではどうにもならないですね。徹底的に逃げ、姿をちらつかせればいいでしょう)

 

 ミスターアフロマンは赤い液体の入った注射器を自分の手首に打つ。

 すると彼の筋肉が蠢き、走る速度が上昇した。みるみるうちにシリウスから距離が開き、さらにミスターアフロマンは加速する。

 シリウスが追いかけて来れば、城下町に勃発する戦場をように走り抜けていく。

 

「――――俺の次に早いな」

 

 突如、隣から声をかけられるというありえない事態が発生し、ミスターアフロマンは驚愕した。

 

「何奴ッ!?」

 

 とっさの判断で裏拳を叩きつけようとするが、その腕を捕まれ地面に叩きつけられてしまう。

 

「ガハッ!?」

「確保」

 

 まともに受け身を取れず、骨が折れる鈍い音を鳴り響かせるミスターアフロマン。

 そんな彼を地面に叩きつけた人物――――ジョン・アルスミスが手錠をかけようとするが、ミスターアフロマンは掴まれている腕を切り落とし距離を取った。

 

「悪いジョン!」

 

 追いかけてきたシリウスが元の大きさに戻り、二人の近くに舞い降りる。

 

「気にするな。休日なのに悪いが、お前はオリビアの元に行ってくれ」

「え? でもそいつ、変身を複数残してるし、僕とジョンの二人でタコ殴りにした方が早くないか?」

「それはそうなんだが……」

 

 相変わらず敵に容赦がないな、という目で訴えるミスターアフロマンだったが、シリウスとジョンには全く通用しなかった。

 

「問題が発生した。現在ヴァルキュリア城が結界で入れなくなっている」

「えっ」

「中にはオリビア様がいる。お前が助けに行ってやってくれ」

 

 その話を聞いていたミスターアフロマンが、シリウスとジョンに対し光線を撃ち込む。

 難なく交わす二人に、

 

「仲間を殺された復讐を他人に任せるとでも言うのですか! いつからそんなに甘い男に成り下がった。シリウス・コールドウェザー!」

 

 挑発するミスターアフロマンを尻目に、シリウスはジョンに声をかける。

 

「ジョン、君に任せるよ」

「ああ、そっちも任せた」

 

 それだけの言葉を交わすと、シリウスは脇目も振らずヴァルキュリア城へと走り出した。

 

「負け犬のごとく駆けていきますねぇ! 悔しくないんですかァ!?」

 

 腕の断面から身体の何倍もの大きさの腕が生え、シリウスに襲いかかる。

 だがジョンがそれを見逃すはずもなく、それを槍で弾き飛ばした。

 

「お前、何か勘違いしてるんだよ」

「何?」

 

 巨腕と槍で攻防を繰り返しながら、二人は

 相手の冷静さを削り、魔法の制御を鈍らせる為に。

 

「シリウスははじめから、復讐心でお前に挑んでいたわけじゃない。対応したことのある自分の方が適任だと思ったから、名乗り出ただけだよ」

「つまり?」

「ただの仕事だ。お前の挑発は、的外れだってことだよ!」

 

 攻防の末、穂先に風の斬撃をまとわせた槍で、ミスターアフロマンの巨腕を切り落とす。

 腕の断面から血しぶきにまぎれて光線を撃ち出すが、ジョンはそれを距離を取ることで回避した。

 

「風舞う戦場に逃げ場なし! 去れる物は勝者のみ――――逃げ場は非ず!」

 

 そんな最中であろうともジョンは魔法を行使し、二人を中心に竜巻が形成される。

 飛び散った血液が竜巻に触れると、忽ち霧散する。それを尻目に目撃したミスターアフロマンは、その殺傷能力の高さを実感せざる得なかった。

 

「……ほう、魔法に誓いを立てましたか。さすがは誉れ高き騎士様ですねぇ――――バカバカしいにも程がある!」

 

 ミスターアフロマン腕の断面から、竜の顎が生え出す。

 先程の巨腕はウォーミングアップだったとでも言うかのように、凄まじい勢いでジョンに襲いかかった。

 

 だがジョンは、臆することなく竜の顎と正面からぶつかる。

 

「無辜の民の平穏を守る為、名も知らぬシリウスの友の名誉の為。お前を捕獲する」

 

 ヴァルキュリア家に忠誠を誓う騎士として、臆する理由が何一つとして無いがゆえに。

 

「捕獲ぅ? 甘っちょろいことを言いますねぇ!!」

「死んでも蘇るなら、そりゃ捕獲しか無いだろ」

 

 竜の顎と槍の攻防は続く。

 怪我の具合を見る限り、両者共に致命傷を与える事はできなかった。

 それはお互い射程の長い武器を使っている為か、はたまた技量が高い故なのか。

 

 

 それでも傷は増えていく。ジョンに至ってはただの人間に過ぎない。自分の何倍もの竜の顎に一人で対処できているだけでも偉業と言えよう。

 だから、傷が増えていくのは仕方のないことだった。

 

 一方、ミスターアフロマンに傷ができても、たちまち再生される。

 注射でうちこんだ液体の力によって、ミスターアフロマンは生物としての規格を大幅に拡張していたのだ。

 

 ジョンがいくら足掻こうとも、ミスターアフロマンの勝利は目に見えていた。

 

 ――――だと言うのに、動きが鈍くなってきたのはミスターアフロマンだった。

 

(……体が重い。なぜだ? 血液ならば生産できている。であれば、速度も怪力も十全のハズ。だというのに、なぜ? 私の何が悪かった。私は何を失敗した。一体、何がいけなかった――――!?)

 

 戦いながら思考を巡らせるミスターアフロマンは、自分の異常に気がついた。

 

(まだ優位だというのに、なぜ()()()()()()()()()()()()()()()()――――!?)

 

 ミスターアフロマンの思考は冷静な判断ができない程に脳の機能が鈍っていた。

 自覚した今でさえ、意識をしっかりしていなければ泣き言を言ってしまいそうな程に。

 

 確かに人の規格と見合わない腕が生えることで、脳に影響を与えるのは想定している。

 だが、今までこの力を使ってきて、ここまでのリスクを負ったことは一度だって無かったのだ。

 

 ゆえに、原因は外部からだとミスターアフロマンは結論を紐付ける。

 

「――――ジョン・アルスミス! 貴様、一体何をした!?」

 

 少しずれていたメガネを正せる程の余裕を持つジョンに対し、ミスターアフロマンは糾弾した。

 

お前をうつ病にした

「はぁ!?」

 

 あまりにおかしな返答に、ミスターアフロマン素っ頓狂な声をあげることを抑えることができなかった。

 

「バカな! 戦闘中にそんな高度な魔法を!? まさか、我力天成(アブソリュート・ワン)!? それなら可能かもしれないが、貴様の我力天成(アブソリュート・ワン)は、狂戦士化(バーサクモード)のハズ!」

 

 我力天成(アブソリュート・ワン)とは、魂が安定してくる七~十歳の頃に発現する体質から生まれる固有術式。

 それ故に、魔法としてどれだけどれだけ高度な術式になろうとも、固有術式として発現した物は自分の手足のように扱える。

 

 だが、我力天成(アブソリュート・ワン)は一人一つ。

 二つ以上を持つことなど、本来であればありえないのだ。

 

 それに対し、ジョンの答えは単純明快だった。

 

「いや、俺はただの二重人格者だが……?」

「そんなの無しでしょう!?」

 

 大ぶりに竜の顎を振るうミスターアフロマン。

 その懐に潜り込み、ジョンはその頭をアフロごと鷲掴みにした。

 

「それはお前の行いの方だ」

「が……ぁ……ッ――――」

 

 ミスターアフロマンの意識は酩酊していき、最後には意識を失う。

 それを確認したジョンは、竜巻を解除した。

 

 油断することなく周りの気配を探れば、怪巨人が暴れている惨状は何一つとして変わっていないらしかった。

 

(……コイツが倒れたところで、怪巨人は止まらないか)

 

 いくらヴァルキュリア家の騎士や兵士が優秀とはいえ、城下町に百何十もの怪巨人が暴れているとなると、それを討ち取るのも楽ではない。

 

(まだ三分の一も残ってるっぽいな……こいつを豚小屋に叩きこんだら、俺も合流しないと)

 

 ジョンはメガネを掛け直すと、ミスターアフロマンの頭を鷲掴みにしたまま走り出した。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 マサル・アルベルト卿は大量虐殺を行っていた。

 

 時を止めた空間の中で部下の赤と青の騎士を使い、ヴァルキュリア城のありとあらゆる生命を無差別に殺していく。

 ヴァルキュリア家に仕える屈強な騎士であろうと、動けなければただの傀儡。

 

 今、この世界の生殺与奪の権を持っているのは、時の原理界法器を持つマサル卿と、例外である二人の部下だけだった。

 

「脆い。脆い脆い――――!」

 

 神聖渡辺帝国の中でも、最強の十本指に入ると言われているレオナルド・カーヴィ。

 立っている場所を考えるに、すぐさま異常を察したのか、オリビアの前に立っているらしかった。

 

 その首を目にも留まらぬ居合で掻っ切りながら、マサル卿は愉快に笑う。

 

「この姿がヴァルキュリア家の騎士か? 自分のようなド素人に殺されてしまうというのに!」

 

 時が止まっている為かまだ首の繋がっているレオナルドを見下ろすと、マサル卿はそれを他の騎士達が無様に転がっている山に放り投げる。

 そのまま騎士達の山に近寄ると、魔法で火を放った。

 

 これで抵抗できる邪魔者は、あらかた片付けたといってもいいと、マサル卿は一安心した。

 

「さて、後はオリビア嬢を探すとしますか」

 

 時間を止める前、オリビアはカレンと一緒にこの場から瞬間移動で離脱した。

 しかし問題はないとマサル卿は判断していた。なぜなら、その前からこの城は赤と青の騎士の結界に覆われており、瞬間移動でも脱出不可能なのだから。

 さらには、地下に保管されているヴァルキュリア家の火の原理界法器には手が出せないよう、一階から頂上までを覆っている。抜かりはなかった。

 

 時を止めていられる時間も残りわずかという所で、赤と青の騎士の二人がマサル卿の元に戻ってくる。

 

「オリビア嬢は見つかりましたか?」

 

 首を横に振る赤と青の騎士の二人に、マサル卿はため息をついた。

 

「結界の範囲を広くしすぎましたかね? ですが、オリビア嬢と安置所を囲むにはこれぐらいの大きさが適任でしたしね。もう三分たちますし……もう一度時を止めたら、一度探すとしましょうか」

 

 そう言って赤と青の騎士に命令を下しているうちに、時間が動き出した。

 

 騎士の山からはすぐさま悲鳴が立ち上る。

 身体を切り刻まれた上に燃やされているのであれば、苦痛から悲鳴を出してしまうのも仕方がないと言える。

 

「――――ふざけないで」

 

 地の底から鳴り響いたかの様な声が聞こえ、白い波が火を消し騎士達の山をさらっていく。

 マサル卿が声のする方を振り向けば、階段から降りてくるオリビアの姿があった。

 

 その髪の色は黄金から白銀へと変わっているが、このヴァルキュリア城の当主であるオリビアに変わりはない。

 美しい顔立ちを怒りで歪めながら、マサル卿の元へ優雅に闊歩している。

 

「鴨が葱を背負って来るとはまさにこのこと。原理界法(げんりかいほう)! 時をこの手に!

 

 時の原理界法器を行使し、時間を止めるマサル卿。

 

 しかし――――

 

「ふざけないで、と言ったはずよ」

 

 オリビアは時の止まった世界でも止まることなく、灰を操作しマサル卿を襲わせる。

 赤と青の騎士の魔法でとっさにいなすが、大量の質量に二人はそのままさらわれてしまった。

 

 確かにオリビアは時の原理界法器の影響を受けることなく動き回っている。

 そのあまりに信じられない光景に、マサル卿は目を丸くして驚愕した。

 

「まさか――――魔法で時を操っているというのか!?」

 

 確かに魔法でも時間に干渉することは、理論上は可能である。

 だがそれを可能とするには、莫大な魔力と膨大な術式を計算する演算能力が必須であり、本来であれば一人のリソースでは到底及ばない領域なのだ。

 

 それを、オリビアは涼しい顔で実現させている。

 

 火の原理界法器を封じれば問題ないと判断していたが、考え直す必要があるとマサル卿は判断した。

 

「さすがは神聖渡辺帝国でも五本指に入る魔術師。『灰被り姫の伝説(デウス・エクス・シンデレラ)』――――ッ!!」

「私はオリビア。オリビア・ヴァルキュリア。ヴァルキュリア家の当主であり、無辜の民と聖なる遺体の守護者よ」

 

 城中の壁に塗られた灰を操作しながら、オリビアはマサル卿を指差す。

 

「ひれ伏しなさい下郎。全てを裏切ったあなたに、輝かしい明日は来ないと知りなさい」

 

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