一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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第十三話 英雄≠愛と正義の味方

どうも! カレン・ミルスです!

 

 ……二対一で絶賛ピンチです。

 

 

~前回までのあらすじ~

 

マサル卿が何か仕掛けてくる感があったのですぐさまオリビアさんと一緒に逃げた私。

しかし、城は結界に囲まれて脱出不可能となっていた!

オリビアさんは「あいつ、時を操る原理界法器持ってる」

とか言ってくるしでもう大変!

 

更に言うと怒りが大爆発したオリビアさんは、金髪から銀髪に大変身!

こんなの伝説の神聖(セイクリド)渡辺人じゃないですかヤダー!

 

――――そして始まる時間を操る者達の頂上決戦。

理論上は魔法でも時を止められるとか聞いてましたけど、

それを一人で実現するやつがいるってマジですか?

 

待ったなしの大混乱(めっちゃカオス)

シリウスくーん!

早く来てくださ―い!!

 

 

 ……とまあ、振り返って現実逃避をしてますけど、今は本当に絶賛ピンチの最中なんですよ。

 

 オリビアさんは裏切ったマサル伯爵をぶち殺しに行ってるんですけど、その間に私は赤と青の騎士の始末を任されています。

 まあ役割自体はわかりますよ。あの二人のどっちか、もしくはどちらかが結界を施したやつですし。

 

 でもあの赤と青の騎士の二人、私の戦法が全く通用しないんですよね!!

 

 全身に各々の色の鎧と兜を着込んでいるお陰か、ちょっとやそっとの火力じゃ大したダメージを与えられないんです。

 

 催涙ガスとか催眠ガスを使っても、兜にガスマスク的な効果があるのか普通に動いてくる。

 これだけでも嫌になるっていうのに、更に問題が一つあった。

 

「時が止まってる間に動くのやめません!?」

 

 そう、この二人は時が止まっても普通に動いてくるんですよ!

 いつの間にか斬られたり魔法ぶつけられたり突き落とされてたりと、もう踏んだり蹴ったり!

 

 え? なんでそれで私が生きているのか?

 シリウス君にマナを疑似素粒子にして耐久力を上げる魔法を教わりました。

 いやー、これ術式構築するのめちゃくちゃ大変ですし、シリウス君ほどの耐久力はないんですけど、こういう時はめちゃくちゃ便利ですね。なんとか生きてる。

 

「…………」

「…………」

 

「なんか喋ってくれません!?」

 

 しかもあの二人、私がやりにくいお仕事完遂を目指す真面目ちゃんタイプ! 混乱している最中に殴りつけることもできやしない!

 こちとら右腕を潰されて瀕死寸前なんですけど! 血液! 血液プリーズ!!

 

 隠れながら二人の様子を伺っていると、違和感が生じた。

 おそらく時を止められたのだろう。その間に行動し元の位置に戻っているが、手足の位置が微妙に違う。

 

 これまでの戦闘経験からして、彼らが時を連続で止めることはできない。数十秒のラグが生じるのを私は確認していた。

 つまり――――この間にぶちのめすしか無い!!

 

そんな間抜けな隙をありがとうございます(すきあり)ッ!」

 

 二人の間に割り込み、動く左手で続けざまに鎧に触れると、そのまま鎧だけを転移させた。

 この二人の呼吸がわかってきたからこそできる繊細な匠の技。まあできるのは私ぐらいのものでしょう。

 

「ハーッハッハッハッハ! してやったりとはまさにこのこと――――!?」

 

 赤と青の騎士の間抜けな面を見ようとして、私は驚愕した。

 だって二人共、身体が触手で構成されていたのだから。

 

 人間だと思っていたのが間違いだった。

 鎧に触手の魔物を詰め込んだだけだこれー!?

 

 そりゃあ人間が吸い込むことを想定しているガスを使っても、うんともすんとも言わないわけですよ!!

 こんなの詐欺ですようわーん!

 

「アニメだったら作画が大変そうなやつですね!! というかあのご時世だったらCGとかの方が便利だったりしますー!?」

 

 想定外の事態に軽口を叩いて平静さを保ちながらも、ナイフを投げつけて耐久力をチェックする。

 結果は見事にカキーンと弾かれました。うわーん! 鎧の意味が偽装の意味でしか無いー!!

 

「業火一閃!」

 

 炎を叩きつけて、瞬間移動離脱し様子を見る。

 

「……おや?」

 

 なにやらうずくまって、何かを守ってますね。

 観察している限り、アイツラの身体自体は別に耐火性能ありそうなんですけど、そうなると何を守ってるんだ? という話になってくる。

 

 炎が効かないなら何を守る必要があるんだ? と考えてみる。

 守るってことは大切なものってこと。ではどうして大切なのか?

 

 価値があるもの? 特別な思い入れがあるもの? 性能が高く変えが効かないもの?

 

 この環境下に置いて可能性が高いのは――――時が止まっている中でも、動けるアイテム。

 

 アイツらはマサル伯爵が時を止めている中動けている。

 おそらく、今守っているのは例外の証のようなものなのだろう。

 

 ……奪っておけば、オリビアさんの助けにもなれるか。

 

 正直魔力も体力も血の気もなくて、今にも倒れそうなんですけど、やるしかないか。

 

 時が止まっている間にどうか見つかりませんように、と渡辺君に祈りながら、私は行動に移った。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 気分は最悪だった。

 

 百年程度の歴史の城だが、ここまで堂々と入り込まれて大暴れを許している。屈辱以外の何物でもない。

 ここまで好き勝手された当主も、歴代で私ぐらいのものだろう。これ以上の恥だ。

 

 恥は知った。後は挽回するだけだ。

 

 いつものように『灰被りの伝承(スクラップ&ビルド)』で灰を操作するのと並行して、時が止まった中でも動かせるように術式を適当させる。

 その上で単純な質量攻撃で覆い潰そうとするが、灰の時間が巻き戻ってしまい、壁に塗りたくられたただの灰の状態に戻ってしまう。

 

 ……この事象を含めて術式を構築し直す必要があるようね。

 灰の操作をするだけで、普段の何倍もの魔力と集中力が必要になっているというのに、更にこんな事象を起こされたら面倒極まりない。

 

 そういった戦いを、時間停止の中での活動時間を含めると、二十分程続けていた。

 

「あなた、どうして終末教の過激派シンパなんて鉄砲玉になってるのかしら?」

 

 今度は灰で百の刃を作り、マサルを襲わせる。

 三十五の刃は巻き戻ってただの灰に戻ってしまったが、それ以外の攻撃は避けるなり魔法で迎撃したりしている。

 

 なるほどね。どうやら対処できる数には限りがあるらしい。

 万全の原理界法器ならもっと規模は大きかっただろうし、そんな隙も無かっただろう。

 それは火の原理界法器を持っている私がよく知っている。

 

 本来であれば、原理界法器は管理者が許可したものしか使えない。

 更に言ってしまえば、管理が許されているのは皇帝の血筋を受け継いでいる公爵家だけ。

 

 もちろん、伯爵であるマサルでは触れることすらままならない。

 どこからか盗み出し、それを何らかのズルで使っている為に本来の性能が発揮できていないのでしょう。

 

「自分が鉄砲玉? それは違う。自分は神聖渡辺帝国支部の最高責任者だ!」

「えっ」

 

 予想外の発言に動揺し、術式が乱れそうになった。

 危なかったわ。動揺してしまえば魔法が崩れて、止まった時の中で動けなくなってしまう。

 

「平等の死を与えないこの腐った世界を断罪する! あなたは知っているだろう! 罪人を裁くずさんなシステムを! 軽犯罪者も重犯罪者も、同じ牢獄という名の牢獄に囚われ、地獄とも呼べる環境で死んでいく! こんな、こんな事があってはならない! 生も死も、平等でなくてはならない! だと言うのに、誰も立ち上がりはしない! 何も変えようとしない! 故に、終末教皇は自分を選び、原理界法器の使用権限を得たのだ!!」

 

 ……ああ、うん。なんてことかしら。突っ込みどころが多すぎる。

 どれから指摘していけばいいかわからないほどに。

 

 この人はそれほどまでに終末教の過激派シンパの陰謀論にドハマリしていたのに、私はそれを見抜くことが何一つとしてできなかったのだ。

 

 さらにいうならば、そんな人間に金を貸し与えていた……おそらく武器などの多くの物資は、私の支援金から賄っていたに違いない。

 そう思うと、後悔で頭が痛くなった。

 

「罪人だからといって、あんな死に方があっていいはずがない!」

「だからと言って、無辜の民がいい理由にもなってないでしょう?」

 

 灰で刃を形成して襲いかかりながら、私はマサルに問いかける。

 マサルは私の灰の時間を操作して、攻撃が止まったところを魔法の衝撃波で粉砕していく。

 

「…………」

 

 一方で、答えは沈黙だった。

 

 ……私は一抹の不安を抱えながら、試しに攻撃の手を止めてみる。

 

「そこらへんは、どうなのかしら?」

「……………………」

 

 冷や汗をかきながら、何も言わない。反論ゼロ。

 つまりコイツは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな、中途半端な理論と覚悟で、何の罪も無い私の領民を襲っていたの?

 それならなおさら負けるわけにはいかない。

 物理的にも、精神的にも徹底的に粉砕しなければならない。

 

「燃え尽きた者達よ。夢の輝きに魅せられ、もう一度舞い上がれ――――!」

 

 術式の演算と、魔力のリソースをありったけ吐き出し、散っていった灰を『灰被りの伝承(スクラップ&ビルド)』でかき集る。

 そこから大量の騎士を形成し、マサルの四方八方から攻撃を仕掛けた。

 

「自分に同じ手が通じるものか!」

 

 マサルはバリアを張って攻撃を防ぐが、圧倒的な物量に粉砕される。

 

 だがそれだけにはとどまらず、バリアの時間が巻き戻って再構築される。

 ……なんて嫌なヤツ、消耗戦に持ち込みたいらしい。

 

「誰も立ち上がらなかった? 何も変えようとしない? 我がヴァルキュリア家は、あなたの提唱する刑務所の環境改善に賛同し、支援までしていたのだけど?」

「…………」

「なにか言いなさい! この大嘘憑きの詐欺師野郎!!」

 

 もう一度バリアを粉砕し、灰の騎士達をなだれ込ませて押さえつけた。

 

「ぐ!? が、あああああああ!?」

 

 その手から原理界法器を強引に奪おうとするが、いつの間にかヒモで何重にも手と時の原理界法器を巻いている。

 どうやら死んでも離す気がないらしい。

 

 私がそのことに予測していなかった為、一瞬の隙ができてしまったのだろう。

 

「『食らいついて離さぬ獣達(ホーミング・ガトリング)』!」

 

 その隙にマサルは緑色の魔弾を一〇八本と撒き散らし、自分に襲いかかる灰の騎士達に攻撃を叩きつける。

 

 けれど、私もそんな攻撃で散らせる密度で作ってはいない。

 ぶつけられてもなお灰の騎士達は欠けることはなく、力づくで原理界法器を奪おうとする。

 

「潰れるまで、何度でもだ!」

 

 だが緑色の光線は何度も何度も時間が巻き戻り、その都度時間を加速させて騎士達に叩きつけられる。

 マサルを拘束することもままならなくなり、ついには打ち砕けてしまう。

 

 貫通した緑色の魔弾はそのホーミング性能で、他の待機している騎士や攻撃を仕掛ける騎士達にも襲いかかる。

 もし耐えたり迎撃されようとも、時間を巻き戻して何度でも攻撃を仕掛けられてしまう。

 

 ……頭を使ったわね。これならマサルの魔力の消費は抑えられるし、加速させれば攻撃力も上がる。

 

「『食らいついて離さぬ獣達(ホーミング・ガトリング)』!!」

 

 さらにはおかわりと来た。

 

「あなた、まさかもう忘れてない?」

「何を?」

「私がオリビア・ヴァルキュリアということをよ」

 

 巨大な灰の腕を作って粉砕させる。

 

「言ったはずだ。何度でも!!」

 

 緑色の魔弾はたちまち時が戻され再構築される。

 その瞬間に近くにいた灰の騎士に、もう一度粉砕させた。

 

「自分に手も足も出ませんか? 『食らいついて離さぬ獣達(ホーミング・ガトリング)』!」

 

 私を見下ろし、笑みを釣り上げながら緑の追跡する魔弾を複数射出するマサル。

 灰の騎士達を粉砕する

 

「ところでで、都合の悪いことにはだんまりだったけど、何か反論はないのかしら?」

「何でも人に教えてもらわなければわからないのですか? 自分で考えてみてください!!」

 

 やれやれと言った様子のマサルに、私はため息を付いた。

 

「それ、反論ができない人間の常套句でしょうが」

 

 もう解析し終わったので、新たに術式を構築し、魔法を展開する。

 

 すると、緑色の魔弾は砕かれても時間が巻き戻ることがなくなり、私の使役する灰の騎士達にあっという間に粉砕されていく。

 

「……ッ! あなた、他人の魔法に時間干渉しているのか!?」

「御名答。それが、何か?」

「ふざけた真似を!」

 

 吠えるマサルをよそに、止まっていた時間が動き出した。

 戦いの余波で砕けてしまっていた床や壁、天井が流れるように崩れ落ちる。

 

 本来、正規の持ち主が使うのであれば、永遠に時間を止めることだってできるはず。

 

「原理界法器の使い方もなってないわね。おそらく、ズルをしてるんでなくて?」

 

 そもそもとして、伯爵家の貴族に原理界法器の管理は任されていない。

 何かしらのズルをして、無理やり行使しているのは明白だった。

 

 だが、私の言及に怯むことなく、マサルは吠え続ける。

 

「ええ! ですが自分が聖なる遺体を手に入れれば、完全に制御できることでしょう!」

 

 ……どこまでも、私の地雷を踏み抜くのが上手だこと。

 

「あなたのような人間に、渡すものは何も無い!」

 

 そう言って、私は最後の一撃を下そうと、手を振り下ろした――――

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 僕がヴァルキュリア城の門前までたどり着くと、終末教の過激派シンパ達が武器を手に取り城を襲撃していた。

 ああ、この間の一件で、思ってたより武器が少ないとか聞いてたけど、どうやらこの時の為に密輸していたらしい。

 

 僕はそんなテロリスト集団を切り払いながら、ヴァルキュリア城の敷地内に入る。

 

 騎士や兵士、従業員に至るまで避難しているスペースがある他に、ヴァルキュリア城が結界で包まれているのがわかった。

 

「シリウスさん!」

 

 兵士の一人が駆け寄ってくる。

 

「ああ、状況は大方ジョンから聞いてる。僕がやる」

 

 結界に手を触れる。

 ……うん、この程度なら問題ない。

 

 僕は結界の一部をチーズのように引き伸ばして、一箇所に大きな穴を開こうとする――――が、次の瞬間、瞬く間に城を覆っていた結界の全てが砕け散った。

 僕の力を使えば確かに簡単に砕け散るが、ここまで早く削れはしない。

 

「一体、何が……」

 

 突然の自体に戸惑っていると、僕の隣にカレンがドサッと落ちてきた。

 

「カレン!?」

「……あ、シリウス君」

 

 その姿は悲惨なものだった。

 片腕は潰れ、足なんて今にも取れかかっている。服の下はわからないが、今なお血が滲み広がっていることから酷い惨状であることは容易に想像ができる。

 

「衛生兵! いますぐ来てくれ! 衛生兵ー!!」

 

 僕がカレンの手を握りながら助けを呼ぶと、衛生兵がすぐさま駆けつけ、迅速に治療に取り掛かってくれる。ありがたい。

 

「……敵は、マサル伯爵。時の原理界法器をどこからか持ち出し、無理やり使用しています。数分間時を止めた後、再始動には数十秒の時間を要するようです」

「わかった! わかったからもう喋らなくていい! 後は僕に任せて!」

 

 すぐさま城の中に駆け出そうとするが、カレンは僕の手を握って離さない。

 

「……まだ、まだ伝えないといけないことが」

「何?」

 

 余程重要な情報だろうと、僕は肝に銘じて耳を傾ける。

 

「私、オリビアさんのコト嫌いです」

「何???」

 

 あんまりに関係ない話でびっくりしてしまった。

 よくそんなことを僕とヴァルキュリア家の衛生兵の前で言えるな。衛生兵の方々もびっくりして一瞬手が止まってたよ。

 いや、というか本当に何の話?

 

「シリウス君のことが大好きで奴隷にしたくせに、ウジウジして中々手を出さないし、何なら『これがシリウスのためだから~』と変にいい女アピールしてたりとか、糞女極まります」

「カレン、すごいことを怒涛にいなないでくれ。心臓が止まる。色んな意味で」

 

 へっ! と鼻で笑うカレン。

 さてはコイツ、僕が思ってるより余裕があるな?

 

「……でも、オリビアさんは今、身を挺して皆を守っています。人を守ろうとしている気持ちは、誰よりも強いんだと思います」

 

 ……ああ、それなら僕も知ってる。

 昔から誰かの為に、自分を我慢して立ち上がれる子だったよ。

 誰にもそれを気取られないように、不敵な笑みを浮かべてね。

 

「そういうところは、好きです」

 

 僕もだ。とカレンの言葉に頷く。

 

「だから、これを使って、助けに行ってあげてください。きっと何かの役に立つはずです。時間が止まっている中でも、敵はこれを持って動いていました」

 

 そう言われて、握っている手の中に何かがあることに気がつく。

 手を離して自分の手の中を見てみれば、中にあったのは何やら文様の刻まれた指輪のようだった。

 

「……後は任せましたよ。相棒」

 

 そう言うと、カレンは目を閉じて意識を失った。

 渡された指輪を握り、衛生兵の邪魔にならないように離れながら、眠っているカレンに誓う。

 

「……ああ、相棒の頼みだからね。安心して任せてよ」

 

 スリングショットで仕掛けを夜空に目掛けて撃ち込む。

 使わないに越したことがない仕掛けだが、何が起きるかわからない。これぐらいの用心はしておいたほうがいいだろう。

 

 僕は仕込みを終えたことを確認し終えると、警戒しながら城の中へと突入した。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 手を振り下ろした――――そのはずだった。

 それは迎撃の合図だったのに、灰の騎士達は動くことをやめてしまった。

 

 そして、私は単純明快な失敗に気がつく。

 止めまで後一歩という所で、魔力が切れてしまったのだ。

 

 失敗した。

 

 時間関係の魔法で魔力を想像以上に大量消費してしまったとはいえ、魔力のリソース配分ができていなかった。

 髪も銀髪から金髪に戻ってしまっており、私の中にはもう出せる魔力がないことを示している。

 

 視界がぼやけ、うまく戦況を把握することができない。

 

 私が失敗したせいで、騙されて資金提供してしてしまったせいで、罪のない多くの民が死んでしまう。

 ここで私が殺されれば、戦いが終わっても領地は混乱し、その営みは崩壊してしまうことだろう。

 

 だめ。それは駄目。

 

 なんとか、なんとかしなくちゃ。

 ヴァルキュリア家の当主である私が、ここでなんとかしなくちゃ――――

 

「……まさか、泣いてるんですか? 今、ここで?」

 

 言われて気がついた。

 私は、あまりの自分の情けなさに、いや、愚かさに泣いてしまっていたのだ。

 もうポーカーフェイスすらできないほどに、私の集中の糸は切れてしまっているらしい。

 

「は、はは! 何だそれは! 魔力が切れて、大泣きですか!?」

「……うる、さい。黙れ。黙れ!」

 

 魔力がすっからかんの私は、もう吠えることしかできない。

 

「さて、決着がついたことですし、その身体に色々と聞きましょうか。聖なる遺体のこととか、色々とねぇ!」

「――――ッ!」

 

 床に落ちている剣を拾って構えるが、向こうの魔力は十分。

 剣だけの勝負なら何とか勝てたかもしれないが、魔法も使われれば勝てるかどうか難しい。ましてや原理界法器を使われてしまえば勝ち目などありはしない。

 

 それでも、勝たなくちゃ。

 罪のない人々の命を守るために。

 

「遅くなってごめん。後は僕に任せて」

 

 ふと、安心する声が響いた。

 

 私の隣には、シリウスの姿があった。

 安心できる、不敵な笑みを浮かべて。

 

 もちろんマサルも黙っていない。

 シリウスに向かって、大喜びで叫んだ。

 

 

 

 

 

「来たか――――()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 今、なんて言った?

 なんでこの男が、()()()()()()()()

 

「何を言ってるんだか。ねえオリビア」

 

 私に同意を求めるシリウス。

 

 それだけのことなのに、私は自分が醜く感じてしまい、まともに顔を見ることができない。

 今ならわかる。ポーカーフェイスもできないほど、私の心はグチャグチャに踏み潰されている。

 

「都合の悪いことにはだんまりですか? オリビア・ヴァルキュリア! 先程までイキがっていたというのに、とんだ醜態ですね!!」

 

 その通りだ。返す言葉もない。

 私は、英雄渡辺のクローンを作った男の、娘なのだから。

 

 顎に手を置き、冷静になろうと努める。

 

「……違う。私、そんなの知らないわ」

 

 それなのに、私の震える口からこぼれ落ちたのは嘘だった。

 シリウスに傷ついて欲しくなくて、嫌われたくなくての一心からの言葉だった。

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 こんな醜い女を見ないでください。嫌わないでください。

 

 自己保身に走った自分が恥ずかしいのに、それでも自分勝手な感情は止まらない。

 私は自己嫌悪のサイクルに囚われ、目の前が真っ暗になりそうだった。

 

「……だよね。おかしなコトを言うやつもいるもんだ」

 

 そんな私の耳に入り込んできたのは、私を信じてくれる言葉だった。

 

「は?」

 

 それを聞いていたマサルも、意味がわからないといった声を漏らしている。

 当然だ。明らかに動揺している私の言葉を、軽々と信じるだなんてありえないことだ。

 

「信じて、くれるの?」

 

 思わずシリウスの顔を見上げてしまう。

 

「いつだって、僕はオリビアを信じるよ」

 

 あまりに眩しい言葉に、私の心はズタズタに引き裂かれそうになった。

 ごめんなさい。嘘をついてごめんなさい。

 こんな大嘘憑きを信じさせてしまって、ごめんなさい――――

 

「オリビア、大丈夫だよ」

 

 シリウスは私に優しく微笑む。

 

「僕が全部何とかする。オリビアが何を抱えていても、一緒に抱えるから」

 

 シリウスは知らない。

 自分が英雄渡辺のクローンだということに。

 私がそれを知りながらも、隠しているということに。

 

 それなのに、私はシリウスの投げかけてくれた言葉で、安心できた。

 

「ここは僕に任せて、オリビアは皆を任せていいかな?」

 

 私には、魔力がなくてもやるべきことがある。

 人々を導くという、大事な使命が。

 

「……ええ、任せて!」

 

 シリウスが来れたと言うことは、城に貼られた結界も解かれているに違いない。

 カレンがうまいこと赤と青の騎士をやってくれたのだろう。

 

 私は背中をシリウスに任せて、城の外へと走り出した。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

原理界法(げんりかいほう)――――時をこの手に

 

 オリビアが走り出した瞬間、マサルが時を止める。

 

「あなたには聖なる遺体の安置所を開いてもらわなくは困るんですよ」

 

 ゆっくりとオリビアに近づき、その美しい首を掴もうと伸ばした手を、()()()()()()()()()()()

 

「ッ!? は!? はぁ!?」

 

 僕が止まっている時の中で動けることが不思議だったのだろう。

 すぐさま僕達から離れて、警戒態勢を取る。

 

「あなた! なぜこの静止した時の中を動ける!?」

「なんでだろうねぇ?」

 

 僕はわざとらしく首をかしげる。

 先ほどの指輪を着けている手には、黒い手袋で覆っているので、一目ではわからないだろう。

 

「ああ、結界が破られたということはあの二人もやられたのか……」

 

 だがマサルはすぐ納得してしまう。

 思ってたより頭が回るらしかった。

 

「しかし解せない。なぜあんな明らかな嘘を信じるようなことを?」

 

 時間を巻き戻しているのか、腕が浮遊しマサルの腕の断面にくっついた。

 

 ああ、確かにオリビアは嘘を言っていたんだろう。

 それぐらいは僕にだってわかる。

 

 でも――――

 

「好きな女の子が、がんばってついてる嘘だよ? 男なら騙されてやらなきゃ」

 

 オリビアは自分の意志で、当主としての仮面を被っている。

 色んな意味で背伸びをしている彼女に、僕ができることは、側で支えて癒やすことにぐらいだろう。

 

 少なくとも、彼女の努力を否定することじゃないのは確かだ。

 

「酷い男だ。地獄に突っ込む女を見て見ぬ振りですか?」

「そうならないよう手を取るのが、いい男のあり方だよ」

 

 さて、オリビアを泣かせた男を、殺さなくっちゃ。




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4/25 結界の描写に矛盾点があったので改稿しました。
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