一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

14 / 15
第十四話 小さなシリウス座

「――――切り開くのは、自分の掲げる未来だ!」

 

 オリビアが作った灰の騎士達が動き出す。

 時間を巻き戻して、今までに行ったことのある攻撃を再演させているらしい。

 敵は時間を動かすという力で操作している為、自由度はそこまで無いだろうが厄介だ。

 

 これは僕の所感だが、オリビアが冒涜された。

 あんなに頑張っている少女を、こいつはどれだけ侮辱すれば気が済むというのか。

 

 下手な煽りより僕の心を揺さぶるのが上手い。そこだけは賞賛に値するだろう。

 こんなやつには絶対にしないが。

 

「いい加減にしろよ」

 

 袖に仕込んでいた斧を握り、すぐさま巨大化させて振り回す。

 壁や天井を巻き込む形で、騎士達を粉砕していく。

 

 瓦礫はある程度飛び散ると時間が止まるが、灰の騎士達はすぐさま時が巻き戻され再生する。

 別に今はそれで構わない。

 

 灰の騎士達を蹴散らして、マサルの視界防ぎながら、オリビアにもう一つの指輪を握らせる。

 

「え? あ、ああ。そういう感じ?」

 

 突然止まった時の中に戸惑っている様子だったが、すぐに状況を察したらしい。

 

「ああ、オリビア。それは絶対に指に嵌めちゃ駄目だからね」

 

 君に送る指輪は、ちゃんとオリビアのことを考えながら選んだものにしたいから。

 

「? ええ、わかったわ」

 

 よくわかっていない様子だったが、握りながら城の外へと走り出した。

 

 ……さて、これで思い切り戦える。

 

 マサルの視界を防ぐ必要もなかったので、巨大な斧をいくつか灰の騎士達ごと壁に突き刺す。

 オリビアならこれでも『灰被りの伝承(スクラップ&ビルド)』で灰の騎士達を作り直すだろうけど、時間を操っているだけであれば、これで再生はできない。

 

 緑の魔弾がいくつも僕に飛来するが、僕に触れた瞬間潰れるだけだ。

 それもそうだろう。今の僕の身体は、マナを擬似的に素粒子の間にできる限り埋めて、密度を高めている。

 するとどうなるか? 密度も力も桁違いになる。

 

「諦めろ。君の過ちもここまでだ」

 

 周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩み寄る。

 今の僕の状態は、精密な動きを必要としていた。

 

 素粒子によって僕の密度が挙がっているということは、その分重くなっているということだ。

 今の僕が通常の走り方をすれば、たちまち床が抜けてしまうことだろう。それだけは避けなくてはならなかった。

 

「あなたは英雄渡辺のクローン! ヴァルキュリア家の兵器にする為に作られた存在だ! そんなものが正義を説くだなんて、片腹痛いんですよ!」

 

 オリビアの反応からして、多分僕が英雄渡辺のクローンなのは正解なんだろうと思う。

 

 思えば、先代ヴァルキュリア家当主であるオリビアの父親は、僕に対して色々と支援をしてくれていた。

 それは孤児院への支援だったり、冒険者のスポンサーとしてだったり、直接会って優しく接してくれたりなど。

 

 ……将来が有望だと思っているとはいえ、一介の孤児への対応じゃない。

 確かにそれらの行動は、僕が英雄渡辺のクローンだからと言われたほうが納得できる行動だろう。

 

 でも、そんなことは僕にとって大したことじゃなかった。

 

「僕はシリウス。シリウス・ウェザーコールド。それを知っていれば十分なんだよ」

 

 かつてオリビアが僕にくれた名前。

 それは空っぽだった僕に、オリビアは光を差す道をくれた。

 

 ああ、今でもこの黒い目に焼き付いている。

 あの日、曇天の空の下で、太陽よりも輝いていた君のことを。

 

 例え誰かに仕組まれたことでも構わない。

 僕に生き方を教えてくれたのは、誰でもないオリビア()だったんだから。

 

「オリビアの傀儡の風情が、悟ったようなことを……!」

 

 だから、オリビアを侮辱する人間を僕は許さない。

 これ以上無い光を曇らせることを、断固として拒絶する。

 

「そんなに煽らなくても大丈夫だよ――――とっくの昔に怒ってるから」

 

 だってそうだろう? こいつのやってることは癇癪で関係のない人々を傷つけている上に、オリビアまで泣かせている。

 これで怒らずいつ怒るっていうんだ。

 

 袖から剣を取り出し巨大化させて振るい、マサルの身体を真っ二つにする。

 魔法か何かで抵抗していたが、そういった物は全て高密度の質量を伴った剣に敵わず粉砕した。

 

 だが、様子がおかしい。

 

「ま、だ。まだダ。マだマダだ……ッ!」

 

 おそらくミスターアフロマンの持っていた薬品のような何かによって、肉体改造をしていたのだろう。

 半身が吹き飛んだというのに、断面が触手のように蠢き、くっついて元の形に戻ろうとしている。

 

 たっぷりと質量を含んだ巨大な剣を、あの速度で斬りつければ粉微塵になる計算だった。

 時の原理界法器を壊さない為、命中率の為を考えて胴体を狙ったけれど、首を飛ばしてしまったほうが良かったか。

 

 再生している最中に剣を何度も振り下ろすが、残った肉片から加速度的に再生していき、とうとう僕の剣撃に耐えるようになった。

 

「……自分は、この腐った世界に革命を起こす! 起こさなければならない! 全ての生命に平等の死を! その力をよこせ! 英雄渡辺のクローン!!」

 

 薬品を注入しただけで、僕の攻撃から復活できる再生能力を得たこともあって、マサルは英雄渡辺の血肉を食せば、力を得られると本気で思い込んでいるらしい。

 クローンである僕を食せば、それと動揺の効果を得られるとも。

 

 バカバカしい話だ。

 そんなことが可能ならば、ヴァルキュリア家はもっと強大な力を手に入れているはずだ。

 

 昔、僕は聖なる遺体を見たことがある。

 腰からの出血が今なお続き、湖のような血溜まりの中心の祭壇で眠っている英雄渡辺の遺体を。

 

 そんな血液を大量に摂取できる環境の上で、僕みたいなクローンを作ったというのであれば、血肉を食べるような実験もしてそうだ。

 だと言うのに僕みたいな戦士を丁重に作っていたというのであれば、食してもそう簡単に力は手に入らないということなのだろう。

 

 その話は今はいい。

 今大事なのは、この男を肉片の一変も残らず消し去ることだ。

 

 おそらくマサルの再生能力は、アフロマンの不老不死とは仕組みが違う。

 かつてアフロマンを殺した時はここまですり潰せば、再生することなどはなかった。

 

 なら、殺してしまっても何ら問題ない。

 それに、これ以上悪党が息づく姿を見るのはうんざりだ。

 

 時が動き出し、瓦礫などが重力に従う様を見ると、僕はすぐさま術式を起動し、それとはまた別の処理として敵の動きを予測する。

 

「いや、これで終わりだ」

 

 憐憫の目を向けながら、僕は手を振り上げた。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 私が城を出ると、それはすっかり日が落ちて夜になっていた。

 城の前には、怪我や疲弊した騎士や兵達で溢れかえっており、中には時が止まっている間に、マサル達に散々傷つけられた人々までいる。

 どうやら、私が灰で彼らを保護して結界の近くに置いていたのが功を奏したらしく、皆共に息はあるとのこと。

 けれど、その中の一人を見て、私は驚いた。

 

「レオナルド騎士団長!?」

 

 このヴァルキュリア家の戦力の中でも随一の戦闘力を誇るレオナルド騎士団長が、首に包帯を巻いて眠っていたのだ。

 更には騎士団の指揮や作戦発案においてもトップクラスであり、彼が倒れている今騎士団の士気がだだ下がりであることは手にとるようにわかっていた。

 

「大丈夫ですよ。首を切りつけられてたっぽいんですけど、命には別状ないみたいです。生命力をかなり使うみたいで、今日は起き上がれなさそうですけど……なんで生きてるんですかねこの人?」

 

 声のする方向を振り向けば、カレンが横たわっている。

 包帯をあちらこちらに巻いているが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

 

「いやあ、ここの衛生兵メチャクチャ優秀ですね。私とか足が取れかかってたんですけど、五分でくっつきました」

「……ごめんなさい。無茶をさせてしまって」

「構いませんよ。役には立ってるようですしね」

「それと、ありがとう」

「へ?」

 

 頭を下げていうことを言うと、私は部下である騎士や兵達の前に出る。

 

「現在の情報を私に報告しなさい! レオナルド騎士団長が臥せている今、私が直接指揮を下します! この戦いを、必ず終わらせる為に! 無辜の民を守る為に!」

 

 虚勢にも程があった。

 本当にこの戦いを終わらせることができるのか、領民を守りきれるのか、不安で押しつぶされそうになる。

 私の魔力はすっからかんで、戦闘能力としてもまったく期待できない状態だ。

 

 でも、私はオリビア。オリビア・ヴァルキュリア。

 ヴァルキュリア家の当主が、ここで涙を流してうつむいているだけでは何も解決しない。

 だから私は、胸を張って高らかに宣言する。

 

「私があなた達を導きます。ついてきなさい!」

 

 これ以上、私の領から、誰一人犠牲を出さないために。

 

「その言葉を待っていましたオリビア様!」

「若き当主様の命が出たぞ! ここで踏ん張らなくてどうする!」

「既に報告書はまとめてあります! よろしくお願いします!」

 

 騎士や兵達が一気に活気づき、士気は最高潮にまで昇る。

 改めて、自分の立場の重要性を確認できる光景だった。

 

 ……ええ、やってみせます。

 私を信じてくれている、あなた達の為にも。

 

 そう思い報告書を読みながら支持を出そうとすると、カレンが「すいません、ちょっといいですか」と声をかけてくる。

 

「どうしたのかしら?」

「シリウス君が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 カレンが指を差す空を見れば、春の夜空には明らかに不釣り合いな星の光があった。

 それは冬の星であるシリウスに酷似した、二つの星の光が重なり合った青白い光。

 

 ……そりゃそうよね。不完全とはいえ、原理界法器使う相手に、出し惜しみとかできないわよね。

 となれば、まず私が下す命令は一つだ。

 

「――――全員、城の中には絶対に立ち寄らないように!」

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 地上から遥か離れ、雲を突き抜けた先――――成層圏で、それらは日光に照らされ光っていた。

 機能美とはかけ離れた二つの金属的物体が、今か今かと自分達の役目が来るのを待ち望んでいる。

 

 それはヴァルキュリア家が、シリウスを支援するために様々な術式を取り入れた兵器――――VSA-SC1型。通称『小さなシリウス座』だった。

 

 城に突入する前にシリウスがスリングショットで放ったのは、このVSA-SC1型を小さくしたものだった。

 スリングショットで成層圏にまで飛ばせたのは、射出する瞬間に『伸縮自在(アトミックディスタンス)』によってゴム部分を急激に小さくしたのと、空気抵抗を無くすために射線上の空気を魔法でどかしていた賜である。

 

 取り付けられている術式で構築されているエンジン部分は、本来宇宙へと飛び出せる代物だった。

 しかし、シリウスが低コストで成層圏まで飛ばせる他、カレンという便利な運び屋、もといテレポーターがいる為、その用途で使われることはない。

 これは()()()()()()()()()使()()()()

 

 そう、この兵器は巨大な質量を敵に叩きつける為のものだった。

 本来は直径一キロメートルもある鉄の塊を、シリウスの『伸縮自在(アトミックディスタンス)』によって用途ごとに縮めることにより、破壊の範囲規模のコントロールが可能であった。

 

 ヴァルキュリア家がこういった物を開発したのは理由があった。

 彼らはもう、シリウスに世界遺産を武器として利用させたくなかったのだ。

 

 ……それは、切実な願いだった。

 東の都とそこにいる人々を守る為とはいえ、二千年もの歴史と三〇〇メートルある巨大建造物を武器として利用するのは、常識的に考えてありえないことである。

 

 功績も大きいとはいえ、シリウスに対して批難するものを宥めるのには相当の苦労があった。

 シリウスに大きな愛情を持っているカレンでさえも、「もう無理マジしんどい」と腹を抱えベッドに突っ伏す始末である。

 

 そこで彼らは、このVSA-SC1型を作った。

 人の手に余る巨大な敵を、シリウスに倒させるために。

 

 それをシリウスが持つことが許されたのは、一流冒険者として多くの人々から信用されていたからだ。

 決して私利私欲で力を振るう人間ではなく、人々を守る為に力を行使する人間であると。

 VSA-SC1型を使う姿を見て、人々はシリウスとVSA-SC1型を『小さなシリウス座』と呼び称賛した。これは人々の信用の、何よりの証拠だろう。

 

 ヴァルキュリア城の中でシリウスが手を上げて信号を送ると、二つのVSA-SC1型が反応し地上へと落ちていく。

 音速を超えて、空気を突き抜けて、摩擦による光熱を帯びながら。

 迷うことなく目標に目掛けて真っ直ぐに落ちていき――――瞬く間に着弾した。

 

「――――ッ!?」

 

 マサルは叫ぶ暇もなく、熱の塊と化したVSA-SC1型-Aに圧殺された。

 追撃するようにもう一つのVSA-SC1型-Bが降り注ぐ。

 こちらはVSA-SC1型-Aの被害を一点に集中させる為の機構を備えてられていた。

 

 結果、周りに飛び散ろうとしていた衝撃が、マサルの肉体一点に収束される。

 細胞は溶け落ち、再生する肉片すらも残らず、その肉体は蒸発しながら押しつぶされた。

 

 シリウスの使える最大級の質量質量を持って、マサルという人間はこの世から姿を消される。

 それは、まともな人間なら目視するのも難しい、刹那の時間の出来事だった。

 

 一人の人間をこの世から消したVSA-SC1型は、地中奥深くまで沈んでようやく進行を止める。

 

「随分とありえない夢想に取り憑かれた(ロマンチストな)だったな。暴力で世界を思い通りにできるだなんて、できっこないのに」

 

 最後に一つだけ皮肉を呟いて毒気を吐き出すシリウス。

 大きく深呼吸をすると、自分の胸に縁を描き、手を合わせて拝む。

 

「私が裁き、私が葬った憐れな魂。故に、これ以上の罰は過剰。我らが英雄よ、どうか罪多き魂達に安らぎあれ」

 

 シリウスは死んでいった罪人達を慈しみ、城の外へと走り出す。

 

「我らが英雄よ。どうか無辜の民に命あれ。健康あれ。救いあれ……!」

 

 今回の事件で、被害者が出ていないことを祈りながら。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 重い足を持ち上げて、必死に走る。

 けれど朝から何も食べず、夜までぶっ通しで戦っていた為か、身体から力が出ない。

 

 けど、弱音なんて吐けない。

 今回の大将首らしいマサル伯爵は確実に殺したが、巨怪人や終末教の過激派シンパ達がまだ暴れていたら大変だ。

 ミスターアフロマン? ジョンならあの後速攻で片付けてると思うからそこは心配ない。

 

 今の魔法じゃ巨怪人を元の人間に戻せないのは悔しい。

 けれど、これ以上の被害者を出さない為にも、僕ができることはしなければならない。

 

「あ、シリウス君! そっち終わりました~?」

 

 廊下を走っていると、どこからともなカレンが現れた。

 

 あんな大怪我だったのにもう歩けるところを見ると、どうやら衛生兵が頑張ってくれたらしい。

 とはいえ、あんな大怪我をしているのに歩き回るのはご法度のはずだ。

 

 僕は背中を壁に預けると、息を吸って大声を上げる。

 

「こっちはもう終わったけど、カレンは安静にしてなくちゃ駄目だろ!」

「いやー、早く報告してあげたほうがシリウス君も喜ぶと思いまして」

「……何が?」

 

 僕が首を傾げると、カレンは得意げに

 

「一応今回のテロ、収束はした感じです。警戒は緩められませんけど。騎士に死者はゼロ。怪我人も多くて大変みたいですけど、数週間リハビリすれば復帰できそうですね。民間人にも被害者も何人か出てますが、大した怪我をしている人はいないみたいです」

「そっか……そっかぁ」

「シリウス君!?」

 

 報告を聞いて、思わず足から力が抜けてしまい、壁をズルズルと滑り落ちてしまった。

 今回の事件で、最も最良の結果に違いない。

 ヴァルキュリア家の騎士や兵士達が、とても優秀で本当に良かった。

 

「なんでも無い。腰が抜けたってやつかも」

「まったくもう……あ、そういえば」

「ん?」

「時の原理界法器ってどうなりました?」

 

 ……………………どうなったっけ?

 

「シリウス君? 汗がすごいですよ。シリウス君? シリウスくーん!?」

 

 最後の力を出して来た道を走って戻る。

 ホールへ辿り着くと、すぐさま穴に飛び込んでVSA-SC1型を持ち上げる。

 

 その下には、砕け散った時の原理界法器の無惨な姿があった。

 

 ……これ、いくらするんだろうなぁ。

 

「わー、斧とか突き刺さったり、穴があったりと酷いですねー……ってシリウス君!? なんでそんな所で睡眠を!? いや気絶かこれ! 衛生兵! 衛生兵ー!!」

 

 僕は意識を失った。




 この世界でもシリウスという星は、二つ重なって光っています。
 これをシリウス座と呼んでいる人々もいるらしいです。

 ご愛読いただきありがとうございます。
 高評価感想など頂けると作者のモチベーションが上がります。
 お気に入り登録もあわせてよろしくお願いします。

4/25 第十三話の結界の描写に矛盾点があったので改稿しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。