一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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最終話 揺るがないアイデンティティ

 どうも、カレン・ミルスです。

 

 あれから一週間。城下町とか被害にあった地域の復興は、着々と進んでいます。

 建物だけならそろそろって感じなんですが、それ以外の補填作業が大変だとかオリビアさんが愚痴ってました。

 

 あの後、ミスターアフロマンは都に搬送されました。

 何でも、記憶を読み取る装置があるとのことで、知ってることは全部吐き出させるようです。

 ミスターアフロマンを王国の兵士に引き渡していたジョン君は、こう言ってました。

 

「それだけじゃなくて、記憶を埋め込んだりすることもできるらしいぞ。」

 

 とか言ってました。げに恐ろしきかな。

 それに加えて、最初の血糖の時のことを謝られました。

 別にそんなこと、気にする必要とか無いんですけどね。

 

 ああ、そういえば原理界法器という兵器を壊したことは、壊れた現物があるなら修復できるからセーフって感じだそうです

 

 ちなみに、私とシリウス君で二〇〇メートルの巨怪人にぶっ刺した世界文化遺産――――まあただの東京タワーなんですけど――――は、もう修復とかそういう話ではなく、巨怪人にぶっ刺さって取り出すのもあれだし、逆に新しく作ったほうが早いぐらいとか言われてたらしいです。

 

 まあ負債が増えることもなく、悪者倒してめでたしめでたし……ってわけにもいかないらしく。

 なんだか最近、オリビアさんがシリウス君によそよそしいんですよね。

 

 察するに、英雄(ひでお)君とシリウス君の顔がクリソツだった件で何かあったと見ました。

 

 え? 英雄(ひでお)君が誰かって?

 私の前世の友人である渡辺英雄(ひでお)君ですよ。聖書では名前がひっくり返って、英雄(えいゆう)渡辺とか言われてる。

 

 いやあ、前世の友人が英雄(えいゆう)として祀られてるのはびっくりしましたね。

 入院ばっかりの私に、毎日のようにお見舞いに来てくれるいい子でした。

 私が死んだ後、何やら聖書の中の出来事が起きたようですけど……あれ? この話、私言ってない?

 

 じゃあ私がシリウス君に近づいた理由が、英雄(ひでお)君と顔がそっくりで、能力も似てるからだとか、一緒にいれば前世で私が死んだ後の詳細がわかりそうだったからとか、そういう話も?

 ……してない。はい。そうでしたか。反省。

 

 まあそれらはさておき!

 シリウス君とオリビアさんの話をこっそり聞き耳立ててきまーす!

 私の直感が、絶対おもしろいやつって言ってるんですもん!!

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 月が微笑んでいるような夜、僕はオリビアに「大事な話があります」と呼び出されて、執務室に訪れていた。

 原理界法器に関しては国からもお咎めなしとのことだし、もしかしたらと少し浮かれているところもあったのは、残念ながら否定しようがなかった。

 

 大きな窓の縁にオリビアが座っており、月明かりが彼女を彩るように照らしている。

 それは見るものを魅了させる、なんともまあ画になる光景だった。

 

「大事な話って?」

「…………」

 

 けれどもオリビアは浮かない顔でうつむくばかりで、その口を開くのは難しそうだ。

 かといって、ずっとこうしているのも仕方がない。昔のノリで、僕も窓の縁に座ってオリビアに向き合うことにした。

 

「なつかしいね。昔は窓の縁に座ったら、シャーロットに怒られたっけ」

「……そうね」

 

 あ、乗ってきた。

 

「でも、先代――――私の父親からは、怒られたことがなかったわね」

「そうだね」

「あれは……あなたが、特別だったからよ」

 

 ……あー、そういう話か。

 

 僕としては至極どうでもよかったのだけど、オリビアがあんまりにも真面目な顔で言うものだから、茶化さず真面目に聞くことにした。

 

「……僕が、英雄渡辺のクローンって話?」

 

 僕の問いかけに、オリビアは静かに頷いた。

 

「……そう。英雄渡辺を復活させる国家プロジェクトで、シリウスは作られたの」

 

 オリビアの声は、僕が聞いたこともない重苦しいものだった。

 

「本来であれば、あなたの体に英雄渡辺の魂を上書きする予定だった……けれど、二千年も昔の遺体にこびりついていた魂は、切り離してしまえば今にも壊れそうだということがわかり、計画は頓挫されたの」

「つまり、僕はその計画による副産物の一つってこと?」

 

 僕の問いかけに、オリビアは今にも泣きそうな顔で睨みつけてくる。

 

「そんな、そんなこと、言わないでよ」

 

 ……どうやら、僕は軽率な発言をしてしまったらしい。

 

 おそらく、僕の問いかけは事実だったのだろう。

 けどオリビアは、僕がモノ扱いされていることを、肯定なんてしたくなかったんだ。

 

 矛盾した感情が、きっと彼女の旨を締め付けているんだろう。

 まさか僕の出生のことで、オリビアがここまで苦しんでいるとは思っていなかった。

 

「……ごめん。軽率な発言だった」

 

 僕が謝ると、オリビアははっとした顔で僕を見てくる。

 

「……違う。違うのシリウス! 私、あなたに謝らせたかったんじゃないの! 全部、全部ヴァルキュリア家の罪なのよ!」

 

 とうとうその目から涙をこぼし、迷子になってしまった子供のように泣き出してしまうオリビア。

 まるで、苦しみを吐き出しているようにも見えて、対面している僕のほうが辛くなってしまう。

 

 ここまで感情的になるオリビアを見るのはあまりないことだ。

 最近だと、マサル卿に泣かされた時ぐらいか。

 

「オリビア、言いたくないことなら、無理に言う必要はないよ」

 

 僕がそう言ってオリビアの涙をハンカチで拭っても、彼女は首を横に振った。

 

「……でも、言わなくちゃ。今回あなたが狙われた理由の一つでもあるんだから」

 

 狙われた? 僕が?

 

 そういえば、ミスターアフロマンは僕に対し、殺傷能力の高い怪巨人や魔物を仕向けてこなかった。

 マサル卿を含め、今回言葉を話せる敵は大体僕を煽って冷静な判断を奪うことに徹していた気がする。

 

 ……あれは僕の術式を乱す魂胆だったのではなく、力を無理に消費させて手っ取り早く捕まえようとしていただけなのかもしれない。

 

 僕が、英雄渡辺のクローンだから。

 

「私の先祖は、地位を欲して国に聖なる遺体を持ちかけた。 自分のエゴの為に。

 ……その為にヴァルキュリア家は、何代もかけてあなたを作り上げた。

 でも魂の上書きはできなくなって、廃棄処分だったあなたを、ヴァルキュリア家の決戦兵器として運用しようとしたのが――――私の父親なのよ!」

「オリビア。落ち着いて、オリビア」

 

 今にも崩れ落ちそうなオリビア。

 僕はその肩を掴み、声をかけようとするが、それを跳ね除けるような大きな声でオリビアは叫んだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 ――――何だって?

 

「私達が孤児院で出会ったあの日、父は私達を恋仲にして結婚させようと画策しようとしたの。ヴァルキュリア家に、英雄渡辺の血を取り入れる為に!」

 

 優秀な血を家に取り入れる為に結婚させるというのは、まあよくある話だ。

 それが英雄渡辺の血であれば、力の継承云々の前に欲しがるのもよく分かる。

 

 確かに、オリビアの父は僕に寛容だったし、とても協力的だった。

 

 どうやったらオリビアと結婚できるだろうと、「冒険者として大きな功績を残せば、貴族と結婚できるかも知れない」と冒険者の先輩を紹介してくれたのは、オリビアの父だった。

 そして冒険者になろうと決意した僕に、「冒険者活動を支援させてくれ」と提案してきたのも、オリビアの父だった。

 

 これらの行動を、僕はてっきりオリビアとの関係を純粋に応援してくれているからだと思っていた。

 まさかそんな裏があるとは、考えてもいなかった。

 

「……つまり、壮大なお見合いってこと?」

「そんな簡単な問題じゃないの! シリウスのことを、自分の駒としてしか扱っていない、最低最悪な男なのよ!」

 

 ……それはまあ、別にいいんじゃないか?

 

 かなりの額を僕に多額のお金を費やしているんだから、それぐらいのメリットを求めてもバチはあたらないんじゃないか?

 いや、さすがに自分の遺体を勝手にクローンを生成する為の素材にされたら、さすがに英雄渡辺も怒ったりするのだろうか……?

 

 僕としては何の不満もないのだけど、オリビアはそういった倫理観を気にしているのだろう。

 

 確かに僕の出生は、法で禁止されてるような行いだけど、それは国家プロジェクトだという。

 国が認めちゃってたら、もう僕としては何も言えない。

 

 ましてやプロジェクト自体は失敗したのに、その産物である僕を生かしてくれているだけ温情と言える。感謝しか無い。

 

 なんだろうな。

 すごい秘密とか明かされているんだけど、納得以外の感情が湧き上がらない。

 

「僕は、オリビアと引き合わせてくれた先代ご当主には、感謝してるよ」

 

 それが僕にとっての真実。

 

「でも私は、あなたの命を弄んでいたクソ親父が許せない」

 

 それがオリビアにとっての真実。

 

「……あなたは誰にだって、別け隔てなく優しい。でも、自分の命が弄ばれたなら、嫌だって叫ぶべきなのよ。だから、あなたが怒らないのであれば、私が怒るわ」

 

 そう言ってくれるのは嬉しい。

 嬉しいんだけど、それだとオリビアの行動には矛盾が生じる。

 

「だったら、どうして僕を奴隷にしたの?」

 

 確かにヴァルキュリア家に隷属することになったとしても、扱いはいいし給料もいい。

 休日に遊びに出かける自由だってある。

 

 けれども、人権は奴隷の所持者が保有している。

 それは、彼女の言う命を弄ぶことにはならないのだろうか?

 

「確かに、あなたに隷属するように持ちかけた時の理由以外にも、もう一つあるわ」

「それは?」

「あなたを幸せにする為よ」

 

 ……おっと、想定外の所にボールが飛んできた。

 

「あなたを生み出したヴァルキュリア家には、あなたを幸せにする義務があるのよ」

「先代ご当主がそんなことを?」

「私が決めた新たな義務だけど?」

 

 もしかして僕、ビッグな感情を殴りつけられていないか?

 

「でも……あなたの出生の秘密を、死んだ父の遺言で聞かされていたときには、国家プロジェクトから情報が漏洩していた。終末教が、あなたを狙おうと画策していたの。

 ――――だから、あなたを私の目の届く所に置いておく為に、隷属させたのよ」

 

 そう言われると、ミスターアフロマンの行動にもますます納得ができるというものだ。

 普通、僕一人を相手にするだなんて、自殺行為にもほどがある。

 

「そっか。教えてくれてありがとう」

「……ええ」

 

 どこか憂いた顔で、僕の言葉に頷くオリビア。

 

「じゃあ、これからもよろしく」

「ええ……え?」

「え?」

 

 何故か、オリビアが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 そんなおかしなことを言ったつもりはないんだけどな……。

 

「そこは、もっとこう……私の庇護とか必要ないとか、失望したとかで、出ていくんじゃないの!?」

「出ていってほしいの?」

「そんなわけないじゃない!」

「だったらいいじゃないか」

「何も良くないわよ!」

 

 げ、解せない。

 スポンサーがなきゃ僕らの冒険は厳しいし、奴隷の身で逃げ出したら世間体が怖いし、そして何より心情的にオリビアのそばから離れるつもりはない。

 

「こんなにも傷ついてるオリビアのことを、僕が放っておけるわけ無いだろ」

 

 彼女は大きくなっていくに連れ、次期当主としてふさわしい振る舞いを取るようになった。

 

 誰にもバカにされないように、家の誇りに傷がつかないように、彼女は気丈に振る舞い続けてきたのだ。

 

 英雄渡辺のクローンだなんていう、オリビアにとっては最低な行いをした家だ。

 それでも無辜の民が道標を失わぬように、彼女は先代ご当主の死後にその座を継いだ。

 

 きっと、理想と現実との違いに、葛藤し続けた日々だっただろう。

 それでも彼女は、今日という日までやり遂げた。

 

 でも、それでも限界は来ていて、最近のオリビアは自分を隠すことが下手になった。

 あの日、僕に僕の出生の秘密が知られたあの日から、彼女はそういった不調が続いていた。

 

 こうして僕にその秘密を完全に言い放ったのは、そういった弱い自分と決着をつける為でもあるのかも知れない。

 

 でも、そんな想い人を、一人にするような男はいないだろう?

 

「……本当、あなたは自分の為にもっと怒りなさいよ」

「でも、オリビアが僕の分まで怒ってくれるんだろう?」

「バカ」

 

 そう言って泣き出してしまうオリビアに、僕はまたハンカチで涙を拭う。

 

「大丈夫。きっとまたいつか旅立ってしまうと思うけど、またオリビアが背伸びができるようになるぐらいまでは一緒にいるよ」

「ありがとう……ん?」

 

 僕の宣言に、オリビアは涙ではなく汗をかき始める。

 表情から察するに、これは冷や汗というやつだ。

 

「……ねえ、シリウス。あなた、もしかして私の足のこと、知ってるの?」

「あっ」

「『あっ』って言った! 今『あっ』って言った!!」

 

 20センチの厚底ブーツ履いてたのは知ってたよ。

 奴隷一日目の朝にしっかりとこの目で見ちゃったからね。

 

「なんとなく言ってみただけなんだけど、何かあったの?」

「いや、それは、その……なんでもないわ」

 

 でも僕は、言及することはしなかった。

 

 それだって彼女が他人に見られたくない一面なのだろう。

 なら僕は、その仮面を剥がさないようにしなくちゃいけない。

 

 だって、それもオリビアの魅力の一つなんだから。

 

 あ、そうだ。肝心なことを聞いておかないと。

 

「……一つ、質問いいかな?」

「何かしら?」

「僕と初めに会った時の会話って、あれはオリビアの言葉?」

「……初めて会った時?」

 

 不思議そうに首をかしげるオリビア。

 けれど、僕にとって重要なんだということがわかると、オリビアはちゃんと答えてくれた。

 

「ええ、そうよ。あの時は、シリウスのことなんて何も聞かされてなかったもの」

「そっか」

 

 それは良かった。

 別に、あれが虚飾によって作られたものだったとしても構わない。

 僕がそれに救われたのは、本当のことだったんだから。

 

 でもそんなものは杞憂は不要だったらしい。

 あれは、オリビアの心からの言葉だったのだ。

 

「ああ――――やっぱり僕、オリビアのことが好きだな」

「ふぇ!?」

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 それは、ほんのちょっと昔の話。

 まだシリウスに名前がない頃、彼は孤児院にある木の下で泣いていました。

 

 彼は自分が何者かを知りませんでした。

 親の記憶や、自分の名前さえわかりません。

 

 まだ小さな彼にとって、自分が何者かである記憶が無い。

 その事実は、酷く心が凍えてしまう程に悲しい出来事だったのです。

 

 彼は自分が何者なのか教えて欲しいと、木の前に祈り続けました。

 それさえ知ることができれば、きっと自分は立ち上がれるだろうと思ったのです。

 

 けれど、ある寒空の日のこと。

 

「――――ねえ、起きて。起きてってば。こんな所で寝てたら、風邪をひいちゃうわよ」

 

 泣きつかれて眠ってしまった少年を、必死に呼びかける声が聞こえてきたのです。

 少年がまぶたを開くと、今まで見たこともない、綺麗で可愛らしい少女がいました。

 

 少年から見れば、少女は金髪の頭に太陽を冠にしているように見えたので、「きっと、どこかの国のお姫様なんだろうな」と、少年は心の中で納得していました。

 

「私、オリビア・ヴァルキュリア! あなたのお名前は?」

 

 少女――――オリビアがそう聞いても、少年には答えられませんでした。

 なぜなら、少年には名前がなかったのです。

 

 孤児院の人達が考えてくれた名前もありましたが、どれもこれも自分の名前だと納得できるものではありません。

 

 自分には記憶がなくて、だから名前もないのだと、少年は伝えました。

 

「それじゃあ私が考えてあげる」

 

 その言葉に少年が戸惑いましたが、オリビアは気にせず話を進めていきます。

 

「髪がもふもふして犬みたいだから、おおいぬ座の一番かっこいい二つの星からとって……シリウス! どう? 気に入った?」

 

 少年は正直、伸ばしっぱなしでボサボサの長い髪を、自分の特徴だとされたのが気に入りませんでしたが、名前の響きはかっこいいのでとりあえず頷きました。

 

「それじゃあよろしく、シリウス! これで私達、お友達になれるわね」

 

 少年は驚きました。

 自分と友達になりたいから、名前を考えたのだと言われたことに。

 

 そんなことを言った彼女の笑顔が、あまりにも眩しくて。

 その光景は、少年――――シリウスの瞳に、黒く刻みつけられました。

 

「うん、よろしく、オリビア」

 

 二人は握手をしました。

 友だちになる握手です。

 

(僕の名前はシリウス。オリビアの友達の、シリウスだ)

 

 自分が何者なのかをわかったシリウスは、心からの笑顔を彼女に浮かべることができました。

 

 この寒空の下でも、熱いと感じられる程激しく胸打つ鼓動。

 脳裏に写真のように刻まれたオリビアの姿を思い返す度、心が跳ね上がってしまう。

 

 シリウスがこの現象を、恋や愛であることを知るのは――――まだ、少し先のお話。

 

The END




 最後までご愛読いただきありがとうございます。
 評価感想など頂けると、作者の次回作への参考になりますので、何卒宜しくお願いします。
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