一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして 作:月崎海舟
どうも。カレン・ミルスです。
私は今、ヴァルキュリア城の訓練場のど真ん中にある闘技場の上に立っていた。
……お金貰えると思って食いついた模擬戦ですが、なんだか大事になってきちゃったんですよね。
「がんばれよジョーン!」
「いいところ見せてくれー!」
「負けても怒らないからがんばれよな」
やいのやいのと兵士や使用人達が集まり、私達に好き勝手に野次を飛ばす。
先程巡回している兵士が羨ましそうに見てきたので、全員が集まってるわけじゃないんでしょうけど。
……何やら今回の模擬戦とか見世物のようになってきてるんですけど、この方達こういうコト頻繁にやってるんでしょうか?
「カレンさんやっちゃってください!」
「マジモンのカレンって足長くない?」
「ジョン様の顔だけは傷つけないでください!!」
こうしてみると女性の雇用率も割と高いのが見受けられます。
会った覚えのない方でしょうけど、応援されるのは素直に嬉しいです。
こういうのはどっちもノリです。空気に飲まれたほうが勝ちなパターンだと思います。
……というか、ジョン君の野次の押しが強いですねこれ。
まあ赤縁眼鏡のオールバックな男前騎士とか、そりゃあかっこいいでしょうけど。
「……すまない。こんな大事にする気はなかったんだ」
私の正面から二〇メートル先の地点には、槍を携えたジョン君が頭を抱えていた。
雇用問題に口を出したら大勢の前でバトルしろとか、普通は考えないでしょうしね。
……考えないですよね普通? ジョン君も戸惑ってるし、割と普通の考えですよねこれ?
今回は喧嘩をふっかけられた形ですが、正直に行ってしまうと私は彼に同情している。
忠誠心が高い故の暴走でしょう。若気の至りとも言うかもしれませんね。
「別に構いませんよ。初日からボーナス貰えるんですし」
「……待て。俺に勝つことを前提で話を進めていないか」
「え? そりゃあ負ける気で戦うやつはいませんよ」
おかしなことを言う人ですねぇ、と私は笑い飛ばす。
負けそうな勝負とか請け負う義理とか無いですし。
ああ、でも今の私はオリビアさんの奴隷ですし、そういうの関係なくどっちにしろやらないといけなかったんでしょうけど。
「お前、さては俺のこと舐めてるな?」
「お互い様では?」
同情はしてますがそれはそれ。
急にシャシャリでてきて「こいつ信用できませんよ!」的なこと言われたら、そりゃ誰だって怒る。
「お前を可愛そうだとは思わないことにした」
いやあ、若いですね。私と
でもそういうことなら、私も言葉で殴ろうっと。
「私四センチヒール履いてるんですけど、それ差し引いてもジョン君の方が身長低くないですか?」
「俺は一七五センチあるが!?」
「やり~! 私は一七七センチでーす! まずは私の一勝ですね!」
「身長の長さ比べなんて勝負無いが!?」
こういうのは相手の冷静さを奪ったもの勝ちです。
ジョン君のツッコミには一歩引いた冷静さが足りない。これは私が勝ちましたね!
私が勝利を確信していると、聞き覚えのある声が大きくなって聞こえてきた。
『さあ、始まってまいりました緊急模擬戦。実況はこの僕、シリウス・ウェザーコールド』
『解説は私、オリビア・ヴァルキュリアでお送りします』
マージで何やってるんですかね!?
声のする方を振り向けば、『実況』と『解説』と書かれた立て札を机に置き、シリウス君とオリビアさんが隣同士で座っている。
しかも二人共、グラサンをかけてすごいノリノリだ……! 実況と解説するのに、グラサンするの邪魔じゃないですか!?
野次達は待ってましたと言わんばかりの盛り上がり。
私か? 私がおかしいんですかこれ???
「諦めろ。あの二人はこういうの大好きなんだ……」
ため息とともに、怒りが抜けていくジョン君。
不味い。あまりの光景に、冷静さを取り戻している……!
この勝負、どうなるかわからなくなってきました。
いやまあ、私は負けるわけにはいかないので、絶対勝ちますけど。
『では今回の模擬戦のルールの確認からいきましょう。まず殺しはダメです』
『我がヴァルキュリア家の戦力を減らした者には罰を与えますので、その辺りをご留意ください』
罰って言いましたよあのお嬢様。
絶対罰ゲームとかかわいいもんじゃないですよ。
私がトイレで詰め寄られた時、「お金ならあるからシリウスの想い人を教えて下さい!」と噎び泣いていた少女と同一人物には思えなかった。
まあ教えませんでしたけど。隷属契約するより前に、相棒であるシリウス君と言わないって約束してましたし。
『その為、今回刃のある武器は全て潰してあるのですが……殺傷性がなければ、武器は何でも持ち込みOKというのは、一体どういうことなのでしょうか?』
『今回はカレンさんの性能テストでもありますからね。十全を発揮できるように、使える武器はなんでも許します』
『殺傷性のあるものに関しては、事前に僕がチェックしてありますので、皆様ご安心を』
あ、これ下手したら私勝っても解雇させられるかもしれない。
多分オリビアさんはシリウス君と二人きりがいいだろうし、あの迷惑料の要求はシリウス君をこの地に留めておくための枷なのは明白。
そのどちらの点をもってしても、私という存在は邪魔でしかない。
……有無を言わせぬ勝利で有用性アピールしないと、私としては不味いのかも。
どっちにしろ模擬戦はやらされてたと思いますが、安請け合いしたのは軽率でしたかね……?
『そして、魔法に
『
私は七歳の頃、七日間も熱で寝込んで瞬間移動という超能力に覚醒しました。強いです。
自然と身につくのが
大体はこんな認識で問題ないです。
二人の方を見ていると、オリビアさんが灰でゴングを作り上げていた。
……え? それ鳴るんです?
『動かなくなるか闘技場から落ちてしまった方の負けとなります。このゴングが鳴ったら開始しますので、両者構えてください』
鳴るんだ……。
私はどんな魔法を使ってるんだろうと素直に感心しながら、ジョン君と一緒に構えた。
ジョン君はその槍を、私は拳を。
カーン!
構えを取るや否や、オリビアさんがゴングが鳴らす。
「行くぞ――――!」
次の瞬間、床が爆発したかと思えば、目の前に槍を突き刺そうとするジョンの姿が目に映った。
灰でできた床はめちゃくちゃ硬いし、私達の距離は二〇メートルありましたよね!? 踏み込みでそこまで破壊します!?
私はすぐさま瞬間移動で背後を取る。
ハッハッハ! このまま魔法で肉体強化した自慢の脚で、場外まで蹴り飛ばしてやりますよ!
と思いきや、私が瞬間移動してくる地点の数メートル先の地点にいた。
おかしい。私の移動って瞬間では? 瞬く間と書いて瞬間では? どんだけ速いんですあの人? 何で私が追いつけていないんですかね?
「逃げるなよ」
「なら当ててみてくださいよ~だ!」
「ならそのとおりに」
刺突の嵐が繰り出される。反応して避けるのが精一杯の鋭い槍捌き。
私が瞬間移動で避けても、私の視線等を元に居場所を割り出して攻撃を繰り出してくる。
こんな器用な真似ができるのシリウス君ぐらいだと思ってたんですけど、まさか二人もいると思わなかったんですが!?
『おおっと! ジョンが畳み掛ける! 早い早い! その素早さ稲妻の如し!』
『何でジョンの攻撃を避けられてるのかしらあの子……』
『瞬間移動で避けてるんでしょうね』
『ジョンの刺突は亜音速と言われる程よ。それに反応できるあの子何よ?』
『勘ですね』
『勘!?』
『ここにいる兵士達もわかると思いますが、戦闘経験から導き出される勘というのは凄まじいものがあります。僕も何度も助けられてきました』
『へえ、そうなの。私は蹂躙して終わりだから、そこらへんわからないわね』
『……まず敵が近寄れないもんね。オリビアの場合は』
実況と解説が逆転してますよお二人さん。それと
……などと、ツッコミをいれる余裕は私にはない!
『ところでカレンさん、瞬間移動を連続で使ってますけど、何回あたりが限界なのかしら』
『最高記録は一二五回ですね』
「嘘だろ!?」
解説を聞いて愕然とするジョン君。
ははーん、私の体力切れ狙ってましたね?
まあ動きにもなれてきましたし、こっちも仕掛けるとしますかね。
私は不安を払うように、不敵に笑ってみせた。
ジョンは槍を振るいながら焦っていた。
瞬間移動で回避しているのはわかっている。視線でその先も予測できる。
だが、こちらの攻撃はかすりもしない。
さらには、段々と瞬間移動を使わず、ただ歩いて避ける回数も増えてきた。
まるで枝からこぼれ落ちる木の葉を相手にしているかのようだった。
「――――そこですか」
刺突をくぐり抜け、ジョンの懐に潜り込むカレン。
その手には刃の潰れた小型ナイフが握られていた。
槍を振るいたくても振るうことができない距離から、カレンはナイフを突き出した。
その動きは、実に見事だとジョンも感服するばかりだ。
(で、勝てたと思うわけか?)
ジョンはナイフを気にも止めず一歩踏み出し、その硬い頭をカレンの顔面に叩きつける。
『おおっと!? ジョン選手、ナイフをもろともせずに頭突きを繰り出したー!』
『別に刃を潰されたナイフでさされても意味がありませんからね。ここはジョンの判断速度が一歩上手だったわね』
想定外の攻撃によろけそうになるカレンだったが、すぐさま瞬間移動で懐から離脱する。
「逃げ場は非ず――――!」
ジョンは魔法で槍に風を纏わせ、辺り一面を薙ぎ払う。
その動作が術式の一つだったのだろう。闘技場を覆うように、一つの竜巻が誕生した。
安全地帯と呼べるのは、台風の目と呼べるその中心――――ジョンが待ち構える場所だけ。
『範囲攻撃。この流れはカレンさんにとっても痛いながれなんじゃないかしら?』
『そうですね。転移する場所がどこであろうと、当たれば問題ない。例え視線で捉えていなくても、次の瞬間移動の予測地点が絞られてくる』
ジョンとシリウスが空を見上げると、そこにはカレンが落ちてくる姿があった。
「女の子を追い詰めて楽しいですかね!」
「模擬戦で言うセリフじゃないな!」
カレンが懐から小型ナイフを雨あられのごとく投げつけるが、ジョンはそれら全てを大した労力もなく避けていく。
それはジョンの槍捌きから、カレンが避けてきた意趣返しであったのだろう。
カレンは目を丸くした。
「あれ? 勝っちゃった」
「は?」
空中を瞬間移動し続けるカレンをよく視れば、ジョンではなく別の何かを見ているらしい。
ジョンがその視線の先――――自分の足元を見ると、そこにはナイフで破壊された包みが複数あった。
(瞬間移動で物だけを俺の足元に!? 中身、中身は何だ――――!?)
とっさに離れようと竜巻を解除するジョン。
「えい」
「がっ!?」
だが、視界を外したスキを捉えられ、カレンに膝カックンされて押し倒された。
「風陣結界!」
横転しているスキにジョンを、カレンが魔法で動かした風でその周りを包み込む。
「この程度のそよ風――――がぁ!?」
立ち上がり魔法で薙ぎ払おうとするが、ジョンの目に強烈な痛みが走る。
涙が止まらず、意識がだんだんと優しい暗闇の中へと沈んでいく。
立ち上がろうとする手足から、段々と力が抜けていった。
とても魔法が使えるような状態ではなかった。
(こ、これは、これは、まさか――――!?)
その誘いを振り切れず、ジョンはその場に倒れ伏した。
シリウスがカウントを数えるが、十を数えても起き上がることはなかった。
『あの包の中身、何かしら?』
『催涙ガスと催眠ガスだね。風でそれらを逃さないように包み込んでる状態だ』
オリビアは自分が行った言葉を思い返す。
―――― 十全を発揮できるように、使える武器はなんでも許します。
『特にルール違反ではないわね。よって、勝者はカレン・ミルス!』
その言葉によって、観客から歓声が湧き上がる。
ヴァルキュリア家当主の決定は絶対である。
これはヴァルキュリア家に仕える物として、まず教わる基礎中の基礎。
よほどの功績が無ければ、意見するなど許されない。
それはそうと、面白い試合が見れたので得に不満とかはなかった。
『――――勝者はカレン・ミルス!』
……勝った?
なんか嫌な予感しますけど、まあご当主様がああ言ってますし、問題はないでしょう。バンザイ!
勝ったならさっさと解毒剤を渡してあげましょう。あれめっちゃ辛いですし。
ジョン君を取り囲む風を解除させて、ガスを空へと押し出して散らす。
「すいませんジョン君。勝つ為とはいえ、アウトローな戦法を――――」
突如として、ジョン君の槍の刺突が繰り出される。
背筋が凍る程の、殺意宿る一撃。
普段であれば、反応することもできたのかもしれない。
けれど今の私は、全部が終わったものだと勘違いし、完全に警戒を解いていた。
それを眼前にして、私が思えたのは一つだけ。
あ、これ死んだ――――
と思ったけど、デカいマシュマロが飛んで来てジョン君をぶっ飛ばした。
……いやぁ、こんなバカみたいな光景作れるの、私一人しか知らないんですよね。
チラリ、とマシュマロが飛んできたほうを見る。
「――――落ち着けよ、ジョン」
そこにはスリングショット*1に次のマシュマロを装填しているシリウスの姿があった。
私は瞬間移動で、そそくさとシリウス君の近くに移動する。
「ごめんなさいね。彼は意識を失っても戦ってしまうのよ」
オリビアさんが手を振るうと、闘技場が生き物のように形を変え、複数の触手で素早い動きのジョン君を拘束する。
……ああ、うん。これは蹂躙ですね間違いない。
「相変わらずオリビアの『
「ほ、褒めても何も出ませんよ。あなたの『
褒められてそっぽ向くオリビアさん。その顔が嬉しそうなのを私は見逃さなかった。
……うーん、本当にちょろそう。シリウス君が押し倒せば結婚できるのでは?
あ、唐突にルビのある単語が出てきましたけど、
みーんな違う能力なので、それぞれに名前をつけるわけですね。
少なくとも『
二年間相棒やってた私が言うんですから間違い有りませんよ。
ちなみに私のはルビとか付けてません。シンプル・イズ・ベスト。
……といいますか、オリビアさんの灰操作、あれも
他の魔法とかと組み合わせて使ってると思うんですけど、応用が効きそうですごいですね。
「まあ原子とか分子の距離をいじって、物を大きくしたり小さくしたりって、かなり頭おかしい性能してますよね」
「カレンさん、今なんて言いました?」
「イエ、ナニモー!」
「なら結構」
満足したように頷くオリビアさん。
……頭おかしいって表現が引っかかった感じですかね。気をつけなければ。
「ところでジョン君が寝ながら戦うってなんですか。魔法か何かで?」
「ジョンは昔から気絶すると、
あー、よく創作であるアレですね。
もう一人の自分的な。
まわりを見れば、異常は無かったかのように自分達の訓練や持ち場に戻っていく光景が目に入った。
……実際、なかったんでしょう。彼らにとっては、ジョン君が
うーん、まあ受け入れられているのであれば何より……?
「何で治そうとしないんですか? 危なすぎでは?」
「よほど命の危険とかが無いと発生しないし、ジョンが死にそうな時にはいつも助けられたからね」
「戦力的には消したくないのよね
「じゃあ何でそんな危険性能持ちだと、事前に教えてくれなかったんですかね!? 危うく死にかけましたよ!? 刃が潰れてもあれは死ぬレベルでしたからね!!」
「ごめんなさい。まさか催眠ガスとか催涙ガスとか使うと思わなかったから……」
「うぐっ」
シリウス君を奴隷にしたオリビアさんが人権を語るのはあれですが、ようは事故なのでこれ以上何もいえない。
というかあんな戦い方、公式の大会とかでしたらまず叩かれるので、そこを責められていないのが逆に痛い。
「まあそこは後でジョンに謝罪させるとして」
「いやそれはいいですよ! どっちかと言うと私が悪いんですし!」
「殺傷性無ければ何してもいいって言ったのは私だし……あっ、そうね。まず私が謝らないと」
「うおおおおお!? やめてください!! マジで私は何も怒ってませんので!!」
貴族。しかも公爵なんかに頭を下げられたら、心臓が保ちませんので!
私一般市民! オリビアさんは超絶偉い人!
その上今は私の人権を握っているご主人様って関係なんですから、気軽に頭を下げようとしないで欲しい。
本当色んな意味で怖いので……!
というか、ジョン君には私の方から謝罪しないといけないのでは?
ジョン君の意識が戻ったら、ちゃんと謝りに行くとしましょう……。
「そう? ならよかったのかしら……?」
釈然としない、どこか納得できないという様子のオリビアさん。
あー、なんとなくわかってきました。
これ嫌味でもなんでも無いですね。心から申し訳ないと思ってるから謝ろうとしたんですね。
……貴族にしては、ちょっと純真すぎでは?
「……コホン、それはそうと。今回の賞金はきちんと口座に振り込んでおきます。休みの日にでも確かめておいてください」
「わーい! ありがとうございます!」
まあいいや! 私にとってはいい人だし!!
私は振り向いて、背後で私達を眺めているシリウス君に声をかけた。
「やりましたねシリウス君! 今日一日で半年分払える額をゲットですよ!」
「一年分でしょ」
「やだなーシリウス君ってば! 二人で分ければ半年分ですよ!」
「えっ?」
「え?」
「は?」
本気で困惑しているシリウス君。
「いや、それはカレンのお金なんだから、カレンで使いみちを考えなよ」
「私一人だけ足抜けしても別に楽しくないので。もはや我々は一蓮托生ですから!」
「……ああ、そう。そっか」
頭を抱えるシリウス君。
けど私にはわかる。どこか嬉しそうだって。
「……まあ、こうなったカレンに何言っても無駄だしね。ありがたくいただこうかな」
「そうしましょうそうしましょう!」
いやあ、順調順調! この分だと自由の身になるのもすぐですね!
気分が有頂天のその時、後ろから誰かに肩を掴まれる。
「――――カレンさん、一緒にお風呂入らない? 汗、たくさん掻いたでしょう? 私が洗ってあげるわ」
……浮かれすぎて、オリビアさんが近くにいるのを忘れてました。
・シリウス・ウェザーコールド
実況と解説、共に楽しくやらせてもらっていた。
・オリビア・ヴァルキュリア
シリウスのことを考えているカレンの評価は高くはある。
・ジョン・アルスミス
久しぶりに暴走してショックを受けている。
早くカレンに謝罪したい。
・カレン・ミルス
次回、風呂に沈められませんかね私……?