一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして 作:月崎海舟
風呂に入る時、水着を着用するのは常識的である。
もし風呂に入っている時に、魔物の襲撃で防衛ラインが突破された場合、着替える時間一つで命取りになる。
水着の上に上着だけ羽織って避難するという場合も多々存在する。
では逃げるのではなく、人を守る騎士や魔物を狩る冒険者などには必要ないのではないか?
実際そのとおりなのだが、そんな戦う者達でも大浴場に入る際は水着を着用することも多い。
――――自分の裸見られるのは、誰だって恥ずかしいからね。
というわけで、現在僕は水着を着てヴァルキュリア城の風呂に浸かっていた。
一人で入浴する際はノー
「にしてもシリウス君も災難だね。奴隷になっちゃうだなんて」
「いえ、ヴァルキュリア家は奴隷でも待遇がいいので、運がいいと思って割り切りますよ。それとも、実は過酷な労働環境だったりするんですか?」
「セクハラして当主に解雇と罰金課せられたぐらい?」
「それは過酷な環境とは真逆では? もしかしてセクハラしたい願望があったりするので……?」
「そんなわけないだろ! 意地が悪いなシリウス君も!」
昔なじみの兵士や使用人達がいるので、話し相手には困らなかった。
僕を知らない人にも紹介をしてもらえたので、彼らの輪に馴染むのは割と早かった。
僕が大浴場に入りながら談話を楽しんでいると、
もちろん水着を着用しているし、何なら眼鏡も着用している。
シャンプーとかリンスを見分けるのに必要らしい。
ジョンが体を洗って風呂に入ってくると、僕の方から声をかける。
「やあジョン、元気?」
「……気分は最悪。模擬戦で
「不幸な事故だよ。しょうがない」
「……カレンさんには申し訳ないことをした。騎士として恥ずべき行為だ。死んでしまいたい」
戦線の際はかなり助かっている
ジョンにとっても相当堪えているらしく顔面蒼白となっている。
例え個人的にそりが合わない人間でも、そういうところを気にするジョンが僕は嫌いじゃないよ。
「ジョンのテンションが下がってどうするのさ。カレンもそんな気にしてないし、あれは油断したカレンも悪いよ」
「あれで死んでた可能性もあったんだ。あんな非道な行いをするとは、まずあちらも思わないだろう」
「でも実際は無かったんだ。後で謝りにいけば、カレンだって許してくれるさ」
「……許されるのか?」
「カレンは謝らないと根に持って僕が迷惑するんだ。謝ればちゃちゃっと忘れるから、僕のために謝って欲しい」
「……そうする」
深く頷くジョン。
こういう時に素直なのは、ジョンの美徳だと思う。
「そういえばシリウス」
「なにかなジョン?」
「お前、記憶はどうなった?」
……あー、その件か。
多分今の僕は、苦い顔をしているんだろうな。
「孤児院に来る前の記憶はさっぱり。何も思い出せない」
実は僕、記憶喪失だったりする。
十歳から前の記憶がさっぱりないのだ。
割と教養はあるので、そこそこ良い教育を受けれる環境だと勝手に思っている。
恐らく親が没落した貴族で、僕を養う余裕もなく手放したという感じなんだろう。
孤児院のマザー達も、十歳の僕が玄関前で眠っているのを発見しただけなので、僕の両親の顔を知るものは誰もいない。
オリビアと結婚する為に、地位や名誉が欲しくて冒険者になった。
けれど、先代ヴァルキュリア当主に『色々と体験することで何かを思い出すこともあるんじゃないか?』と言われたのも一因だったりする。
「そうか……まあ、思い出せばまず言うもんな。悪い」
「大丈夫大丈夫。全然気にしてないから」
そんな申し訳無さそうな顔をしないで欲しい。
別に思い出さなくてもいいんだよ。僕を捨てた人間のことなんて。
「僕にはオリビアがいれば十分だよ」
「うぇっ」
嘘偽りのない本音を言うと、ジョンは気持ち悪そうに舌を出す。
聞き飽きたってことなんだろうけど、地味に傷つく。
「……それ、本人の前で言ってやれよ」
「言ってるんだけどな……」
「……あー、そういやそうだったな」
僕は幼い頃から、オリビアのことを大切にしていると素直に気持ちを伝えてきた。
けれど何故か曲解されたりしてしまい、今現在の関係に至る。
多分僕が孤児院出身の人間だから、恋愛対象に無いのかもしれない。
「まず両思いだと思うんだがな……」
「何か言った?」
「……時間ならばたっぷりあるんだから、そう焦ることはないんじゃないか?」
「二十五年後まで、オリビアが独身だとは思えないからなぁ……」
手っ取り早く稼いで、奴隷の身から開放されなければならない。
オリビアに危険が及ぶのはまず許せないことだが、僕が稼ぎを多くするためには危険な犯罪者等から守ってボーナスを貰わなければならない。
かと言って護衛以外の仕事では、そう多くのボーナスを期待できない。
圧倒的矛盾。ジレンマを抱えざるを得ない。
「カレンみたいに僕に喧嘩売ってくれたりしない?」
「お前を信頼しないやつ、この城にいないよ」
「ありがたいなぁ!」
皆の優しさが、僕には経済的な意味で辛かった。
どうも、カレン・ミルスです。
現在オリビアさんに引っ張られて脱衣所にいるのですが……。
すごい、デカイ!
いやね、もうオリビアさんがフリルの付いた可愛らしいブラウスを脱いだらですよ。
砲弾とかと見間違うぐらいのドデカイ胸が飛び出してきたんですよ!
ああ、なんで砲弾かっていうと、黒い大人っぽいブラジャーしてたからですね。
いやあ、ブラジャー君あんな大きな胸を支えるとかかわいそう。あんな乳は服に対する虐待でしかないですよ。
用意してある水着も黒いビキニですし、黒色が好きなんですかね?
「何私の胸見てるのよあなた」
私の視線に気がついたのか、顔を赤くしてブラウスでサッと胸を隠すオリビアさん。
まずい。ちょっと見すぎたかもしれない。
「いやあ、すごい大きいものですから、つい」
「自分のがあるでしょ自分のが」
「オリビアさんのは一年前にぶっ刺した世界遺産より見る価値があるので……」
「そんなわけないでしょう!?」
私だって大きい自負はあるけど、あんなエロゲみたいな胸してないしな……。
何ていうのかな。私を巨乳というなら、オリビアさんはデカ乳なんですよね。
私だってGカップあるけど、オリビアさんはその倍ぐらいあるって言われてもおかしくないくらいですもん。
何食べたらあんなに大きくなるの? 貴族って皆あんなに乳がバカデカイんですか?
「じゃあ胸の大きさ教えてくれたら見るのやめます」
「う……っ!」
私の突然の提案に、狼狽えるオリビアさん。
……この人私が隷属してる側だって忘れてない? 大丈夫ですか?
「きゅ、きゅう……」
「ダウト。そのおっぱいで90センチレベルは無いでしょ」
「……Qカップ、です」
顔全体を真っ赤にして、恥ずかしそうに答えるオリビアさん。
……Qカップ? なにそれ、初めて聞いたんだけど。
そんな? そんな規格外おっぱいなのこれ?
「すいません。水着姿を写真で収めてもいいでしょうか?」
「何なの!? あなた精神おっさんなの!?」
「絶対売れると思うんですよ。新事業、どうです? 脚だって長いし、いけるのでは?」
「絶っっっ対やりません!!」
そう言うと、オリビアさんはストーンと落ちるように縮んだ。
足元まで隠している黒いティアードスカートが、床まで届くレベルになっているのが現実であると物語っている。
かといって、それ以外に変化はみられない。
Qカップおっぱいとか健在ですし、多分脚だけが短くなっているんでしょうねこれ。
……え? 何? どうしてオリビアさんが頭一つ分くらい縮むんですか?
オリビアさんの身長が私のおでこ無いくらいだったのが、今は私の胸ぐらいの位置に顔があるんですけど?
シリウス君が何かやらかしたんです?
でもシリウス君、頼まれても自分の能力で他人の身体的特徴とか変えないしな……。
何が起こっているか分からず混乱している私を前に、オリビアさんはしゃがんでスカートの中から何かを取り出した。
「……私、本当は146センチしかないんですよ」
そう言って私に見せてきたのは、黒い厚底ブーツ。
しかも、ヒールが20センチぐらいはありそうな代物だった。
今までスカートで隠れて分からなかったので、おしゃれというわけではないのだろう。
オリビアさんは自分の身長が、高いものであると誤魔化したかったのだ。
「な、なんでそのようなことを……!?」
「貴族社会はマウント社会。マウントを取らせない為に19センチかさ増しするのは当然よ」
「女の子がちっちゃいのはよくないですか!?」
「そこで隙を晒したら、栄養が乳にしかいかない女だって言われるのよ!!」
貴族社会、なんて恐ろしいマウント社会なんでしょう……!
いやまあ、私も身長177センチとかあるんで、昔はデカ女ってバカにされてたんですけどね。
胸も大きくなってからは、デカ雌牛とか言われてたっけ。
人間どこも同じですねあはは! ……うう、思い出したら涙出てきそう。
「……それに、私がこんなちんちくりんだって、シリウスには知られたくないのよ」
ぎゅっ、と厚底ブーツを抱きかかえるオリビアさん。
その姿は、好きな人に少しでも素敵だと思われたい一人の恋する乙女の姿だった。
……まあ、それはともかく。
「シリウス君には早く明かした方がいいですね」
「ど、どうして!?」
「夜で二人っきりの最終決戦する時に、露呈することが明らかだからです」
「ねえ! どうして!? どうしてそこまで話が飛んだのかしら!?」
「好きなんでしょう? シリウス君のことが」
「な、なぜそのことを……!?」
なんで気づかれないと思ってるんでしょうこの人。
態度見れば明らかにわかりますよ。
気がついてないのは、多分オリビアさんの態度を曲解しているシリウス君ぐらいのものです。
「トイレに呼び出して、お金出すからシリウス君の好きな人教えてって泣き咽ぶ人が嫌いなわけないじゃないですか」
「な、泣いてませんけど!?」
泣いてました。
まあ言うと押し問答になりそうなので言いませんが。
「このままではアンジャッシュになりかねません」
「あ、アンジャッシュ?」
「互いにすれ違ったまま進むということです!」
「語源なんなのそれ……?」
「とにかく、その乳で押し倒せばシリウス君なんてイチコロなんですよォッ! 既成事実を作っちゃえばゴールまっしぐらです!」
多分オリビアさんはシリウス君と一緒にいたくて隷属契約なんて持ち出したんですし、シリウス君は負い目があるから従わざるを得なかった。
でも! 二人がくっつけば、隷属とかから開放されて結婚! 皆ハッピーエンドでは!?
「――――だとしても」
その提案は、オリビアさんの酷く冷たい声で打ち砕かれた。
「それだけは絶対にしない」
赤い捕食者のような目が、私を睨みつける。
それだけで、私は動けなくなってしまう。
魔法や
単純に、触れてはいけない逆鱗に、私が触れてしまったという話だ。
「今回は私のスタンスを知らなかったので、あなたに罪は有りません。ですが、二度目はありませんので、心に留めておくように」
淡々と話してくるオリビアさんに、私はなんとか頷くことしかできなかった。
「では結構。さあ、お風呂に入る支度をしなくては」
その後、オリビアさんと私は水着に着替えたが、私はこのことが強烈過ぎて、その時のことをあまり深く覚えていない。
正直、惜しいことをしたと思います。
私――――オリビア・ヴァルキュリア専用の大浴場には、私とカレンさんの姿しかいない。
記憶だと従者に体を洗ってもらう、という人もいるらしいですが、私はシリウス以外に体を触らせたくなかったので自分で洗うようにしている。
ふと、隣で体を洗っているカレンさんをみる。
足はとても長く、体をよく動かしているためか無駄な肉はない。
体型も胸とお尻がでており、きちんとくびれができている。
そんな彼女が、青と城のしましま模様のビキニを着てその体を洗っている。
身長が大きすぎるのを差し引いても、女性が羨むような体型だ。
男性がこの光景を目にすれば、誰もが夢中になるに違いない。
……まあ、私のほうが胸は大きいので。別に羨ましくありませんが。
胸だけは、形も! 大きさも! 勝ってるので!
「な、なんですかね?」
私が見ていることに気がついたのか、体を洗い終えたカレンさんが怯えたような目つきで私を見てくる。
地雷を踏んだからといって、怒り過ぎてしまった気がする。
「いえ、なんでも」
「そ、そうですか」
私は体を洗い終えると、大浴場に肩まで浸かる。
お湯には私の従者が激選した入浴剤が入っており、私自身も気に入っていた。
昔は温泉を運ばせていたが、こちらの方が私の体にあっていた。
「え、ええと……」
カレンさんが入っていいものかと悩んでいる。
「私から誘ったんですから、入っていいに決まってるでしょう」
「で、では失礼して……」
緊張しながら入ってくるカレンさんだったけれど、お風呂に入った瞬間に体の力が抜けていった。
「あ、これいいですね……すごくいい……」
「でしょう。私の従者が探してきてくれたものです」
「なるほどー……」
「…………」
「…………」
しばらくの間、私達は何も言わず風呂に浸かっていた。
別に、そう決めたわけじゃない。なんとなく話し辛かったのだと思う。
雨あられのごとくしゃべるカレンさんが、先程の件でおとなしくなってしまったのも、こちらの調子が狂った一環だろう。
というか、私が洗うと言ったのに洗えなかったし。
そういう空気にしたの、私なのだけど。
「……私は、あなたをシリウスの相棒として高く評価しています」
このままなのも気まずいので、私の方から話すことにした。
「え?」
予想外とでも言うかのような声を漏らすカレンさん。
まあ、さっきはあんなふうに怒ってしまったので、不思議に思っても無理はない。
「あなたは隷属しなくていいのに、シリウスのことを見捨てませんでした。私が気まぐれで用意した賞金も、シリウスと山分けしているのも評価に値します」
「具体的には、何オリビアポイントでしょう……?」
「ポイントとか知りませんが、今の所は百点満点中百点です」
「ありがとうございます!!」
褒められて調子に乗ったのか、カレンさんは元気を取り戻したらしい。
まあ、これなら何を言ってもビクつかないでしょう。私も怒ってませんし。
「ですが、これ以上私からシリウスを奪わないでください」
「奪う?」
首をかしげるカレンさん。
……正直、私も言い方を間違えた気もする。
「……要するに、早く奴隷の身として開放しようとしないでください。ということです」
「それは……どうしてですか?」
「……もう、彼を危険な目にあわせたくないんです」
「…………」
私の真摯な思いが伝わったか、それともシリウスが大事なのか、はたまた両方か。
ともかくとして、カレンさんは深く考えてくれている様子だった。
「……オリビアさんは甘いと思います」
口を開けたカレンさんは、不思議なことを言った。
……私が、甘い?
シリウスを隷属までさせて、手に入れようとしている私が?
「私もオリビアさんに隷属してるんだから、命令すればそれでいいのでは?」
「それでは信頼関係を結べないでしょう?」
相手の意思はできるだけ尊重する。
それは隷属していようといなかろうと、人として当然の扱いである。
「……何かシリウス君に似てるますね、こういう所」
カレンさんがつぶやくが、私の耳には入ってこなかった。
「……そう言ってくださるのであれば、考えさせてください。あなたがシリウス君をどう扱うかを見て、決めていこうと思います」
あくまでシリウスのことを尊重してくれている。
いい相棒に恵まれたようで、心底良かったと思う。
「……そう。わかった。それでいいわ」
「できるだけ早く決めますね」
「ええ、そうしてくださると助かります」
……私の思惑からすれば、カレンさんは邪魔者だ。
権力を使って握りつぶしたほうが早いのだろうけど、シリウスを大事に思っている人を傷つけたくはなかった。
「あ、でも私の身長のことは内密に。情報漏洩した場合は処罰がありますので」
「それそんなに重要ですかね!?」
「すごく重要です」
・シリウス&ジョン
男の友情を再確認していた。
・オリビア・ヴァルキュリア
風呂に出た後、カレンにメジャーを持って襲いかかられた。
・カレン・ミルス
男性読者諸君ッ! 百二じゅ――――ぶふぅ!?