一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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第六話 奴隷生活始まりの朝

 ――――自分のことを、籠の中の鳥だと思っていた。

 

 二千年前、人類を滅ぼそうとした邪悪なる神々。

 それを唯一人で討滅したとされる、半身半人の英雄渡辺。

 最後の神を討滅した英雄渡辺は、その戦いで命を落としてしまったと聖書では書かれている。

 

 そんな英雄渡辺の血肉を口にすれば、その莫大な力を得られると、その時代の人々は本気で信じていたらしい。

 人々はその亡骸を、『聖なる遺体』と呼んで自分達のものにしようとしたという。

 友人であった初代教皇ヤルダバオトは、愚かな人類から守ったとされている。

 

 それから三百年後――――その使命は、初代教皇から直接私の先祖に受け継がれた。

 

 人々を救った英雄の眠りに安寧を。

 それに賛同した我が先祖は、その遺体を一七〇〇年後の現在まで守り抜いた。

 

 これは偉業なのだと、父は確かに私に言った。

 今となっては、どの口が言っているのだと、殴ってやりたくなる。

 

 それはともかく、聖なる遺体から力を得ようと今の時代の人間ですら群がってくる。

 その為、他の貴族以上に努力を強いられることになった。

 寝ても覚めても、政治、作法、業務、戦闘、魔法、我力天成(アブソリュート・ワン)、原理界法器などなど――――。

 

 ともかく、次期当主として必要なことは、何でも学ばされた。

 もちろん自由な時間などはない。私の幼少期は物心がつく頃から勉強の毎日だ。

 

 ――――歴代の偉大なる先祖達も、英雄渡辺を守るためにこなしてきた。

 ――――お前には、我々の先祖を救ってくださった偉大なる英雄渡辺様の眠りを、守りたいという信仰心が足りない。

 

 私が何かをできないと、父は決まってに殴られた。

 

 なら、それはとても要領が良かったに違いない。

 私のような愚図は、どこにもいなかったのだろう。

 

 私にだって英雄渡辺への信仰心はある。

 けれど、その程度の信仰心だったのだろう。 

 

 言いたいことはたくさんあったけれど、それで何かが変わるわけでもないので、私はいつも口をつぐむしか無かった。

 

 ――――きっと、籠の中の鳥も、こんな気持なのだろう。

 

 けれど、ある寒空の日のこと。

 私は社会奉仕などの一環で、孤児院の子供達に勉強を教えることになっていた。

 ヴァルキュリア家の次期当主として教育を受けた私は、例えできが悪かろうとも学んでいない子供達よりは頭が回った。

 自分よりも年上の人間にも勉強を教えることもあったと思う。

 

 それも一通り終わり、孤児院の敷地内にある森の中を歩いていると、木の根っこで眠っている少年を見つけた。

 

 それは私よりも背が小さな少年で、真っ黒の髪の毛は腰まで伸びている。

 清潔感はなかったけれど、別に不潔ではなかったのが不思議だった。

 

 少年に名前はないらしく、記憶も無いらしい。

 自分のことを知っている私は、少し幸運のように思う。

 

 あまりにも可愛そうだったので、私が名前をつけた。

 

 その名前を――――シリウス・ウェザーコールドと言う。

 

 その日から、私の日々は塗り替えられた。

 シリウスと会える日は朝から夕方まで遊べたし、父のかつらを大衆の面前で剥ぎ取っても笑って許された。

 

 どんな奇跡が起こったのかはわからない。

 幼い私は、シリウスのお陰だとばかり思っていた。

 

「僕はオリビアが好きだから、会える時に会ってるだけだよ」

 

 私がこのことを感謝すると、シリウスはいつもそう言う。

 ……思えば、既にこの頃から思わせぶりなコトを言っていた気がする。

 

 シリウスは昔から困っている人を見ると、放っておけなくなる優しい少年だった。

 きっと、この時の私を助けてくれたのも、その一環だったように思える。

 

 会えない日は今まで以上に勉強を課せられたけど、シリウスとまた出会えると思うと、さほど苦ではなかった。

 

 シリウスとの日々は、私の人生の中で、最も彩りのある時間だった。

 さして特別な出来事があったわけじゃない。でも、私にはそれだけで良かった。

 

 例え、勉強時間の合間だけだったとしても、この気持ちに変わりはなかっただろうといえる。

 籠の中の鳥に手を差し伸べてくれる――――そんな他愛ない時間が、何よりの幸福だったのだから。

 

 そんな日常が、いつまでも続くと思っていた。

 

「僕、冒険者になるよ」

 

 成人になったシリウスは、理由も告げずにそんなことを言って、手の届かない遠くへと言ってしまった。

 ヴァルキュリア家の次期当主として、私が付いていくことは叶わない。

 籠の中の鳥が勝手に外に出るだなんて事はできないのだ。

 

 シリウスの活躍を遠くで聞きながら、次期当主としての業務をこなしていたある日のこと。

 

 何の前触れもなく、父が死んだ。

 

 父からの遺言状を読んだ私は、感情がどす黒く染め上がった。

 その衝動は、今もなおこの頭に焼き付いている。

 

 ああ、わざわざ見せつけられるだなんて、なんて悪夢――――。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「おはようオリビア」

 

 悪夢にうなされていた私が目を覚ますと、シリウスが優しそうな表情を浮かべて、私の顔を覗き込んでいた。

 その背後に見える天井からして、ここは私の部屋のはずだ。

 

「……あれ? シリウス、何でここにいるの?」

 

 目覚めたての頭と、あまりにミスマッチな光景のせいで、うまく状況が飲み込めない。

 私の部屋にこんなに大きなシリウスがいるとかありえない。

 だって彼は冒険者になると言って、私の前から消えてしまったのだから。

 

「うん? 僕はオリビアの護衛だよ? 寝顔を守るのも護衛の仕事じゃないか」

 

 そう言うと、シリウスは私の顔の汗を、優しくハンカチで拭ってくれた。

 この夢はとても気持ちがいい。ずっとこうしていたいけれど、頭に引っかかった言葉があった。

 

「ごえい……?」

 

 その単語が頭の中で反芻されると、私は段々と意識を確かにしていく。

 

 そうだ。昨日シリウスには無理を言って、私に隷属させたんだった。

 これからシリウスはどこにも行かず、私とずっと一緒なんだ。

 

 ……いや待ちなさい。

 私、シリウスに見られたらまずいものがあるのでは?

 

 私は暑がりなので、もうすぐ春だというこの季節でも毛布で寝ているのだ。

 

 つまり――――シリウスに私が低身長女だということがバレる!!

 

 すぐさま起き上がり、足の方を確認する。

 しかし、なぜか厚底ブーツを履いており、毛布もしっかりとかけられていた。

 これならばパッと見バレることはないだろう。

 

 ……昨日、靴を履いた寝てしまったのかしら?

 いえ、さすがに健康上悪いし、いつも抜いで寝るのだけど……?

 

「どうしたのオリビア?」

 

 ああ声がいい!?

 

 私のベッドに腰掛けていたシリウスに突然声をかけられてしまい、頭が一瞬でパンクしそうになるのをなんとか取り繕う。

 やめなさいよ突然話しかけるの。耳から湯気が出たらどう責任を取ってくれるのかしら?

 

 私は朝が弱いこともあって、うまく思考がまとまらない。

 時計を見ればまだ五時半で、カーテンの隙間には暗闇が顔を覗かせていた。

 

「別に、なんでもありません」

 

 それでも、なんとかポーカーフェイスで取り繕うことができた。

 

「ならよかった」

 

 そう言うと、シリウスはヘアブラシを取り出す。

 

「せっかくだし、僕がオリビアの髪をすおうか?」

 

 優しい顔してそんなコト言わないでちょうだい! 私に好意があるって勘違いしちゃうでしょう!?

 昔から私を誑かす殺し文句ばかり得意なのはどうかと思う。私は好きだけど。

 

「……昔みたいに?」

「うん、昔みたいに」

 

 そう、私達が出会って間もないくらい昔。私はよくシリウスに髪の毛をすって貰ったり、結んで遊んだりしていた。

 

 きっかけはよく覚えていない。昔のシリウスは髪の毛に頓着しなかったから、多分私の方から言い出したんだろ思う。

 その手はぎこちなくて、お世辞にも上手だなんていえなかったけれども、一生懸命に私の髪をすおうとしているシリウスの手が私は大好きだった。

 

 九歳にしては子供っぽすぎるおしゃれの真似事。

 なにせその頃の私は、すでにパーティーの作法や着飾り方を知っていたのだから

 

 他人はこの話に笑ってしまうのでしょうけれど、私にとっては何よりもかけがえのないアルバムのいちページだ。

 

「……それじゃあ、お願いしようかしら」

「うん、わかった」

 

 シリウスはベッドの上にいる私の後ろに回り込むと、しなやかに髪を手に取り優しくすっていく。

 昔はぎこちなくて痛かったりしたけれど、今となってはそんな面影はまるでないぐらい優しいのだ。

 手だって大人の男性らしくゴツゴツとしてるけれど、私を気遣いながらすっているのでとても心地良い。

 

 ……大人になったシリウスの手も、大好きになれそう。

 

「大丈夫? 痛くない?」

「……ぜんぜん平気。気持ちいい」

 

 当たり前なのだけど、距離がすごく近い。

 後ろからシリウスの声がして、すごくドキドキする。

 今にも二度寝してしまいそうだった。

 

「……上手になったわね」

「まあ、カレンで練習したからね」

 

 ……すごい心地が良かったのに、今の発言で台無しにされてしまった。

 あの人、シリウスに髪の毛すってもらってたの? 頭おかしくない?

 

 年頃の娘が、恋人でもその手のプロでもない男の人に髪の毛をすってもらうだなんて、一般常識やモラルといったものが欠けているとしか思えない。

 

 私? 私はいいのよ。

 シリウスは私のなんだから、何をしてもいい。

 それにこれはシリウスから提案してきたものだ。私は何もふしだらじゃない。

 

「カレンって身だしなみとか無頓着でさ。僕がやってやらないと、寝癖つけっぱなしなんだよね」

 

 ……それはともかくとして、厳重注意をしなければいけない。

 起きたての私でも、それだけはわかった。

 

「シリウス」

「ん?」

「女の子の前で他の女の話をするのは感心しないわよ」

 

 一瞬、シリウスの手は止める。

 

「……ああ、ごめん。確かにこうしてオリビアと触れ合っているのに、他の女性の話をするわけにはいかないよね」

 

 そう言うと、何事もなかったかのように手を動かしだした。

 ……今のはなんだろう? 何か聞いてはいけないことでも聞いてしまったのかも知れないと、不安な気持ちになってしまう。

 

 私がよく知っているシリウスは、記憶が無いと嘆いている七年前から、冒険者として旅立ってしまうまでの五年間のことだけ。

 彼が冒険者として活躍した二年間の軌跡は、報告やマスコミの情報から欠かさず収集していた。

 

 けれど、それでも私が取りこぼしているシリウスの二年間があったはずだ。

 私が知らない二年間の間に、カレンさんや女性関係のことで何かあったのかも知れない。

 

 それは私にとって、無性に腹立たしい。

 私の知らないシリウスがいるなんて、そんなのは絶対に嫌だ。

 シリウスという人間は、足の爪先から頭の天辺まで、全て私のものなのだから。

 

「……ねえ、一つ聞いても良い?」

「うん、どうしたの?」

「どうしてシリウスは冒険者になろうと思ったの?」

 

 だから、二年前に聞けなかったことを、聞こうと思った。

 

「うーん……」

 

 シリウスは顎に手を当てて考え込んでいる。

 

「そうだなぁ。やっぱりオリビアと離れたくないからかな」

「……だったら、どうして離れちゃったの?」

「あー……それは、その……」

 

 言いよどむシリウス。

 

「……答えられないの?」

「……うん」

 

 それが酷くショックで、体が引き裂けそうだった。

 急に目頭が熱くなり、顔を伏せる。

 

 ……ダメ、泣いちゃダメ。

 シリウスに弱い女だなんて思われたら、きっと嫌われちゃう。

 私のポーカーフェイスは鉄壁なんだから、こういう時に発揮できなきゃ意味がないじゃない。

 

「でもね、いつか絶対理由を話すよ」

 

 それは、とても優しい口調だったけれど、私を裏切らない強い意思表示でもあった。

 昔から私の知っている、誰よりも信じられる宣言。

 

 でも、ちょっとだけ、ほんののちょっとだけ、シリウスを困らせたくなった。

 

「……本当?」

「本当。約束だ」

「……指切りげんまんできる?」

「できるよ」

 

 私が振り向くと、思わず安心してしまいそうな、優しい笑顔を浮かべるシリウスがそこにいた。

 それだけで、私はどこか救われたような気にすらなってしまう。

 

「じゃあ、指切りげんまんする?」

「うん。する」

 

 足のことを気取られぬように後ろを振り向いて、シリウスと向かい合う。

 彼と指切りげんまんをしながら、私の意識はよりはっきりとしていく。

 ……朝が弱いからって、シリウスに甘え過ぎじゃないかしら!?

 

 昔の夢も見たのもあったからって、ちょっと度が過ぎると我ながら思ってしまうのだけれど。

 それに優しい顔して甘い言葉を吐き出す顔のいい男がいるのも悪いと思う。

 

「ん? どうかした?」

「……私も髪をすいてあげます。背中を見せなさい。」

「いや、僕はいいから」

「これは命令です」

「……かしこまりました。ロード・オリビア」

 

 シリウスの顔を見てられなくなった私は背中を向けさせる。

 改めて見る背中は大きく、手を当てると温かかった。

 

 ……本当に大きすぎる。

 

 私の身長は146センチ。かたやシリウスは185センチもあるので、座高がまるで違う。

 その為、手を置く必要があっただけ。触りたかったから触ったわけではない……本当よ?

 

 私が19センチのヒールもある厚底ブーツを履いてもシリウスとの身長差は頭一つ分。無ければ二つ分もの差にもなる。

 40センチも身長差があると、もうそれは大人と子供なのよ。いい加減にして欲しい。

 

 自分が小さくて情けなくなると思うのと同時に、大きく育ってくれたシリウスが自分のことのように嬉しかった。

 とはいえ、ここまで身長差があると、私もあと20センチくらい欲しい。

 欲を言うならカレンさんと同じぐらい身長があれば、スタイルバツグンになるだろうと確信を持って言える。

 

「じゃあ、お願い」

「ええ、わかったわ」

 

 その手からヘアブラシを取ると、金色の染まった髪をすく。

 

 昔は真っ黒でゴワゴワとしていた長い髪の毛は、今となっては短く綺麗に切りそろえられている。

 ワックスなどはしていないのだろう。ブラシはたやすくすうことができた。

 

 ……昔は大型犬のように大変だったのに、なんとも簡単になってしまったものね。

 

 シリウスが金髪になったのは冒険者になってからだ。

 その理由を、私は知らない。

 

「……ねえシリウス」

「ん? なあに?」

「どうして金髪に染めたの?」

「ただのイメチェンだよ。残念ながら、そんな深い意味はないよ」

「へえ? 私とおそろいにしたんじゃないの?」

「……そんなわけ無いじゃないか」

 

 その声は少し震えていた。

 ……ふふんっ、今日のところは取り敢えずこれで勘弁してあげましょう。

 別に私も恥ずかしくなったから、追撃をやめたわけではないわ。

 ポーカーフェイスは完璧なので顔は赤くなどありませんが?

 

「髪の毛傷んでないかしら?」

「まあ、冒険者なんてやってたらねえ」

 

 奴隷にして正解だった。

 これからは髪の毛のケアを改善させよう。

 

 男の人の髪というのは短くて、あっという間に終わってしまう。

 昔のように長くして欲しいと言ってみたけれど、今のほうが都合がいいとのことで断られてしまった。

 そこまで命令する気になれなかった私は、それ以上お願いはしなかった。

 

 シリウスが窓のカーテンを開く。

 外はまだ暗いままだが、太陽が昇り始めているようで、空の端っこの方が明るくなっているのが見えた。

 

 そろそろ起きなくちゃいけない。

 

「そろそろ起きる時間じゃないかしら?」

「それもそうだね。それじゃあ僕は護衛の先輩から呼ばれてるから、そろそろ行くね」

「うん、また後で」

 

 扉に向かって歩き始めたシリウス。

 その背中を見ると、どこか行ってしまいそうで。

 

「待って、シリウス!」

 

 大した理由も無いのに、私は呼び止めてしまった。

 

「どうしたの?」

 

 だというのに、シリウスは嫌な顔を一つもせずに私に駆け寄ってくれた。

 それだけのことなのに、とてつもなく嬉しい。

 

「……少しだけ、もう少しここにいて」

 

 自分でも、どうしてこんなことを言ってしまったのかよくわからない。

 

 強いて言うなら、あんな夢を見たせいだと主張する。

 あんな夢さえ見なければ、こんな不安な気持ちに駆られることもなかったのに。

 

「……うん、わかった。オリビアが望むなら、僕はいつまでも側にいるよ」

「……ありがとう」

 

 シリウスはベッドの上に腰掛けると、私の手を優しく握ってくれる。

 ゴツゴツしていて、とても大きく温かな手。

 

 うん、シリウスの手なら、こういう手もやっぱり大好きだ。

 

「これでいいかい?」

「……うん」

 

 その手を私はゆっくりと握り返した。

 

「……まだ眠いのなら、もう一眠りしても構わないよ? 僕が必ず守るから」

 

 頭が痺れそうなくらい嬉しい言葉。

 でも、それと同時に嫌悪感も湧き上がってくる。

 

 あなたはもう何も無理をしなくていい。

 お願いだから、私の手の中で、穏やかな死を迎えて欲しい。

 

「……ずっとそばにいてくれる?」

「それがご命令とあればね」

「……ありがとう」

 

 強く、強く握る。

 シリウスがどこにも行ってしまわぬように。

 誰かに連れて行かれてしまわぬように。

 

 シリウスは何も文句も言わずに、私の手を握り続けてくれている。

 

 ……大丈夫。何も問題はないわ。

 私が知らないシリウスの二年間を聞く機会なんて、これからいくらでもある。

 今はシリウスが失われることがないようにがんばるだけ。

 

 その前に、もうちょっとだけ、この安らかな時間を過ごさせてください。

 始まりの朝から目を背くように、私はそっとまぶたを閉じた。

 

 ――――この後、自分が色気もクソもない普通のパジャマ姿だったことに気が付き、私は頭を抱えた。

 

 ああもうっ! もっと色気のあるパジャマを着ていればよかった!

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 日が昇ると、ヴァルキュリア城の中も活気づく。

 その中でもホワイトボードがある一室では、ヴァルキュリア家を守らんとする護衛達の集まりがあった。

 そこにはオリビアの部屋から帰ってきたシリウスもおり、その隣にはカレンもいる。

 

 今回は護衛の新人である二人の為の教習だ。

 本来であればもっと時間をかけてゆっくりと教習するところだが、オリビアが傍に置かせろとの命令もあり、短時間で最低限のことを教えていく方針となった。

 

 結果的に仕事を覚えるのは大変になってしまうが、二人は元冒険者ということもあり、飲み込み自体は早い。

 もちろん一日で覚えきれる量ではないのだが、そこは回数で補っていくしか無かった。

 

「シリウス君シリウス君」

「どうしたのカレン?」

 

 教習が終わると、カレンがシリウスに話しかけてきた。

 

「朝に部屋訪れたらいなかったんですけど、どこに行ってたんです?」

「オリビアがうなされてる気がしたから、オリビアの安否を確かめに行ってた」

「気持ち悪っ!?」

「酷い言われようだな……」

 

 大げさなカレンの反応に。苦笑いを浮かべるシリウス。

 

「実際にオリビア様、悪夢にうなされていたんですよね」

 

 ぼそり、と部屋にいた護衛仕事の先輩の一人がつぶやく。

 

「ま、マジですか?」

「しかもシリウスがきたら、悪夢から目を覚ましたからね」

「え、こわ」

 

 別の先輩からも口を出され、相棒の謎の能力に恐れおののくカレン。

 当然である。我力天成(アブソリュート・ワン)は一人一つだし、仮にそうだったとしても、そんな能力があってほしくないとすらカレンは思っていた。

 

「愛の力があれば当然じゃない?」

「そんな超感覚を当然とされたら一般人はたまったもんじゃないんですよね!!」

「虫の知らせとかあんな感じ」

「悪夢程度で発生する虫の知らせってなんですかね!?」

「愛の力だよ」

 

 至極当然とでも言うかのように言い切るシリウス。

 素面でこんなことを言うシリウスを、カレンは今まで見たことがなかった。

 

「そんなゴリ押しやめてくださいよ!! 愛の力とかもうちょっと大事な時の切り札じゃないんですか!?」

「最後の切り札はいつも気合と根性だったじゃないか」

「うおおおおおおお!! 今はそんな話をしてるんじゃないんですよねこのおバカーッ!!」

 

 カレンに言われるのは心外だなぁ、と思いつつも、実際浮かれている節もある。

 

(オリビアやカレンに嫌われたくないし、もう少し自重しよう)

 

 シリウスは心の中で、一人静かに誓った。




・オリビア・ヴァルキュリア
 父のことはそれなりに尊敬していたが、遺言状に書かれたことを見てから完全に嫌悪の対象になった。
 絶対に許さないけど――――。

・シリウス・ウェザーコールド
 オリビアのことになるとすぐに暴走する方。
 でもイメージ的にはまともな印象を保たれている。

・カレン・ミルス
 ギャグの印象を一手に背負っている。
 げせぬ。
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