一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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第七話 蠢く終末教

 オリビアに隷属してから、一週間が過ぎた。

 

 形式上護衛とはなっているが、空いた時間に話し相手になったりと昔と扱いは変わらない。

 護衛としての教習――――襲撃時の対応や戦闘訓練など――――も行っているが、冒険者時代にも似たような仕事をする経験はあった為、さほど苦労は感じなかった。

 

 問題なのは、思った以上にヴァルキュリア城が平和だということだ。

 それ自体は何も問題はないし、とてもいいことではある。けれど、僕の知っているヴァルキュリア城はもうちょっと襲撃や命を狙ってくる輩が多かった。

 聖なる遺体に価値が無くなったのか、はたまた手を出せば損をするという認識が広がったのかも知れない。

 

 もう一度言うけど、平和なのはいいんだ。

 でも僕が求めていた臨時ボーナスが出そうにないのが痛い。

 

 ……そんな事を考えていると、オリビアの不幸を望んでいるようで頭が痛くなる。

 

 早く奴隷の身から開放されるというより、減給されぬよう仕事を怠らない方に注視した方がいいのかも知れない。

 

 そんなある日、僕に一本の通信が入った。

 冒険者時代の友人、ウィリアム・マルコからだ。

 

 ウィリアムは僕と同じ一級冒険者で、魔物狩りや暴徒鎮圧の際にはお世話になった。

 強さは僕には及ばないものの、かなりの凄腕だと紹介できる。

 

 連絡係の一人からそれを聞いた僕は、通信室に備え付けられている通信機の前に立つ。

 画面にはいかつい顔をした赤いテンガロンハットを被り、タバコを吸っているウィリアムの姿が映されている。

 

「おまたせウィリアム。待った?」

『いや、さすがは貴族様の家だな。引き継ぎもスムーズだった。冒険者じゃここまで早くはないからな』

「確かに」

 

 通信機はどこにでもあるわけじゃない。

 建物に備え付けるには色々と条件があり、その条件は主に神聖渡辺帝国が定めている。

 さらに条件を課すことを領主は認められているが、緩めることに関しては許されてはいない。

 

 音や映像、使用者なんかも記録され、その全ては神聖渡辺帝国の情報部に回されるらしい。

 ここでの会話は僕らが何か事件に関わった際の参考資料なんかに使われる。

 

 まあここまで厳重なのも仕方がない。

 こうやって通信機に干渉しないと、テロの相談とか仕放題になる。冒険者や兵士の余計な仕事を減らしてくれる政策なのだ。

 

『にしても、本当にヴァルキュリア家の奴隷になっているとはな。変わりがないようで何よりだ』

「それはどうも。僕が奴隷になったのは誰にも教えてないけど、もう情報漏れてたりするの?」

『ああ、「小さなシリウス座」と「太陽のアサシン」が奴隷落ちしたって話題で、数日前から大盛りあがりだ』

「隠してたわけじゃないけど、漏れるのが早いなぁ……」

 

 ちなみに、ここで言われている『小さなシリウス座』は僕の二つ名で、『太陽のアサシン』はカレンの二つ名だ。

 僕らはこの二つ名、割と気にいっている。

 

「それで? 僕が冒険者廃業してるって確認? それともからかいにきた感じ?」

『その程度で高い金を使って通信なんざ使わん。ちょっとした世間話さ』

 

 ウィリアムは世間話で通信するたまじゃないと僕は知っている。

 僕が勘ぐっていると、ウィリアムがまだ長いタバコの火を消した。

 こういう時にそんなタバコを消すのは、何か真面目な話をするウィリアムなりの前フリだ。

 

『最近、終末教の動きが活発になっている』

「……僕が知ってる、過激派の方? 『人類は終わるべきだった』とか言って人を殺してくる、頭のおかしいテロリスト集団?」

『ああ、そうだ。その終末教過激派だよ』

 

 ――――終末教。

 英雄教と双璧をなす、世界二大宗教の一つである。

 

 英雄教で崇拝されているのは英雄渡辺だが、終末教では初代神聖渡辺帝国教皇ヤルダバオトが、『終末教皇』として崇拝されている。

 なんでも、英雄が守った世界を終わらせたと解釈されている為にそのように呼ばれているのだとか。

 歴史的に言えば滅びかけた世界を再興させたのが教皇ヤルダバオトなので不敬にも程がある解釈である。

 

 鳩派と呼ばれるメインの教義を大まかに言ってしまえば、『世界は終わるので、価値のある生き方をしていきましょう』という、まだ理解できる解釈だ。

 だが過激派は『何もかも無価値だから世界は終わってしまう。なら早くこの世界を終わらせよう』という教義の持ち主。

 

 英雄教も多種多様と解釈の仕方があるが、ここまで酷いものを僕は知らない。

 その教義に従い、過激派の連中はどれだけ人を殺せるかに重きを置いている。

 規模の大きいものでは、国家転覆を計画した事件まで存在する。

 

 特にこの神聖渡辺帝国では過激派の活動が他国と比べると活発であり、そもそもの国教が英雄教なので必然的に終末教の母数は少ない。

 終末教鳩派の人達も肩身の狭い思いをしている。知り合いに終末教信者がいるので、同情せざるを得ない。

 

 過激派は百害あって一利なしの集団である為、世間の共通見解として『見つけ次第ぶっ殺す』が流儀となっている。

 

『どうも武器をかき集めているらしくてな。近々大きな襲撃が起きそうだ』

「ウィリアムも大変だね……助けに行きたいのはやまやまなんだけど、そこまで自由な時間が今無いんだ。僕からも他の冒険者に連絡して――――」

『そのテロリスト集団は、ヴァルキュリア領付近での目撃例が多いらしい』

「…………」

 

 ウィリアムが通信を掛けてきたのは、助けを求める為ではなく、僕の身を案じて警告をしてきているらしい。

 昔からおせっかいが大好きな友人だ。通信代も安くはないだろうに。

 

「……目的の目処とかはわかる?」

『そこはさっぱり。だがヴァルキュリア領となると、当主が保有している「聖なる遺体」しかないだろう』

「まあ、そうなるよね……昔っから狙われやすいんだ。聖なる遺体」

 

 僕が幼い頃から狙われている代物だ。

 歴史的にも宗教的にも、英雄渡辺の行いは偉業に他ならないし、その遺体の血肉を食せば力を得られるとか言われているのだ。

 それはもう色んな奴らから狙われてきた歴史があったと、ヴァルキュリア家の先代当主は言っていた。

 

「ありがとうウィリアム。僕の方からも調べてみるよ。お礼はどこに振り込めばいい?」

『いらん。ただの世間話だと言っただろう』

 

 そう笑うと、ウィリアムからの通信は途絶えた。

 ……まったく、素直じゃないやつだ。

 

 取り急ぎ、他の知り合いや情報屋からも話を聞くことにした。

 ウィリアムのことを信用してないわけじゃないけれど、確認をして損はないからね。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 私は執務室で一人悩んでいた。

 正確には従者とかもいるのだけど、悩んでいるのは私一人なので間違いではない。

 

「いかがなされましたかオリビア様?」

 

 私を気遣うメイド、シャーロット・ロックハートが私にお茶を持ってきてくる。

 彼女は私の身の回りをお世話してくれている従者で、個人的な悩み相談も請け負ってくれている。

 更には私が幼い頃から仕えてくれており、私の最も信頼できる従者の一人だ。

 

 紫色の髪の毛から、羊のような黒い角が生えていることからわかるように、魔族の血を引いている。

 昔の物語なら魔族だなんて悪役ですけど、単に角が生えている身体能力の人間なので、重宝している家は多い。

 

 私の計画についても知っていますし、また一つ相談に乗ってもらうとしましょう。

 一口お茶をいただくと、私はゆっくり話しだした。

 

「シリウスを奴隷にしたじゃない?」

「はい、しましたね。絶対に逃さないといわんばかりに」

「ええ、逃しません」

「シリウス様は人権を買い戻す気があるようですし、カレン様まで一緒に付いてきていますけどね」

 

 実際、カレンさんを奴隷にするつもりは最初からなかった。

 欲しかったのはシリウスだけだし、それで他の人にまで迷惑をかけるのは違うでしょう?

 

 けれど、彼女は自分の意思でシリウスの身を案じ、買い戻しに協力をしようと申し出たのだ。

 その高潔なる意思を止めることはできなかったし、シリウスが作った人間関係を壊そうとも思えなかった。

 

 ……私に何かあった時、シリウスを助けてくれる人間はいて損は無いですしね。

 

 今の所、私からシリウスを奪わぬよう交渉しているけれど、一週間経ってもその答えは帰ってこない。

 どうしてもというからスリーサイズを測らせてあげたというのに、まだ信頼関係は築けていないのはどういうことなのかしら。

 

「シャーロット、私は奴隷にしたシリウスを、甘やかす所存でした。それはもう徹底的に。彼が死んでしまうその時まで」

「聞き及んでおります」

「実際は逆じゃないかしら?」

「仰るとおりでございます」

「そこはお世辞でも否定するところじゃないの?」

「オリビア様が自分から言ったことですので……」

 

 ……それは、まあ、そうなのだけど。

 

 そう、あれから一週間、シリウスの主導権が全く取れない。

 私が甘やかそうとすると、返り討ちにあってしまうのだ。

 

「そういえば先日、『耳かきをしてあげましょう作戦』を決行するという話でしたよね?」

「……それが、どうしたというのかしら? シャーロット」

「だというのに、最終的にシリウス様がオリビア様に耳かきをされてましたよね? あれはどういうことだったのでしょう?」

 

 思い出すだけでも天にも昇る心地体験だったけれど、結果的には失敗に終わった。

 冒険者として二年の月日を費やしてきたシリウスは、そういった繊細な作業が得意になっていた。

 

「……私の体型じゃ、無理だったのよ」

「あー……」

 

 私の胸は大きい。とても大きい。

 親しい女性から『一回でいいから触らせてくれない?』と言われるぐらいに大きい。

 

 それぐらい大きい、シリウスの頭を太ももに乗せても、耳かきが困難だったのだ。

 更に私の身長は146センチ。となると座高も低く、その、つまり――――

 

「結局おっぱいを押し付ける形になってましたよねそれ!?」

「お黙りなさい!」

 

 そう言いながら入ってきたのは、私の奴隷であり護衛のカレン。

 もうちょっと静かに入ってこれないかしらこの子。

 

「いや私に『色仕掛けはNG』とか言っておきながら、マジで何やってるんですかね?」

「あれは事故! 事故なのよ! 別にそんなつもりは私には一切なかったわ!」

「しかしオリビア様。耳かきをシリウス様にされて、実際の所どうだったのでしょう?」

 

 どうだったのか?

 そんなのもちろん決まってるじゃない。

 

 すぐさま返答しようとするけど、口がうまく動かない。

 

 ……これ、実際に言おうとするのは、少し恥ずかしいわね。

 

 別に耳かきされた感想を言うだけなのはわかっているのだけど、思い出すだけで心臓が再びときめき出し、顔が熱くなる。

 

 けれども、シャーロットはシリウスとの仲を応援してくれている一人。

 カレンも私がシリウスを独占する上で、信用を勝ち取らなければならない相手だ。こちらの懐をいくらか見せるぐらいの覚悟はしなければならない。

 ここで正確な情報を応えなければ、不義理というもの。

 

 私は呼吸を整えて、できるだけ冷静に答えるように努めた。

 

「……最高だったわ」

「「うわぁ……」」」

 

 聞いてきた二人は、苦い表情を浮かべた。

 こっちだって恥ずかしい思いで言ったのに!!

 

「聞いてきたのそっちじゃない! ドン引きしないでくれないかしら!?」

「いや~、聞いたのはシャーロットさんなので。私に涼しい顔でそんな事言われても、ちょっと……」

「私が聞いていたのは、恋愛的な手応えという意味です」

 

 私は顔を手で覆って俯くしかなかった。

 穴があったら入りたい……!

 

「しかしオリビア様、このままスパダリシリウス様に籠絡されっぱなしでは、いずれ立場が逆転してしまいます」

「……さすがに言いすぎじゃないかしら?」

「一週間前と比べると、確かに恋愛クソ雑魚レベルが上がってますよねオリビアさん」

「はい。シリウス様に恋愛強者としてのレベルをドレインされているのでは? と思われるレベルにはクソ雑魚になっております」

「…………」

 

 他にもシリウスを私に依存させ、甘えてもらう為に色々と策を弄してはいるのだけど、それら全てがことごとく返り討ちにあっている。嬉しいけど悔しい。

 ……確かに、このままでは私()依存させるんじゃなくて、私()依存してしまう気がする。

 早急になんとかしなくてはならない問題ね。

 

「何かいい案は無いかしら……」

 

 椅子の背丈に体を預けると、二人の視線が私の胸部に集中される。

 まるで『いや、その体を使えばいいのでは?』といわんばかりの無言の訴え。

 

 私は手を払ってその視線を遮る。

 体で籠絡なんてしないと言ってるでしょうに!

 

「あ、シリウス君が来ます」

「そんなのに引っかかるわけないじゃない」

 

 全く、こんなタイミングよく――――

 

「ごめんオリビア。急ぎの案件なんだけど、今とか大丈夫かな?」

 

 タイミングよく、シリウスがノックもせずに執務室に入ってきた。

 

「大丈夫ですけど!?」

「……え? 本当に?」

「ええ、ちょうど一段落したところですしね」

「なら良かった」

 

 驚いて少し取り乱してしまったけれど、すぐさまポーカーフェイスでいつもの私を取り繕う。

 ……聞かれてないわよね? 今の会話、聞かれてないわよね?

 

「しかしカレン様、なぜシリウス様が入ってきたのがおわかりになられたのですか?」

「瞬間移動やってると、空間把握能力とかめちゃくちゃ鍛えられるんですよね」

 

 それを先に言って欲しかったのだけれども?

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「――――と、言うわけなんだ」

「なるほど……」

 

 あの後、過去の杵を頼りに通信で連絡を取りまくった。そこで得た情報をすり合わせ、潜伏地域の特定に成功したのだ。

 急いで終末教の動きを資料にまとめて、口頭で資料の補足を付け足しながら、ようやくその説明をし終える。

 

 僕の説明に、オリビアは涼しい顔で頷いた。

 

「見事な働きですシリウス。ですが、あなたに申し付けた仕事はあくまで護衛です。今後、相談も無しにこのようなことはしないで下さい」

「誠に申し訳有りませんでした」

 

 オリビアの身に危険が及ぶと考えると、行動を止められなかった。

 でもこれは言い訳に過ぎない。確かに出過ぎた行為だったし、素直に謝罪をすることにした。

 

「謝罪はもう結構。資料自体は見事なものですので後で褒美を取らせます。シャーロット、今から言うことにメモを」

「はっ」

 

 メイドのシャーロットさんがメモを手に持つのを確認すると、オリビアは遠慮なく話しだした。

 

「ゲルマニウム卿とマサル卿は自分でどうにでもなるでしょうが、一応報告しておきましょう。気がついてない場合もあるでしょうし。サラベス卿はこういった情報戦が不得手ですので、一番手に報告するように」

「アリス卿とジョージ卿にはいかがいたしましょう?」

「ジョージ卿に関しては前もってそういった動きがあると報告がありましたので問題有りません。アリス卿には援軍を送る用意だけはしておきましょう。あそこは兵隊の規模がこの中でも一番貧弱ですからね。許可が降り次第出せるように準備させておきなさい。あちらもそれはわかってるでしょうから、断りはしないでしょう」

「かしこまりました」

「それと――――」

 

 雨あられのように出されるオリビアの命令を、シャーロットさんはそれを素早くメモに取る。

 その素早い判断力と、メモを取る能力には素直に感心せざるを得ない。

 

 それらを一緒に見聞きしているカレンが、ボソリと呟く。

 

なんで仕事はここまでできるのに、恋愛はクソ雑魚なんでしょうかこの人……

「なんだって?」

「……いやあ、仕事ができる女だなぁ。と」

 

 確かに、オリビアの仕事っぷりは見事なものだった。

 傍で護衛しているから、オリビアの仕事ももちろん見ることになる。

 

 彼女は毅然とした態度を崩さず、即座に判断をすることができていた。

 上の人間が慌てずに行動していると、下の人間も安心してその指示に従える。オリビアの仕事っぷりを見て再認識できた。

 

 領民や部下等のたくさんの命を背負いながら、絶対の正解のない答えを下さなければならない。

 恐らくはオリビアも、おっかなびっくりしていることだろう。重責に耐えられなくなることもあるのかも知れない。

 その様子を欠片も出さず、『現当主』としての仮面をかぶり続けるその姿は、貴族として誇り高い姿なのだろう。

 

 昔はかわいい印象が強かったけれど、こうした所も素敵に思う。

 この仕事に就いて一番の収穫は何かと聞かれれば、オリビアの知らぬ一面を見て、それを好きになれたところだろう。

 

 ……それと同時に、気を張り詰めて心配ではある。

 今日もオリビアの政務が終わったら、たくさん甘やかしてやらないと。

 

「――――後はブレイク卿だけど、この間の魔物の襲撃で、兵がかなり削がれていたわよね?」

「はい。こちらにも兵を送る用意をしておきますか?」

「そうね……まあ後一部隊の援軍ぐらいなら余裕はあるでしょう」

 

「オリビアさんって、かなりすごい魔術師ですよね? 何で自分は行かないんです?」

「行く場合もあるけれど、基本的に戦線に出ることはないわね。万が一この家の当主が死んでしまったらその後が大変だし、兵達の仕事を奪ってしまうことになるわ。それじゃあ彼らが月給泥棒になってしまうでしょう?」

「なるほど……」

 

 普通の人なら鼻で笑いそうなカレンの疑問を、オリビアは懇切丁寧に説明してくれる。

 知らない者に対して高慢にならないのは、僕が昔から知ってるオリビアの長所の一つだ。

 

「じゃあそんな当主が行く場合って、どういう場合なんですか?」

「それは箔を付ける為ね。簡単に言ってしまうと、『戦場でも私には価値があります。侮らないで下さいね』と周りに言っておかなければならないのよ。腰抜けだなんて舐められたら、仕事が成り立たなくなる――――」

 

 そこまで言うと、オリビアは黙り込んでしまった。

 何やら考え事をしているらしい。

 

「……ここらへんで、一つ箔をつけておかなければならないかも知れないわね」

「え? なんでですか?」

「父が亡くなった後、私は戦線に出たことがないのよ。兵を出しても『ヴァルキュリア家の現当主は腰抜け。先代の指南が無ければ、まともに戦うことすらできない』と言われる恐れがあるわ」

「そんないじめみたなコトあります???」

「いい? 貴族社会はマウント社会よ

「そういえばそんなコト言われてましたねハイ!」

 

 難儀だなマウント社会……。

 

 いや、そうじゃない。

 オリビアが戦線に立つということは、命の危険があるということだ。

 僕がきっちり守らなくてはならない。

 

「シリウスとカレンはお留守番をお願いね」

「なんで???」

 

 突然おかしなことを言われて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「いやいや、護衛なのに傍にいないのはおかしいでしょう?」

「別にシリウスの他にも護衛はいるでしょう? 何も問題は有りません」

 

 確かにそれはそうだ。

 でも、それじゃあボーナスが期待できないし、何より――――

 

「僕がオリビアを守りたいんだ。どうか僕に、オリビアを守らせて欲しい」

「――――はあ!?」

 

 顔を真赤にするオリビア。

 僕は畳み掛けるように、オリビアの手を握る。

 

「君の傍から離れたくないんだ」

「そ、そんなに……?」

「そんなにだよ」

 

 涙目にさえなっているオリビアだが、ここは僕の意思を通させてもらう。

 オリビアを危険な場所に行かせるというのに、僕一人が安全を貪る事はできない。

 

「……しょ、しょうがありませんね。そこまで言うのであれば、付いてきても構いません。せいぜい怪我をしないように気をつけることですね」

「ありがとう。オリビア」

 

 顔を赤くしてコクコクと頷くオリビアは、とても可愛らしかった。

 ……ああ、うん。兵を率いるとはいえ、こんなか弱い生き物を放ってはおけない。

 

 諸先輩方を信頼してないわけではないんだ。完全に僕のエゴだとしか言いようがない。

 愛情に加えてボーナス目当てなんだしね。

 

「く、クソ雑魚……」

「完全に逆転してるじゃないですか……」

 

 カレンとシャーロットさんが何か言っていたが、僕にはその意味がよく分からなかった。




・ウィリアム・マルコ
 かなりのベテラン冒険者。冒険者として新人だった頃のシリウスが助けられたことも多かった。

・シャーロット・ロックハート
 魔族は長生きな割に若い時期が長いので、実はかなりの高年齢だったりする。
 胸は普通にあるが、オリビアとカレンが大きすぎて困惑している。
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