一流冒険者の僕が美少女令嬢に隷属することになりまして   作:月崎海舟

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第九話 英雄に近しい者

 終末教過激派シンパの掃討は五分とかからなかった。

 私達三人で半分片付けたし、箔としては十分の活躍でしょう。

 

「動いてるやつは他にいませんね」

「じゃあ後片付けをしようか」

 

 シリウスが術式を展開すると、たちまち炎が消える。

 空気を分析すると、どうやら二酸化炭素を操って炎を消したらしい。

 

「随分と器用な真似をするわね」

「冒険者って、緊急時には災害救助の手伝いもするからね」

「なるほど」

 

 私が傍にいなかった二年間、現場腕で大分魔法の腕を鍛えたらしい。

 その経緯を詳細に知ることができないのが、少しだけ悔しかった。

 

 思えば、二年前であればもっと前に出て戦果を上げていたに違いない。

 けれど、今回は護衛であることと、私が箔を付けるための戦いだと言うことを考慮しての立ち回りを心がけていた。

 

 成長は嬉しいことだけれど、これではマイナスのつけようがないじゃない。

 減給させてシリウスをできるだけ止めようとも思っていたけれど、これでそんなことをしたら私が批難を受けるだけだ。

 ……ままならない。

 

 私達が倉庫から出ると、ヴァルキュリア家の兵士達や、ブレイク卿の兵士達が後片付けをしている。

 そんな中、甲冑姿で黒髪の私と同い年の女性が近づいてきた。

 ブレイク・ボイジャーその人だ。

 

「今回はご足労いただきありがとうございます。オリビア様」

「構いませんよブレイク卿。それに今回彼らがせめてきたのはヴァルキュリア家の聖なる遺体が原因のようですし、頭を下げなければならないのはこちらの方です」

「それこそ構いません。こういった社会のゴミは遺恨無く消しておくに限りますので」

 

 今回は一方的に蹂躙できたものの、発見が遅れれば大惨事だった。

 もし襲撃が実行されれば、ヴァルキュリア領の民の多くが傷ついたことでしょう。

 

 それを回避できたのは何よりだった。

 ……この点において、シリウスにはボーナスを入れておかなければ、周りの目が痛いかも知れない。

 

「もしや今回、原理界法器(げんりかいほうき)を使いまして?」

「いえ、こちらの護衛二人と燃やして」

「あ、あら、そうでしたか……三人であの火力?

 

 軽く引いているご様子。

 まあ私はヴァルキュリア家で教育を受けてましたし、シリウスとカレンは一流を自負するほどの冒険者ですしね。

 むしろ魔力の効率化を図って三人でやっただけで、私一人でも再現できたでしょう。

 

シリウス君シリウス君、原理界法器ってなんですか?

 

 後ろの方でオリビアがシリウス疑問を投げかける。

 知らないのも無理はないでしょう。原理界法器は別に隠されているわけでもありませんが、庶民には程遠いものだしね。

 

「魔法は物を動かす力だろ。さっき俺が火を消したのは、自分の魔力(オド)自然の力(マナ)を操作して、空気中の二酸化炭素に干渉させて炎に動かしてた」

「まあそれはそうですね。私の瞬間移動も、一旦対象を分解してから目的地まで動かして再構成しまし」

 

 瞬間移動の仕組みは知ってたけど、こうやって聞くとちょっと怖いわね。

 

「原理界法器はそういうの関係なく、法則そのものを捻じ曲げるんだよね」

「つまり……?」

「マナを媒介せずに世界の法則を捻じ曲げる、神の力」

「ゴッドパワー……!」

 

 付け加えるなら、基本的に原理界法器は管理者が許可したものしか使えない。

 その管理者も基本的に公爵――――神聖渡辺帝国の皇帝の血を持つ者にしか与えられない使命だ。

 例外は製作者である教皇ヤルダバオトと、英雄渡辺だけだと聞く。

 

 ……ああ、頭が痛くなってきた。

 

「立ち話もなんですし、こちらで早く仕事を終わらせてから、ゆっくりお話をしませんか? 我がボイジャー家が総力をもってもてなします」

 

 一方、私の方の話はこんな方向に転がっている。

 社交界などで話す機会があったとはいえ、ヴァルキュリア家の新しい当主である私と、もっと強固な人脈を繋いでおきたいのだろう。

 私は公爵で、彼女は伯爵。気持ちはわからないでもない。

 

「ええ、では休憩がてらご厚意に甘えさせて貰おうかしら」

「ありがとうございますわ!!」

 

 感謝するのはこちらなのだけど……。

 

 その後は現場での片付けの確認などをして、各々一旦別れた。

 私もブレイク卿も兵士達に指示やこの後のことを話さなければならないし。

 

 さて行こう、とシリウス達に目を向ける。

 

 ――――そこで、信じられないものを見た。

 

 シリウスとカレンは、自分の胸に縁を描き、手を合わせて拝むを繰り返している。

 それは、英雄教の黙祷の所作のはずだ。

 

 おかしい。今回の掃討で味方側に死者は愚か、怪我人すらいない戦果。

 だというのに、シリウス達は誰に黙祷を捧げているというのか。

 

「何を、してるの」

 

 声が震えている。

 ああ、きっと私はどこかで、何に祈っているのかわかっているのだろう。

 

 それでも私は聞かずにはいられない。

 私の考えを、シリウスに否定してほしいから。

 

「終末教の過激派シンパ達に黙祷を捧げているんだ」

「別に、あんな害悪のことを気にしなくてもいいじゃない」

 

 表情に陰りを差して、シリウスは確かにこう言った。

 

「確かに彼らは明確な敵だった。でも、殺されたことぐらいは慈しんでやりたいんだ」

 

 ――――なん、だ。それは。

 

 別に、シリウスの価値観が変わっているというわけじゃない。

 敵であろうとも死者に対し、できるだけ弔ってやりたいというものは存在する。

 

 けれど、それはあまりに不器用な考えだ。

 敵の死者にまで気をかけるだなんて、息が詰まる事この上ない。

 

 そんなの――――心の自傷行為に他ならないでしょう?

 

 昔のシリウスは、そんなことを考えもしなかった。

 敵を撃ち倒せば、私のことだけを考えてくれていた。

 

 例えその身を厭わぬ献身があったとしても、そういった優しさは味方や無辜の民に与えられるもの。

 害悪しか成さない者達に、与えられたことなんてなかった。

 

 ……なのに、なのになのになのに!

 

 変わってしまっている。

 冒険者として過ごしてきた二年間のせいで、シリウスは確実に変化してしまってしまった。

 私の知らないシリウスが、今目の前にいる。

 

 それでまるで、聖書の中の英雄のような精神で、()()()()()()()()()()()()姿()()()()()――――。

 

 ダメ。

 

 それだけは絶対にダメ。

 

 やめて。やめて下さい。お願いします。

 

 どうか、どうかシリウスを、連れて行かないで下さい――――!

 

「大丈夫オリビア?」

 

 私の背中を擦り、心配そうに私の顔を覗き込むシリウス。

 その優しい黒い瞳が、私を現実に引っ張り戻してくれた。

 

 どうやら私は、無意識に手を合わせて、我らが英雄渡辺に祈っていたらしい。

 

 ――――行かないで。

 

 そう叫びたいけど、喉が枯れていて声が出ない。

 どうやら私は、口呼吸をするほどまで動揺していたらしい。

 

「オリビア様、お茶です」

 

 シャーロットに差し出されたお茶を、私は一気に飲み干す。

 優雅さの欠片もない。

 

 けれど一刻も早く喉を潤わさなければ、息苦しくで死んでしまいそうだったのよ。

 大丈夫……大丈夫。まだ心は落ち着かないけど、水分をとって取り繕えるぐらいには静まった。

 

 大体、シリウスがその程度で消えてしまうわけないじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――ハァ……ハァ……ありがとう、シャーロット」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「シリウスも、もう大丈夫だから。黙祷が終わったなら仕事に戻りなさい。まだ仕事は、あるんだから」

 

 そう、まだ仕事がある。

 それをやり終えないと――――

 

「それは流石に嘘だよ。今はゆっくり休むんだ」

 

 その言葉に、私はなぜかカチンときた。

 

「――――はあ!? 私はあなたの主よ! そこは言葉通り従っておきなさい!」

 

 今、私の感情はとても過敏で、ちょっとしたことでもすぐカッとなってしまうぐらいの精神状態だったらしい。

 言いたくも無いはずの、信じられない暴言が、自分の口から飛び出す。

 

 ああ、最低だ。

 シリウスにこんな理不尽を怒鳴り散らしたいわけじゃなかったのに。

 

「ダメだ。これは騙されてやらないから」

 

 シリウスは私の足をすくい取ると、お姫様抱っこで私を抱えあげる。

 

 ……お姫様だっこ!?

 

 嬉しいけどダメ! 骨格とかで厚底ブーツなのがバレてしまうかも知れないし、何より今の精神状態でこれは危ない。

 頭が! 頭が爆発する!!

 

「ダメ! 下ろして! 下ろしなさいシリウス! 下ーろーしーな-さーいー!!」

 

 灰を操り降りようとするが、動揺した精神状態ではうまく術式が起動できずにはたきと落とされてしまう。

 そ、そこまで私の精神状態ボロボロなの!?

 

「ダメ。安静になるまで、逃さないから」

「……う、うぅぅぅううううっ!!」

 

 私は何もいえず、車に横になるよう連行されるのだった。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 車窓からは生い茂る木々――――ここに来る途中で見た景色だ。

 

 僕の横で眠っているオリビアの寝息が、首にあたってくすぐったい。

 これは眠っていたオリビアが僕に抱きついてきたからであって、僕の私情は何ら関係ないといえる。

 今の僕であれば、英雄渡辺にだって誓えるだろう。

 

 他にいるのはいつもどおりクールな表情のシャーロットさんと、気まずそうにしているカレンだけだ。

 

 ……結局、この後予定されていたブレイク卿との会談は中止になった。

 理由は『魔法の行使による疲れ』で誤魔化したとシャーロットさんが言っていた。

 

 けど、これは確実にそんなものではない。

 

「……シャーロットさん、僕はオリビアの地雷でも踏み抜きましたか?」

 

 シャーロットさんはオリビアの幼い頃からお世話役をしているメイドだ。

 僕と出会う前や、僕が冒険者として離れていった間のオリビアのことはよく知っているはずだ。

 

「私にも詳しくわからないのですが……先代当主様の遺書を読んでから、オリビア様は悪夢にうなされるようになりました。長年の勘ですが、今回はそれが関係していると思われます」

「この間みたいなのが、頻繁に?」

「ええ、あなたがなぜ駆けつけられたかは知りませんが」

「愛の力です」

「真面目にお願いできませんか」

「虫の知らせみたいなものですよ」

「長年の勘は私だけで十分ですが?」

「僕だって伊達にオリビアの幼馴染をしてませんよ」

 

 実際そうとしか言いようがない。

 僕の知っている魔法や、自分の我力天成(アブソリュート・ワン)的にもそんな力は無いのだし。

 

「それはともかく、オリビアはどんな悪夢を見ているんですか?」

 

 今は僕の話をしている場合じゃない。オリビアの問題を進めなくては。

 

「私にもオリビア様は話してくださりませんでした。シリウス様も聞いてらっしゃらないのですか?」

「それがさっぱり。その遺書というのは?」

「オリビア様が燃やして捨てました」

「これ、原因解明とか無理じゃないですかねシリウス君?」

 

 やめるんだカレン。僕の心が今にも折れそうだ。

 

「僕、実際どこらへんが無神経だったのかな……それがわかったりとかはしませんか?」

「さすがにそこまでは……」

「ですよね……」

 

 シャーロットさんでもお手上げとなると、もう大変だ。

 今回オリビアが取り乱してしまった原因が分からなければ、また同じことを繰り返してしまうかも知れない。

 だがそれがわからないとなると僕達にはお手上げだ。

 

 こうなるともう、オリビアにカウンセリングをすすめるしか無い。

 

「シリウス君が消えちゃいそうだったからでは?」

「え?」

 

 カレンがわかっているように言うが、その言葉の意味が僕にはさっぱりわからない。

 

「一年ぐらい前まで、シリウス君は敵に対して黙祷なんてしていませんでした。それが気に入らなかったのでは?」

 

 確かにオリビアは、僕に声をかける時動揺していた。

 可能性としてはあるかもしれない。

 

「それが、どうしてここまで取り乱してしまうことになるんだ?」

「シリウス君は、どうして自分が隷属することになったのかわかりませんか?」

「それはヴァルキュリア家に迷惑をかけたし、他にまともなスポンサーに頼むのは難しいから――――」

「多分オリビアさんは、シリウス君のことが欲しいんですよ」

 

 冗談なんかじゃない。大真面目にカレンはそう言っていた。

 

「それも昔のままのシリウス君が欲しいんだと思います」

「それは、どうして?」

「オリビアさんはシリウス君に対して、『傷ついてほしくない』と言ってました。でもそれなら、今回の作戦で戦線に出すでしょうか?」

「いや、それは僕が無理を言って頼んだから付いてくることになったんだけど……」

「じゃあわかんないですね。お疲れ様でした」

「ここまで言っておいてそんな事ある???」

 

 確かに前提条件が崩れたからしょうがないのだが、あまりにも諦めが早すぎる。

 

「ですが、カレン様の言っていることはあながち間違いではないのかも知れません」

「なんだって?」

 

 シャーロットさんの言葉に、思わず耳を疑った。

 カレンの前提条件が崩れた話に、一体どんなヒントがあったのだろう?

 

「オリビア様は、当初護衛ではなく、城内に留める為に他の雑用を充てがおうとしていました。愛眼奴隷として飼う案もありました」

 

 えっ。

 

「ですが、オリビア様はできるだけシリウス様の意思を尊重したいと願っておりました。故に、シリウス様の希望を尊重し、護衛という役職を許可したのでしょう」

 

 ……ああ、確かにオリビアは僕の意思を尊重してくれている。

 今まで理不尽な命令なんて出さなかったし、相手が納得できないというのなら、できるだけ話し合いでなんとかしようとしてきた。

 

 でも、それはきっと、僕にだけに当てはまることじゃない。

 相手が知らないことでも懇切丁寧に説明し、相手が納得できなくても正論や暴論でねじ伏せてきた。

 

 ……人はそれを、優しいとは言わないだろう。

 

 けれど、終末教の過激派シンパのような人類の害悪でなければ、彼女は攻撃的に人にあたったりはしないのだ。

 冷静で、理性的に、言葉で相手を詰めていく。

 

 そうやって、その人の為を思い、彼女は自分の意見を通そうとするのだ。

 

 だからど、んなにイタズラをしようとも、バカ騒ぎをしようとも、沢山の人達に慕われているのだろう。

 

 それを僕は昔から知っている。

 シリウス・ウェザーコールドの名を受けてから、冒険者として旅立つまで、その光景を目に焼き付けてきた。

 

「そんなオリビア様が、なぜシリウス様の人権を掌握してまで手元においたのか。それは、これ以上変わってほしくないからなのだと思います」

「……変わってほしくない? なんで?」

「本当にわかっていらっしゃらないのですか?」

 

 ……心当たりは、少しある。

 今の僕には高望みだけど、そうだったら嬉しいなと思うようなことが。

 

「でも、全てをそれで片付けてしまうのは、どうも違う気がするんだ」

「どうしてですか?」

「いや、オリビアは僕の冒険者としての活動、よく聞いて来るんだよね」

「「そうでした」」

 

 議論は続いたが、それらしい答えは何も出てこなかった。

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 車の中で、私は寝たふりをしていた。

 それはもう誰にも悟られないようにしっかりと。

 

 色々と言いたい文句はある。

 シャーロットやカレンの言っていることをまとめると、まるで私が頭のおかしいやつじゃない。

 

 ……でも、私のことを心配して話し合っているのを聞くのは、とても嬉しかった。

 

 帰ったら早く元気になろう。

 そう思いながら、私は本当に眠りにつく。

 いい抱き枕があるお陰で、ぐっすりと眠れそうだった。




・原理界法器
 かつて英雄渡辺が討滅した邪悪なる神々を素材に作られた超常兵器。
 世界の法則を自由に捻じ曲げることができる。
 ある器は氷を燃やし、ある器は時を操り、ある器は重力を天に向ける。
 製作者は皇帝ヤルダバオトと言われている。

 素材となる神々の遺体は現存されておらず、製造方法も不明とされている。
 研究者も調査をしているが、その製造方法の手がかりは掴めていない。

 現在は皇帝の血筋を持つ公爵達が管理している。
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