『次はトリスタ、トリスタ』
『一分ほどの停車となりますので、お降りになる方はお忘れ物の無いようご注意ください』
そこそこ慣れ親しんだ列車に揺られていると、駅から見える風景が自然豊かな農地へと変わってくる。そして、まだ降りたことの無い駅に対するアナウンスも聞こえてきた。ここだ。俺は今日からこの町で暮らして行くことになる。
駅前にはライノの花が咲き乱れていた。故郷には咲いてなかった花だけど、旅先でよく見る綺麗な花だったから、流石に名前ぐらいはもう覚えてしまった。そんな光景の中、俺は赤い制服に身を包みながら、これから通うことになるトールズ士官学院へと歩みを進める。その学園へと向かう道の途中、慣れ親しんだ二つの背中が見えた。
「クラウスさん!ラウラー!」
ついつい子供みたいに、はしゃいでいるような声をかけてしまった。周りの人に見られてないといいんだけど、うわ〜後ろから同じ赤色の制服を着ている人が来てたよ。同じクラスだったらどうしよう。子供ぽいとか思われないかな?
「おはようございますノクト様。無事合流出来たみたいですね」
「ええ、一人寂しくの列車旅だったんで、憂鬱でしたよー」
「だから、一昨日うちに泊まって、一緒に行こうと言ったのにな。そなたが嫌がるから」
軽々しく泊まるとか言うラウラはやっぱり羞恥心が全く無いな。それに、入学初日から一緒に登校なんてすれば、ラウラに憧れる女子や他の男子達からどんな顔されるか。想像するだけで怖いよ。しかも、お泊まりって、お互い挨拶周りとかで忙しいから誘ってくれなくてもいいのに。
「……それでは、お嬢様、ノクト様。ご武運をお祈りしています」
「うん、ありがとう。爺も元気で、父上の留守はよろしく頼んだぞ」
「そんな闘いに行くんじゃないんだから。楽しく立派になって二人とも戻るよ」
「ハハ、お二人の成長を楽しみにしています」
本当にこの人にはお世話になった。家族仲がよろしく無い俺のためにまるで父親みたいに叱ってくれたり、褒めてくれたりしてくれた。本当クラウスさんとヴィクターさんには頭が上がらないな。
「そういえば、赤い制服の人は少ないようだな」
「ああ、見る限りほとんどが緑と白ばかりなんだけどな。俺の兄さんは白かったんだけどな〜?」
もしかして、今年からトールズはランク制に変更されたのか?兄さんはエリートだから白で、俺は落ちこぼれだから赤の可能性もあるかもしれない。あ、でもラウラも赤だし、それは無いな。ラウラが一年の中で一番強いことは断言出来る。俺が保証する。
「ご入学、おめでとーございます!」
ちょうど会話が終わり、トールズの玄関が見えたぐらいで、明らかに後輩感が強い人とぽっちゃりめな作業員服の人に声をかけられた。
「えっと、ラウラ・S・アルゼイドさんとノクト・クロンダルト君でいいんだよね?」
名前が知られているのか……学校の関係者か?いや、それでも、生徒全員の名前を覚えているなんてありえないからなー。もしかして、赤い制服と関係ありか?
「ふむ。どうして、我らの名前を知っているかは聞かぬが、何用か?」
「私たち、申請してた品を預かる係なんだ。それが、申請してる品?」
ああー、そういえば、そんなのあったな。でも、俺の申請してる物は結構な重さがあるから、後ろの人でも持てるか微妙なんだけどな。とりあえず、渡してしまうか。
「クロンダルト君の物は結構重いね。色々入っているみたいだからかな?」
「俺はラウラと違って一つじゃないから、色々入っているんですよ。というか、よく持てますね。もしかして、只者じゃありません?」
「そんな事ないよ〜。ちょっと体が大きいから持てるだけだよ」
俺でも全部持つのは大変なのにすごいな。てか、ゆっくりしてたら入学式に遅れるじゃん。入学初日から遅刻なんてこれからの二年間に支障をきたしそうだし、早くしなきゃ。
「ラウラ。早く行こうよ?遅刻しちゃうよ」
「ああ、そうだな。では」
入学式が行われるのは講堂だ。ラウラと共にダッシュで向かう事になったんだけど、着いた時にはまだ席はそこまで埋まっていなくて、席を選ぶ暇はそれなにりにありそうだった。
「ラウラは席どの辺が良い?」
「無難にその辺りでどうだろうか?」
「了解。じゃあ行こっか」
見たところやっぱり赤の制服の人は少なくて、緑と白ばかりだった。赤の制服の奴は十人いるか居ないかぐらいかな?本来なら、俺もラウラも白の制服を着るはずだったんだけどなー。やっぱり何かしら変更があったんだろう。
「若者よ───世の礎たれ」
ヴァンダイク学院長が力強く獅子心皇帝の言葉について語った。普段はお偉いさんの話なんか聞き流すんだけど、この言葉だけは別だ。単純に語呂が良くて好きというのもあるけど、なんていうか生きて行く目標みたいのを考えられる感じもするから好きなんだ。やっぱり、この学校で暮らしていくうちに真の意味っていうのも学べるのかな。
「ラウラはさ。世の礎ってどういう意味だと考える?」
「……自身に課せられた役目をしっかりと果たしていくと言うことじゃないか?」
「まぁ、そうとも考えられるよね。俺はね、みんなが幸せな未来を夢観れるように頑張るってことじゃないかなって今は考えてるよ」
「大きく出たなノクト。だが、そんな意見も嫌いではないぞ」
「───指定されたクラスに移動すること。学校の規則やカリキュラムに関してはその場で説明を行います」
教頭先生からの入学式の終了と、この後の予定を告げられた。俺とかラウラは指定されたクラスなんて知らないけど、周りの人達は分かっているようで、どんどんと講堂から移動して行ってしまった。残ったのは俺やラウラを含む赤い制服の人ばかりだった。
「はいはーい。赤い制服の子たちは注目〜!」
赤い制服の人がほとんど戸惑っている中、教師ぽい人が明るい声でここに残っている生徒に呼びかけた。なーんか、教師ぽくは無いんだよなー。見た目とか雰囲気とか。どちらかと言うと、俺が会って来た人達に似ている気がしないでも無い。
「君たちにはこれから『特別オリエンテーリング』に参加してもらいます」
「それじゃあ、全員あたしに着いて来て」
俺たちの疑問なんて放置というように、説明だけすると、とっとと進み出してしまった。まぁこういうのは大体行けば分かるか。
「はぁー、なんかきな臭いけど、行こうか」
「ふむ。……そうだな」
そんなこんなで着いたのは、いかにも何かが出そうな建物。しかも、教師は鼻唄を歌いながら鍵開けてるし。いったいどうなってんだろう。肝試しで友情を深めましょうて感じか?他の人達も困惑しているみたいだし、早くしてくれないかな。
中に入っても見た目通りのおんぼろさ加減だった。ほこりもたっているようだし、こういう場所にはあんまり長居したくないんだよな。
「──サラ・バレスタイン。今日から君たち『Ⅶ組』の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」
「サラ教官。この学院の一年生のクラス数は5つだったと記憶していますが。それも、各自の身分や出自に応じたクラス分けで……」
う〜んⅦ組?おかしいなぁ。去年までそんなクラス無かったみたいなんだけど、今年から作られたのかな?そうそう、メガネの女の子の言う通り、貴族は白の制服を平民は緑の制服を着て、クラスは別にされるはずなんだけど……じゃあこの赤い制服はⅦ組の証ってことね。
「そう。あくまで去年まではね。今年からもう一つのクラスが新たに立ち上げられたのよね〜。すなわち───君たち身分に関係なく選ばれた特科クラス『Ⅶ組』が」
おおーすげぇ特科クラスってまじ?他の人とは違う特別な感じがして、嬉しいなぁ〜。それに俺が選ばれたのか、運良いな。
「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話聞いていませんよ!?」
「えっと、確か君は」
「マキアス・レーグニッツです!」
めっちゃ怒ってるなー。身分ぐらいでそんな怒る事無いだろうに、この帝国に生まれた以上、身分は生まれつき着いてくるもので、もう変えようが無いのに。まぁ、あの有名なレーグニッツだったらそんな考えになるのも分からなくは無いかな。
「まさか、貴族風情と一緒のクラスでやって行けっていうんですか!?」
「同じ若者同士なんだから、すぐに仲良くなれるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
俺はあんまりそんな風に貴族で一括りにされたくは無いんだけどなー。貴族の中にもラウラみたいな魅力的な人いるし、反対に兄さんや父さんみたいな人もいるしな。でも、まぁこのクラスで、やって行くんだったら、貴族貴族しているような人は居ないみたいだから、考え方も変わるんじゃないのかな。
とか、思ってたら居たわ。ユーシス・アルバレアとかいう大物中の大物貴族が。四大名門じゃん。そんな有名な家の人は居ないだろうとは思っていたけど、マジか。どうしようかな。うちの家は区分的に一応アルバレア家のクロイツェン州に入っているから、喧嘩したりすると不味いかな……いや、とりあえずはへこへこなんてせずに普通に接してよう。そっちの方が楽だし、ラウラも嫌な顔はしないだろうからね。それに、もうアルバレアとレーグニッツが喧嘩してるから、これ以上クラス内に余計な火種はいらないだろうから。
「色々あるとは思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」
「もしかして……門のところで預けたものと関係が?」
やっぱり肝試しかなー?この雰囲気にあるのってそれぐらいしか、無いもんね。それとも、戦闘訓練かな?闘いあってこそ友情が深まるって感じで、でも、それだったら俺とラウラの一騎打ちに最後はなるかな。ラウラより強い同い年はいるとは思えないし、俺とラウラの戦績は大体拮抗しているからね。
ああ、確かに黒い髪の子が言うように、門で自分の獲物を預けたから、それを使うのは間違いなさそうかなー。じゃあ、やっぱり決闘とかその辺か?
「それじゃあ、さっそく始めましょうか」
サラ教官が何かしらのボタンを押した途端、すげぇ足元がぐらついた。そして、足元の床が何か割れたというか、傾いた。いや、無理無理だから。流石の俺でも、入学式に傾いた床を避ける道具なんて持ち込んでないよー。必死に傾いた床に爪を食い込ませて生き残っているけど、もう、無理そう。あ、何かサラ教官が喋ってるな。その声が気になった俺は上を向いた。いや、向いてしまった。空中には、銀髪の女の子の足、スカート、そしてその中。ああ、やらかした。……俺は黙って飛び降りた。
ラッキースケベはオリ主にも有効