闇堕ちへの軌跡   作:地支 辰巳

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オリジナルエピソードを少し挟みます
あまり話数は無いと思います


ちょっとした違和感だけど

 

 また前と同じように実技テストが開催されることになった。こんな感じに何回も実技テストなんかして意味があるのかとは思うものだけど、お互いの連携とか強さを測ってサラ教官が把握する意味では大切なことだったりするんだろうな。

 

「さぁ、先月に続いて実技テストのお時間よ」

 

 サラ教官の指パッチンで、先月とは色が違う機械か生物かよく分からない物が出て来た。本当にどんな物か検討もつかないから、次会った時に、師匠に聞いてみてもいいかもしれない。そんな予定を考えている内にリィン、アリサ、ラウラ、ガイウス、ノクトと名前を呼ばれて、この五人で連携してあの得体の知れないものを倒すことになった。軽く五人で集まってポジションや戦略を練ってから、挑む。

 

 前衛気質の武器を得物としているのが4人だってことで、少し変則的なポジションで戦っているけど、中々上手く行っているとは思う。だけど、戦ってる中で何か変な違和感がある。これがいったい何の違和感なのかは分からないけれど、ラウラの方を見ても同じような違和感を感じているのか、顔色や挙動に俺と同じようなものを感じた。

 そんな違和感がありつつも思ったよりも強かったこいつを倒すことが出来た。特に特筆すべきことは無い、訓練用感が強かったのは確か。

 

「うんうん、いいじゃない。特別実習の成果と旧校舎対策の賜物かしら?さぁ続けて行くわよ。マキアス、ユーシス、エリオット!それにエマにフィー、前へ」

 

 うわー相変わらずサラ教官はマキアスとユーシスを仲直りさせたいみたい。絶対ガタガタになるに決まっているのに。本人含め、全員が色々察しているにも関わらず、サラ教官はニヤニヤ笑っているだけ。性格が良いのか、悪いのか本当に分からない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「分かってたけど、ちょっと酷すぎるわねぇ。ま、そっちの男子2名はせいぜい反省しなさい。この体たらくは君たちの責任よ」

 

 全員の予想通り、このチームは撃破するのにうちのチームよりも苦労していて、サラ教官も厳しめの意見を申してた。俺もマキアスとユーシス、どちらと組んでも上手くいける自信は無いから、あんまり強くは言わないが。

 

「今回の実技テストは以上。続けて今週末に行う特別実習の発表をするわよ。さ、受け取ってちょうだい」

 

【5月特別実習】

 

 A班:リィン、エマ、マキアス、ユーシス、フィー

    (実習地:公都バリアハート)

 B班:アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス、ノクト

    (実習地:旧都セントアーク)

 

 うわーまたあの2人一緒じゃん。サラ教官もここまで来ると、仲直りするまでするんじゃないのか?それよりも、旧都セントアークか……行ったことはあるけど、ハイアムーズの息子であるパトリックとは折り合いが悪いからなー。ちょっと行きにくい。でも、アルバレア家のいるバリアハートよりかは全然良かったかな。サラ教官とか、常任理事とかの意向だったら、色んな意味で何も言わないけど。

 

「冗談じゃない!!!」

 

 そんな俺の悩みなんて安いもんだろと言うようにマキアスが大声を上げた。大方、貴族達の本拠地のような場所に行くのが嫌だからなのと、ユーシスと一緒なことに怒ってるんだろう。

 その意見には同調するようにユーシスも声を上げて、二人でサラ教官へ文句を言う。うーん、これが毎回だと、流石になぁ。俺も何か言うか。

 

「二人が仲良くすれば良い話じゃないか。ユーシスくんもマキアスくんも何がそんなにお互い嫌うことがあるんだ?」

 

 まさか、俺からそんなことを言われると思ってもみなかったか、二人とも何とも言えない表情をしてた。

 

「……あまり人のことに口を出さない奴だと思っていたがな」

 

「君は黙っていたまえ!!貴族で腫れ物のような扱いの家の君には分からないさ!」

 

 ……二人から同時に反撃された。どっちも正しいことだから、なんとも言い返せないけれど。こんなに反撃されるなら、言わなきゃ良かったかな?

 

「ぬしら、言って良いことと悪いことがあると思うぞ?特にマキアス、それはノクトには関係の無いことだ。あまり言わないでやってくれ」

 

 ラウラの口調は柔らかかったけれど、そこに凄みと覇気があった。ラウラの気持ちは嬉しいけれど、ラウラばかりに庇われていてばかりじゃあ駄目だな。

 

「はいはい、そこまで。全員一旦落ち着いて。あたしは軍人じゃないし、命令が絶対とは言わない。でも、そこまで異議するのなら、2人がかりでもあたしに言うことを聞かせる?」

 

 サラ教官の煽りとも言えるセリフにユーシスとマキアスは迷いなく乗った。サラ教官もやる気のようで、片手に導力銃、もう片手にブレードといった中々に本気のスタイルで相手をするようだった。そんな折に、サラ教官にリィンが呼ばれて、三体一の構図で戦うことになった。サラ教官、リィンのこと好きすぎでしょ。

 三人とも善戦していたけれど、サラ教官の鮮麗された技や圧倒的なスピードに翻弄されて、負けてしまっていた。……もちろん、サラ教官は手を抜いているとは思うけれど、世界、いや、人類最高峰だと確信している師匠の動きを見てしまっていると、自分たちでもステージを二つ、三つ上がれば勝てるのだという確信が芽生えてしまった。多分、この感情はよく無い。

 

 そんな感じで結局、決められた通りのメンバーで試験に行くことになったけれど、今回もラウラと一緒で嬉しいな。また一波乱起きそうな気がするけれど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ということで、特別実習の日がやって来た。駅のホームでA班と会ったけれど、相変わらずの2人でいたので、リィンに対して心の中で応援しておいた。そんなことがあったけれど、この班は比較的落ち着いたメンバーで揃っていると思う。ユーシスにちらっと言われた通り、俺はラウラ以外の人間とあまり親しくしていなかったみたいなので、もう少し親交を深めたい。言われるまで、あまり自覚無くて、自分では普通に接しているつもりだっただけどな。理由は薄々分かっているけれど、あまり考えたくは無い。

 

「ノクト。ノクト」

 

「え、ああ。どうしたのガイウスくん?」

 

「何処か思い詰めた顔をしていたが、大丈夫か?」

 

 そんな顔をしていたのか。いつの間にか、列車に乗っているし、随分と自分の世界に入っていてみたいだ。あんまり、こういうことはした記憶が無いんだけど、思ったよりも、ユーシスやマキアスに言われたことが効いているからだろうな。

 

「大丈夫。俺のことは気にしないで。セントアークの観光のことでも調べておいてよ」

 

「……もしかして、ユーシスやマキアスに言われたこと、気にしてる?2人とも勢いで言っただけだから、気にしなくても良いと思うよ?」

 

「……事実だから。ユーシスが言っていることだって自覚が無いことは無いし、マキアスの言う通り、うちの家が貴族からも平民からも疎まれてる。改めて自覚する出来事も最近、あったからさ」

 

 地元以外で見せている明るい自分じゃないことぐらいは分かっているけれど、色んな気持ちが一気に出てくる。何でこんな生まれだとか、もっと幸福になりたいとか、お姉ちゃんには申し訳ないけど、ラウラと恋愛したいとか。思い起こせばきりが無い。

 

「……ラウラ」

 

「分かっている。ノクト。アリサもエリオットもガイウスもここに居ない者だってお前のことを家で判断しないし、疎んだりもしない。他にも、ノクトが通ってきた多くの人だって、お前のことを認めている。ノクトは充分持っていると私は思うぞ」

 

 ……情けないな。こんなみんなの前で今までの気持ちを吐露してしまうなんてさ。立ち直ろう。ラウラの言うとおり、俺はしっかり持っているんだ。父さんや兄さんよりも。

 

「ラウラ、ありがとう。みんなもありがとう。特別試験頑張ろっか」

 

 こんな湿っぽい雰囲気にしてしまったけれど、上手く直すことは出来なかった。でも、今なら、なんでも出来る気分にはなれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 二時間近くの長旅を終えて、着いた駅から見えた景色は白く幻想的な街だった。何度も来たことがあるけれど、相変わらず四大貴族の都である街は見飽きることが無いし、美しさも色褪せることか無い。その分、他の部分に醜さが顕著に出ているんだけどね。

 

「初めて来たけど、凄いねここ。帝都にも負けてないよ!」

 

 エリオット含め、みんなテンションが上がって舞い上がっているようだったから、一応うろ覚えながらも道を覚えている俺が先行しながら宿までの道案内をした。ハイアームズ家が直接統治しているだけあって貴族がそこら中にいて、浮いてしまうことは仕方ないんだろな。宿に着くと、前回と同じように課題を渡して貰った。内容も前回と変わり無く、まるで遊撃士のような仕事なことには今更ツッコまないけど、学校の方針としてこれからの世の中には遊撃士の志が必要だと思っているのかな。

 

 今日、渡された課題については終わったんだけど、前回行ったケルディックとは違って、貴族が幅を利かせている場面が多々見られた。色んな場所を流派を学ぶ関係で訪れた自分としては、物珍しい光景でも無かったんだけど、ガイウスなどは大きく驚きを示したり、他のみんなも改めて帝国にある差別的な階級制度に対して思う所があったみたい。俺もこんな風に語ってはいるが、この見慣れた光景も意識して見てしまったら、自分の立場も含めて、思う所が無いわけじゃない。

 

「寝ないのか、ノクト」

 

「ああ、うん。ちょっと気になることがあってね」

 

 一日が終わり、男女別の部屋で宿に泊まっている俺たちB班。辺りは既に暗くなっており、明日も早いということで、みんな寝てしまっている。多分、起きているのは俺とラウラぐらいだろうな。

 

「……戦っている時にあった違和感か?私も違和感を感じたぞ」

 

 やっぱり、ラウラほど一緒にいると、思っていることまで一緒なんだな。この間の実技テストで感じた違和感が今回、課題こなしていく中でも同じように感じた。俺だけが変なのか、何なのか原因が分からないけれど、動きにくいっていうか、そんな感じの違和感。

 

「俺も感じた。それがずっと引っかかっていて、他のみんなとのつなりがやりにくいというか、つながりにくい感じ。自分のスタンスとも被ってどうすれば良いか考えてた」

 

 ラウラはフッと笑う。それは俺を馬鹿にした感じでは無く、ただ労わるような、共感するようなそんな感じ。

 

「同じだな。私も1人でそれを解決する方法を探したくて、ここに来た。だが、ノクトがいた。ノクトが変なのでは無い。我らで探そうじゃないか、解決方法を。幸い、他の人には迷惑をかけてはいない」

 

 もう1人で悩むことはやめよう。ラウラだって一緒に悩んでくれる。俺はしっかりと持っているんだ。解決しなくても良い、ただラウラと一緒に悩もう。

 




闇堕ちするのに心の悩みは不可欠

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