一体何分経ったのかは分からないけれど、多くの時間をこの中で過ごしたと思う。そんな時、俺の居るところに柄の悪いいかにもな人が来た。近くにジュリアスもいるところを見ると、この人が俺を捕まえるように依頼した人なんだろうな。じゃあ、そろそろかな。
「よく捕まえてくれたじゃねぇか。坊ちゃん」
「僕が好きでやったことだしね、気にしなくても良いよーハハハ」
「よぉ、てめぇを捕まえれば金がもらえるって依頼されてな。悪りぃな」
その男は俺に近づくと、耳打つように言ってきた。俺の首を欲しい人なんて心当たりないんだけどなー。まだ、父さん関連かな?領地に猟兵も出るし、息子の首は狙われるしで、本当にいい加減にして欲しい。俺が何をしたっていうんだ。
「んじゃあ、坊ちゃん。お前にも来てもらおうか。伯爵家を狙う依頼だ、もっと良いやつもついでに持っていこうじゃねぇか」
柄の悪い男の周りの男が俺に向けている導力銃を同じくジュリアスに向けて構える。やっぱりこういう猟兵とかチンピラは信用しちゃいけないんだよ。そんなことは俺とラウラならよく分かってる。……この子も哀れなもんだよ。
「ハハハ、いやー分かんなかったな。どうしよっかな。一応聞くけど、僕が居なくなったらハイアムーズ領は大騒ぎだよ?」
「へっ知ったことはねぇ。俺らにそんなこと関係ねぇからな」
ジュリアスの笑いは乾いていたみたいだった。嘘くさいっていうか、そんな感じがすごくするんだけど。分かってたのか?いや、そんな気がする。
でも、好都合かな。俺に注意はそこまで向いていない。ここでやるしかないでしょ。俺はゆっくりと笛を取り出すと、吹き始める。えーと、貴族の嗜みで軽くしか触れたことが無いけど、これで大丈夫かな?
「おい!なんでここで笛なんか吹きやがる。おちょくってんのか!」
笛の音に呼応するようにどんどんと足音のようなものが大きくなっていき。俺たちの辺りに魔獣が何体も現れ始める。こんな地下みたいな場所だから、こんなに魔獣がいるのかな?そのままチンピラ達と交戦を始めた魔獣によって、俺の檻が壊される。
「へぇー魔獣を操る笛か。古代遺物なんじゃないの?予定外かな」
無事に檻から出れた所で、ラウラ、ガイウス、エリオット、アリサの四人が助けに来てくれた。嬉しいな。俺の為なんかにそこまでしてくれるなんて。でも、今は凄くごちゃごちゃしてるんだよね。
「ノクト、受け取れ!」
「ありがとう!ラウラ」
ラウラから投げてもらった騎士剣を受け取る。取り上げられていた武器だけど、取り返してくれたんだ。よし、これで何とか戦えそうだね。いやーでも、自分が呼んだ魔獣を自分で倒すのか、申し訳ないなー。
魔獣もチンピラもそこまでの強さでは無かったと思う。だけど、俺たちが四人がかりで倒している間、ジュリアスは自前の騎士剣を武器に無傷で生き残っていた。
「いやだなー君たち。僕の計画がめちゃくちゃじゃないか」
「計画って何よ」
「こいつらを利用して僕を死んだ事にする計画さ。貴族に四人兄弟なんて必要ないしね。僕、天才だから」
俺はこいつを侮っていたかもしれない。ただの貴族を盾にする生意気な少年だと思ってたんだけど、思ったよりも頭が回る。多分だけど、誰よりも。年下なんて思えないな。
「君の計画は分かったけれど、理由は兄弟が多いだけじゃないよね?」
「まぁね。周りの人間が合わないんだよね。僕を理解してくれない。理解して欲しいのにね」
天才ゆえの悩みってやつか。俺には全く分からないけれど、こいつをこのままハイアームズ家の四男でくすぶらせるなんてもったいないかも。俺もどうせ将来は父さんの言う通りにしかならないんだ。人助けのつもりでやっても良いかもしれない。
「分かった。俺がトールズを卒業したら、うちの家で雇うよ。やることが多いからね」
「僕を使うなんて烏滸がましいとは思わない?まっ、僕に勝ったらいいよ」
ゆっくりとジュリアスは騎士剣を俺の方へ向けてくる。ブレもなく向けてきている剣身を見ると、迷いなんかないんだろうなって思う。俺なんかに迷いを抱くことの方がおかしいんだけどね。ラウラからチャクラムを貰うと、それを仕舞って、俺も騎士剣を構える。
「参ったとか、チェックメイトでいいよね?」
「構わないよ。それじゃあ始めるよ」
他のみんなは新しい見張りが来ないか心配しているみたいだけど、多分大丈夫な気がする。そんな予想でもいいぐらい、俺はこの勝負に集中出来てた。
動かないジュリアスに痺れを切らして、先に詰める。スピードは自信があったんだけど、初激は上手く塞がれたちゃった。流れるように押していくけれど、それは全て当たらないように流される。
「ノクトすごい攻めれてるよ。これ、勝てるんじゃないかな?」
「いや、あの猛攻を防げている時点で相手も相当の腕前だ」
「ガイウスの言う通りだ。ノクトは騎士剣が得意な方だが、ここまで決めきれないとは。ただのハイアームズ家の四男と侮らない方が良いだろうな」
俺が猛攻をかけて、少し疲れた所で、ついにジュリアスが動き、急所を狙い、騎士剣を振るってくる。上手く防げているけど、いつまで待つかな。
「真正面からかかっても勝てないことは分かってるんだから、工夫ぐらいするでしょ?」
「確かに、それはその通りだと思うよ」
今度はジュリアスを引きつける。それを受け続け、いよいよジュリアスが俺の胸を狙っててきたところで、俺の騎士剣をジュリアスの騎士剣に絡めて、弾く。卑怯なんて知らない。俺は懐からチャクラムを取り出し、飛びかかる。
「ちゃんとした流派を学んでる癖に卑怯だと思わないの?」
「あんたも卑怯じゃないか?そんな銃を取り出すなんて」
俺が首筋へチャクラムの刃を突きつけるのと同じようにジュリアスが取り出した導力?銃が俺の胸へ突きつけられていた。
「ねぇ、これって」
「ああ。勝負、そこまで。お互い引き分けとする」
ラウラの采配によってこの勝負は終わりになる。俺の我儘な公平勝負に持ち込んでしまったのはみんなに申し訳ないなー。というか、俺らの班がこんなとこに巻き込まれているのがバレたら、色々問題になりそうな気がするんだけど。
「まぁ、その話は考えてあげるよ。僕には色々準備ってものがあるからね」
相変わらず気に食わない笑みを浮かべてる奴だけど、多少は悩みが吹っ飛んでくれてると良いな。いずれ、どっかで会いそうな気がするし。
そのまま、俺たちはその場所から出た。思いっきり、侯爵公の家の土地の中だったけれど、ジュリアスがいるおかげで特に疑問にされることはなかった。でも、そのまま侯爵家の門を出ると、あの人がいた。
「あまり、問題を起こされては困るんだがな」
「あ、貴方は」
「ラウラ知っているのか?」
「……ノクトのお兄さんだ」
目の前に居たのはクロイト・クロンダルト。俺の兄だ。どうしてこんなとこにいるんだか。いつもは家で父さんの手伝いをしているか、クロスベルの方へ仕事をしに行っているはずなのに。
「え、えっと、初めまして」
「クロイト・クロンダルトだ。ラウラくんの紹介の通り、ノクトの兄に当たる。ああ、自己紹介は結構。VII組の情報は仕入れているものでね」
「こんな場所に何しに来たんですか?ここに来たことも無いですよね?」
「フッ、詳細を話すことは出来ない。だが、大した力量の無いお前が面倒を起こすと、クロンダルトがさらに浮くということを覚えておけ」
その言葉だけを告げると、足早に兄さんは何処かに行く。ほんと、何しに来たんだか。それにあの嫌味たらしい性格は何とかならないのかな?空気は最悪だし。
★ ★ ★
色々あったけれど、セントアークにおける特別実習は終わりを告げた。はっきり言っちゃうけど、あのジュリアスとのことがあったせいで、特別実習、そのものの内容はあまり覚えていない。そんな中、帰りの列車に乗っている俺たちの空気はなんというか、俺には触れづらい空気感だった。
「聞きにくいんだが、ノクトは兄弟仲が悪いのか?」
「まぁ、上の兄とは見た通り悪いよ。でも、下の妹とは凄く仲が良いんだよ」
「そうなんだ。妹さんとは何歳離れてるの?」
「2歳だね。俺よりも優秀で、凄く良い子だから、もし会うことがあったら宜しく頼むよ」
その流れでみんなの兄弟仲とか聞いた。といっても兄弟がいたのはエリオットとガイウスだけだったけれど。あーなんか、兄さんと会ったことだし、兄弟の話もしたから、あいつと会いたくなってきたな。休みの日に会いに行こうといけば会えるけど。
「さぁ、B班もお疲れ様。二班とも似たような出来事に巻き込まれたみたいだけど、無事でなによりよ。今日ぐらいは英気を養ってちょうだい」
帰ってきて、A班、B班合流したところにサラ教官が労いの言葉を珍しくかけてくれた。というか、A班のギスギス感が薄まってる気がするんだけど。なんか、マキアスの俺に対しての敵意のようなやつも薄まっている。
それより、特別実習が終わったということは師匠と会える自由行動日もそこそこ近づいているってことだ。ジュリアスという天才と同じぐらいだったってことはあんなにも師匠に学んでおいて申し訳ないから、言いたくは無いんだけれども、その後の学びの為にも言った方が良いよね。
こんなことは言いたくないけど、見るからに天才みたいな奴に負けると悔しいんだよね。絶対に勝てないって自分の本能で分かる人以外には負けたくなんてない。だから、俺もこれから先はそうなりたい。
この小説を書いて一年ほど経ちました。全く投稿が出来てない点はほんと申し訳ないです。