闇堕ちへの軌跡   作:地支 辰巳

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俺とラウラにそれに耐えられない

 

 セントアークに行った特別実習から数日。俺とラウラはフィーに近づくことが出来ていなかった。それは、彼女の正体が元猟兵団だと、A班から聞いたからだ。俺たちだって、フィーを自分たちを死に追いやりかけた猟兵と一緒にしている訳じゃない。でも、無理なんだ。心の何処かでフィーも同じことをしてきたって思ったり、あの時のトラウマが蘇ってしまう。だから、俺たちは避けざるおえなかった。

 そんな不安定な心持ちのままサラ教官から通達されたのは定期試験をするということだった。各々訳ありとは言え、みんな高い能力を持っているから、定期試験でひどい点数を取るとは思えないけれど、俺はこんな状態でみんなと同じぐらい出来るかが、不安だった。

 

「二人は何か得意科目や苦手科目とかはあるのか?」

 

 順位という概念がある以上、お互いがライバルとも言える定期試験。そんな中、VII組は苦手部分で補いながらも、頑張っていこうという話になっていて、リィンから、それについて質問を受けていた。

 

「得意科目は政治経済と軍事学かな?苦手なのは導力学だね。機械は本当に苦手で」

 

「私は得意と言えるほどでは無いが、帝国史か。苦手なのは美術といったところだ」

 

 みんな誰かしらと勉強するという流れになっていたので、俺とラウラは二人で勉強するということをみんなに伝えて、誰とも被らなそうな食堂に向かった。

 

「……どうすればいいのだろうな」

 

「うん。フィーのことは好きだけど、どうしても、変な汗をかく、手足が震えそうになる。情けないよね」

 

「ああ、全くだ」

 

 勉強に集中にしているように見えても、俺たちは全く集中出来ていなかったと思う。いつだって、頭の中にあの時と猟兵団とフィーの顔が一緒に写ってくるから。そんな憂鬱な心持ちを持っている日々を無気力に過ごしている内に、あっという間に中間テストの日になっていた。

 その肝心のテストはというと、悪くはなかったんじゃないか?悶々としていながらも、勉強の時間はしっかりと取っていたからだと思う。他のみんなも概ね良好ではあったみたい。

 

 

★ ★ ★

 

 

 自由行動日。昨日から新しい管理人が来ており、その人によって家で出るもの変わらない豪華な朝食が用意されていた。その管理人はシャロンさんというらしいんだけど、どうやら、アリサの実家らしいラインフォルト家のメイドみたい。はっきり言えば、ただのメイドとは思えない気がしてならないんだけど、そう感じるのは俺だけなのかな?

 

「アリサちゃん。テンションが高いのか分からないね」

 

「親からの監視とも言える派遣に嫌がっているが、知っている人間が来て嬉しいのだろうな。本人はああ言っているが、親子仲は悪くは無いだろうな」

 

 隣にいたユーシスに話を振りながら、アリサとシャロンさんの様子を観察する。ユーシスの言う通り、アリサは戸惑っているだけのように思えるし、前に思いがけず、兄に会った時に俺が感じた気恥ずかしい思いがあるんだろうな。シャロンの美味しい料理を完食し終えた俺は既に食べ終わっていたラウラと共に一足先に寮を出る。ユーシスには夜には戻ると言っておいたから、大丈夫だとは思う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 

 シャロンさんと対面をし、これからの寮のご飯が楽しみになった俺はラウラと共にいつものようにあの場所に向かい、師匠と向かいあっていた。

 

「おはようございます師匠。今日もよろしくお願いします」

 

「よろしく頼みます」

 

 俺たちのことを見て、何か考え込むような動作をした師匠は巨大な槍を地面に刺し、切り株の上に座った。

 

「二人とも何か思い悩んでいるようですね。そんな状態では修行に身が入らないでしょう。私でよければ話を聞きますよ」

 

 その姿はまるで母親だった。俺とラウラが得てこなかった愛情。師匠から感じるそれはまさしく母親が子に与える愛情なのだと、知らないながらもそう思えるものだった。

 

「感謝する」

 

 同じように別の切り株に座った俺たちはぽつぽつとフィーのこと、自分たちの心持ちのこと、自分たちの考えなどを。そんな俺たちの話を師匠は嫌な顔一つせずに頷いてくれながら終わるのを待ってくれた。

 

「と、まぁそんなところです」

 

「このままでは、私たちのせいで連携が乱れが生じ、大変な事態を生み出してしまうかもしれぬ」

 

「ラウラ、ノクト。まず、厳しいことを言うようですが、戦場に出れば、その気持ちは誰もが味わうことです。故郷を滅ぼした人間と味方になることもあるかもしれない。昨日、味方だった人間と戦うことになるかもしれない。この不穏な世の中、いつ誰がそうなってもおかしくありません。だからこそ、折り合いをつけながらも戦うことが重要なんです」

 

 師匠の言うことはまさしく正しくその通りだった。俺たちはその折り合いがつけられていない子どもなんだ。世の中を生きる上ではそれが正しいんだろうけれど、俺にはそれが出来る気がしない。

 

「ですが、これは理想であり、息苦しい生き方です。貴方たちはまだ学生。一度しか無い学生人生。そこで出会った友人とそんな思いのまま過ごして欲しくはありません。肩書きと中身は別。ありきたりなことですが、中身を見て、個人を見て下さい。私は貴方達なら、それが出来ると信じていますよ」

 

 師匠が俺たちに見せた微かな笑顔は俺たちの心を安心させるようなもので、決して俺たちを癒すためだけでは無く、心の底から俺たちが出来ると信じているようなそんな心のこもった顔だった。

 そんな師匠に俺たちはただ何度も頷くことしか出来なかった。

 

「さぁ、始めましょう。頭も心も整理する為にも体を動かすことが一番です」

 

 そして、本来の目的であった師匠との修行が始まった。こんな時でも師匠は手を抜くことはせず、全力で戦いながらも、俺たちのことを指導してくれた。何度目かになる今回が終わった頃には、俺は別々の流派の武器を両手に持って、今までと同じ動きが出来るようになり、ラウラはアルゼイド流の動きからは離れたものの、前よりも格段に良い動きになっていた。

 

「今日はここまで。二人とも、良くなってきています。次は今の自分の実力を測りましょうか。例の子とのこと、頑張って下さいね」

 

 師匠から激励を受けた俺たちは師匠と別れ、トリスタへと向かう列車に乗っていた。お互い、疲れており、いつもよりも会話は少なくなっていた。

 

「なぁ、ノクト。実は、私はまだフィーとのことを整理出来ていないんだ」

 

「そう、なんだ。俺はなんとか整理出来そうだよ」

 

「ノクトは昔から器用だからな。でなくては様々流派であれだけの動きは出来ぬ。……私はそこまで器用では無いのだ。だから、一度フィーと話をつける」

 

 ラウラの目は覚悟に満ちていた。止めても無駄なのだと、流石に付き合いの長さであれば、家族以外では一番の俺は確信する。ラウラにはその方法が一番なのかもしれない。それに、俺もそれを見れば、もっと綺麗に整理出来ると思えるから。

 

「分かった。俺も側で見とくよ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 それから、トリスタに着いた俺たちはまたリィンが旧校舎の調査をしたということを聞いた。そろそろ俺たちも旧校舎の調査をしてみたいけれど、師匠との修行があるから、無理なんだよな。こればっかりは仕方ないね。

 

 

 

★ ★ ★

 

 

 充実した自由行動日を終えて、直ぐに実技テスト当日になっていた。その日は丁度待っている人は待っていた中間テストの発表日でもあったけれど、俺は待っている人では無かった。だけど、気になるものは気になるので、しっかり見はした。24位だった。ラウラと差はあったけど……気にして無い。

 実技テストではいつものように何かよく分からないものを相手にすることになっていたんだけど、パトリック・ハイアームズが絡んできたので、何かそれと戦うことになった。はぁ、ハイアームズと聞くたびにジュリアスを思い出すから嫌なんだよな。部活が一緒だから、ほぼ毎日聞いてるんだけどな。

 

「リィン。3名を選びなさい!!」

 

 と言うわけで、リィン含め四人で戦うことみたいなので、あまり人相手での修行の成果を実感したことが無いので、リィンに立候補してみた。

 

「リィン君、リィン君。立候補したいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、もちろんだ。ありがとう!」

 

 結果、俺、ユーシス、フィーの3人が選ばれた四人になったんだけど。フィーは女子だから拒否され、ユーシスと俺は貴族だから駄目という理由で拒否された。別にいつも部活で戦っているから、良いと思うんだけどな。そんなことでうだうだ言われたあげく、結局、リィン、エリオット、マキアス、ガイウスの四人が対決することになった。

 

「頑張って、みんな!」

 

 みんなで応援していたのだが、ギリギリで四人は何とか勝利をもぎ取ることに成功していた。リィン達の圧勝かと思ったんだけど、案外I組のやるんだね。まぁ、パトリックも部活では強い方だから、当然か。

 

「ユミルの領主が拾った出自も知らぬ浮浪児ごときが!」

 

 が、パトリックが手を差し伸べたリィンにそんなことを言うもんだから、この場の空気は一瞬凍った。

 

「ハッ、他の者も同じだ!何が同点首位だ!貴様ら平民ごときがいい気になるんじゃない!ラインフェルト!?所詮は成り上がりの武器商人風情だろうが!おまけに蛮族や猟兵上がりの小娘まで混じっているとは……!」

 

 立て続けるように悪口を言いまくるパトリック。部活の仲間だから、あまり深く考えないようにしてたんだけど、あんまり言ってると俺も怒るぞ?

 

「貴族というものはそんなに立派なものなのか?」

 

 パトリックの言葉でみんなの気持ちが昂ってきた頃に、ガイウスの問いと言葉によって、パトリックは押し黙った。ノルド出身なところから出る言葉は説得力もすごくて、何か俺まで考え込むほどだった。流石、ガイウスは大人びてるな。

 結局、サラ教官によって、騒動は強制的に打ち切られた。最初からやるならやって欲しいんだけどな。そして、流れるようにそのまま次の演習地が発表された。

 

【6月特別実習】

 A班:リィン、アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス

 (実習地:ノルド高原)

 B班:マキアス、エリオット、ラウラ、フィー、ノクト

 (実習地:ブリオニア島)

 

 うーん、案の定、フィーと同じになったな。この前、揉めているユーシスとマキアスが同じところになったから、なりそうとは思ったけれど、やっぱりなっちゃった。でも、俺もラウラに師匠のおかげできっかけはつかめていてるんだ。この実習中になんとかしてみせる。

 A班はガイウスの故郷か良いなぁ。ノルドは行ったこと無いんだよな。泊まる場所もガイウスの実家みたいだし、羨ましいな。ブリオニア島も見たことしかないから、行くのは楽しみだけどね。

 




原作よりもラウラからフィーへの溝は深いですが、アリアンロードのおかげで原作ぐらいの溝には持っていってます
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