俺たち、B班が行くことになるブリオニア島。そこはラマール領で一番栄えているオルディス近くにある。毎度の如く、特別実習場所へ向かう列車の中で、みんなでブリオニア島の情報やラマール州の州都であるオルディスの情報を整理する。
「そうそう、海がすごいんだよ。綺麗でロマンチックで」
「へぇー凄いね! 僕も早く見たいな」
他のみんなはあまり行ったことが無いようなので、俺が出来るだけオルディスに関する情報を提供する。全員、内陸部で暮らしているから、海への興味が一番凄い。言葉では言い表せないものなので、実際に見てもらって感嘆して欲しいな。
「だが、オルディスはカイエン公のお膝元、その辺りは大丈夫なのか?」
「それは分からないかな。カイエン公は貴族の中でも貴族らしい人だから、あんまり歓迎的にはしてくれなさそう」
しかも、クロンダルト家は血筋を辿れば余所者。それを分かっているからこそ、うちの家とカイエン公は四大貴族の中でも特に仲が悪い。これを言ってしまうと、空気が悪くなりそうだから、カイエン公と会うタイミングの後で、みんなに言うことにするけど。
長旅を終えて、オルディスに着く。残念ながら、列車の中ではフィーとラウラも俺も話すことが出来てかった。何か、話すタイミングを失ってしまったからだ。
オルディスに降りて直ぐ、肌に当たる潮風が凄く気持ち良かった。海と街を合わせた景観も素晴らしいもので。みんなもこの景色に見惚れてるみたいだった。
「圧巻だな」
「ああ、本当にな」
そのままオルディスの雰囲気を感じながら、貴族街へと進んで行く。貴族街は湾街地区とは違って、セントアークようそんな荘厳さを感じさせるような景観だった。
「……息苦しいね。ここ」
「なんか、重苦しいよね。何でかよく分からないけど」
そんな重厚な雰囲気がある街中を歩いて行くと、一際日立つ建物、カイエン公の居城が見える。そして、その門にはカイエン公が見覚えのある人と別れの挨拶をしていた。何でこんな場所にいるか全く分からないあの人と。
「了承してくれて、助かったよ」
「こちらとしてもあれをされては困るのでな。仕方なくだ」
「と、父さん! 何でこんな場所にいるのですか?」
犬猿の仲であるカイエン公と何で、父さんが。それに、カイエン公は笑っているけれど、父さんはカイエン公を睨んでる。俺が来ることを知らなかったのか。いや、知ってる方がおかしいんだけど。
「……仕事だ。お前には関係ない。私は前よりも増して、クロスベルへ赴くことが多くなる。あいつにはお前から伝えておけ」
要件だけ言って何処かへ行く。いつもそうだ。父さんから愛情なんてものを感じたことなんてこれまでの人生で一度も無い。母さんが生きていれば、もう少し、愛情も感じられた人生だったかもしれない。
そんなことをずっと考えてたせいか、ブリオニア島に関することを色々と話してくれたカイエン公のことは全然覚えてない。申し訳ないけれど、これは許して欲しい。
「もしかして、さっきの人が」
「うん。俺の父さん。アーネルト・クロンダルト伯爵だよ。見た通り、要件しか伝える気の無い人間で、感情を感じられないというか、何処かに置いてきた人だよ」
「ノクトの家って……複雑」
「そうだね。父さんと兄とは仲が悪いところばかり、みんなに見せちゃってからっていうのもありそうだけど」
フィーから会話を振られたから、父さんに関することをもう少しだけ話そうとしたけど、辞めた。なんか、これ以上話したら、悪口しか出てこないような気がして。
カイエン公に挨拶をしたら、オルディスには用が無いので、湾岸地区に戻り、船に乗る。船から見えたブリオニア島は自然が溢れる島で到底人が住んでいるとは思えない場所に見えた。
★ ★ ★
遂に着いたブリオニア島はやっぱり人の気配が無くて、何か神秘的で何かしらの信仰があった気がする。島での俺たちの拠点になるロッジのような建物には人は居なかったけれど、食料の備蓄や今回の特別実習での指令が書かれた紙が置いてあった。
「魔獣の退治に魔獣の生態調査、それに遺跡に関する調査とレポートか。どれも俺たちだけで完結するものばかりだな」
「本当にこの島には誰も居ぬようだな」
「ほぼ自給自足ってこと!?」
「そう、みたいだな」
A班と比べて、明らかにこっちの方がきつい気がするんだが。あっちはノルドの人たちもいるだろうし、ガイウスの家族もいる。サバイバル感に差があると思う。
「……リラックスは出来るかも」
「とりあえず、自分たちのペースでやってみるか」
前回が今の貴族というものを学ぶことが主題なのだとしたら、今回は自主性を育てるのが主題なのかな? でも、他にも何か共通点がある気がする。
そんな感じに色々と準備が整った所で、みんなで島の探索をすることにした。島の外周的に今日は回るだけで終わりそう。
「こんなものがあるなんてな」
「うん、圧巻だね。存在感が凄い」
何かの遺跡なんかも多かった島だったけれど、一番印象に残ったのは巨大な人型の何かだった。動く気配は無いものだけれども、存在感だけはそんなことは関係ないというようにあった。近くまで寄ってみても、その印象は変わらず、これが動いていた時はどんな感じだったのか、あまり神秘的な歴史には疎い俺でも気になってしまうほどだった。
「結構、島広いね」
「ああ。一日ずつ、一つの依頼をこなすのがやっとかもな」
一周回り終えた俺たちはロッジに帰って来る。歩いた距離が長かったことで、エリオットやマキアスなんかは足取りもロッジに来た時よりも圧倒的に重かった。
「フィー。少しいいか」
「何、ラウラ?」
そんな中、ロッジに入る手前でラウラは真剣な表情を隠すことなく、フィーに声をかける。そんなラウラの様子を察したのか、フィーも立ち止まってラウラと目を合わせる。
「私と勝負をしてくれぬか? フィーと分かりあうにはこうするしか無いと思うのだ」
「……うん。いいよ。今日の夜とかにする?」
「それでいこう」
二人の醸し出す雰囲気に俺も、マキアスもエリオットも誰一人として入り込める隙は無かった。ついにやるんだ、ラウラ。俺は何とか整理が出来そうだけど、ラウラがするにはこうでもしなきゃ区切りはつけられないかもしれない。
「ラウラ。これでいいんだよね」
「ああ、これでしか私の気持ちに整理はつけられぬ」
ラウラは遠い目をしていた。これ以上、自分のせいでみんなには迷惑はかけられないというように。
「ラウラ。頑張ってきて」
「ああ、任せておけ」
そして、レポートをまとめたり、休憩をしたりした後、ペンションの外に全員が集まる。ラウラもフィーも準備が万端といったように、目を離さず、見つめ合う。この勝負からは逃げられないという覚悟を決めて。
「え、えっと、じゃあ。勝負を始める。どちらかが降参するか、こっちが勝負がついたと宣言するまで続ける。では、勝負初め!」
審判経験のある俺が勝負の始まりを宣言する。エリオットやマキアスは少し、遠くで見ているから、もしもがあったら俺が止めなきゃな。
「本気でいくぞフィー! 本気でこい!」
「望むところ」
お互いに始めから負けないというように、最高速で交わる。ラウラが大振りで振るう大剣もフィーはガードし切れないと理解しているのか、受けることはせずにギリギリのところで避ける。そのようなやり取りを数回続けると、二人は一度距離を離す。
「ラウラも実力隠してたんじゃん。いつもより強いよ」
「フィーもな。だが、私の本気はまだまだこんなものじゃないぞ」
師匠からのアドバイスをその身に宿すようにラウラの動きはアルゼイド流からは離れていき、荒々しく、自他共に容赦しない形になっていく。それは荒れていながらも、美しく洗練されていた。
その王道から外れていっている型にフィーも対応を変えざるを得ないようになっていき、段々と押され気味になっていく。
「……仕方ないか」
ラウラによって吹き飛ばされ、その瞬間、追い討ちをするように来たラウラに向かって、フィーは激しい光を放つフラッシュグレネードを放つ。だが、織り込み済みというように、ラウラはフラッシュグレネードを蹴り飛ばし、最小限の被害に抑え、フィーの首元に大剣を突きつける。
「勝負あったな」
「そっちもね」
ラウラの胸元に向かって向けられるフィーの得物の銃口。お互いがお互いの命を握り合っているという状況になった。この勝負、引き分けか。二人とも全力を尽くしたように見えるけれど、命の取り合いとも言えるようなことはしなかった。
「それまで。両者引き分けにする」
「……フィー」
「……ラウラ」
二人は段々と近づいて行く。武器を仕舞い、静かに、視線を揺らすことさえせずに目の前まで来る。
「フィー。おぬしのことを認めたい。猟兵として生きてきた人生も、その戦い方もフィーはフィーだ。他の猟兵とも誰とも違う。それを今の戦いで分かった」
「……私もラウラのこと分かった。誰とも違う自分だけの強さを目指そうとしてる。そんなラウラの誇りが好き。……間違いなく良い人」
戦いの中でお互いのことが分かった二人は互いに認め合い。握手を交わす。その顔は真剣そのものであったけれど、その中には笑顔のようなそんな感情も宿っていたようにも思える。
「無事に終わって、良かったよー」
「本当に、ヒヤヒヤした」
「ああ、ラウラらしいよ」
何故か誇らしい気持ちになりながら、その場は解散となってペンションへと戻った。A班には方にも何か起こっていないといいけど。
直ぐに次の章に行くことになります