闇堕ちへの軌跡   作:地支 辰巳

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人生で一番最悪な休日

 あの驚きと申し訳無さに大きく襲われた入学式オリエンテーリングから2週間ほど経った。この2週間の間に色んな科目の授業が行われ始めたんだけど……俺にはさっそく苦手な先生が出来た。

 それは帝国史を担当しているトマス・ライサンダー教官だ。トマス教官が苦手なのは歴史に関する造詣が深さ過ぎる余りに話が長くなることもそうなのだが、それに加えて、ことあるごとに俺をお茶に誘って来たりして、他の生徒よりも圧倒的に構われる機会が多い。一度理由を聞いてみたことがあったが、上手くはぶらかされたので、理由は全然分からない。

 

 俺が何故こんなことを考えているかというと、現に今、件のトマス教官の帝国史の授業を受けているからだ。そして、その結果、何回もこの授業をやってきて、教官が当てるなーというタイミングが分かってきたので、そういう時は今みたいに考えごとをしながら、目をそらしている。

 

「リィン・シュバルツァー君。ドライケラス皇子が最初に挙兵した辺境の地がどこかご存じですか?」

 

 ほら、リィンが当てられた。この人生で父さんに唯一褒められた情報整理能力と勘が良いことは自信があるから、こんな予想とかはよく当てるんだよなー。まぁリィンは可哀想だとは思うけど。

 

 それから、無事にトマス教官を乗り越え、帰りのホームルームでサラ教官に言われて気づいたんだけど、明日は自由行動日らしい。毎日の朝だけのラウラとの鍛錬では足りないから、明日はラウラを誘って遠出して道のりにいる魔獣でも倒す修行でもしようかな。入学オリエンテーションで実戦形式も大事だと学んだからラウラも賛成してくれるだろう。

 

「ラウラのこと一瞬借りてもいいかな?二人とも」

 

 ホームルームが終わってすぐに話しかけようとしたんだけど、すぐにアリサとエマと話し始めてしまった。うーん、申し訳無いけど、女子の会話は長くなりがちでいつ終わるか分からないから、途中で遮らせてもらうことにした。

 

「え、ええ。全然構わないわ」

 

「私も大丈夫ですよ」

 

 また俺がラウラを狙っていると噂されると、昔みたいにラウラを慕っている後輩達からご忠告を頂く可能性があるので、手短に終わらせる。

 

「いきなりどうしたんだ、ノクト」

 

「明日さ、そうだなー俺の家の近くで魔獣退治しない?」

 

「ああ、構わないぞ。いつもの時間に寮の前集合で構わぬか?」

 

「うん、もちろん。じゃあ、また明日」

 

 楽しみだなー。ラウラとの魔獣退治。これまではヴィクターさんか、クラウスさんが付き添いで無ければ危険で出来なかったことだから、二人きりで出来ることにすごく心が踊る。

 

 

「ねぇ、ラウラ。さっきノクトとどんな話をしてたの?」

 

「ん、明日魔獣退治に行こうと誘われてな。行くことにした」

 

「やっぱりお二人はお付き合いをしているんですか?」

 

「いや……違う。ノクトは多分私のことをそんな風には見ていないだろうからな」

 

 今の話をしているラウラの顔は何処か切なそうで、何かを諦めているようにも捉えられた。その表情の見たアリサとエマには、ラウラの心情を計り知ることは出来なかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 朝のトレーニングや鍛錬以外では、外に出ている人が少ない早朝。俺とラウラは寮の前に居た。

 

「相変わらず武器が多いなノクト」

 

「魔獣退治は何があるか分からないからね。いくつあっても損は無いよ」

 

 トリスタから家に近い位置にあるガレリア要塞までは鉄道を使っていくことにする。2週間前は逆方向から乗ってきたけど、もう家の近くまで帰ることになるとは思って無かったな。まぁ日帰りで帰ることになるだろうから、家には寄らないとは思うけど。

 

 列車に揺られ、ラウラと談笑したりしながらガレリア要塞まで乗って行く。今日という日が、ただただ普通に終わらないだろうなーと何処かそんな気がしながら。

 

 

★ ★ ★

 

 

 無事に列車がガレリア要塞まで着いた。ここから俺の家の近くまで山沿いを通りながら向かって行くルートだ。そこまではいくつもの村々があり、場所によるが、俺もラウラも行ったことがある村もあったりもする。

 

「ここ何年かはこの辺に来ていなかったけど、道のり苦労しない?」

 

「舐めてもらっては困るな。この程度の山岳道など問題無い」

 

 一歩一歩修行になるように噛み締めて歩いて行く。そして、たどり着いた村では、全員が何処か暗い表情をしていて言い表しにくい気持ち悪い空気感が漂っていた。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

 ここは一応、クロンダルト家の領地に入る。だったら、例え家内であまり評価の高くない俺でも、領民を助けになるような事はしてみたい。

 

「い、いえ何にもありませんから。それよりも、もしかしてお二人様はこの先に行くのですか?」

 

「うん。そうだが……」

 

「そ、それはやめた方が良いと思います。今日はこの村で泊まってはどうでしょうか?」

 

 うーん、怪しい。この先にある何かを隠しているようなそんな気がする。ラウラと顔を見合わせる。ラウラも怪しいと思っているようで、何処か疑わしい目を相手に対して向けている。ここは少し迂回することになるだろうけど、村を超えて先に行ってみようかな。

 

「分かりました。では今日の所は引き換えさせてもらいます」

 

 あっさりと引き下がり、村の人が見えないような位置まで引き返して行く。ラウラも訝しげな顔をしながらも付いて来てくれた。

 

「ノクトも彼が怪しいと思っただろう?」

 

「うん」

 

「なら、何故引き返すんだ?」

 

「ここで強行突破をしたとしても、その隠された物だろうが、人だろうが、出来事だろうが隠されてしまう可能性が高い。だったら、俺はこの村を通らない迂回ルートを知っている。そっちから行った方が良い」

 

「ん、そうなのか。だったら迂回ルートで行くこととしよう」

 

 ラウラと共に迂回ルートを通る。迂回ルートは先程まで通っていた道よりも、険しく歩きにくい。だから誰も通ることは無いし、この辺の村の人も滅多に来ることが無いから、誰にも悟らさずこの先に進むには良い道だ。

 

 そこから順調に進んで行き、先程の村の位置ぐらいも超えて、また別の村がある場所に辿り着こうとしていた所、焦げ臭い匂いと酷い鉄の匂いが漂ってきた。

 

「ラウラ、この匂いって」

 

「何かが燃えている。鉄の匂いもしているな。急ぐぞノクト」

 

 ラウラと共に、全速力で駆ける。そして、忘れずに武器の装備をしておく。今回は、もう何かしらの戦闘が始まっている可能性が高い。なら、相手を俺に引きつけられて、先制攻撃がとりやすい武器……太刀でいくか。

 

 村に着いたが、そこにはもう崩れ去った建物や血だらけで死んでいる人、そして、武器を持ち村人と思しき人々を縄で括り殺している奴らがいた。

 

「なんと惨いことを!」

 

「あいつらが何者かは分からないけど、やらなきゃ」

 

「分かっている」

 

 ラウラはいつもの両手剣を構え、俺は太刀を構えて向かって行く。俺とラウラのコンビネーションは抜群だ。相手がどんなクズ野郎どもでも、絶対に俺たちで倒し切ってやる。

 

「八葉一刀流 二の型 疾風」

 

 まだまだ未完成だけど、注目は向くだろうし、多少の梅雨払いなら。でも、俺の太刀は切り掛かった最初の男に、いとも簡単に銃で止められてしまった。いくら集団戦用の技だと言っても、こんな簡単に止められてしまうものなのか?

 

「ぼちぼちだな学生。おい隊長!こいつらは依頼に含まれて無いけど、どうすんだ?」

 

「目撃者は消せとも依頼にある。殺してしまっても構わないぞ」

 

「へへ、了解だ」

 

 依頼……こいつらもしかして猟兵か?でも、誰が、何の為に。いや、そんな事を考えている場合じゃあ無い。一人でも多く俺がこいつらを倒さないと、ラウラにも負担をかけてしまう。

 

 

 俺は必死で戦った。これまで、身につけてきた全ての技や技術を使い戦い続けた。でも、そんな俺の技も力もプロの猟兵には全く届いていなかった。

 

 ラウラも必死でやっていた。両手剣を大振りに豪快に振りながらも、その隙をものともせず、相手を蹴散らしていた。しかし、猟兵によって手懐けられた犬や閃光や煙などの搦手を使われて、徐々に追い詰められていった。

 

 俺たち二人は縄で縛られた。二人とも多彩な猟兵の技や人数に翻弄されて全く敵わなかった。ここから、俺たちは殺されるんだろう……多分、慈悲なんて貰えない。

 

「やりますよリーダー」

 

「ああ、構わない。とっととそいつらを殺して、引き上げるぞ」

 

 

 

 死ぬ。明確にそんな感情を持ったのは初めてだった。いくつもの決闘や過激な研鑽をしてきたけど、死ぬと本気で思ったのは今が始めてだった。だけど、誰かが助けに来てくれる気がするとか、本当に死ぬのか?という現実を直視出来てない感情も大部分を占めていたおかげで、こんな状況であっても俺の心は不思議と冷静だった。

 結局父さんに言われたレールを途中まで進んだあげく、死ぬのか。こんなことなら、ラウラに正式に告白でもすれば良かったなー。でも……俺に他の人を凌駕するような特別な強ささえあれば、後悔することも無くラウラを守るような現実が訪れたのかもしれない。

 

 

Δ Δ Δ

 

 

 私は力不足だ。自分の人生すべてをアルゼイド流に捧げて、この人生を生きてきたのに、ノクトを守れもせず、自身の身さえも満足に守れない。何の為にここまでやってきたのか分からなくなる。……こんな時、父上ならこの村にいる全員を守り、この場を収めることが出来るのだろう。それが出来ない自分が情けない。死ぬのは怖い。しかしそれよりも……私が例えこの場を生き残った時、それまでの私でいられるかが怖い。剣を持つことが出来るのだろうか……。もっと卑怯になるべきだったんでは無いか。後悔が止まらない。

 

 

Δ Δ Δ

 

 

 ノクトとラウラは縄で体を括られ、静かな表情をしていた。決して死を受け入れたわけでは無いとしてもその表情は何かを悟り、各々が現状に対する思いを心の内でため込んでいるようにも見える。

 

「ノクト……すまないな。私のせいで」

 

「ラウラ、ラウラのせいなんかじゃ」

 

 猟兵二人が銃を構える。苦しまずに殺せるようにしっかりと狙いを定めながら。そこに、一切の容赦は無く、慈悲も無い。現実とは非常なものだとノクトとラウラに改めて思い知らせるものだった。

 ラウラの表情はどこか生気が抜けているように見え、ノクトは悔しさと顔を滲ませるばかりだった。

 

 そして引き金が引かれた。

 

 




終わりません。

区切りの良い所でノクト君のプロフィールを書こうと思っています。
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