引き金が引かれるその直前、この村に居る猟兵全員の胸が目にも止まらぬ速さで貫かれ、一人残らず血を吹き出し絶命した。死ぬ直前で覚悟を決めお互いを見つめて、じっと待っていた俺たちにはその光景はよく見えていた。鋼の鎧を見に纏った人が目にギリギリ映るか映らないかの速度で持っている槍で殺して行っていたのを。
「ふぅ。これで全員ですか」
その鎧を纏っていた人の声は何処か大人びた雰囲気の女の人の声だった。そして、その声を聞いたラウラは猟兵から出た血で服が汚れながらも彼女に対して尊敬の眼差しを向けていた。
「すまない!私を弟子にしてはいただけないでしょうか?」
相手が何故猟兵を殺したのかも相手がどんな人物なのかも分からないのに、ラウラはすでに彼女が良い人だと確信しているように感じられた。かく言う俺も自身の命を助けてくれた彼女には恩義も感じているし、特別な強さを学べるとも思ったのでラウラに続くことにした。
「俺もお願いします!」
彼女は仮面をしているので顔色は伺えないが、俺たち二人をじっと見ているように思えた。
「……まずは、自己紹介をしてからにしましょうか」
俺たちはまだ名も名乗っていなかったことに気づくと、一気に恥ずかしさが込み上げてきたので、さっと立ち上がり姿勢を正して自己紹介を始めた。
「トールズ士官学院一年ラウラ・S・アルゼイドです」
「同じくトールズ士官学院一年ノクト・クロンダルトです」
俺たちの名前を聞いた彼女は少し反応したかのように見えたが、仮面を被っているので、どんな反応をしていたかは分からなかった。
「……これも運命なのですかね」
「いかがなされた?」
彼女から哀愁漂うような雰囲気が出たけど、それがどのような思いなのかは俺たちには理解することが出来なかった。
「いえ。……私の名前を名乗っていませんでしたね。私はアリアンロードと言います」
「弟子にしてくれとのことですが、ラウラもノクトもまだ学生です。弟子に取ることは出来ません。しかし、二人には見込みがあります。月一で稽古をつけるのはどうですか?」
弟子にして貰えないのは残念だけど、俺らからしてみればアリアンロードさんような絶対的な強者に稽古をつけてもらえるだけで嬉しい。もう二度と自分の力不足でラウラを守れないなんてことにはなりたくないから。
「もちろん。お受けさせていただく」
「俺もです。よろしくお願いします!」
命を助けてもらって、すっかり忘れていたけど……俺たちの周りにはこの村の人や猟兵の死体が横たわっていた。ここは父さんの領地だから、今日中に連絡をつけて何とか対処してもらわないと。
「アリアンロードさん。稽古をする場所は何処かがいいとかありますか?」
「人が居ない所がいいですね」
「じゃあ、ルナリア自然公園の近くとかどうですか?」
「分かりました。では、来月の初めの休日にその場所に。ああ、それと私のことはくれぐれも内密で」
「承知した」
これからのことを打ち合わせ終わると、アリアンロードさんは俺たち二人の頭を優しく撫でて、霧のような何かに包まれて消えていった。頭を撫でてくれたその腕は鎧を見に纏っていたけれど暖かさが感じられて、母親の顔を覚えていない俺とラウラは数滴の涙を流してしまった。
「ああ……私はあの方のようになりたい。ノクト、一緒に目指さぬか?」
ラウラの目は決意に溢れていた。この目標を絶対に叶えようとするだろうし、そのためなら手段も問わない覚悟かもしれない。俺も同じ思いだ。
「もちろんだよ。一緒にあの人の元へ辿り着こう」
それから俺たちは村のことを知らせる為に、父さんの住む領地まで向かった。出来れば父さんとは会いたく無かったので、家の外に居た使用人に伝言を伝えてもらった。使用人の人曰く、すんなりと話を聞いてくれたらしく、すぐに後処理をしてくれるらしい。父さんなら何に関しても無関心が多いので、何も詮索はしないでいてくれると思う。
こうして俺らの素晴らしい休日は終わった。血で汚れた服は綺麗に洗って新しい服を購入し、制服を着こなして、なんとかトールズ関係者には見られないで済んだ。本当に死ぬ思いをしたけれど貴重な経験を出来たし、素晴らしい師匠とも出会えた。今日は人生で一番最高な休日だ。
★ ★ ★
トリスタに着く頃にはもう日が沈んでいたけれど、帰りが遅かった俺とラウラを心配して、みんなが寮で食べる夜ご飯を待っていてくれた。お礼を言い、ご飯を食べながら今日のことはトラブル無く終わったと話したりした。
他のみんなは何をしていたかと聞いてみたら、リィンとエリオットとガイウスは旧校舎の調査に行っていたらしい。あんな場所によく行くなーと思ったけど、どうやら地下の構造も変わっていたようで、まだまだ調査が必要らしい。
「もし、次調査することがあったら、ノクトも行こうよ!」
「了解ー。俺が暇そうだったら声かけてよ。直ぐに行くからさ」
あの人の稽古に加えて、旧校舎の魔獣退治で腕が磨けるとは、中々にラッキーな事ばかりだよな。よし!このまま強くなって誰にも負けないようになるために頑張ろう。
★ ★ ★
あれから3日ほど経って、前にサラ教官が言っていた実技テストというのをやることになった。前以上に修行も取り組んでいて、何処まで参加出来るか分からないけどフェンシング部にも入ったから、実技能力は上がっていると思う。
「前もって言っておくけどこのテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。『状況に応じた適切な行動』を取れるか見るためのものよ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても評点は辛くなるでしょうね」
サラ教官の言うことは今になって思うと身にしても理解出来る。この間だって、あんなに多くの猟兵がいたのに無謀にも突っ込んでしまった。これからは教官の言う通り、状況に応じた適切な行動と工夫をしなきゃいけない。
ラウラもそのことを思っているのか、顔が少し硬っている。俺らはお互い自分達の戦い方をもっと変えるべきなんだろうな。
「ふふ──それではこれより、4月の《実技テスト》を開始する。リィン、エリオット、ガイウス。まずは前に出なさい」
いきなりこの三人なのか。でも、この三人は旧校舎の調査をやったメンツだから、教官的には実戦を経験をしたとして成功が一番高いと思ったのかな?俺も誰と組むことになるかは分からないけど、しっかりとやらないと。
相手はサラ教官が出したよく分からない人形みたいなやつで、作り物らしいけど、見覚えがある気がしないでもないようなフォルムだった。リィン達三人はこの間出てきた光の線みたいなやつを上手く使って連携しながら人形を撃破することに成功していた。
「うんうん、悪くないわね。戦術リンクも使えたし、旧校舎地下での実戦が効いているんじゃないの?」
さてと、そろそろ呼ばれるかな?でも、呼ばれるとしたら、ラウラとの連携は出来るから、これからのことも考えて他の人と組んでみたいかな。
「ラウラ、エマ、ユーシス、前に出なさい!」
おお、この三人になるのか。でも、ラウラのことは少し心配だな。あの日から、実戦形式で訓練はしていないから、トラウマなんかになっていないといいんだけど……。
そんな俺の心配は無用だったように、ラウラは他二人と上手く連携して人形を倒すことに成功していた。でも、何処かラウラの動きに荒々しさが足されているように思えた。これも新しい戦い方を模索する上で考えたことなんだろうな。
最後は俺とアリサとフィーとマキアス。相変わらずマキアスとは関係が微妙だけど、ユーシスほどでは無いから、何とか及第点レベルの連携が出来た。それより、フィーは全然連携が必要が無いぐらい動きが良いと思うんだけど……サラ教官と知り合いだったみたいだし、稽古でもつけてもらっていたんだろうな。
「さて、実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君たちⅦ組ならではの特別なカリキュラムに関するね」
こんな風に貴族クラスや平民クラスに無いカリキュラムが本当にあると改めて言われると、自分達が特別なクラスなんだなって感じることが出来るなぁ。
「それじゃあ説明させてもらうわ。君たちに課せられた特別なカリキュラム……それはズバリ、特別実習よ!」
「と、特別実習……ですか?」
「君たちにはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらうことになる。まさに特別な実習なわけね」
おおー学校からの許可の上で帝国中を見られるってことか、すごいな。でも……もしかしたら四大貴族の家がある都市に行くこともあるのか。それは居心地がちょっと悪いな。あ、クロンダルト家の領地に来る可能性もあるのか。それも嫌かな。
「その口ぶりだと、教官が付いて来るというわけでもなさそうですね?」
「ええ、あたしが付いていったら修行にならないでしょ?獅子は我が子を千尋の谷にってね」
「なんだかんだ言って、着いて来そうですねサラ教官」
「ふふ、それはお楽しみね」
絶対来るじゃん。
「結局、俺たちに何時、どこへ行けと言うんだ?」
「さっきも言った通り、君たちにはA班、B班に分かれてもらうわ。さ、一部ずつ受け取りなさい」
[4月特別実習]
A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、ノクト
(実習地:交易地ケルディック)
B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス
(実習地:紡績町パルム)
おおラウラと一緒のメンバー嬉しいなぁ。てか、マキアスとユーシスが一緒のメンバーとか、サラ教官二人を仲直りさせようとしてるじゃん。良かったーあっちのチームじゃなくて。
それより、行く場所はケルディックなのか……何度か行ったことがあるけど、課題になるようなものあったかなー。
「ほう……興味深い班分けだ」
ラウラを初めとした、みんながチームメンバーに対して気づき始めると、アリサが嫌な顔をし、リィンが申し訳なさそうにし、マキアスとユーシスはお互いを睨んでいた。こんな感じで仲直り出来るのか?
「日時は今週末。実習期間は2日くらいになるわ。A班、B班共に鉄道を使って実習地まで行くことになるわね。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい!」
楽しみだなー特別実習。アリサとかはあんまり関わりが無いから、今回の実習で絡みが増えると良いな。後、リィンにも八葉一刀流のことで話してみたいかな。何にしても、アリアンロードさんに話せるような経験が出来る気がする。
段々と堕ちていきます