いよいよ特別実習の日となった。前日は今日に備え、早めに寝たこともあり、体調は万全だ。部屋から出るとちょうどエリオットとラウラも部屋から出たところだった。そのまま流れで三人で一階に降りると、アリサとリィンが二人で喋っていた。珍しいものだなと思って話を聞いていると、二人はやっと仲直りしたみたい。これで班行動も雰囲気良くなりそー、良かったー。
用意が整ったので、駅のホームに行くと、B班の人たちがすでに受付に居た。委員長であるエマがまとめているみたいだけど、マキアスとユーシスの仲は相変わらずだから、上手くいくかどうかが本当に心配だ。まぁだからといって、マキアスとの距離感が微妙な俺にはどうしようも無いことだけど。
列車に乗ると、みんなと一緒にケルディックについての話をしてみた。俺は一度、二度行ったことがあるので、その経験も含めてケルディックのことをまとめてみた。トリスタからケルディックまでは一時間ほどかかり、大市と呼ばれる場所が町の中心にあって、交易地と有名な地域だ。麦なんかも有名で、良い人ばかりの所謂良い田舎だという印象が強い。
「え、何で来てるんですか?」
「……どうも朝から見かけないと思ったら」
ケルディックについて粗方まとめ終わったので、次に特別実習についての詳細をみんなでまとめていたら、それを補足するようにサラ教官が列車に現れた。乗った気配が全くしなかったので、本当にいつ乗って来たんだ?しっかりと運賃を払ったか心配だ。
「VII組A班全員揃ってるみたいね。ちゃんと仲直りもして、まずは一安心ってとこかしら?」
「その教官はどうしてここに?俺たちだけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」
「んー、最初くらいは補足説明が必要かと思ってね。宿にチェックインするまでは付き合ってあげるわ」
エリオットも心配してるけどA班の方がサポートが必要だと思うし、俺たちに心配するようなことは無いと思うけどなー。
「あちらに同行した方が良かったのではないか?」
「えー、だってどう考えてもメンドクサそうだしー。あの2人が険悪になりすぎてどうしようもなくなったらフォローには行くつもりだけど」
うわー、やっぱりこの教官尖ってるよ。それでも、実力はある気がするから、尊敬はしたいんだよな。それに、サラ教官がクラス内の雰囲気を改善しようと思って、こんな感じのグループ分けにしたのは納得出来るから。
それから、サラ教官は何故か寝てしまったので、五人で雑談をすることになった。
「ケルディックでノクトがおすすめしたい場所とかはあるのか?」
「うーん、まぁそうだなー。畑の麦の匂いを嗅ぎながらする鍛錬なんかはリラックスしながら出来るからオススメだよ。もちろん、大市も食べ物やお土産まで多種多様だから、行かない理由は無いね」
リィンが中心に回りつつも会話が回っていると、エリオットがカードゲームのブレードを取り出した。懐かしいなぁ。何年か前に、兄さんとあいつと一緒に遊んだっけ。今は全員別々に暮らしているから、もう三人では出来ないけど……
「時間もありそうだし、みんなで遊んでみない?」
「いいアイデアだと思うよ。俺とリィン君がルールは分かるから、アリサさんやラウラも一緒に出来るね」
「よし、じゃあみんなでやってみるか」
途中、途中、会話なんかを挟みながら、ブレードを楽しんだ。俺自身慣れているから、そこそこ勝てたけど、リィンには負けてしまった。なんか、リィンは大物になる気がするからこういうのも得意なんだろうな。
そんな感じに絆を深めていると、列車の窓から麦畑が見えており、やっとケルディックにたどり着きそう。
♦ ♦ ♦
ケルディックは前に見た時とさほど変わりない、のどかな風景だった。サラ教官はこの辺りで有名な地ビールを飲みに行きたいらしい。ただお酒を飲みに来ただけじゃないのかな?
その後、教官によって案内された宿は一階が酒場となっており、女将とのあいさつを終えると、僕たちが部屋へ案内される中、さっそくお酒とつまみを注文していた。やっぱり呑みに来ただけじゃないか。
「え、」
「あ、」
「そうゆうことか」
案内された部屋は一つで、部屋の中には全員分のベッドがご丁寧に置いてあった。全員が同じ部屋に寝泊まりするという事実に、アリサは普通の反応で嫌がっていたが、ラウラ含め他のみんなはそこまで問題では無いみたいだった。俺に関しても、昔からラウラとは家を泊まりあっている仲なので、あまり気にしてはいなかったりする。結局、アリサは同じ女子であるラウラの説得もあり、男子三人を警戒しながらも了承してくれた。
とりあえず、今回の武器袋は少し軽めで、太刀・片手剣・チャクラムという構成だ。少し火力が足りないとは思うけど、今回はラウラやリィンがいるから火力方面は大丈夫だと思う。
女将さんからもらった特別実習の課題の内容は手配魔獣や街道灯の修理、薬の材料の調達なんかの雑用が多かったけど、これが課題なのか?もっと素直に強さを競うやつか、貴族や領事軍に対して話を聞くものかなと思ってた。やっぱり特別なんて言葉がつくと、俺が想像つかないことばかりだな。
「とりあえずサラ教官に確認してみよう。こういう疑問に答えるために付いて来てくれたみたいだし」
「ふむ、道理だな」
色々と聞きたいことを聞きにサラ教官の元へ向かうと、案の定ビールを飲んでいた。その酔いのせいかガチなのかは分からないけど、実習期間が二日なことと意味深なことを色々言っていた。それに対して、俺含めみんな意図が理解出来なかったけど、リィンは理解出来たようで一旦外に出て、その意図を聞いてみることになった。
「どうやら何か気づいるみたいだけど?」
「ああ、先日の自由行動日。俺は生徒会の手伝いで旧校舎の地下の調査以外に、今回みたいなお手伝いや手助けをしていたんだ。一通りこなしてみると、学校やトリスタのことについてよく知ることが出来たんだ。多分、目的にはそういったものも含まれていると思うんだ」
「そういった依頼を通じて見えてくることもありそうだね」
「サラ教官の思惑はともかく……まずは周辺を回りながら依頼をこなしていかないか?」
「そうしよっか。リィン君は手伝いで経験があるみたいだから、全体的に合わせるよ」
そこからはそれぞれの依頼の詳細を町民のみなさんから聞いて、解決の為に奔走した。街道に出たりして、魔獣と戦った後はリィンの太刀筋を見たりしたラウラがリィンに何かを言おうとしていたみたいだから、街道付近を散歩していて、リィンがアリサとエリオットと話している今、聞いてみようと思う。
「ラウラ。少しいいかな?」
「どうしたんだノクト?」
「リィンについて何か気になることでもあるの?」
その時のラウラの反応はまるで自分を恥じるようなものだったけど、直ぐに元の表情へ戻すと、いつもよりも少しだけ暗く話し始めてくれた。
「ノクトも気づいているとは思うだろうが、リィンの太刀筋は八葉一刀流のものだ。だが、そうにしては少し手を抜いているようにも感じるのだ。それが剣の道を歩むものとしてはどうかと思ってな。それにそんなことをしていれば、我らのように後悔をする時が来る。それを思うと理由が聞いておきたいのだ」
ラウラの懸念はもっともだと思う。俺もリィンが八葉一刀流だと分かってはいたけど、ラウラが気づいたみたいに手を抜いているなんて気づくことが出来なかった。リィンにどういう事情があれ、そんなことをしていれば、いざという時に俺たちのようになってしまうかもしれないな。
「うん。そうだね。ラウラの言うとおりだと思う。理由ぐらいはしっかり聞いておかないと」
「ああ、夜に聞いてみようと思う」
そんなことを言いながら一旦町に帰って来ると、この辺の領邦軍にばったりと会ってしまった。この辺の領邦軍と言ったらアルバレア家の領邦軍で、クロンダルト家は嫌われているので、下を向いて対応はみんなに任せようと思う。主にリィンが対応してくれたおかげで、なんなくと済んだけど、小隊長と名乗った人物とは目が合ってしまった。特に何か騒ぎに巻き込まれなければ、クロンダルト家の人間だとはバレないと思う。
「そんな縮こまってどうしたのノクト?」
「いや、俺の家の領地は一応クロイツェン州に入っているんだけど、微妙な位置ということと、昔からの伝統というか決まりで領邦軍を領地に入れたことが無くて、仲が悪いんだ」
「なんというか、災難だな」
多少の同情をみんなから受けながらも、俺たちは次なる依頼のために動き始めた。
♦ ♦ ♦
地形把握と依頼のためにまた街道を探索していると、次にアリアンロードさんと会う約束をしているルナリア自然公園の入り口に着いた。しかし、そこには見張り?管理人?が二人居た。
「ここに何か用かよ?」
「少し通りかかっただけだが……そなたたちは?」
「俺たちゃ、この自然公園の管理人だ。見ての通り、今は立ち入り禁止でな。悪いが出直してもらおうか?」
「何か工事でもやってるんですか?」
「あーそんなところだ。ほら、分かったら帰った帰った。俺たちは忙しいんだ」
特に今は依頼とは関係無いので離れることになったけど、何かある気がするんだよな。あの管理人達も何処か管理人ぽくないし、アリアンロードさんとの約束もあるし、来月まで入れないと困るんだよな。特別実習の内に時間があれば、侵入してみようかな。
そんな寄り道をしながらも、依頼を達成し終えた俺たちは宿に帰ろうと町の中を歩き始めると、大市の方から騒ぎが聞こえてきた。
「気になるわね……ちょっと行ってみる?」
「ああ、そうしよう」
「ふざけんなあっ!ここは俺の店の場所だ!シャバ代だってちゃんと払ってるんだぞ!?」
「それはこちらの台詞だ!許可証だって持っている!君こそ嘘をいうんじゃない!」
二人の商人がお店の場所を巡ってトラブったらしく争ってらしく、つかみ合いの喧嘩の一歩手前までいっていた。それを止める為にリィンとラウラが動き始めたのでラウラを止めて、俺とリィンで二人を押さえ込んだ。
なんとか、落ち着いた所にこの大市の元締めのオットーさんが来てくれて二人のことを一旦は収めてくれて、家に招待してくれた。
オットーさんが言うには今回の特別実習の依頼を斡旋してくれたらしい。それに、さっきの揉み合いの解決もしてくれたみたいだけど、原因はアルバレア公爵家の売上税の上昇の反対に対しての嫌がらせが話している内容の中では一番ある線だと思った。領邦軍もそれに連動して大市には不干渉を貫いているらしい。ユーシスには申し訳ないけど、やっぱりアルバレア公爵家って面倒くさいな。これを嫌ってうちの先祖も領地に領邦軍を入れないことにしたのかな?
「他家のやり方に口を挟むつもりはないが、此度の増税と露骨な嫌がらせはさすがに問題だろう。アルバレア公爵家当主……色々と噂を聞く人物ではあるが」
「ユーシスのお父さんだよね?いっそユーシスに相談する訳にはいかないよね?」
「いや、無駄だよ。家の決定は当主自身で決める場合が多い。ましてや、ユーシス君は長子でも無いから、言うだけ迷惑をかけるだけだよ」
「やっぱり無理かぁ……」
そんな風に多分解決策が出ないことを話し合っていると、快活な声を上げながらサラ教官が来てくれた。
「予想通りB班の方がグダグダになっているみたいだからちょっとフォローしてくるわ」
「今からB班の実習地に向かうんですか?」
「やっぱり……強者は」
アリアンロードさんも去るときはまるで消えるように居なくなったし、サラ教官もそれを使って移動するんだろうな。次に会う時にアリアンロードさんに聞いてみようかな。
「そういうわけでこちらは君たちに任せたわ。せいぜい悩んで、何をすべきか自分たち自身考えてみなさい」
俺たちに対するアドバイスを一言だけ言って、サラ教官は颯爽と去って行った。本当にズルい先生だとは思う、普段は不真面目なのに、偶に言う言葉には人生経験から来るかは分からないけど、重みが混ざっている。だから、サラ教官はこのクラスの担任に相応しいだろうな。
もう夕方になって、レポート課題にも取りかからなければならないので、1度宿に帰ることになった。
簡単なプロフィール。(公式サイト風)
ノクト・クロンダルト 17歳 cvイメージ梅原裕一郎さん
帝国北東部のクロスベルの北部の地方貴族クロンダルト伯爵家の次男。
明るく常に相手をリスペクトした態度や喋り方を取る誰とでも打ち解けやすい少年だが、自身が普通だということを嫌っており、特別という言葉や特別に憧れを抱いている。
幼い頃から父親の方針により、さまざまな流派の武術を嗜んでおり多彩さではⅦ組一を誇るが、どれも中途半端なことを悩んでいる。
父親と兄が卒業生で、ラウラも入学するということでトールズ士官学院への入学を決めた。