特別実習一日目の依頼が終わり、みんなで宿の中で食事をしながら雑談をしていた。その中の話題で自分達の志望理由がⅦ組の結成の共通点と予想したリィンが提案したことにより、みんなの志望理由を言っていくことになった。
「ふむ――私の場合は単純だった。目標としている人物に近づこうとしたところだ」
「目標としている人物?」
「ふむ、それが誰だったかはこの場では控えておこう」
入学する前にラウラに聞いた通りだと、その目標としている人はお父さんのヴィクターさんだとは思うけど、今の口ぶりから今はアリアンロードさんかヴィクターさんどちらのことを言ったのか分からない。
「アリサの方はどうだ?」
「色々あるんだけど、自立したかったからかな。ちょっと実家と上手くいってないのもあるし」
実家か。アリサの方もRと誤魔化しているだけあって、バレたくない家なんだろうな。有名貴族か、もしかしたら他の国の有名な血筋の可能性もあるかな。
「うーん、その意味では僕は少数派なのかなぁ……元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね」
「確か音楽系の進路だったか……」
「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど」
アリサもエリオットも自分の意思をしっかり持ってこの学院を選んでるなんてすごいな。俺なんて……。
「ノ、ノクトはどうなの?」
「お、俺?俺にそんな立派な理由なんて無いよ。ただ兄さんが通っていた学院ってことと、ラウラが通うから通うことにしただけだよ」
流石になんとも言えない理由だったからか、場が少しシーンとしてしまった。
「……リィンはどうなの?」
「……俺は……そうだな。自分を――見つけるためかもしれない」
なんだろうか。今までリィンのことは何処か特別感がある人で、自分とは違う特別な人だと思っていたけど、なんか昔の俺みたいな悩みを抱えているのかと思うと、親近感が沸いてくるな。
「いや、そんな大層なことじゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか……」
「そんな思い詰めて言うことじゃないよリィン。みんな自分を探してるんだし」
「そうそう。カッコよくていいじゃん」
そんな感じで結局共通点を割り出すことは出来なかったけど、他の人の人となりをよく知れたから、意義のある雑談になったと思う。
明日の予定を女将さんと一緒に確認し終わり、部屋に戻ろうとすると、リィンに対してラウラが声をかけていた。多分この前言っていたリィンが手を抜いている理由を聞きたいんだろうな。ラウラにはラウラなりに伝えたい思いがあると思うので、今回は聞き役に徹するかな。
「どうしたんだ?」
「ノクトとも相談していたが、聞いておくことにしよう」
「そなた。どうして本気を出さない?」
「そなたの太刀筋はノクトと同じ八葉一刀流のものに間違いないな?」
「……ノクトには気づかれていると思っていたけど、ラウラにも気づかれていたなんてな」
やっぱりそういったことを意識してリィンの方を見ていたらバレるのも仕方ないよな。ラウラは冷静に話していっているように見えるけど、いつもよりも激情感が出ているみたい。
「俺は……ただの初伝止まりさ。確かに一時期、ユン老師に師事していたこともある。だが、剣の道に限界を感じて老師から修行を打ち切られた身だ」
「……うむ」
「その、だから別に手を抜いているわけじゃないんだ。八葉の名を汚しているのは重々分かっているけど……これが俺の限界だ。……誤解させたのならすまない」
あのユン老師直々に師事してもらったリィンを羨ましく思うと同時に、初伝がもらえていることに少しの嫉妬を抱いてしまう。それに、リィンの気持ちも分かるけど、今のラウラには限界なんて言葉は使わない方が良い。
「リィン。そなたは何も分かっていない。限界などと自分を決めて己の命が守れるのか!?周りの人間を守れるのか!?」
ラウラはいつもの冷静さが見えないほどに息巻くしながらリィンに対して言葉を詰めていた。リィンとラウラの問答を見ていたアリサもエリオットも見たことも無いラウラの姿に引いているようだった。俺もあの出来事を経験していなかったら同じような対応だったのかもしれない。
「ラウラ。君は……」
「……すまない。少し頭を冷やしてくる」
ラウラがそう言って宿屋から出て行ってしまったこの場の空気は静かな空気となっていた。
「ノクト。少しいいか」
手持ち無沙汰になったエリオットやアリサの近くに居た俺の元へ傷心気味のリィンが来た。
「どうしたんだリィン」
まぁ大体の内容は検討はつくけど。
「……ラウラの過去に何があったんだ?」
ラウラの過去。ラウラが自分の強さに疑問を持ったきっかけ。それは死を明確に認識したあの時のことだろうけど、リィン達に言っても良いのだろうか……。でも、言わなければラウラとⅦ組に溝が生まれてしまう。俺がやられなきゃ。
「……俺とラウラはさ、ついこの間に殺されかけたんだ。全力で戦った。でも、足元に及ばずに死というものを明確に味わったんだ。……なんとか助かったんだけどね」
俺が出していた暗い雰囲気と話の内容によって三人は絶句しているようで声も出ていなかった。
「俺が言えるのはこれだけだよ。ラウラのところに行ってくるよ」
突っ立っている三人を置いて、外にいるラウラの元へ向かった。ここまで話してⅦ組のみんななら、ラウラを受け入れてくれると思う。この短い期間の付き合いだけど、そのくらいのことならやってくれるほどの人間性はあることは分かる。
♦ ♦ ♦
「ラウラ」
「ん、ノクトか。リィン達にあのことを話したのか?」
ラウラは風に吹かれ、星空を眺めながら黄昏れていた。その表情はついあんなことを言ってしまったことを後悔してしまっているようで、俺も人のことは言えないけどラウラは本当に不器用なんだなと思ってしまう。
「うん。多少なりとも言っておかないとな。大丈夫、あの人のことは言ってないし、猟兵のことにも触れていない」
「ああ、気遣わせてしまったようだな。すまない」
「――――私は今こうしている間もリィンへの怒りが取れないのだ。リィンにはリィンの事情があるとは分かっているのにも関わらずだ。父上やアリアンロード殿なら、こんな迷いなど抱きはしないだろうにな」
「ラウラ。俺はさ、無理して怒りを押さえろなんて言わないし、俺だってそんな器用な真似も出来ない。だけど、無理してヴィクターさんやあの人にならなくても良いと思うよ。俺らは子どもで、あんな大人にまだまだなれないだろうから、時間をかけていこうよ。……出来れば一緒にさ」
昔はラウラに教えられることばっかりだったから、こんな風にラウラに俺の考えを伝えるのは不謹慎だけど、少し嬉しく感じてしまう。
「ああ……そうなのだな。私は焦り過ぎていたんだろうな。感謝するノクト」
「いや、これくらい良いよ。明日もまだ特別実習があるんだし、早く戻ろう」
俺の言葉一つで、俺の剣筋一つで、ラウラのことをずっと守れるのならば、どれだけでもやってみせる。それは俺にしか出来ないと思うから。
♦ ♦ ♦
次の日、女将さんから今日の依頼を受けとった。内容は昨日と変わり映えしないけど、今日の実習が夕方までということを考慮してくれたのか、一つ少なくなっていた。結局、昨日はラウラとリィンのゴタゴタがあったから、ルナリア自然公園の管理人の怪しさを調査することは出来なかったなぁ。まぁ、アリアンロードさんに師事してもらうまでにはしっかり調査しようかな。
「――ラウラ。昨日はすまなかった。八葉一刀流を、剣の道を軽んじ、自分の人生を否定していた。ラウラの言う事態も起こるかもしれないのにだ。それを気づかせてくれたラウラには感謝と謝罪をさせてほしい」
「私もすまなかった。リィンの事情も知らないにも関わらず勝手な物言いをしてしまって」
エリオットもアリサも今日一日どうなることかと思ってビビっていたみたいだけど、早々にわだかまりが無くなって安心しているようだった。かくいう俺もなんだかんだ言って安心感を得れていた。お互いに仲直りが出来て、気持ち新たに依頼に挑めるようになったと思ったんだけど、大市に出ている屋台の商品が盗まれるという事件が起こったらしいのだ。
流石に事件と聞いて、放って置くのは士官学院の人間として出来ないので、満場一致で大市に様子を見に行くことに決定した。
現場に行ってみると、盗難騒ぎにあっていた商人は前日にもめていた二人で、元締めが間を取り持っているにも関わらず、言い合いがヒートアップしていた。
「待った!!」
それを見かけたリィンが颯爽と駆けつけて、リィンを追うようにみんな走って行ったので、俺も頑張ってその流れに着いていった。二人の言い分はお互いが盗み合ったという証言で、このまま何の証拠も出なければ平行線を辿るだろうということは素人である俺からしても明らかだった。
そんなこんなでつかみ合いの喧嘩に発展しかけたところに、あまり会いたくない領邦軍が出てきた。その領邦軍は引っ捕らえるということを脅しに無理やり争いを鎮めていた。良い方法だとは思うけど、こんな公衆の面前でやっても領邦軍の信用を下げるだけになるんじゃないのか?もしくは下がっても気にしないのかな。
領邦軍が帰って、元締めによってなんだかんだこの場が収められると、俺たちも混ざって壊れた屋台を直して大市は遅れながらも開かれることになった
「ケルディックの抱える問題思った以上に根が深いようだな。領邦軍が駆けつけたとはいえ、結局、何の解決にもならぬとは……」
「うむ……やはり大市のトラブルにはまともに取り合う気がないようじゃ。ワシらが増税への苦情を取り消さん限り、その姿勢を貫くつもりなのじゃろう」
元締めが言うには、このままでは客足が遠のく可能性も全然否定出来ず、対策も考えているけど、中々良い案が無いらしい。
「今回の事件――俺たちに調べさせてもらえませんか?」
そんな時、ふとリィンがそんな事を言い出した。こんな勇気あることを言い出せるリィンは本当に英雄的だと思うし、実際にリィンは英雄にもなれる気がする。
「目の前で理不尽なことが起きて、頼るべき領邦軍も当てにならない。だったら……士官学院の生徒である俺たちが見過ごすわけにはいきません」
そんなリィンの言葉とサラ教官の言葉である自分達で考えて行動しろという言葉によって、リィン以外の俺たちも事件を調査することに決心が付き、元締めに安全のため深入りしないことを条件に許可してもらい、いよいよ事件を調査することになった。
段々と原作場面でも小さな差異を出していきたい