特別実習が終わってから帰りの列車の中、リィンから衝撃的な告白があった。どうやらリィンは帝国北部のユミルを治めているシュバルツァー男爵家の養子らしい。しかも、ラウラ曰く、男爵の地位にありながら、帝国に縁がある家みたい。養子だったんだ。リィンの語る言い方的に幸せな家庭のようで安心したけど、もし俺が養子だったら、幸せな家庭だったんだろうか、今とそんなに変わらない気がする。それよりも、リィンが貴族だと知ったことで、マキアスがリィンに距離を置くことは決まっちゃったな。面倒なことにならなきゃいいけど。
俺はラウラにちらっと言っただけの変な笛の使い道を考えながら、列車の中を過ごすことにした。
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特別実習から数日、予想していた通り、マキアスとリィンの仲の悪さというか、マキアスが一方的リィンを無視に近いことをし始めていた。いいかげん、マキアスも貴族を受け入れてくれても良いとは思うんだけど、事情があるだろうから、真正面からは言えない。
そんな面倒なこととは離れた月末の休みの日、俺はラウラと共に朝早くからまたルナリア自然公園に来ていた。来た理由は前々から約束していたアリアンロードさんとの約束の日だからだ。昨日は早く寝たし、武器も全部持ってきた。修行する準備はバッチリだ。
「……楽しみだな。ノクト」
この間も歩いた道を歩きながら、楽しみだと言っているラウラの表情は笑顔を隠すことが出来ておらず、わくわくして楽しみにしていることがまる分かりだった。昔はこんな表情をすることが多かったけれど、最近は見なかったから新鮮だ。いつもの顔も表情も素敵だけど、こんな風に見る嬉しそうな顔も好きだな。
「そうだね。いよいよ教えてもらえると思うと、わくわくする」
進んで行って着いたのは、この間、あの盗人達と戦った開けた場所だった。その中央に佇んでいたのはこの場には似つかわしく無い異質過ぎるオーラを持っているけれど、逆に異質すぎて溶け込んでいるアリアンロードさんがいた。本当に神々しいという言葉が似合うお人だ。
「お久しぶりです。アリアンロードさん。お元気でしたか」
「ええ。二人はどうでしたか?」
落ち着いていて、それでいて、覇気のある声質は俺らの耳にしっかりと入ってきて、変な話だけど、この人の前に俺とラウラが存在していることを実感する。
「特に大きな怪我も無く、過ごせました」
「同じく、様々な経験を積むことが出来ました」
俺には師匠と呼べる人物が多くいるけれど、ラウラには明確に師匠と言えるのは父親のヴィクターさんしか居ない。だからか、距離感を掴みにくくなっているようだった。
「思い出話は後で聞くとして、さっそく手合わせといきましょうか」
アリアンロードさんが取り出すは巨大な槍。俺には到底扱いきれないもので、絶対に勝てないということが戦う前から分かっていた。そんな当然なことは分かっているというようにラウラは俺の方を見て頷く。連携して何とか喰らいつく!
「いかせてもらいます!!」
「手加減無用!」
俺とラウラの連携は十年ぐらいになる。それは並大抵の人には突破されることは無いんだけど……やっぱり全く歯が立たなかった。アリアンロードさんはあんな大振りな槍を持っているのに、素早くて攻撃なんて当たらないし、その割に俺とラウラの隙が出来たタイミングでバッチリと狙ってくる。戦闘というもの知りつくしている人の動きだった。
「アリアンロードさん、いや、師匠!強過ぎませんか?」
「ノクトの言っている通りだ。全く勝てる気がしない」
「今はそれで大丈夫です。いつかはここまで来て欲しいですが……」
師匠のクスッと笑うような笑み、それは俺とラウラを馬鹿にするようなものでは無く、何処までも俺達がそこに行けると確信しているような嬉しそうな笑みだった。
「一度休憩を挟んでから、もう一度やりましょうか。次は教えながらです」
師匠の言う通り、次は手加減ありきで手合わせをしてくれて、俺達の悪いところを指摘してくれた。良いところもいっぱい褒めてくれて、本当に良い師匠に巡り会えたと思う。
「ノクトはもう少し、武器同士の組み合わせを上手くしましょう。二つ別の武器を上手く使えば、ノクトなりの利点を生かせることが出来ますよ」
「ラウラは動きが型にハマっていないのをもう少し生かしたいですね。強者同士ならば、その流派に無い動きは勝ちへの活路になりますよ」
ラウラの前よりも勝ちに貪欲になった荒々しい剣筋をアリアンロードさんを否定しなかった。普通の剣士だったら、流派に基づいた動きを最優先とするはずなのに。俺達のことは否定しない、だけれども、厳しく教えてくれる。俺達は今日だけで、抜群にレベルアップ出来たと思える。
「そろそろ今回は終わりしましょうか。今からは語らいの時間です」
一気にリラックスムードになった師匠は仮面を外し、切り株に座ると、近くにあった切り株を見た。俺達はそれに座れということと受け取ると、力を抜いて座った。というか、師匠の顔を初めて見たけれど、すごく整っていて、美しいけれど、何処かで見たことがあるんだよなー、何処だっけ?
「その、我々に、仮面の下を見せても大丈夫なんでしょうか?」
「ええ。あまり知られる訳にはいきませんが、貴方達二人には見せても問題ありませんよ」
その信頼の証とも言える、仮面の下を見せるという行為。俺には信頼の証に見せるようなものも、渡すようなものも無いのが悔しい。いや……ある。信頼の証とは言えないけれど、渡せるようなすごいものが。
「師匠。この前、手に入れたこれ。すごいものだと思う気がするんですけど、受け取って下さい」
リュックの中からこの前、Gという人から奪ってきた笛を取り出す。明らかに普通では無いから、師匠だったら扱いきれると思う。
「これは……古代遺物ですね。どこでこんなものを?」
「帝国解放戦線?ってところのGってやつから奪ってきたんだ。どうですか師匠?」
師匠はじっと笛のことを見る。多分、この古代遺物が使えるものか、使えないものかを判断しているだろうな。師匠と相性が悪いものだったら、使わないだろうし。
「そうですね、気持ちだけ貰っておきます。この道具でノクトの戦略ももっと増やせるでしょうし」
確かに師匠の言うとおり、俺が持っているこれは武器なんだ。いくつもの武器を習ってきた俺だったら使いこなせるはずだ。
「分かりました!使いこなしてみせます」
次はあなたの番ですという感じで、師匠はラウラと目を合わせた。師匠もラウラが剣の道で悩んでいることに気づいていたんだろうな。俺にはそれを聞き出す勇気も良い答えを出すほどの経験も無かった。師匠なら何か示してくれるはずだ。
「ラウラ。ここには私とノクトしか居ません。いくらでも吐露してくれてもいいんですよ」
「……先日、剣の道を迷っていた友人に誇りを持て、限界を決めるなと言った……しかし、私もずっと迷っている。このままアルゼイド流からズレた剣筋のままでいいのか、その道の先に強さはあるのか、不安で不安でたまらない」
ラウラの心からの叫び。いつもは凜々しく、大人ぽいラウラだけど、体も心もまだ年相応で、何かしらの悩みを抱えているんだ。俺はその悩みの大きさに気づくことが出来なかった。いや、ラウラの強さを勝手に信じていたんだ。こんな自分勝手な俺が本当に嫌になる。俺はまだ未熟だ。
「流派というのは生み出す人が居て初めて存在します。それはまずは忘れないで。そして、アルゼイド流を受け継ぐものとしての責任に囚われないで下さい。貴方が目指す強さへの道を選んでいいんです。私はどんな道を選ぼうと、貴方を鍛えます」
暖かい。師匠の言葉は何処までも優しくて、泣きたくなるようなものだった。実際、俺とラウラは顔が少し赤くなっていたし、師匠の顔を真っ直ぐ見れなかった。
「はい!精進します!!」
その後も俺とラウラと師匠との対話を続いた。師匠の言う言葉どれも説得力があって、俺たちの心に残るものばかりだった。世間話もしたけれど、師匠は俺よりも様々な場所を回っているみたいで、色んなことを教えてくれたけれど、そんな幸せな時間も終わりを告げることになった。
「もう、暗くなってきました。そろそろお開きにしましょうか」
「え?ああ。そうですね。次はいつ会えます?」
「次の貴方達の休日に。ここで」
「師匠!私、やってみます」
「応援していますよ」
また師匠は音もなく消えていった。まるでさっきまでの時間が夢だったかのように静かになったこの場所を俺とラウラは離れていく。
「ノクト。気づいていたか?」
「何に?」
「あの方の顔はサンドロッド様と瓜二つだった。何故そうなのかは気にしない。だが、これが運命であるとは信じたい」
そうだ、ラウラの言っている通りだ。レグルスにある像と師匠の顔は一緒だ。でも、本人なのか?いや、生きているはずが無い。でも、並々ならぬ事情はある気がするから、師匠が自分から話してくれるまで待とう。ラウラもそう思っているはずだから。
「待とう。師匠が自分からこのことについて触れてくれる日まで」
俺とラウラはこの間と同じ帰りの列車に乗って、トールズに戻る。そういえば、リィン達がまた旧校舎の探索をしていたみたい。聞く話によると、旧校舎の構造がいつの間に変わっているらしく、また別の機会に連れて行ってとは言っておいた。でも、今日の修行の成果を驚かせたいから、次に戦闘がある時はみんなの前で見せたいな。
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今日も今日とて、全ての授業が終わった。最近は学校が終わると、新しく入ることになったフェンシング部へと向かうのが日課となっていた。ラウラも入るのかなとは思ってたんだけど、他の運動もしてみたいということで水泳部に入った。
フェンシング部の同期には平民クラスのアランと四大名門のパトリック・アームズがいるんだけど、まぁ何というか居心地が悪い。四大名門だけあって、平民を見下すパトリックと平民アラン。空気が悪くならない訳が無い。それに、加えて俺に近寄らないパトリック。部長には本当に苦労をおかけしているとは思う。
「やめろ!こっちに近づくなクロンダルト」
多分、俺の家の嫌な噂のせいだろうなー。父さんがあまりにも秘密主義が多過ぎることやほとんど誰とも絡まないおかげで、こんなにも避けられてしまっているんだろうとは思う。昔から一部の貴族からはこんな扱いだから、もう慣れてしまった。ちょっと寂しいけれど。