時間的にはエレンの地下室の謎が明らかになった辺りです。
こんなのリヴァイじゃない!となる可能性のある人は閲覧に注意してください。
何でも許せる方向けです。
墜ちて墜ちて墜ちて墜ちて墜ちて……
脳味噌がまるで抉られ潰されるように''ナニカ''に圧迫され…
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい……
俺から離れていく無数の手、手、手、手、手……
ーー逝くなっ。
はっと目が覚める。
中途半端に天井に向かって伸びた手を力なくおろした。
全身が冷や汗で嫌に濡れている。
「……汚ねぇ。」
再び寝ようにも己から滲み出た体液に酷く嫌悪感を覚えて体を起こした。
窓から差す月明かりを頼りに引き出しから替えの服を取り出し、着替える。
……本来なら即行風呂に入っている所だが生憎、大浴場は開いていない時間だった。
クソっ。今日くらい椅子じゃなくてベッドで寝ろって言ったのはどこのクソ野郎だ。…ああ、クソメガネか。
あいつ、俺から仕事奪いやがって。
団長権限だと?
クソみてぇなこと言うんじゃねぇ。ガキが寝るような時間に大の大人を寝かせることが命令だと?
冗談じゃねぇ。
俺は3時間寝れば十分だってぇのに。
普段と違うことするから悪夢なんて柄でもないものを見るんじゃねぇか。
……まあ、寝不足だったのは認めるが。
散々悪態をつきながら着替え終え、慣れないベッドに寝転ぶ。
薄っぺらい布切れーー布団を手繰り寄せ目を閉じた。
……
静寂が耳に付く。
天井と目が合った。
「……寝れねぇ。」
ーー元々この部屋も二人部屋だった。
だが、次々と兵士が死に行き今は俺の一人部屋だ。
他にも多くの空き部屋が有り、静寂をより一層確かなものとしていた。
仕方なく上体を起こしベッドに腰掛けるようにして座る。
今年は色々な事が起こり過ぎた。
エルドが死に、ペトラが死に、オルオが死に、エルヴィンが死に、百を超す新兵が死んだ。
生き残りは九人。
かと思えば、壁の外には数え切れないほどの人類がいるんだと。
はっ。笑えねぇな、クソが。
ーーおい、エルヴィン。
これがお前の知りたがっていた地下室の答えらしい。
直に俺もお前らの所に行くことになるだろう、が…
…お前らに合わせる顔が、ねぇ。
あろうことか、俺はお前らを散々殺してまわった獣の奴を仕留め損ねた。
俺は必ず奴を殺る。
だから、もう少し待ってくれ。
エルヴィン……
『なんだ、リヴァイ。』
俺は溜め息を吐いた。
いよいよ俺もイカれちまったらしい。
『おい、リヴァイ。』
よりによってエルヴィンの幻聴が聞こえるなんてこと……
『無視するな、リヴァイ。』
ふと前を向く。
気持ち悪いくらいエルヴィンに似た物体が生暖かく微笑んでいた。
『……リヴァイ。』
……
「……寝るか。」
『リヴァイ!』
俺はエルヴィンらしき物体とは反対の壁の方を向いたまま返事をする。
「……なんか用か。エルヴィンらしき物体。」
『''エルヴィンらしき物体''か。実に面白い表現だ。』
「さっさと用件を言え。」
『特にない。強いて言うならば''エルヴィン''としてリヴァイに会いに来ただけだ。』
「……本当にエルヴィンか?」
『ああ。リヴァイ。』
「なら、さっさと出てけ。」
『は?』
「エルヴィンなら出てけと言ったんだ、クソ野郎。」
『……あ、えっと、リヴァイ?他の仲間もいるんだが、』
「ペトラとオルオ辺りか?」
『ああ。』
「じゃあ、エルヴィンを追い出せ、ペトラ、オルオ。」
『『はっ。兵長!』』
『おい、嘘だろ、リヴァーイ!』
エルヴィンは散々喚きながらペトラとオルオによって外に追い出された、らしい。
俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには敬礼をしたペトラとオルオがいた。
「…久しいな。ペトラ、オルオ。」
ペトラとオルオは感極まったように頬を紅潮させる。
「堅苦しいのは、よせ。もっと楽にしていい。」
そう言うと二人は敬礼を解いた。
「そういや、エルドはどこだ?」
『何でも恋人を見に行ったとかでガッッ』
『オルオ! あなた、また舌を噛んだの?!』
「実体は無さそうだが、舌を噛めるのか。」
『なぜだかそうらしいデュエガッッ』
『オルオ!』
「ペトラ、オルオはそっちでもこんな調子か。」
『はい、兵長。こっちにいたときと変わらない頻度で舌を噛みます。もう、本当に間抜けなんだから!』
オルオはいつも通り盛大に舌を噛み、血を撒き散らす。
だが、飛んだはずの血は床に付くことなく消えていった。
やっぱりこいつらは……
「ペトラ。そっちにはみんないるのか。」
『はい。兵長。みんな問題なく』
『おい、何で俺には聞かれないんガッギェッッ』
『オルオ!…ああ、もう!そうやって舌を噛むからよ!』
懐かしい光景に自然と顔が緩んでいた。
『兵長…?』
「お前ら…ありがとうな。」
『『…!!』』
二人は目を丸くして俺を見つめた。
廊下からエルヴィンの情けない声が聞こえてくる。
チッ。気色悪い声を出しやがって。
「ペトラ。オルオ。エルヴィンが一人は寂しくて小便漏らしそうなんだと。便所に連れていってやれ。」
『ですが、兵長!エルヴィン団長に会わなくても宜しいのですか?!』
「少なくとも今はな。それにエルヴィンに会いたい奴はもっと他にもいるだろ。ハンジとか他にも」
『ですが、ハンジ分隊長には見えなギィッッ』
『オルオ! もういい加減にして!』
「なんだ? 他の奴にはお前らが見えないのか?」
『はい、だって今日は兵長の』
『オルオ! ちょっと黙って!!』
『ペトラ、グエッギッッ』
何かをいいかけたオルオはペトラにどつかれ半ば強制的に舌を噛んだ。
「おい、オルオ。今日は俺の…なんだ?」
『ええっ、あっ、ガッッ、ギャッ、グェッ……』
オルオは慌てていて舌を噛みまくり最早なんと言ってるのか分からない。
きっと自分自身も分かっていないだろう。
ペトラはテンパるオルオを押さえつけている。
『へ、兵長! 私達はエルヴィン団長の所に行って』
「おいおいおいおい、今日が何なのか俺はまだ聞いてな」
『し、失礼します! 兵長!』
ペトラはオルオを連れてエルヴィンのいる所へ行ってしまった。
あいつらには実体がないから捕まえられねぇ。
かといって廊下に出ればエルヴィンに出会ってしまう。
だが、気になる。
俺は扉に近づき、耳を澄ませる。
『オルオ! 兵長…内緒…言っ……』
『だっ…兵長……なのに……』
『ハンジ分隊……サプ……じゃない!』
『…………』
『…………』
……
残念ながらあまり聞き取れなかった。
誰もいなくなった自分の部屋を見渡す。
いつの間にか窓が開いていた。
不思議に思いながら窓辺に寄り、まだ暗い外を眺める。
青い光に照らされ街は静まり返っていた。
このまま部屋にいても寝られそうない。少し外にでも出てみようか。
なんとなくそう思い立ち、縁に手を掛けて一気に窓から屋根へと出る。
巨人討伐で散々走り回っていた屋根に立つとなぜだか少し懐かしい気がした。
ザァと風が吹き流れ、冷たい空気が頬を撫でた。
ふと気配を感じ、後ろを振り返る。
『兄貴!』『よお、リヴァイ。』
「イザベル!ファーラン!」
咄嗟に二人の元へ駆け出していた。
「なんで…ここに?」
『だって今日は‥』
『イザベル。それは言わない約束だろ?』
『あっ、そうだった。』
前と変わらない二人の姿を見て嬉しくも悔しくも思う。
「もう六年か。」
『もうそんなに経ったのか! 兄貴は、うーん‥』
『ちょっと老けたか?』
「老けっ…そんなにおっさん臭くなったか?」
『だって兄貴、もう中年だろ?』
『十分おっさんだぜ、リヴァイ。』
三人で見つめあって馬鹿みたいに笑う。
ああ。この時間が永遠に続けばどれだけいいだろうか。
笑い声が収まり、再び風が通り抜けてゆく。
風に巻き込まれ飛ばされ、足元をすり抜けてゆく落ち葉を目で追い掛けた。
落ち葉は高く舞い、月を背景に青く光る。
青い月を三人で見つめた。
「……助けられなくて、ごめんな。」
二人の反応を見る勇気はなく、月を見つめたまま呟く。
冷たい風に頬を撫でられ続け、肌の感覚が麻痺してきた。
いっそ、このまま返事が無ければと思う。
耳元を撫でる風の音を静かに聞いているとファーラン達の声が直接頭の中に流れてきた。
『リヴァイ、ありがとうな。』
思わず息を呑む。
『リヴァイ! 気にすんな! お前は変わらず俺らのリーダーだからな!』
『兄貴! 俺は一緒にいられただけで感謝してるし楽しかったぜ!』
鼻の奥がつんとした。
「ファーラン! イザベル!」
二人のいた方を振り向く。
が、屋根の上には俺の他は誰もいなくなっていた。
「……お前ら……」
今さら部屋に戻りたいとは思えず、屋根に腰をおろした。
冬の風と青い月明かりを全身に浴び、ただ空を見上げる。
『リヴァイ。』
後ろからあいつの声が聞こえる。
また来やがったのか。
「なんだ。エルヴィン。」
エルヴィンの野郎の溜め息が聞こえた。
『君はいつになったら私を見てくれるんだろうな。』
少し呆れたようにエルヴィンは小言を言う。
「……お前の命令を遂行し終えた時だ。」
ふっ、とエルヴィンが笑った。
『そうか。』
「絶対に俺は殺る。だから、」
『待つさ。』
エルヴィンの声が直接頭に流れてきた。
『そしたら、地下室の答え合わせをするんだろう?』
今度は俺が笑う。
「……悪くない。」
「おーい。リヴァーイ。生ーきてーるかーい。」
ハンジのアホみたいな声で目を覚ます。
いつの間にか屋根の上で寝ていたらしい。
立ち上がって埃を払う。
俺としたことが。
こんな汚ねぇ屋外で寝ちまうとは。
「「「兵長ー!」」」
ガキ共が屋根の上を走ってこちらにやってくる。
「なんていう生命力だ! こんな真冬に防寒着なしで寝たにも関わらず生きているなんて!」
「兵長って寝相悪いんですね!」
「馬鹿っ、言うんじゃねえ! こういうのは言わないでそっとするべきなんだよ! この生き急ぎ野郎!」
「そうだそうだ! こんな寝相、常人には出来ないだろ! 兵長は寝相の悪さも人類最強なんだ!」
「そうですよ! これこそ強さの表れです!」
「こいつら……俺の言った意味、絶対分かってねぇだろ……」
「なあ、ミカサ。こいつらっていつもこんな感じなのか?」
「……不毛。」
言いたい放題言いやがって。
「後で覚えてろよ、ガキ共。」
「「「はひっ」」」
情けねぇ奴等だ。
返事に悲鳴が混じっていやがる。
「で、リヴァイ。なんでこんな所にいるの?」
ハンジがわざわざ体を屈めて俺の顔を覗きながら聞いてきた。
チッ。背ばっかり伸びやがって。
「エル、」
「ん?」
「いや、なんかすげえ長い夢を見ていたような気がしてな。」
なぜだか、昨夜のことは誰かにしゃべらない方が良いように思えた。
何となくだが、誰かに話せば話すほど薄れちまう気がしてならねぇ。
「ほら! やっぱり俺のいう通り寝相が悪いんだって!」
「おい! 口を閉じろ、死に急ぎ野郎!」
「でも、眠りながら部屋の窓から屋根に出るなんてことできるかな‥?」
「いいや! 何を言いやがる! 兵長殿は人類最強なんだぞ?!」
「そうですよ! でも、そんなことよりお腹、空きません? ご飯! ご飯食べに行きましょうよ!」
「‥なあ、ミカサ。こいつらって、」
「不毛。」
ガヤガヤと騒ぎ立てながら屋根からおり、食堂へ向かう。
「ほら、リヴァイが先に入ってよ。」
「ああ? なんでだ。」
「いいからいいから!」
ハンジに無理矢理背中を押される。
仕方なく扉を開け、一歩足を踏み入れた。
「「「お誕生日、おめでとうございます!!」」」
部下の兵士たちが全員食堂に集まっていた。
「……は?」
呆けていると、ハンジに背中をバシッと叩かれた。
「もう、なんでぼけーってしているの!」
「‥そうか、今日は十二月二十五日、だったか。」
「そうだよ?リヴァイ。みんな三十路兵長のために! 昨日から準備していたんだから。」
「昨日から‥」
そうか、だから俺は早く寝かされたのか。
「兵長! おめでとうございます!」
「ぃよっ! 人類最強!」
「兵長! これからもお願いします!」
食卓にはずらりと肉料理が並んでいる。
サシャが料理にがぶりつこうとするのをコニー達が必死になって止めていた。
「兵長! 最高級の紅茶です!」
「ティーカップです!」
「砂糖です!」
茶葉の入った瓶やその他色々を部下たちからプレゼントされる。
「お前ら…」
ガヤガヤとしていた食堂が一瞬で静まりかえった。
「ありがとうな。」
すると、静寂を突き破るかのような雄叫びが食堂を震わせた。
「兵長が笑った!」
「「「兵長が笑った!!!」」」
「サプライズ成功!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
ノリが完全に可笑しいが、まあ、これでよしにしよう。
食卓につき、いつもより豪華な食事を仲間と囲んだ。
いつも通りの時間がゆっくりとゆっくりと動き出す。
そして静かに微笑んだ。
たくさんの事が起こり、仲間が大勢死に行き、人類最強だとしてもやっぱりいろいろ考えるんだろうなと思ってこの話を書きました。