店じまいをしてすぐ、子ども服や用品を売っているお店に向かった。オムツや、食器、チャイルドシートに食事の時の椅子。諸々を購入しすぐに家に戻る。
レジで増えていく数字を見ながら、昨日買ってほぼ全く使われなかったネコ用品の事を思い出し多少虚しさを感じたのはそのまま心に留めておいた。
家に付くと早速食事の椅子を組み立てる。その際息子と白い幼女が興味津々に覗き込んだり、パーツを奪って遊びだしたりして激しく邪魔をしてきたので、二人の頭に軽くチョップし向こうで遊んで来なさいと促す場面もあったが、息子が使っている物と同じ品を選んでいたため、程なくして手こずることなく完成した。
そのタイミングで晩ごはんも出来た様で息子と白い幼女の手を洗い、初めての四人での食事を迎えることとなった。
今晩の献立は、オムライスと唐揚げ。鶏に感謝の組み合わせだ。
「いただきま―――」
「に゛ぁっち!!」
合掌し食前の言葉を述べている途中で、横に座った白い幼女が小さい悲鳴をあげて、なにかが手からこぼれ落ちた。
「そりゃ揚げたてだから熱いよ。気をつけて」
どうやら唐揚げを食べようとしたところ、中がしっかりジューシーだった為お口の中一杯に熱い肉汁が襲ってきたのだろう。涙目になりつつ、恨めしそうに唐揚げを見つめる白い幼女の頭を優しく撫で、テーブルの上に転がっている唐揚げを自分の皿に置いて箸で小さく小分けをする。そして小分けになった唐揚げの欠片をひとつ箸でつまみ、フーフーと息をかけて冷ましてから白い幼女の口元に近づけた。
先程熱い思いをしたためか、警戒してジッと唐揚げを見つめる白い幼女に、冷ましたからもう大丈夫よと声をかけて食べるよう促す。
そして恐る恐る、こちらと唐揚げを交互に何度か見たあと意を決したように唐揚げに食らいついた。しっかりとモグモグと口を動かしているのを見届け、自分も食べ始める。
「っあっちゃ!!」
目の前の息子も肉汁に襲われて悲鳴をあげているのを眺めつつ、自分も唐揚げを食べてみる。揚げたてのカラッとした食感が口に広がる。しっかりと醤油と生姜のタレによる下味がついているので、口がお米を求める。
チキンライスを優しく包んでいる卵と共にスプーンで取り上げ一気に口に進ませる。卵のまろやかさとケチャップの酸味と旨味がお米とともにやって来て多幸感が口いっぱいに広がった。
「凛ちゃん美味しいよ」
「ママ、おいしー」
「にゃいしー」
それぞれ味の感想を妻に伝えると、嬉しそうに口角をあげながらドヤ顔をしながら自身も食事に手を付け始めた。
「なんかいいね。この光景」
ふと食事をしばらく取っていた最中に妻が一言こぼした。
「いつも三人の食卓だったけど、一人増えるだけで凄く賑やかになるね」
一昨日までは三人の食卓、昨日は三人と一匹、そして今日は四人と増えた食卓の景色。数字で見れば一人しか変わらないのだが、その一人増えるだけで家は騒がしく賑やかになるのを確かに感じる。
目の前には妻とオムライスの卵だけを捲りあげて口に頬張る息子と、横にはオムライスのケチャップで手と口が真っ赤になった白い幼女。
体が白い為にケチャップの赤が凄い映えるなと思いつつ、手と口をウェットティッシュで拭ってあげる。その行動はかつて目の前で妻が数年前に息子にやってあげてた行動と全く同じであった。
「そうだよね。子ども一人増えるだけでホントに賑やかになるね」
そう返して妻と目を合わせる。互いにふっと笑顔になりつつ目を細めた。
「ニャーすごい散らかすね」
「琥珀もよく溢して散らかしてたのよ」
「今溢してないもん」
テーブルの上には空になった皿が増えていった。
「そういえば、この子名前どうしようか」
「ニャーはニャーだよ!」
食事を終え片付いたテーブルの上で昨日聞いたような会話が飛ばされた。
「もうネコさんじゃないからニャーは可哀想だよ」
「ニャーはニャーだもん!!」
さすがに見た目がネコミミと尻尾の生えた人間だからといって、ネコに付けるような名前は流石に可哀想だと思うので息子を諭すように伝えてみたが、息子の意志は固い。
確かに、息子としては人生初めての命名ということなので、並々ならぬ思いがこの名前にはあるのかもしれない。かといってこのまま『ニャー』という名前というのは如何なものかと思われる。
「ニャーもニャーがいいよね!?」
「にゃー?」
息子は同意を白い幼女に求め、更に勢いつけようとしていたが、当の本人は食後のヨーグルトに夢中で何も聞いていなかった。今度は白い口元がヨーグルトで余計に真っ白テカテカになっている。
「ねぇ琥珀、琥珀がイヌさんネコさんみたいに周りから呼ばれたらどう思う?」
妻は息子の顔を優しく見つめて問いかけた。
「うーん、なんか嫌だ。僕は人間だもん」
「ならこの子もネコみたいに呼ばれたら嫌かもしれないよ」
「でもニャーはニャーだもん」
どうやら息子の意志は相当に固いようで、譲る気配はないようだ。妻はそんな息子にどうしたら説得できるのかを頭を悩ませながら考え込んでいる様子。困ったようにコチラのほうに顔を向けてくる。
どうしたものかと自身も頭を悩ませていると、ふと白い幼女と目が合った。真っ白で艶がある髪の毛と色素の薄い肌。フワフワとしたネコミミと尻尾、琥珀色とエメラルドの色をした左右の瞳。
―――ニャーはニャーだもん。―――
息子の言葉が頭に過ぎった。確かにこんな姿のネコはどこにも居ないし、人間だっていない。目の前の白い幼女は唯一無二の存在だ。息子は小さいながらそういう事を言っていたのではないかと感じた。本当にそこまで考えての発言かはわからないが。
そうだ! こうしよう!
頭にふと名案が浮かんできて、すぐさまスマホを取り出して調べ物をする。そしてイロイロなページを見て自分なりにピッタリ来たものをメモ用紙を手にとり大きく二文字を書いて三人に見せつけた。
「