「琥珀ー、丹愛ー、風呂入るぞー」
「はーい!」
「にゃー?」
風呂の湯を溜め終え、風呂場に息子と丹愛を呼ぶ。息子は素直にこちらに駆けてきたが丹愛は風呂というものが分かってないようで、返事はしたもののとりあえず息子に着いてきた形となった。
息子はいの一番に服を脱ぎ捨て風呂場に入っていく。丹愛はどうしたらいいのか分からない表情でこちらを見上げてくる。
ひとまず自分は服を脱ぎ、オムライスのケチャップやらヨーグルトやらが服に纏わりついている丹愛を抱きかかえながらそのまま風呂場に入れ、そこで服を脱がした。息子がまだ丹愛くらい小さい時によくやっていた方法で、脱衣場が汚れるのを最小限に抑え、汚れた服をそのまま風呂に入りながら手洗いで粗方の汚れを落とせるのがメリットだ。デメリットは排水口にどうしてもゴミが溜まりやすくなるので、こまめに掃除しないといけないというだけだ。
シャワーの出だしはどうしても冷たい水が出てくるのでシャワーヘッドを手に取り排水口近くで水を流しながら暖かいお湯が出てくるまでしばらく待つ。
「にゃっ!!」
シャワーから流れる水に手を伸ばした丹愛は冷たかったのか驚いたように悲鳴をあげた。そうこうしているとお湯に変わったようで、丹愛の頭にシャワーを当てた。と、同時に
「に゛ゃーーー!!」
「あっ! ヤッベ」
ネコミミに水がイン。丹愛は先程より大きな悲鳴をあげバタバタと頭を振って耳に入った水の不快感から逃れようとしていた。
人間の頭を流す感覚でやるとネコミミの構造上水が入りやすいみたいで、必死に悶える丹愛を見ながらゴメンゴメンと平謝りする。
今度は椅子に座っている足の間に丹愛を入れ、抱き寄せるようにして後ろからシャワーを当てた。お湯が当たった瞬間ビクッと体か震えたがシャワーを持っていないもう片方の手で優しく頭を撫でると落ち着いてくれた。そのまま先程よりも慎重に頭にシャワーをかけていく。
後ろから前に流れるようにシャワーを当てながら髪全体を潤していく。そして一旦シャワーを止めてからシャンプーを手に取り髪を泡だて始める。
先程のシャワーの失敗を参考に耳の穴に気をつけながら全体を洗う。が、
「に゛ゃゃぁぁぁ」
次は目にシャンプーが入ったようだ。
「さて、あとはココだけか······」
紆余曲折ありつつも一通り頭と体を洗い終わって、残った一部分に目を向ける。ひょこひょこと動くその部分を見つめつつ、
(ボディソープじゃなくてシャンプーのほうがいいよな。リンスとかコンディショナーはどうしよう)
今は濡れてシュンっとなっている尻尾は、通常時はふわふわとしている。髪の毛同様にしっかりと手入れするのがいいだろうと思い、妻の愛用のシャンプーを手に取る。
軽く手で泡だて尻尾を手に取ると、
「にゃっ!!」
と何度目かがわからないがまた軽く悲鳴あげてコチラを遂に睨んできた。
「いやいや、睨まれてもキレイにしてるだけだから。我慢しんさい」
まぁただ、睨まれたところで幼女。何も怖くない。彼女なりの必死の抵抗を無視し、足の間に体を挟み入れて動けなくしてワシワシと尻尾を洗う。
洗われる手に合わせて逃げるように動く尻尾を見ると改めて不思議な感覚に襲われる。見た目は人間の幼女なのに人間にはない物を持っている。本当にこの子は何なのだろうか? どうしてこの姿になったんだろうか? そんなことを片隅に考えながら洗い終わり泡を流した。
妻愛用のトリートメントを手に広げ、撫でるように尻尾全体に
薄く伸ばすように付けてから洗い流し、洗浄という戦場が終わりとなった。
「にゃっにゃっにゃーーー」
丹愛を抱きかかえながらゆっくりとお風呂の湯に浸かろうとすると、足にお湯が当たった瞬間ビクッと身を縮めて逃れようとしていた。それを無視してそのまま腰を下げていくと、また足にお湯があたり逃げようとし、でもそれ以上逃げれず諦めと悲しみが感じられる声を上げながら遂に肩まで湯船に浸かった。
「ふぃー、きもちぃー」
「パパー、体洗うから見ててぇー」
コチラと入れ替わる様に息子が湯船から出ていき、意気揚々と体を洗い始めた。今までこんなことは無かったが、丹愛に良いところを見せようとしているのかもしれない。
子ども用のシャンプーを手にとり髪を洗い出す。が、髪の前側だけを重点的にやっているだけで、後頭部側は全く洗えていなかった。
「頑張れぇ。しっかり後ろもゴシゴシしんさいよ」
息子の小さな成長を微笑みながら見ながら、自分の足の間に体を収めてお湯に浸かる丹愛を流し見る。すると丹愛は思いの外気持ちいいのか、目をつむりながらしみじみと味わうような表情で寛いでいる。その様子を見て、内心風呂の中でまで暴れるんじゃないかと思っていた不安が杞憂ですんで良かったと思うのであった。