市場に着くのが大幅に遅れてしまったが、前日に最低限必要なものをピックアップして連絡をしていた商品は確保してもらっていたため配達先の注文の欠品という最悪の事態は免れた。しかし余分に注文しようとしていた商品などはすでに商談が終わり引き取りが始まっていた。
ひとまず確保してもらった商品を引き取りに行くかと歩みを進めた。
「どうしたんね?
「うぉっ、山本さん! 背後からいきなりビックリするじゃないですか! もし僕が眉毛の立派なあのスナイパーだったら山本さん命はなかったですよ!」
「報酬はスイス銀行に送金しとくよ」
市場の責任者の山本さんがいつの間にか背後に現れたので、肩をビクりとさせ、文句がてらにボケをかますが、流れるようにそのボケの意味を汲み取りノッてくれる。さすが責任者。頭の回転が早い。
「子どもは今回は関係ないんですが、家を出るときにカラスに襲われてる子ネコを助けましてね。幼なじみがやっている
「そりゃぁ、良い事したね。それで遅刻なら仕方ない」
「でも幼なじみに言われたんです。エゴで助けるほど動物治療は安くない。野良ネコに治療費使うくらいなら自分の子どもに使えって」
「確かに、その考えは間違ってないよなぁ。でも新谷田君としては悩んでるでしょ? エゴだけど助けたいって感情と金銭的なことでのリアルな部分で」
やはりひと回り年上ならではの功なのか、今の自分の中のモヤモヤをズバリと言い当てた山本さん。さすが責任者。頭の毛が薄い。
「おい、誰がハゲや?」
「言ってないやないですか!?」
「目が言っとるわ!」
ヘッドロックを決められバタバタと体を動かしてどうにか逃げる。
「理不尽だ」
「まぁ新谷田君、悩むより先に行動だよ。なんにも考えず子ネコを助けに飛び出したんでしょ? お金のことも全部片付けてから考えたらいいんじゃないの。人様の家庭の懐事情の話だからこれ以上は私から言うことではないけどね」
山本さんはそう言うと、んじゃ仕事に戻るわと手を振りながら事務所のある奥の方へと消えていった。
(悩むより先に行動か)
助けたからにはしっかり面倒はみたいが、そうなると妻にも負担をかけてしまう。ひとまず相談をしようと思いスマホを取り出すと、その妻からメッセージが着ていたことに今更ながら気づき、返信を打とうとするが、多少の煩わしさを感じ返信せずにコールを鳴らした。
「ごめんね
通話が始まって早々に、早朝から慌ただしくしてしまったことを謝り、息子の睡眠を邪魔してないかの確認をする。
『それは大丈夫だったけど、どうしたの? なんか死ぬとかなんとか物騒なこといってたけど』
朝のトーンとは違い落ち着いた様子で返答をしてきてくれたことに内心安心しながら、事の顛末と、治療を受けさせるかどうかで悩んでいる事を伝えると、
『せっかく助けたんだからしっかり治療してもらったほうがいいんじゃない? 命は命。野良でも飼いネコでも関係ないよ。助かるかもしれないならそのほうがいいでしょ。それに見捨てたら見捨てたで後悔しかないんじゃない?』
なんとも凛々しい返答。それを聞き自分の中でも覚悟が固まった。
「わかった。ひとまず荷下ろししに帰って病院行って治療の件伝えてくる」
『納品先には私が卸してくるよ。それまでお店閉めておくけど、それでいいよね?』
「構わないよ。ありがとう。助かる!」
そうと決まれば早く行動をしよう。商品を急いで荷台に詰め込み自宅へと車を急がせた。