「着いたぞ、キミの新しいお家だ」
駐車場に車を停め、片手でゲージを優しく持ち上げ、もう一方の手でホームセンターで購入した品物を持ち帰宅をする。シャッターは空いているが入口には力強く達筆な文字で、
『配達ナウ』
と、筆ペンで書かれた半紙が貼られていた。
荷物を起きポケットを弄り、鍵を取り出し入り口の扉を開ける。電気が付いていない店内は小窓からの日の光は入ってくるが薄暗いが、その少量の明かりさえあれば家主にとって造作もなくスタスタ歩き店エリアから住居エリアへの移動ができた。
下駄箱の上に荷物を置いて靴を脱ぎ廊下を進んでいき、洗面所にたどり着く。そっとゲージを床に置いて手を洗いながら横目に洗濯機を見ると、ひとまずは洗い物を回すだけ回して子どもの保育園へ連れていき、配達に出かけたのだろう。洗い終わり脱水された洋服達が洗濯機の中で待機していた。
ポイポイッとそれらを乾燥機に投げ込み機械を操作する。
終わったら取り込んでおこうと思いながらゲージを拾い上げリビングに向かう。
リビングに付くとスペースにゲージを置く。すぐに開けようかと思ったが、先に下駄箱に置いた荷物を取りに行く。
買った品の中から皿を2つ取り出し、一つは水を入れもう一つにエサを入れる。
エサはウェットフードと呼ばれる柔らかいエサを少量取り出し敢えて少量水を足し更に柔らかくしておいた。特に綿貫からそうしろと言われた訳ではないが、人間も体調不良の時にはお粥とか柔らかい食べ物を食べるし、栄養不足になるほど痩せている体に、少しでも消化の負荷を減らそうと考えたからだ。
2つの皿をゲージの前に起き、いよいよゲージを開放。
が、しかし子ネコは警戒しているのか、出てくる気配はなかった。
(まぁ、気長に待とうか)
子ネコが出てくるのをじっと待とうかと思ったが、ひとまず先程キッチンで水を入れた時に視界に入っていた、朝食終わりの食器達を片付けることとした。
そういえば朝食を食べなかったなぁと思いながら時計を見ると、もうそろそろ12時になろうという時間だった。それを確認すると尚更空腹感が増長されたので、ひとまずお湯を沸かして戸棚からカップ麺のストックを取り出すのであった。
お湯を入れてからテーブルにそれを起き、コップや箸を準備していたとき、ゲージからゆっくりと周りを確認しながら子ネコが出てこようとする様が視界に入った。そのままエサを食べるか注視しそうになったが、あまり見すぎると視線に警戒してゲージに引っ込むかもしれないと、グッと見るのを我慢し、自身の昼ごはんに目線を戻す。
固めが好きなので表示時間より早いタイミングで開封し、付属のスープを入れてよくかき混ぜる。しっかり底までかき混ぜた後、適量を箸で掬い上げ、息で冷ましてからズルズルと啜る。
物静かな部屋のなかでラーメンを啜る音が響いていたが、途中から啜る音以外の、ピチャピチャと水分量の感じる音が別の場所から始まった。
(食べ始めてくれたんだな)
横目に食事を始めた子ネコを軽く見ながら安堵する。
ゆったりとした空間で、咀嚼音が2つ穏やかに流れていた。
「ただいま! ネコちゃんはどんな様子?」
食事を終え食器等を片付けていたとき、妻が配達から帰ってきた。
「おかえり凛ちゃん。とりあえず用意したご飯は食べてくれて、今またゲージの中でゆっくりお休みしてるよ。少量だけどおかわりも食べたし、案外すぐ元気にはなるかもしれないね」
お皿に置いた柔らかいエサを食べ終え、まだ足りないというようにこちらを見てニャーと鳴いた時のことを思い出し、つい頬が緩みながら妻に伝える。思った以上に食べてくれたので今後の回復が楽しみだ。
妻はというと、その報告を聞きながらゆっくり音を立てずにゲージの方へと近づき、中を確認しようとしていた。
「きゃー、ちっちゃくてカワイイー」
様子を見るやいなや、中にいる子ネコをビックリさせないように声を絞りながら、でも溢れんばかりの感情を言葉に出した。そして、キラキラした目をこちらに向けて、
「抱っこしたい」
「ストレスになるかもしれないから今は我慢しなさい」
子どものように思いをぶつけてきたので、落ち着いて諭す。慣れてない環境なのに、いきなり抱っこしてさらにストレスを与えてしまうのは、先程ケガの治療をしたばかりの小さな体には負荷になるのではないのだろうか。
自分自身の判断ではあるが、動物と接することが今まで無かったので慎重になるべきだと思う。
「まぁゆっくり慣れてくれたら沢山抱っこ出来るし、今は仕方ないね」
妻に自分の考えを告げると、それもそうよねと納得してくれた。
「ひとまず休憩がてら、子ネコちゃんを眺めとくか」
そう言いながら妻はゲージの前でうつ伏せになり、手に顎を起き足をパタパタとさせながら、ニコニコとゲージの中を覗くのであった。