「ただーまー!」
保育園から帰ってきた息子が元気よく店前で声をあげる。その声に店内で品定めをしていたお客さんも思わずニッコリとし、おかえりなさいと声をかけてくれる人もチラホラといた。
来月から年中組にランクアップする息子は我が店の看板息子だ。子供ならではの屈託のない笑顔と愛嬌は来店してくださっているお客さんを癒やしているみたいで、息子が居るタイミングで来店してくれる常連さんもいるくらいだ。その人曰く孫に会いに来ている気持ちに近いらしい。
「おかえり、手洗いうがいしてくるんよ。お菓子あるからね」
「あーい」
お菓子というワードにピクリと反応し、走りながら居住エリアへと走って行った。
と、思ったらすぐに戻って来て興奮しながら、
「パパ!! にゃんにゃん!! にゃんにゃんいる!!」
目を輝かせながら報告をしてきた。
「今日からにゃんにゃんと一緒に暮らすぞ。でもにゃんにゃん今ケガしてるから触ったりしたらダメだよ。あとビックリするからにゃんにゃんの近くでおっきい声出さないように気をつけてね」
「にゃんにゃん痛い痛いしてるの?」
「そうだよ。でもタヌキのオジちゃんに診てもらったからすぐに元気になるよ。だから元気になるまで見るだけで我慢してね」
「わかた! にゃんにゃん早く元気になって欲しいね!」
幼いながらも、ケガをしていて元気がないという事を理解してくれたみたいだ。今だ興奮冷めやらぬ様子だが、小声で騒いじゃダメ、騒いじゃダメと呟きながら戻っていく姿に、我が子ながら優しい気持ちが育ってくれていることに嬉しく思うのであった。
客足が落ち着いた時間帯に一旦子ネコの様子を見にリビングへと足を運ぶと、そこには目を覚ましたのかゲージの中でウロウロしている子ネコと、そのゲージの前でコロリと眠っている息子がいた。
眠っている息子に毛布を掛けた後、子ネコに水を飲ませようと皿に用意しゲージ前に配置する。そして、ゆっくりと優しくゲージを開けると、それと同時に子ネコが出てきてお皿に向かって行った。
案外短時間で環境に慣れてくれたのかな?と思いつつ、ついでにエサも別皿に少量入れて、そっと水の隣に置いた。置く直前に何かが近づいて来たと察知した子ネコがじっとこちらの方を見て固まっていたが、お皿を置いて少し離れる様子を見て、再度水を飲みだし、隣のエサも咀嚼し始めた。
しばらくの間、子ネコの食事風景を少し離れた所で胡座をかいて見守っていると、エサの皿を空にした子ネコがジッとこちらを見つめてきた。
食べ足りなかったのかな?
そう思った矢先、ニャーと鳴いたと思うとテトテトと子ネコがこちらに向かってやってきて、胡座で空いている股の間にコテンと寝転んだ。
ネコが寝転んだか······。
我ながらしょうもないことを考えながらも、いきなりの子ネコ側からのコミュニケーションに驚きと同時に嬉しさが湧いてきた。野良だからなかなか懐かないと思っていたが、子ネコだからか案外すぐに人間との壁が薄いのかもしれない。
小さいながらも感じる重みと生き物としての温かみを足に感じながら、恐る恐る子ネコの頭を撫でてみる。エリザベスカラーのせいで手のひらでワシワシと撫でることは出来ないので、指の腹でなぞるように触ってみる。子ネコは嫌がることなくそれを受け入れてくれる。
撫でながら改めて子ネコを見てみる。
体の所々包帯が巻かれ、その包帯をイジらないようにと着けられたエリザベスカラーも相まって、痛々しそうな見た目となってしまっている。真っ白な包帯に負けないくらい白い毛並みは野良の割にはフワフワに感じられた。
しばらく撫でていると満足したのか、ニャーとこちらを見ながら一鳴きしてきた。その顔を見たとき新しく発見があった。
片方はコハクのようなキレイに輝く黄色、もう片方はエメラルドのような透き通った緑の瞳。キレイなオッドアイだ。
そのキレイな瞳に心を奪われジッと子ネコに魅入っていると、
「ニャー起きたんだ! 僕も抱っこする!」
いつの間にか起きた息子が、父親と子ネコが仲良くしている姿を見て声を掛けてきた。
子ネコは突然の声にビックリしたのか、体をビクっと反応させた後、ゲージに一目散に戻っていった。
「あちゃー。にゃんにゃん驚いてゲージに戻っちゃったね」
「むー」
「まぁにゃんにゃんが慣れてきたらすぐ抱っこできるさ。それまで我慢だよ。無理矢理抱っこするとにゃんにゃんに嫌われちゃうからね」
触れ合えると思っていたのに逃げられてしまったことで悔しそうにする息子の頭を先程子ネコにやったものとは違う、手のひら全体で撫でまわしながら慰めるのであった。