節分、鎮守府。いつもなら段々わいわい聞こえてくる時間だが、少しざわざわしている程度で、数人ずつに分かれて集まっている。
別に異常事態が起こっているわけではない。理由は集まっているかたまりに近づけば分かる。
「今年の鬼、誰んなった?」
「えーっと…」
「げ。加賀さん!?」
「うそぉ、絶対投げたら怒るよ〜加賀さん。」
「選んだ人誰ぇ?提督?赤城?」
…ご明察です。…と、まあこのように鬼を確認して、話し合っているわけだ。自分から立候補する娘もいれば、鬼に間違われて結局鬼になる娘もいる。
「提督!」
「ん?どうした?暁」
「私はもう大人のレディだから、鬼役も立派にこなせるわ!」
「…ああ、そういえば第六駆逐隊の鬼って暁だったか。応援してるぞ。」
「期待しててね!」
「おう!」
…いったか。せめて無事で帰って来ますように...あそこ響がめちゃくちゃノッてたからなぁ、絶対本気で投げてくるぞ...
「提督…」
「おう。どうした?天龍。」
「龍田を止めてくれぇ…駆逐どもを指揮して俺を鬼役にしようとしやがる」
「あれ?今年も鬼じゃなかったか?」
「毎年違うわ!」
「ツノつけてるのが悪いんじゃないか?」
「これは!ツノじゃ!ない!」
「ははは、冗談だよ。にしても、駆逐に投げられるくらい、ダメージがそんなあるわけでもないし、軽く投げ返せばいいんじゃないか?あっちはジャレついてる気分だろうし」
「弾幕がヤバいんだよ!アレ。」
「まあ、もし龍田に会ったら優しくしてもらうように言っておくよ。」
「頼むわ...俺は工廠に逃げる。」
…と、まあ、鬼役は場合によっては命がけなのだ。なので大体基本力加減を知らず、艦娘としての全力で投げてくる駆逐艦の相手は戦艦がつとめる。
「あ、龍田。」
「?どうしましたかぁ?提督。」
「天龍の奴が止めてくれって泣きついてきたぞ。流石に気の毒だしやめてやってくれ。」
「う〜ん。…他でもない提督の頼みなら、仕方ないですねぇ〜」
「ありがとう。龍田。」
「いえいえ〜…さ〜て。多分天龍ちゃんは工廠かしらねぇ〜」
また、逆の場合もあり…
「提督さん!」
「うわ、瑞鶴。いきなり飛びかかってくるな」
「ちょっと執務室に隠れたいから鍵かして!」
「それ大淀にどやされるの俺なんだぞ。」
「後で埋め合わせはするから!」
「…ちゃんと返せよ。」
「ありがとう!」
「…全く」
「提督。」
「うわあ!?加賀!?」
「瑞鶴は何処にいったのかしら。」
「……さあ?弓道場じゃないか?」
「弓道場からきたのよ。あの子、わざわざ艦載機に搭載できるように改装までしてきたわ。」
「…いよいよ資材に手を出したか。...まぁ、加賀は立派に鬼としての役目を果たしてくれ」
「…そもそも私は鬼に立候補した記憶が無いのだけれど」
「適性があると判断されたんだろう。俺は鬼役を選ぶ立場じゃないからな。詳しくはわからん。」
「…尻尾を切ってきたわね。」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわ。五航戦、見つけたら言って下さいね。」
「任せろ。」
どうやら、することが増えたみたいだなあ。…にしても朝から飛ばすなぁ。一日は長いぞぉ。
「あ、提督さん。」
「伊良湖か。厨房はどんな感じだ?」
「昨日のうちにお豆は沢山炒っておいたので、そこまで忙しくはありません。あ、そうそう。いま、毎年恒例の金剛さんのお豆タワーを建ててるんですよ。提督も観に来られますか?」
「いや。取り敢えず執務室に行ってからかな。」
「では朝食は持って行きましょうか。」
「いや、今日は食べにいくよ。」
「了解です!では準備しておきますね。」
「頼む。」
金剛か…今年はいくつだっけ?少なくとも百は超えてたから...
「くちゅんっ!」
「風邪ですか?お姉さま。最近は特に寒いですから、防寒はしっかりなさってくださいね。」
「大丈夫ですヨ、比叡。そもそも艦娘は風邪をひかないデース。きっと誰かが噂してるだけだと思いマース。」
考えるのはやめておくか。言うて他の娘もそんなモンだし。とはいえ、流石の金剛これ以上増えると大変だろうし、次からは大豆を使ったなんかの料理に変えれるように案でも出しとくか。
「瑞鶴ー!」
「わわわわ!?」
「…随分と寛いでるな。」
「あはは。このソファの寝心地が良くて。」
「ソファは元々座る物だけどな。...さて。聞いたぞ。瑞鶴。」
「え、な、なにを?」
「お前、資材勝手に使ったろ。」
「…な、なんのことかなー?」
「……」
「………」
「なんか言う事は?」
「…ごめんなさい。」
「よろしい。で、何にどんくらい使ったの?」
「えーっとねぇ、倉庫にあったいらなそうなボーキをいくつか...」
「…いくつか?」
「…いっぱい。」
「はぁー…あのなぁ…」
「あ、でもさぁ、ホラ、私達の艦隊が見つけたボーキだし、コレお祭りみたいなモンだし、使っちゃっても…」
「お前『達』の艦隊だろう。一人で使うようなモンじゃあないよ。そもそも、ボーキは破壊された機体の補充とか鎮守府直掩隊の増強とかで余裕ないっての。」
「…」
「…もう終わったんだし怒っても仕方ないな。一応、次からはせめて許可もらってからやってくれよ?俺は多分許可するし。」
「‼︎ いいの?」
「まあ、ボーキは新型機開発失敗って報告しとけば本営から多少の補填はもらえるし、実はそんなに大事じゃないんだよな。最近は平和だし。」
「提督…!」
「あ、でも、書類作成手伝えよ。あと明石に開発偽造してもらって、大淀騙しといて。」
「えー…まぁ、しょうがないか。おっけー、任しといて!」
「じゃあ、俺は伊良湖と約束してっから、食堂行ってくる。」
「あれ、向こうで食べるの?珍しい。」
「ああ。一応ここのなんだし、たまには顔見せないとな。」
「ふぅん。じゃあ、私は工廠行ってくるわ。」
「おう。」
…あ、加賀に気をつけてって言うの忘れてた。
「☆+○°→^=#♪¥€:〒!!!!」
「やっべ。形容しがたい声が響いてらあ。」
俺知ーらねーっと。…さて、食堂の様子はどうかな?
「間宮さーん、こっちの唐揚げ無くなっちゃったー!」
「はーい!」
「こっちにも何かつまみほし〜い!」
「お豆でいいかしら〜?」
廊下は静かだったが、食堂内はなかなかに賑やかだった。朝ご飯時からは少しずらしたからだろうか、食堂にいる艦娘はそれ程多くない。
「…あ、提督。」
「よう、隼鷹。今日は休暇だったか?」
「そうそう。休暇自体は一応昨日からだけどね。」
「そうか、楽しめよ。」
「提督がここ来るとか、珍しいねぇ。」
「今日くらいはな。」
「あ、提督!」
「伊良湖か。」
「朝食、こっちの机に用意しておきました!」
「ありがとう。」
「…あたしも席移すかね。隣いい?」
「大丈夫だ。」
今日の朝食はご飯に焼き魚、味噌汁におひたし。まあ、大体いつもどうりのメニューだ。あとはリクエストすれば増えたり減ったり。最近は新しいメニュー開発もしてるらしいな。
「…あのタワー、夜までとっとくのかい?」
「ん、金剛タワーか。」
「そうそう。」
「その予定だが。…久しぶりに見たが、随分高いな。どうやって積んでるんだ?」
「さぁ?」
「ん?…あ、テイトク〜!」
「噂をすればだ。」
「おはよう、金剛。妹たちは?」
「さっきまで一緒にタワーを積んでマシタ。今は向こうの机でみんな朝ご飯食べてマス。」
「なるほど。…ああ、そうだ。あのタワーの大豆、来年から別の…そうだな、豆腐とか、ハンバーグとかに調理する、ってどうだ?
「オウ、そんな事出来るんデスか?」
「最近知ってな。内地で流行ってるらしい。間宮さんと鳳翔さんにも今度話しておくよ。」
「お願いシマース。実はアレ食べると喉がパサパサして大変なんデース…」
「ああ、分かった。早急になんとかしよう。」
「ありがとうございマース!…じゃ、ワタシはここで。妹たちが待ってマース!」
「おー。」
「…ん、大豆も結構イケるねぇ。やっぱり元が枝豆だからかな?」
「…飲み過ぎないようにな。」
朝食が終わりいつもどうり、職務に勤しむ。たまに来る豆まきから逃れたい艦娘を匿いながら、執務に建造開発指示、演習視察をして過ごし、そして夜になった。
「…ふぅ、これでようやく終わりかな?」
「そうだね。…ふぁ、あ。ちょっと眠いや。」
「お疲れ。」
「提督も、お疲れ様。…食堂行こっか。」
「そうだな。…今年の恵方ってどっちだっけ?」
「えっと、確か北北西だったかな。」
「ありがとう。…そう言えば豆まき、参加したか?」
「提督が出てた時に少しだけね。…ふふ、僕全然当てられなくてさ。」
「そうか。…いや待て、豆まきは別に鬼役に豆をあてるのが目的じゃないからな?」
「あはは、そうだったっけ?…でも、楽しかったよ。」
「そうか。…来年も、またやろうな。」
「もちろんさ。今いるみんなと、あとはまた増えるかもしれない誰かたちも一緒にね。」
「そうだ、来年は鬼役やるか?」
「え、嫌、かな。」
「はは、即答か。」
ゆっくりと歩む、その足どりは軽やかに。希望の未来を夢見て進む。きっと足跡に迷いはなく、そして間違いもない筈だ。それをこれからも続けられるように、俺がするべき事はきっと沢山ある筈だ。
「…提督、どうしたの?なんだか険しい顔をしてるけど。」
「ん、俺そんな顔してたか?」
「うん。」
「…あ、提督に最上さん。来てくださったんですね。恵方巻きはあっちに纏めてありますよ。」
「ああ、ありがとう。」
…だが、俺が今すべきは今日を楽しむ事だ。