月輪輪廻   作:六眼(目の数)

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誤字修正の方で主人公の痣の位置を修正しに来た方が居ますが、アレは態と鬼の彼とは左右対称になる様にしています

これは主人公の設定の一つとして、鬼が持ち合わせていない要素を持っている、と言うものなんですね

その点をご配慮くださいませ











 呪術高等専門学校。通称、呪術高専。

 表向きは、宗教系の私立校として置かれており、その費用は国と都が機密費として捻出、維持している。

 

 

「戦いの場に、身を置く努力は褒めるとしよう」

 

「ぜぇ……!ぜぇ……!もう一本だッ!!!」

 

 

 漆黒の空間の中で、息を荒げる朔月など知らぬ存ぜぬと涼しい顔をする鬼。その体には、傷一つ見受けられないが、その代わり握った歪な刀はその形状を大きく変化させている。

 長さとしては、大太刀。だが、その刃の側、峰の側、それぞれより内反りの刃が現れていた。物としては、七支刀に近いだろうが。祭具としての神々しさなど欠片も無いが。

 

 

「虚哭神去……我々の使う刀は、我々自身だ。努々、忘れるな」

 

「オオオオオァァァァアアアッッッ!!!」

 

 

 講釈垂れ流す鬼ではあるが、朔月にはそんな事関係ない。

 ここ最近になって、夢の世界の手合わせに置いて鬼はこの巨大な刀を振るうようになった。元の太刀の時ですらも、着物を僅かに糸屑一本斬れるようになった程度であるというのに、突然の難易度急上昇。ゲームであるのなら、クソゲーの誹りも已む無しであるが、彼は知った事かと突撃を繰り返す。

 

 難易度が上がり続ける事に関して、朔月に不満はない。寧ろ、相手が強ければ強いほどに、その内側に宿る勝ちたいという名の欲望の炎は、激しく燃え上がっていた。

 鬼もまた、その特性をよく分かっているからこその、難易度の急上昇でもあった。

 朔月乾司という男が、難易度を上げずとも立ち止まる事のない男であるという事は、鬼も理解している。理解しているが、立ち止まるな、と自分で言った手前少しでも腕前が上がったのなら、必然障害のレベルも上げる事にしたのだった。

 その上げ幅が、頭おかしいのだが。その事を指摘できるものは居ない。

 

 消えたような踏み込みから、朔月は大きく息を吸う。

 

 

――――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り

 

――――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾

 

 

 同じ月の呼吸。しかし、刀の攻撃範囲に加えて、純然たる力量差がそこには横たわっている。

 互い違いの横薙ぎの斬撃は三日月の刃と共に迫れと、それよりもさらに大きく力強い横薙ぎの一閃に瞬く間に飲み込まれ、同時に斬撃の効果範囲は、突っ込んだ朔月を飲み込んで余りあった。

 胴を真っ二つにされ、その割れた上半身と下半身も月に飲まれて刻まれる。

 この夜何度目かの、死。その復活は、凡そ数分後の事だった。

 

 

「ッ、ふぅーーー……」

 

「……来るか」

 

 

 ふらつきながらも立ち上がった朔月の目は、未だにギラギラ輝き、滾っている。

 

 コレだ、と鬼は思う。これこそが、()()の自分が持つべきものだった、と。

 才覚や周囲の事など関係ない。只管に自分の追い求める先だけを見据え、その一点にのみ邁進し続ける胆力、集中力。そして、執念。

 化物()をして化物と称せる存在。

 自然、鬼の口角が僅かに上がる。

 

 だからこそ、ソレは戯れだった。

 

 

「――――お前に、面白いものを見せてやろう」

 

「あ゛?」

 

 

 朔月は首を傾げるが、直後彼の視界に白が走った。

 鬼は言葉を続ける。

 

 

「得物が無い()()()()で立ち止まる事は許さん。故に、お前には私の知る徒手の猛者。その技を見せよう」

 

「はあ!?待て待て!俺は――――」

 

「行くぞ」

 

 

 朔月の事など知ったこっちゃない。そう言わんばかりに、鬼の背後より光が駆け抜けていく。

 ここは夢の世界。その主導権は、鬼にあった。

 

 そして、朔月乾司は相対する。無論、ソレは鬼の記憶でしかなく。実際に拳を交える訳ではない。

 

 それでも、その一挙手一投足の全てが文字通り必殺である事は、門外漢の彼にも分かった。

 空を打つだけで、打撃が飛ぶ。広範囲斬撃が日常茶飯事の朔月をして目を剥く光景。加えて、その蹴り足は一撃で大地を大きく陥没させる。拳打にしたって、一発で巨岩を砕いて余りある。

 身振り手振りが宛ら隕石のソレ。

 

 同時に、朔月が感嘆したのはそれら体術を真正面から切って捨てる鬼の技量。

 身体能力に大きな隔たりがあるのは、分かる。だが、それだけではない。

 一撃受ければ肉が弾け飛んで骨が粉砕されそうな打撃を前にして、冷静に紙一重で躱し、その躱しざまに腕を切り飛ばす。

 月の呼吸はその攻撃範囲と三日月による追加の斬撃に優れている。だが、だからといってしっちゃかめっちゃかに振り回せばいい訳ではない。それも、この記憶の体術使い程の相手ともなれば猶更。

 勿論、鬼の技量なら月の呼吸ぶん回すだけで並大抵の相手はおろか、同格に迫るかもしれない相手でも切り伏せる事が出来るかもしれないが。

 

 気付けば、戦いは終わり朔月は漆黒の世界へと帰ってきた。

 

 

「お前には、どう見えた」

 

「……強ぇ奴だった。あの練り上げられた闘気はスゲェ」

 

 

 鬼に問われ、朔月は素直にそう称賛した。勝つ事への執念はすさまじいが、だからと言って狭量という訳ではないのだ。凄いものは、凄い。そう認め、その上で越えたいと思う、そんな気質。

 

 

「片手間に覚えられるもんだとは、思えねぇんだけど?」

 

「諦める、か?」

 

「!……ハッ、煽ってくれるじゃねぇかよ」

 

 

 乗せられているようなものだが、しかし朔月にしてみれば最初から()()()()()は気に入らない。何より、体術に惹かれるものがあったのは、確か。

 

 

「良いぜ、吠え面かかせてやるよ」

 

「……やれるものならば、な」

 

 

 この後、十回ほど首が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明ける。日中は、人々の時間だ。

 

 

「……違うな」

 

 

 私服に身を包んだ朔月は、図書館にて頭を捻っていた。

 平日の昼間だ。本来ならば、学校に通わなければならないが、生憎と彼の進路は既に確定済み。後は学校さえ卒業できれば十分というもので。出席日数も最低限で構わない。

 元々、教師にすらも腫物扱いであるという理由もある。

 

 彼の座るテーブルに積まれているのは、格闘技に関する本。目を通しているのは、空手に関する技術指南書だ。

 夢の中の事とは言え、彼にしてみれば明晰夢のような物。その内容は一から十まで確りと頭に刻まれている。

 体術に手を出すと言った手前、生半可なな事は出来ない。その取っ掛かりとして、こうして格闘技に関する()()を頭に叩き込んでいた。

 

 朔月乾司は、馬鹿である。だがしかし、勉強できない訳でもなく、寧ろ学習意欲と言うのは人一倍強かった。

 そんな彼の鍛錬は、我武者羅に体を動かし続けるのではなく、まず最初に知識が来る。

 まずは、土台。彼が月の呼吸を未完成ながらも一方的な虐殺の中で体得していったのは、偏に彼の根底に剣術に関する基礎がある程度あったからに他ならない。

 

 

「……うーん?」

 

 

 剣の鍛錬を基にした知識吸収は、しかし微妙に暗礁に乗り上げていたりする。

 まず、夢の中に居た体術使いの体術。既存の格闘技に当てはめようとすると、どうしてもズレがあったのだ。

 ベース的には、空手や躰道だろうか。或いは古武術なども混じっているかもしれない。

 苛立たし気に頭を掻いて、朔月は本を閉じた。

 純粋な競技としての武術ならば、今のままでも行けるだろう。だが、彼が求める領域は違う。

 最低でも、怪物(巻き藁)を素手で制圧できるレベル。得物()が無かったから負けました、などと言う無様を晒さない実力。

 

 既存の格闘技では足りない。そう判断を下して、朔月は本をすべて棚へと返すと、図書館を後にした。

 向かったのは、河川敷。

 良い天気の今日は、しかし平日という事もあって閑散としている。川のせせらぎが聞こえる程度には、人の入りが少なかった。

 その一角で、朔月は構えてみる。

 真似るは、学ぶ。まずは目を閉じて、記憶の中にある体術の動きをトレースしていく。

 突き出される拳、振り上げられる蹴り足。まずは、ゆっくり。徐々に速く、重く、鋭く。

 

 

「……蹴り主体の方が……いや……うーん?」

 

 

 初めてにしてはかなり様になっているが、当人としてはしっくりこないらしい。首を傾げて、目を開けた。

 朔月の剣は、剣舞のような物ではなく、両手で柄を握ってぶん回すタイプ。華は無いものの、実利に長けている。

 ここに体術を混ぜようとするならば、自然と蹴り足などがメインになる。だが、足と言うのは人間の機動力の要だ。傷を負ってしまえば剣を振るうにも難儀する事になるだろう。

 悩むぐらいならば、手を伸ばさなければいい、と思われそうだがこの体術取得には朔月乾司の()()を補う面があった。

 

 彼の明確な弱点、ソレは得物である(虚哭神去)を出現させるまでにタイムラグがある点。

 銃刀法等の観点から、得物を見せびらかして持ち運ぶわけにはいかない。かといって、竹刀袋などに入れて持ち運ぶのは嵩張るというもの。

 という訳で、戦闘状態に陥った場合のみ刀を呼び出す朔月なのだが、その呼び出すまでのタイムラグと言うのは現状どうしようもない。慣れれば違うのかもしれないが、それでもコンマ以下の世界であろうともラグはラグ。

 このラグによる無防備を解消するための体術。そして、朔月乾司は一度始めた事を中途半端に終わらせる事など出来ない質。

 形にする。そう意気込んで、そこでふと気が付く。

 視線。それも真っ直ぐに朔月へと向けられたもの。

 

 

「……誰だ?」

 

「その年の割には、随分と鍛えこまれている。かと思えば、随分と拙い動きだと思ってね」

 

 

 斜面を滑り降りてくる長い金髪の女性。

 若々しいが、しかし老成しているようにも見えて何というか独特な雰囲気を放っている。

 だが、朔月の感想は別だった。

 

 

(強ぇ……それも、格上)

 

 

 夜蛾と相対した時とはまた違う、底の測れない強さ。

 ここで思う事が、「逃走」ではなく「闘争」なのだから、朔月の朔月たる所以なのだろう。

 とはいえ、見ず知らずの相手にいきなり仕掛ける程、彼はイカレていない。警戒はするが。

 

 

「あっはっは!そう、小猫のように毛並みを逆立てる事無いじゃないか、少年。それはそうと、」

 

 

 警戒する朔月を他所に、女性はしなを作る様に前かがみになり、

 

 

「君、どんな女がタイプかな?」

 

「………………は?」

 

 

 間抜けな三点リーダーが宙を舞う。

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