魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜 作:ラナ・テスタメント
第十四話後編をお届けします。
達也VSオーフェン。テスタメントが入学編で書きたかったのはこれじゃー! と言うお話しです(笑)
模擬戦でも無い、ガチな実戦での戦い。どうなるか、お楽しみにです。では、どうぞー。
(……どう言う技術だろうな。これは)
達也は独りごちながら通路の連結を待ち、深雪を伴って次の部屋に入った――入ると同時に、右手に構えた達也専用の特化型CAD「トライデント」の引き金を引く。同時、部屋からくぐもった声が漏れた。
術式解散(グラム・ディスパージョン)。「分解」の応用で起動式、魔法式、そして領域、情報強化を「分解」する魔法だ。これにより部屋に潜んでいた何かの領域干渉を消し去る。今の声は、それにより動揺したものだ。そして、後ろに控えていた深雪が手早く汎用型CADを操作し、魔法式を発動させる。声は悲鳴に変わり、即座に消えた。
精霊の目で中の何かを無力化した事を確認し、深雪に頷きながら中に入る。そこには氷漬けとなった三体の異形が並んでいた。深雪がうっと呻くのを、達也は聞く。
(無理も無いか。これではな)
氷漬けとなった異形は、形容しがたい形をしていた。触手を身体中から生やしているのはまだマシで、上半身が丸ごと顎になっているもの。全体が薄く伸びた顔のようなものすらある。まともな形のものは一つとして無い。
――だが、達也はこれらを直接殺害しなかった。確かに領域干渉を何故か天然で持っており、「分解」単発では倒せないのも確かだが、それでは無い。理由は、彼等の遺伝子構造にあった。「目」が見たエイドスは、100%人間であると断定していたのである。ここまで、違っているのに。
人間をここまで改造出来る技術なぞ、聞いた事も無い。そしてこの施設だ。部屋毎に空間で仕分けられ、タイミングを理解して正しい道筋で通らない限りまともに進めない、と言う一種悪趣味な構造。空間を弄れる程の魔法技術は、今だこの世には存在しない。ここにあるのは、どれもこれもオーバーテクノロジーの産物だった。そんなものを、何故テロリスト紛いの奴らが持っているのか。
「これは、失敗したのかもしれないな」
「お兄様、そんな事は……!」
つい呟いてしまった言葉に深雪が反応し、言ってくる。それには苦笑だけを返した。
失敗したかのかもしれない……そう思ったのは、オーフェンの意図をようやく理解し始めたからだ。彼は、学生にこれらと接触させたくなかったのだろう。十文字克人の言葉が思い出される。「知れば、戻れなくなるかも知れないぞ」。確かに、その通りだった。そして。
(接触をこれ以上させたくないのなら、彼が取る手段は一つだ)
「あれは……?」
妹の訝しむような声に達也は返事をしない。もう、「目」は彼をとっくの昔に捉えていたから。この部屋を抜ければ、後は最深部である。その手前に、薄暗い部屋と同化するような黒の戦闘服を纏って、彼はそこに居た。
顔は分からない。何らかの認識阻害を掛けているのだろう。だが、達也の「目」はこの上なく、誰かを見切っている。気配を隠さなかったのは威嚇か、優しさか。恐らく両方だ。
オーフェン・フィンランディ。彼は冷たい視線を向けながら、司波兄妹の前に立っていた。
何も話し掛けてこないのは、話し合いが無駄だと理解しているからだろう。達也は理解する。彼は、最初から戦う気だと。同時に自嘲した。これは入学してからだが……自分は、彼をずっと仮想敵としていた事に今更気付いたから。
「……皮肉だな」
「お兄様、あれはブランシュの?」
「下がっていろ、深雪。彼は俺が相手をする」
「いえ、私が――」
「”俺の敵だ”。いいね?」
びくりと妹が震えたのに、自分が思わず強い口調で言ってしまった事を理解し、続く言葉を殊更優しくする。深雪は困惑しながらも頷いた。そして達也は「トライデント」を構えながら、彼へと歩く。
「一応、誰だ? くらいは聞いておきます」
「俺が誰かなんて、お前はとっくに知ってるだろ。だが、俺は”名前には意味があると信じて”いてな。だから、今はこう告げよう」
口元のマスクのせいで、表情は分からない。だが達也は彼が笑ったように見えた。苦笑ではない。まるで懐かしむような、思い出となってしまった悔恨を嘲るように。そして言ってくる。彼の、今の名を。
「天世界(オーロラ)の門(サークル)のクプファニッケル。これが、今の俺だ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それ以上言葉は要らなかった。オーフェンは鎧を演算処理モードで起動。情報介入を、ネットワークからの介入防御に充てる。同時に達也が「トライデント」の引き金を引くのが見えた。サイオンがオーフェンを包み、直接介入してエイドスを変更しようとする。狙いは各急所を「分解」し、戦闘不能にするものだった。
彼は苦笑する。最初から殺しに来なかったのが意外だったのだ。
(だが、それだけじゃ意味がないぞ)
ついに駆け出したオーフェンに、「分解」が容赦なく襲い掛かり――しかし、霧散した。これには達也も目を丸くする。絶対の矛たる「分解」、それが容易く弾かれたのだ。驚愕もしよう。そしてオーフェンはその隙を逃さない。鎧を身体強化モードに設定変更。周囲に浮かんでいた魔術文字が鎧の表面に戻る。踏み込みの速度が爆発的に上がった。これに達也は驚愕から立ち直る暇すらなく、しかし身体は迎撃に動く。掌打をカウンターで放って来た。が、オーフェンは迫る掌打を片手で打ち払うと懐に潜り込む。そして反対の拳を身体に触れさせた。
「……っ」
寸打を達也は理解したのか。彼は咄嗟に動き止める。しかし、オーフェンは頭で彼の胸を押した。反射的に達也は押し返して来る。それを見切って爆発音の如き踏み込みと共に、拳を突き出した。
強化された筋力での寸打は擬似的なカウンターとなり、肋骨をまともに砕き、内臓を抉る感触を齎す。そして達也は勢いよく後ろに倒れた――所を逃さず、オーフェンは更に前進して顎を踏み砕く。
ごぎり、と言う鈍い音と共に顎が砕かれ、骨が喉に突き刺さった。
「お兄様!?」
(見極める)
深雪の悲鳴が聞こえるがオーフェンは無視。後ろに飛びのくと達也を観察した。そして瞬間的に、彼の身体へとネットワークからバックアップが入ったのを理解する。過去データを検索し、24時間以内にある”万全”の自分のエイドスを、今の自分のエイドスに上書きする。それは即座の回復を意味していた。
「やっぱりか」
頷き、周囲を魔術文字が展開するのと、達也が引き金を引くのは全く同時だった。再び、「分解」が弾かれる。
「無駄だ。それ単体じゃあ、鎧の防御は抜けない」
「……それも、俺達が知らないものの一つ、ですか」
のそりと達也が立ち上がる。血の跡すらも残っていない。完全に前の自分を取り戻していた。
達也とオーフェンは今の攻防と共に、それぞれの情報を交換し合っていた。
オーフェンは達也が合成人間特有の再生――こちら側の仕様とはなっていたが――を、達也は鎧の能力をだ。こちらを静かに見据えながら、彼は告げる。
「その鎧、とか言いましたか。能力は情報介入。それも、従来の魔法を確実に凌駕するレベルのものです。エイドスの直接介入を、情報介入で防ぎましたね?」
「お前の分解と概念は変わらないよ。他者か自己か、くらいのもんだ」
「そして、その鎧は、あなたの魔法とは別物だ」
それには、オーフェンは答えなかった。だが、達也は確信する。鎧の機能は魔法だが、オーフェンは発動を命令しているだけだと言う事に。つまり、あの鎧は予め魔法式を保管されている。
「俺達に見せたくないのは、それですか」
「そうだ」
存外、オーフェンはあっさりと認めた。達也はやはりかと頷く。そして十文字克人が何故、自分達の策に乗ったのかを理解した。これが欲しかったのだ。今の世界を丸ごと覆す程の、異質なテクノロジーを。知った達也とて、これを知れば喉から手が出る程に欲しくなる。何故なら魔法式の保管を可能とすれば、今の魔法社会は凄まじい変容を遂げるからだ。無意識領域の演算速度? サイオンの保有量? 劣等生? 優等生? 魔法師? ”全てが関係無くなる”。
「そうか」
達也から敬語が外れる――そして、彼は深雪へと視線を移した。二人の会話を半分程しか理解出来なかったのだろう。戸惑う妹に、優しく微笑む。
「深雪。すまないが、先に行ってくれないか」
「ですが、お兄様!」
「心配しなくていい。俺が、お前の兄が、誰かに負けると思うか?」
その台詞に、深雪が息を止める。理解したからだ、兄の言葉の意味を。彼は、何者にも負けない。深雪の兄として、彼女の守護者たらんとする為に。それを瞬間的に理解して、深雪は頷く。
「お兄様、存分に」
「ああ」
「そもそも、俺が行かせると思うのか――」
深雪が魔法式を足元に展開すると、オーフェンが腰の短剣を抜いて前に出る。……会話を聞いていたのは、ただ単に二人が退く可能性を期待したからだ。深雪が説得するとも考えていた。だが、まさかあっさりと頷くとは。この二人の信頼関係は依存とか言うレベルのものでは無いと、オーフェンは今更理解した。
こちらへと足を滑らせて走り抜くつもりか。深雪の魔法を理解し、まずこちらから叩くかと思った直後、言い知れぬ予感に身体を震わせ、慌てて後退する。同時に達也が引き金を引いていた。そして、元いた場所を分解が襲う――”三連もの”、それが。
「……お前」
「行け、深雪」
「はい」
達也の指示に、深雪はオーフェンの横を一気に駆け抜ける。手は出さなかった。出せば、今の一撃を躱せない。達也は「トライデント」を静かに構えている。銃口にあたるスリットを見ながら、オーフェンは慄然と彼が何をしたのかを反芻していた。
(領域干渉、情報強化、そして構造、三連分解――こいつ、鎧の情報介入を分解しやがった……!)
「その鎧の機能までは分解出来ない。だが、情報介入自体なら分解出来る」
静かな、静かな言葉。つまり、達也は魔術文字を分解するのでは無く、魔術文字によって行われる情報介入を分解したのだ。一瞬だけの効果しか無いが、それで十分なのである。三連の分解魔法「トライデント」は、確実に彼を貫く。
(タツヤ、お前……決めたな?)
静かな、静かな視線。そこに紛れもなく込められた決意を、オーフェンは悟る。外れた敬語は別離だ。達也は彼に別離を告げていたのだった。そう、彼は。
「クプファニッケル――オーフェンさん」
(”俺を殺す事を”)
「さよなら」
次の瞬間、再びの「トライデント」がオーフェンへと放たれたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「我は踊る天の楼閣!」
「トライデント」の分解三連の内、一発目の領域干渉を分解された所で、オーフェンは何とか擬似空間転移の構成を発動させられた。二発目以降の分解は空振りに終わり、オーフェンは後方3メートルで現実に復帰する。
鎧はすぐに領域干渉を復旧させようとして、そのそばから分解された。達也の「トライデント」が速過ぎる!
「お前、普段の授業でそれ出せよ!」
「その言葉はそっくり返そう」
互いに実力を隠して来たもの同士だ。これにはぐぅの音も出せずに、オーフェンは鎧を身体強化モードで発動し、異常な速度でバク転。続く「トライデント」の連続発動が容赦なく攻め立てる。領域干渉は、最早復旧すら出来なくなっていた。復旧したはしから分解されるのだ。そして次は。
(情報介入が分解される……!)
これが分解されると、鎧の機能は一瞬なりダウンする。そうしたら終わりだ。最後の分解は、確実にオーフェンを分解し尽くす。つまり、殺される。
(まさか異世界とは言え、学生に殺されそうになるとはな!)
有り得ないとまでは思わなかったが、こと魔術、魔法戦で学生に遅れを取るとは予想外だった。達也をまだまだ甘く見ていた事を痛感せざるを得ない。
バク転から床を蹴り、横に飛ぶも引っ切りなしに「トライデント」が襲い掛かる。達也は動かない、動く必要が無いのだ。しかし、オーフェンは「トライデント」の猛威を何とか潜り抜ける。そして、擬似空間転移の構成を発動しようとして。
「手が足りないか。なら、もう一つ加えよう」
そう呟いた達也が懐からもう一つの特化型CADを取り出すのを見た。二丁目の「トライデント」だ。それは同じ名を冠する魔法が倍の数となる事を意味する。
(こいつ、CAD同時操作で魔法の同時発動が出来るのか)
理屈では可能だとオーフェンも知っている。だが、理論と実践は別だ。実戦レベルで行使しようと思うならば、相応の鍛練を必要とする。そして擬似空間転移の構成が分解された事を悟り、オーフェンは舌打ちした。簡単に構成を把握出来るとは思え無かったが、考えて見れば達也には幾度もこの構成を見せている。
(二度以上見せた構成は掴まれていると見るべきだ)
頭の中でいくつかの構成に×印を付けながら、オーフェンは強化された身体能力で「トライデント」を回避し続ける。だが、それも限界があった。達也の「目」である。精霊の目は、オーフェンの動きを見切りつつあった。知覚が時間の速度を超える。そこまでは達していないようだが、結果は同じだ。このままではじり貧である。
(賭に、出るか!)
そう決めるなり、オーフェンは身体強化モードから演算処理モードへと機能をシフトさせる。再び魔術文字が周囲に浮かぶと同時に、最大速度で構成を編み上げた。達也が「トライデント」を二つのCADから放つ――。
「我は踊る天の楼閣!」
間一髪、オーフェンが構成を解き放つ方が速かった。「トライデント」を躱し、オーフェンは1メートル横に転移し、そこから連続で更に転移する。
変換鎖状構成による連続擬似空間転移だ。もちろん制御の難度は普通の擬似空間転移より桁が違うものを求められるが、鎧の情報介入が補佐してくれる。そして「トライデント」を潜り抜け、達也の眼前に現れるなり、オーフェンは短剣を叩きつけた。
「っ……!」
これに達也は身を翻して躱すも、間に合わずに胸を浅く切り裂かれる。瞬間的に短剣を分解しようとしたが、弾かれたのである。その分、対応が遅れた。
そう、この短剣は魔術文字による兵装の一つ。構成を理解出来ねば、分解は出来ない。後退する達也へと、オーフェンは追撃を仕掛ける。
「我は放つ光の白刃!」
演算処理モードで補助された構成は、ただでさえ速いオーフェンの魔術発動を倍速にする。これには達也も分解を攻撃ではなく防御に回さざるを得なかった。光速で迫るであろう光熱波の構成を寸でで分解し切る。だが、直後に脇腹に熱いものが広がった。見ると、そこに刃が埋まっている――オーフェンが構えた短剣の刃が、分割し、伸びて。
「ムールドアウル……星の紋章の剣だ。覚えとけ!」
(「再成」を――!)
達也が思った時には、既に発動している。コアエイドスデータからバックアップ、エイドス上書き、数分前の、全快だった自分を取り戻す。だが、その時にはオーフェンは次の構成を編み上げ終わっていた。
「我は見る混沌の姫!」
再成が完了した達也を中心に重力渦が巻き上がる。達也が初めて見る構成で、すぐに分解は出来ない。
だが、精霊の目は潰されいく身体でも構成の情報を達也に寄越した。「トライデント」の引き金を引く。ぱんっと弾けるように構成を分解した。重力渦が消える。だが、達也が見たものはオーフェンが編み上げる初見の構成。いくつ手札が、彼にはあるのか。
(いっそ無視するか……!)
「我は築く太陽の尖塔!」
達也を火柱が包む――一気に燃やされながら、防御は再成任せにして、達也は三連の分解「トライデント」を再びオーフェンへと放つ。これには、流石にオーフェンも唖然とした。
「正気か……!」
(狂ってはいない――あるいは、最初から狂っている!)
司波達也と言う存在そのものが、最初から狂っている。なら逆にこの行動は意味が通る。火で死に掛けようとも再成が彼を死なせない。それを前提とした戦いだ。ああ、確かにふざけている。だが、必要とあらばそうする。それが司波達也の本性だった。
再成で己を復帰させながら、達也は再び「トライデント」をオーフェンに連発する。彼は、何とか擬似空間転移を発動して躱すも、再び領域干渉を分解された。更に「トライデント」が迫る。
「く……!」
擬似空間転移が終了した所で、「トライデント」がまともにオーフェンを直撃した。領域干渉だけでなく情報介入が完璧に分解され、オーフェン自身も――と言った所で、無理矢理躱す事に成功した。
擬似空間転移先を読まれていた。ついに達也の目が、オーフェンの擬似空間転移構成の制御を見切り始めた証拠でもある。まずい、と思った時には「トライデント」が連続で放たれている。鎧は一時的に機能をダウン。だが、オーフェンはやけくそになる心地で変換鎖状構成を編み上げてのけた。発動する。
「我は踊る天の楼閣!」
変換鎖状構成による擬似空間転移。鎧の補助も無しに発動されたそれは、オーフェンにとっても生きた心地がしなかったものの、どうにか制御し切り、「トライデント」を振り切る。しかし、転移終了先には既に達也が照準を定めていた。
「トライデント」が放たれ、だがオーフェンは実体化すると同時に再び架空の光速に飛び込む。先と同じ、連続の擬似空間転移だ。これは達也の「目」でも追い切れない。
(だが、捉えてみせる)
変換鎖状構成は、そのあまりの複雑さに直接分解出来ない。だが、その記述を「目」で読み取りながら座標に照準を合わせ「トライデント」を放つ。擬似空間転移と三連分解の壮絶な追いかけっこが始まった。
次々と転移するオーフェンに追い掛けるように続けて達也が「トライデント」を仕掛ける。オーフェンは接近しようとするも、したはしから「トライデント」で追い立てられ、攻撃に続けられなかった。オーフェンか達也か、どちらかの集中が切れた時に決着はつく。だが、この追いかけっこはオーフェンに圧倒的に不利だった。何故なら、より消費されるのは彼なのだから。
(このままじゃ負ける)
そうオーフェンは結論づける。この追いかけっこは、確実に自分が負けると。どだい消費が違い過ぎるのだ。次の瞬間には分解されても驚かない。
ならば、もう一度賭に出るしか無い。幸い、達也に見せていない切り札はまだある。それを開陳する事を決心した。
(タツヤ、俺がお前に勝っていると断言出来るものが二つだけある)
擬似空間転移で「トライデント」を躱す。しかし掠めたか、一瞬ラグのようにオーフェンの身体がブレた。復旧した情報介入と領域干渉が容赦なく分解されたのだ――時間が無い。オーフェンは擬似空間転移の構成を鎧の補助無しに極める。そして、この戦いの最後となるであろう擬似空間転移を再度発動した。
(それを見せてやるよ!)
そして転移したオーフェンに、達也は行き先を悟る。真っ正面、自分と触れる程の近距離だ。刺し違えるつもりか、だが自分には再成がある。どうやっても自分の勝ちは揺るぎない。
(いや、待て……?)
刺し違える事は有り得ない。達也の再成はそれを許さないから。だが、そんな事はオーフェンとて百も承知の筈だ――それを理解して、達也は悪寒に総毛立つ。今、オーフェンが展開した擬似空間転移の構成は、”本当にそのままか?”
(違う、正面では無い!)
瞬間的に思い出されたのは、師である九重八雲とオーフェン自身の言葉、「目に頼り過ぎる」だった。だから、達也は生まれて初めて「目」を裏切る事にした。片方のトライデントを正面に、もう片方のトライデントを”背後へと向ける”。すると居た。オーフェンがそこに、拳を構え背後に!
彼が何をしたのかを達也は察する。オーフェンは、構成を誤魔化したのだ。騙しの記述を構成に仕組み、達也の「目」を欺いて見せたのである。構成を誤魔化した暗号術。そんな真似が出来ようとは、やはり目の前の存在は世界でも最高位の術者であると確信する。だが、自分はそれを殺す。
勿体ない。そんな気持ちはあった。初めて、人から物を教わりたくなったのだ。今、達也は思う。彼を殺した後に自分は後悔するだろう。きっと、後悔するだろう。
戦闘は様々なものを封じ込める。それを理解しながらも、達也は引き金を引き――直後に絶句した。同時に、オーフェンが言って来る。死んだ筈の、分解されて消えてしかるべき筈の、彼から!
「一つは、経験」
何の事を言っているか理解出来なかった。だが、達也はオーフェンに何をされたか理解出来ずとも、ようやく想像をつける事に成功する。彼は――!
(奪った、のか? ”魔法の、制御を!?”)
「もう一つは”制御力”だ」
次の瞬間、背に凄まじい衝撃がぶちかまされた。背骨が折れ、身体が真っ二つに引き裂かれ掛ける。それが、オーフェンの打撃によるものだと気付いた時には、宙を盛大に吹き飛んでいた。
達也は知らなかったが、それこそはオーフェンがただ一人、未だ最強と思う絶望した暗殺者の一打だった。名を「崩しの拳」。根本的には寸打と変わらない一撃だが、無理矢理復旧した情報介入を身体強化モードにした彼の身体能力が、かの暗殺者、ジャック・フリズビーの拳を再現してのけたのである。
吹き飛んで行く達也に、しかしオーフェンは容赦しない。ここで決着をつける。
(死ぬなよ、タツヤ!)
「我は砕く、原始の静寂!」
編み上げた構成は空間爆砕。達也の周囲の空間が歪み切る。吹き飛びながらも、達也は分解しようとするが、それは無理だった。オーフェンは再び構成を誤魔化した暗号術を仕込んでいたから。そして――凶悪な爆裂が達也へと叩き込まれた。全身を引き裂かれ、四肢は明後日の方向に飛び、内臓がバラ撒かれる。やがて”小さくなった”達也は、ようやく壁に衝突した。
それでも即死しなかったのは、奇跡だったかも知れない。短い人生でいろいろあったが、ここまでボロボロになったのは生まれて初であった。だが、即死でなければ再成は彼を生かす。今回も、オートでエイドスデータの上書きが始まった。しかし……達也は悟る。ここまでの損傷を受けてのオート再成は、一瞬以上の時間が掛かると。そしてオーフェンがそれを見逃さないのも理解していた。
やがて再成が完了し、目を開けると、そこには達也が理解出来ない複雑さを持った構成を展開したオーフェンが居た。あれが放たれれば、自分は死ぬ。それを達也は理解する。
「オーフェン、さん」
「クプファニッケルだ――が、この馬鹿野郎が。ようやく止まりやがったな」
マスクを外したオーフェンが苦笑し、達也は頷く。これがそうなのか。胸の奥に沸く、どうしようもない感情、苛立ち、嫌悪、諦観、絶望。だが、あまりにすっきりとした思いを達也は抱く。そう、自分は――。
「俺の、負けです」
――敗北したのだと。
そう、認めて、達也は笑った。
(第十五話に続く)
はい、第十四話後編でありました。
ふぅ、書いた書いためっちゃ満足……(笑)
オーフェン勝利――ですが、めちゃくちゃ追い込まれての勝利です(笑)
まぁ達也も封印解かれてませんしなー。そう言った意味では本気同士とはちょっと言えないのが残念無念(笑)
ガチ殺しに掛かる達也とか、かなりヤバいです。トライデント連発とか鬼か(笑)
今回の勝因は経験と鍛練で培った制御力の差。こればっかりは時間掛けて修業するしかありません。
なので、達也も今回得られたものはあります(笑)
さて次回、ついにブランシュの黒幕登場……てか深雪先行ってるじゃんヤバいじゃん。
ご安心下さい。達也がキレかけるリョナ展開が彼女を待つ(嘘)
ではでは、次回、入学編第十五話「我が名に従え愚者」でお会いしましょう。ではではー。