マルゼンスキーの幻影【完結】   作:ぼっちクリフ

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序章 第44回日本ダービー

『両者並んでゴールイン! 外、ハードバージか! 内、ラッキールーラか! これは分かりません!』

 

日本ダービー。一生に一度しか挑戦できない、ウマ娘にとって憧れの晴れ舞台。

プレストウコウは1着から0.8秒遅れてゴールに飛び込んだ。結果は7着。よく健闘したとは思うが、掲示板にも載れなかった事は多少不満であった。

 

「ハードバージ、よせ! 終わったんだ、もうレースは終わったんだよ!」

 

ゴール板の近くで息を整えていると聞こえてきた大声。

見ると、皐月賞ウマ娘ハードバージが、ゴール板を越えてなお走ろうとしているのを担当トレーナーに止められている所だった。後ろから抱きしめられたハードバージは、それでもトレーナーを振り切って走ろうとしている。府中2400mを走り、もう余力なんて残っていない筈なのに。

 

「離して、離してトレーナー! 追いついてない、まだ追いついてないの!」

「もうゴールした! お前が1着だ、1着だよハードバージ!」

「違う! 違う! 違う!!! あいつが前にいる、私の前を走ってるんだ! 走らせて、走らせてトレーナー!」

 

多くのウマ娘達が心配そうに見つめる中、ハードバージは絶叫する。

 

 

「まだあいつに、マルゼンスキーに追いついてない!!!」

 

 

マルゼンスキーはその強さと悲劇によって歴史に名を残した。

あまりにも凄まじいその走りは同世代のあらゆるウマ娘を置き去りにし、8戦8勝の現役生活で合計61バ身もの差をつけた事は、レースに関わる者なら誰でも知っている。ついたあだ名は「スーパーカー」。

 

しかしマルゼンスキーはクラシック三冠に出走できなかった。帰国子女であったマルゼンスキーは、当時の規定によりクラシックへの参加を禁止される。彼女の走りに魅せられたファンたちは、マルゼンスキーをクラシックに、特に日本ダービーへ出走させろと言い続けた。

マルゼンスキー自身も、こんな言葉を残している。

 

 

「大外でも良い、名誉も賞品もいらない、他のウマ娘達の邪魔もしない。だからダービーで走らせて欲しい」

 

 

その言葉はマルゼンスキーの強さと悲劇を語り継ぐ言葉として、今なお伝えられている。

 

 

だが。

 

 

その言葉がどれ程残酷にその年のクラシックへと挑むウマ娘達に呪いをかけたか。

それを伝える者はいない。

 

 

これはマルゼンスキーの幻影に踊らされた、もっとも惨めと言われたクラシックの話。

あらゆる侮蔑と嘲笑に晒されながら戦い続けたウマ娘……「銀髪鬼」プレストウコウ。

 

 

どんなに泥の中を這いずり回ろうとも諦めなかった彼女の物語を今、語ろう。

 

 

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