マルゼンスキーの幻影【完結】   作:ぼっちクリフ

11 / 13
第八章 ラッキールーラ

三女神様、ありがとうございます

 

私には最高の友達ができました

 

私には過ぎた栄光を与えられました

 

私はとっても幸せでした

 

でも

 

 

『泣くな、テンメイ! ファンの夢を砕いて、銀髪鬼プレストウコウ菊制覇!』

 

菊花賞翌日、関西の新聞・雑誌はこぞってテンメイの健闘を讃え、プレストウコウの菊花賞制覇を「悪役」(ヒール)の所業と断じた。中でも上記の記事はもっとも有名なものとなり、以後プレストウコウは『銀髪鬼』という異名で呼ばれる事になる。(なお「銀髪鬼」は当時有名な悪役(ヒール)プロレスラーと同じ異名)

後の話になるが、菊花賞で悪役(ヒール)とされたウマ娘に有名なライスシャワーがいる。彼女の時も東西の確執が関わっており、「シンザン以来の『関西の』三冠ウマ娘誕生を関東の刺客が阻んだ」という事情がライスシャワーを悪役(ヒール)にしたとも言える。

 

どちらにしろ、プレストウコウにとっては関係なかった。

侮蔑されるのは「マルゼンスキーに遊ばれたウマ娘」と呼ばれた時に散々慣れている。今更『銀髪鬼』呼ばわりされた所でなにも変わらない。

 

目標はただひとつ、年末の有マ記念だった。帰国子女で出られるGⅠがほとんど無いマルゼンスキーは、有マ記念に出走を表明していた。もちろん、プレストウコウも菊花賞ウマ娘として出走する。そして……

 

(……そして?)

 

トウコウは、あのテンメイの涙を見て以来、心の中にあった筈のマルゼンスキーへの憎悪が何処か空回りしているのを感じていた。

何故、こんな気持ちになっているのか――

 

それが分かったのは、ラッキールーラとの会話でだった。

 

 

「温泉?」

「うん、多分、かなり長くなると思う」

 

ラッキールーラは菊花賞の後、左脚にかなり深刻な怪我を負っていた。元々ルーラは身体が大きい。その分パワーもあるが、脚への負担も相当なものだった。特に菊花賞3000mは脚に負担がかかり過ぎたのだろう、というのがトレーナーの見立てだった。

最低でも2年。医師の治療や温泉での回復を図り、長期戦線離脱はやむを得ない。今日は、そのお別れに来ていた。

 

「……そう」

 

プレストウコウは静かに頷いた。

バージ、ヒシ、そしてルーラ。今年のクラシックを盛り上げたウマ娘達が次々と離脱していく。けれど……その事にも何処か他人事な自分が居た。一体、どうして……

 

「ねぇ、トーコ。これからひどい事言って良い?」

 

ルーラは寂しそうな顔で笑っていた。突然の事でなにも言えないでいると、ルーラは続ける。

 

「もし、もしもだよ、もしも……」

 

耐えきれず涙を流すルーラ。それでも、笑顔のままで

 

 

「もしもマルゼンスキーさえ居なかったら、私達は仲良し4人組のままでいられたのかな?」

 

 

優しいダービーウマ娘、ラッキールーラ。

彼女の心も、もう限界だった。

 

必死に走った、たくさんトレーニングした、4人でクラシックを戦った、4人でクラシックを分け合うくらいに頑張った。

それでも、全て壊れてしまった。もう誰も残っていない。バージも、ヒシも、優しかったトーコも!

 

 

マルゼンスキーのせいで

 

マルゼンスキーのせいで

 

マルゼンスキーのせいで!!!

 

 

ルーラはこんな事考えたくなかった。マルゼンスキーだって、同期だ。戦った事も話した事も無いけど、同じ年にデビューしたウマ娘だ。

それでも恨む気持ちが消えない。心の中の黒いものが叫んでる。あいつさえ居なければ、私達は幸せになれたんじゃないか、って。

 

嗚咽を上げるルーラを、プレストウコウはじっと見つめて。

そして、言った。

 

 

「たとえそうだとしても、私達にそれを言う資格は無いよ」

 

 

やっと分かった。マルゼンスキーが何故、あんな顔をしていたのか。

悲しかったのだ、純粋に。自分の脚が、多くのウマ娘の誇りを、誰かの夢を壊してしまうのが。

 

 

「私達は誰かの夢を壊しながら走ってる。マルゼンスキーが特別なんじゃない、それがトゥインクル・シリーズなんだよ」

 

 

誰かが勝てば、誰かが負ける。

誰かの夢が叶えば、誰かの夢が叶わない。

トゥインクル・シリーズは多くのウマ娘達の夢の残骸の上を走るレース。

 

そんな当たり前の事に、ようやく気が付いた。テンメイの涙が、気付かせてくれた。

 

ラッキールーラは涙を拭うと、こちらを見て笑って言った。

 

「強いね、トーコは」

 

 

ラッキールーラが去った後、プレストウコウは静かに言った。

 

「……マルゼンスキー。有マで、アンタに言わなくちゃ」

 

もう恨んでない、憎んでない

誰かの夢を壊してしまった事を気に病む必要はない

だから思いっきり走りなよ、壊した誰かの夢の分まで

 

 

プレストウコウは初めて、マルゼンスキーと話したいと願った。

 

 

けれども

 

 

その願いが叶えられる事は、ない

 

 

 

 

でも三女神様

 

 

全部、全部取り上げるのなら

 

 

どうして貴女は、最初から与えたりしたのですか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。