三女神様、ありがとうございます
私には最高の友達ができました
私には過ぎた栄光を与えられました
私はとっても幸せでした
でも
『泣くな、テンメイ! ファンの夢を砕いて、銀髪鬼プレストウコウ菊制覇!』
菊花賞翌日、関西の新聞・雑誌はこぞってテンメイの健闘を讃え、プレストウコウの菊花賞制覇を
後の話になるが、菊花賞で
どちらにしろ、プレストウコウにとっては関係なかった。
侮蔑されるのは「マルゼンスキーに遊ばれたウマ娘」と呼ばれた時に散々慣れている。今更『銀髪鬼』呼ばわりされた所でなにも変わらない。
目標はただひとつ、年末の有マ記念だった。帰国子女で出られるGⅠがほとんど無いマルゼンスキーは、有マ記念に出走を表明していた。もちろん、プレストウコウも菊花賞ウマ娘として出走する。そして……
(……そして?)
トウコウは、あのテンメイの涙を見て以来、心の中にあった筈のマルゼンスキーへの憎悪が何処か空回りしているのを感じていた。
何故、こんな気持ちになっているのか――
それが分かったのは、ラッキールーラとの会話でだった。
「温泉?」
「うん、多分、かなり長くなると思う」
ラッキールーラは菊花賞の後、左脚にかなり深刻な怪我を負っていた。元々ルーラは身体が大きい。その分パワーもあるが、脚への負担も相当なものだった。特に菊花賞3000mは脚に負担がかかり過ぎたのだろう、というのがトレーナーの見立てだった。
最低でも2年。医師の治療や温泉での回復を図り、長期戦線離脱はやむを得ない。今日は、そのお別れに来ていた。
「……そう」
プレストウコウは静かに頷いた。
バージ、ヒシ、そしてルーラ。今年のクラシックを盛り上げたウマ娘達が次々と離脱していく。けれど……その事にも何処か他人事な自分が居た。一体、どうして……
「ねぇ、トーコ。これからひどい事言って良い?」
ルーラは寂しそうな顔で笑っていた。突然の事でなにも言えないでいると、ルーラは続ける。
「もし、もしもだよ、もしも……」
耐えきれず涙を流すルーラ。それでも、笑顔のままで
「もしもマルゼンスキーさえ居なかったら、私達は仲良し4人組のままでいられたのかな?」
優しいダービーウマ娘、ラッキールーラ。
彼女の心も、もう限界だった。
必死に走った、たくさんトレーニングした、4人でクラシックを戦った、4人でクラシックを分け合うくらいに頑張った。
それでも、全て壊れてしまった。もう誰も残っていない。バージも、ヒシも、優しかったトーコも!
マルゼンスキーのせいで
マルゼンスキーのせいで
マルゼンスキーのせいで!!!
ルーラはこんな事考えたくなかった。マルゼンスキーだって、同期だ。戦った事も話した事も無いけど、同じ年にデビューしたウマ娘だ。
それでも恨む気持ちが消えない。心の中の黒いものが叫んでる。あいつさえ居なければ、私達は幸せになれたんじゃないか、って。
嗚咽を上げるルーラを、プレストウコウはじっと見つめて。
そして、言った。
「たとえそうだとしても、私達にそれを言う資格は無いよ」
やっと分かった。マルゼンスキーが何故、あんな顔をしていたのか。
悲しかったのだ、純粋に。自分の脚が、多くのウマ娘の誇りを、誰かの夢を壊してしまうのが。
「私達は誰かの夢を壊しながら走ってる。マルゼンスキーが特別なんじゃない、それがトゥインクル・シリーズなんだよ」
誰かが勝てば、誰かが負ける。
誰かの夢が叶えば、誰かの夢が叶わない。
トゥインクル・シリーズは多くのウマ娘達の夢の残骸の上を走るレース。
そんな当たり前の事に、ようやく気が付いた。テンメイの涙が、気付かせてくれた。
ラッキールーラは涙を拭うと、こちらを見て笑って言った。
「強いね、トーコは」
ラッキールーラが去った後、プレストウコウは静かに言った。
「……マルゼンスキー。有マで、アンタに言わなくちゃ」
もう恨んでない、憎んでない
誰かの夢を壊してしまった事を気に病む必要はない
だから思いっきり走りなよ、壊した誰かの夢の分まで
プレストウコウは初めて、マルゼンスキーと話したいと願った。
けれども
その願いが叶えられる事は、ない
でも三女神様
全部、全部取り上げるのなら
どうして貴女は、最初から与えたりしたのですか?